ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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成長の証

「先輩。もうあの頃の私とは違いますから、安心して頼ってくださいね」

 

「うん! でも、私だってかなり成長してるからね。今ならこれくらいの巨獣も全然怖くないよ」

 

 双剣を構えた柚花が、その瞳に【看破】の魔力を込めていく。過去に特殊個体の呪いで銀色に変貌してしまったその左目が、まるで世界の全てを見通すかのように、強く、強く輝き始めた。

 その横では、真紅の紅珠を嵌めたハンマーを構えた桃子が、しっかりと、正面から近づいてくる巨獣たちを射貫くような視線を向けている。

 

「桃子。頑張れ。ヘノがついてるからな」

 

「わ、私もついてますからねぇ……? ゆ、柚花さん、がんばれ、がんばれぇ!」

 

 それぞれのパートナーが、すぐ近くで声援を飛ばしている。

 この戦いに、妖精の助力はない。けれど、桃子たちは大切なパートナーの声援に応えるように魔力を燃え上がらせ、そして。

 因縁の魔物に、立ち向かう。

 

 

 

 

 ――時間を少し遡る。

 

 

 

 桃子の提案による『年越しカレー蕎麦』でエネルギーを補給した一同は、いまは第三層を進んでいた。

 第二層と同じく極寒の岩肌洞窟がベースとなっているこの第三層は、所々に鏡のような鉱石結晶が立ち並んでいる。

 年配者の風間イネをリヨンゴが背負い、いまはクヌギが先頭に立っていた。さすがに彼も三日連続でこの階層を訪れているため、道に迷うようなこともなく、道のりは順調そのものだ。

 が、ふと。クヌギが足をとめる。

 

「おや? この先の広間に何かいますね。かなり大型の魔物がいます」

 

 ここはダンジョンなのだから、魔物は当然現れる。だが、実を言えばこの日魔物と遭遇するのは、これが初である。

 というのも、この二日間でこの通路に出てくる魔物はあらたか討伐してしまった上に、いまこのメンバーには風間イネがいる。彼女がその身から発する【浄化】の力によって、並の魔物では近づくことすら出来ずに消滅してしまうのだ。

 すなわち、この先にいる魔物というのは『並』ではなく、この階層内でも『上位』に位置する魔物ということだ。

 

 警戒しながら進んでいけば、桃子たちにも通路の先にうろつく魔物の姿が見えてくる。

 そして、それは桃子と柚花にとって、非常に見覚えのある魔物の姿だった。

 

「あ、柚花、あれって……」

 

「懐かしいですね。私たちが戦って、殺されかけたデカブツですよ」

 

 熊とゴリラと野犬を足し、邪悪成分を垂らしてごちゃ混ぜにしたような外観の、二足歩行の巨獣。しかもそれが、二体。

 思い出すのは昨年の桃子の誕生日。ここ蔵王ダンジョンにてスタンピードが発生し、桃子と柚花の二人で魔物の軍勢と戦ったときのことだ。

 小さな小型の魔獣だけならばどうにか対処できた桃子たちだが、当時はこの二足歩行の巨獣に手も足も出ず、二人して命の危機を迎えたのだ。

 危ういところでサカモトと風間が間に合い、桃子たちが驚くほどにあっさりとその巨獣は倒されたことを桃子たちは思い出す。

 

「じゃあ、俺とクヌギさんが対処しよう。あれとは何度か戦ったこともあるし、特に問題はない」

 

 そして今日もまた、黄金に光るサーベルを手にした風間が率先してそれと戦おうとするが――。

 

「先輩」

 

「柚花」

 

 桃子と柚花は、互いに視線を向ける。

 目と目で、互いの意思が伝わる。二人とも、考えていることは一緒だった。

 二人、口元に笑みを浮かべてからこくりと頷くと、桃子がまず風間に声をかけた。

 

「あの、風間さん。あの魔物の対処は私たちに任せてくれませんか?」

 

「笹川さん? いや、しかし……」

 

 いま、桃子の周囲には8人もの妖精が集っている。

 全員が常に桃子のそばにいるわけではないが、既に【隠遁】は消え、風間のような人間からも桃子の姿ははっきりと見えている。

 風間の視界には、わら帽子を被った小学生と見紛う少女が、巨大なハンマーを手に構え、やる気を出している姿が見えていることだろう。

 

