ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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『鏡の国の少女』エピローグ

「ヘノはヘノだぞ。よろしくな」

 

「うぅ……わ、私はニムですよぉ? よ、よろしくお願いしますねぇ……?」

 

「アタシはフラムだ! 燃えるぞ!」

 

「カレー! じゃなくて、ルゥ!」

 

 妖精の国。

 ここではいまヘノ、ニム、フラム、ルゥの四人が、初めてこの地を訪れた鏡の妖精と改めて対面していた。

 鏡の妖精は昨晩の出来事を機にダンジョンの外にも出てみることにしたらしく、その新たな試みのスタートが、この妖精の国だった。さすがに初日の今は彼女の後ろでニコニコと見守っているクルラの案内つきだ。

 彼女が妖精の国に訪れて最初に出会ったのが、「カレーに入れるべき一番美味しい具材はなにか」を話し合っているヘノたち四人だったのだ。

 

「改めて、よろしくお願いするわ。私は、ミカ……なの?」

 

 四人の顔を順番に見てから名乗った鏡の妖精の台詞には、何故だか疑問符がついていた。

 彼女は自分の名を名乗りながら、それで合っているか確認すべく背後のクルラを振り返っている。

 

「なんで。自分の名前に。不思議そうにしてるんだ」

 

「お、お名前を、自分で忘れちゃったんですかねぇ……?」

 

「んふふ♪ 実はさっき、『ミカガミ様』だと妙だし長すぎるから、省略して『ミカ』に決まったばかりなのよ♪」

 

「そうなのか! 半分になって呼びやすくなったな!」

 

「ハンバーグっていった?」

 

 ヘノたちの名乗りを受けて、クルラが連れてきた鏡の妖精も自らの名を名乗る。

 ミカガミ様改め、ミカ。これが先ほど新たに決まったばかりの、彼女の妖精としての名である。彼女本人はまだ新たな名に慣れておらず微妙にぎこちないが、こればかりは慣れの問題だろう。なお、ハンバーグの話はしていない。

 

「じゃあ、私たちは次の場所へ行く……わね」

 

「そうか」

 

 名前を名乗ったらさっさと次の場所へ行こうとする無表情なミカと、それを無表情のまま一言で返すヘノ。独特の空気感をもつ二人が対面すると、その場になんとも言えぬ緊張感が漂うが、実際には互いに大したことは考えてはいない。

 

「んふふ♪ お姉ちゃんたら、意外とせっかちなのね。もう少し、お話を楽しみましょうよ♪」

 

「そう……かしら?」

 

「お前。他の連中には。会ってきたのか?」

 

「ううん。会ってない……わね」

 

 ヘノの問いかけに、ミカは首を