「大丈夫ですって。私たち、これでもギルドが認めた高ランク探索者ですから」

 

「タチバナもか。しかし……」

 

「お願いします!」

 

 桃子が熱心に頼み込むと、周囲の視線が風間へと向かう。

 皆の視線が、風間に妙なプレッシャーをかけていく。風間とて、知っているのだ。昨年の十一月にこの二人がこの魔物と戦い、敗北寸前だったことを。

 それと同時に、あの日から更に成長した二人にとっては、過去に打ち勝つためのまたとないチャンスなのだということも理解出来る。

 しばしの思考の上、桃子たちの真剣な目に根負けし、二人の挑戦を条件付きで許可を出すこととなる。

 

「わかった。けれど、絶対に油断はしないこと。危険だと判断すればすぐに介入するからな」

 

「はいっ!」

 

「風間さんはそっちで休んでてくれていいですよ」

 

 そう残すと、巨大化させたハンマーを手にしたわら帽子桃子と、魔力のスパークをバチバチと纏った双剣を構えた柚花が、そろりそろりと、いくつもの鏡の結晶に囲まれた空間へと忍び寄っていく。二人の背中は、巨獣を相手するには非常に小さく見えた。

 もっとも、彼女らの背には風の妖精を始めとした何人もの妖精が勝手についていっているし、ポンコやイチゴは最前列で戦闘を眺める気満々だ。戦闘において桃子たちに危機が訪れたならば、風間が動き出すより先に彼女らが黙ってはいないことは明白である。

 

 

 なお。

 少しだけ離れた場所では、化け狸のクヌギと大地の妖精ノンの二人が、神妙な目で桃子たちの背中を見つめていた。

 この二人の心配は、桃子たちの安否ではない。

 

「ノンさん。万が一でも桃子さんがダンジョンを崩壊させた場合、防壁を造り全員を保護するのは我々の役目ですからね」

 

「な、なんだか、私だけ今日は重労働だよぉ? 桃子さん、お願いだから、ダンジョンを壊さないでほしいよぉ」

 

「いやはや。本当に……桃子さんの一振りに全員の命がかかっていると思うと、この極寒でも冷や汗が出てくる思いですね」

 

 皆が桃子たちの奮闘を応援する中で、クヌギとノンの二人だけは。

 戦いの中で桃子が勢い余っていつものダンジョン崩しを行わないようにと、ただひたすらに、祈っているのだった。

 

 

 

 

 

「桃子。いけ。いけ。まっすぐいって一撃だ」

 

「ヘノちゃん、ちょっと静かにっ、静かにしてようねっ」

 

 戦闘は、拍子抜けするほどに、淡々としたものだった。

 魔力濃度の非常に強いダンジョンに現れるだけのことはあり、この魔物は魔法攻撃に対する耐性が非常に高い。また、打撃などの衝撃ダメージに対しても非常に高い耐性がある。

 つまり、相性だけで言えば桃子と柚花にとって天敵と言えた。

 だが、一年前の戦闘で巨獣のその特性は二人ともとうに把握しており、その程度の相性の悪さは織り込み済みだ。

 

「自分で言うのもなんですけど、あの時の私とは魔力も能力も全然違いますからね! ほらっ! とりあえず【チェイン・ライトニング】っ!!」

 

「柚花さん、が、頑張れぇ……!」

 

 柚花が先手をとって、連鎖する電撃を放つ。

 とは言っても、この場で戦っているのは巨獣が二体だけであり、連鎖能力はほとんど意味を失っている。そして、ただでさえ集団向きの【チェイン・ライトニング】は、目の前にいるような『強大な個』に対しては効きが悪い。巨獣たちは身体に走った電撃に足をとめたけれど、それだけだ。

 しかしそれは、まさに柚花の目論見通りだった。

 というのも、たった今放った電撃はダメージ目的などではなく、はなから足止め目的のけん制だったのだ。

 そしてその『足止め』で相手が立ち止まった短い時間が、今の桃子にとっては十二分なものとなる。

 

「よし、今のうちに! 魔力を溜める、溜める……!!」

 

 一年前。当時の桃子は、お世辞にも『戦い』の経験をほとんど持たない少女だった。

 けれど、この一年で桃子は数々の魔物に囲まれ、強敵と戦い、カレーを食べ続け、ダンジョンを破壊してきた。あの時の無力な少女は、数々の戦闘経験とカレーによるドーピングで、今や【隠遁】による特殊性だけではなく、本当の意味での高ランク探索者へと成長を遂げていた。

 一体目の巨獣が柚花の放った電撃の衝撃から解放され、目の前の獲物に対して動き始めたときにはだからもう、手遅れだ。

 巨獣が最後に見たものは、己の胴体へと向けて振るわれた、巨大なハンマーの影だけだった。

 

 ドウン

 

 クヌギとノンの心配は杞憂に終わったらしい。桃子のハンマーは地面や壁に叩きつけられることなく、巨獣の胴体を払いのけるだけで終了した。

 桃子の横薙ぎの一撃をうけた巨獣は、勢いよく吹き飛んだかと思うと二十メートルは先の岩壁に激突し、そこに大きな穴をあけて崩れ落ちる。その際にそれなりの振動が響いたが、ダンジョンが崩れるほどではない。

 そして、巨獣はそのまま煤になっていった。

 

 

 一方、桃子がハンマーの一撃で一体目を煤に還したのと時を同じくして。

 二体目の巨獣の前には、双剣の雷使い、柚花が立ちはだかっていた。柚花のオッドアイは魔力によって強く輝き、柚花が動く度にその銀の左目は燐光を放っている。

 柚花は、この巨獣をじっくりと『視て』いた。

 

「この魔力の濃い階層の魔物だけあって、魔力による防壁が硬いですけど――」

 

 柚花は【チェイン・ライトニング】をけん制として放つ。

 相手が巨獣一体なので、電撃が連鎖することはないし、魔法への耐性を持つその毛皮はこちらの威力をものともしない。

 けれど。

 片手の剣を真っ直ぐに巨獣に向けて、その瞳を輝かせる。全てを見通すその瞳で、照準を合わせる。

 

「あなたの弱点、視えてますよ――【召雷】」

 

 柚花が放ったのは、小さな【召雷】だ。何かを叫ぼうとしていた魔獣の口内へ向けて、柚花の持つ剣先から細く眩しい電撃が放たれる。

 込められた魔力は極小のものだが、この階層には異常なほど多くの魔力が充満しているため、その極小の【召雷】ですら、生半可なダメージではない。

 口内に『召雷』を打ち込まれた巨獣は、断末魔の雄叫びを上げることもなく、脳を焼かれ、体内を焼かれ。

 その場に倒れると、そのまま煤へと還っていった。

 

 

 

 

 

 リベンジは、成った。

 昨年の誕生日にあれだけ苦戦した魔物相手に、桃子と柚花は慌てることもなくあっさりと勝利した。これには、応援していた他の面々も拍手喝采だ。特にノンとクヌギはハイタッチをして喜んでいた。

 

「さすが、師匠は最強っすね! でっかい魔物が、ドカーンってなってボカーンとなってたっすよ」

 

「ありがとう、ポンコちゃん! ズドーンで勝ったよ!」

 

 いざとなれば即座に桃子を庇える位置で観戦していたポンコが、真っ先に桃子に抱きついて勝利を喜んでいる。

 一方、柚花の隣にはイチゴが立ち、不思議そうな視線で柚花の『魔力』を眺めていた。

 

「ゆかたんちゃんもお疲れさま。なんだかお盆の頃より魔力が一気に強くなってない?」

 

「ニライカナイで膨大な魔力を制御したんで、その影響ですかね。その時はちょっと死にかけましたけど」

 

「せっかく生きてるのに、無茶しないでねー?」

 

 そして、煤になった巨獣の魔石を拾ってきたヘノに続き、桃子たちのもとへと妖精たちが集まってくる。

 彼女たちも、ルゥを除けば全員が昨年の桃子と柚花の死闘を知っているのだ。皆が口々に祝いの声を掛けてきて、この場はちょっとした祝勝会のようだ。

 

「てっきり。桃子がまたダンジョンを崩すんじゃないかって。わくわくしちゃったぞ」

 

「ヘノちゃん、私のこと破壊魔かなにかだと思ってる?」

 

 ヘノと桃子のやりとりに。

 それをすぐ横で聞いていたノンだけが、複雑そうな苦笑を浮かべているのだった。

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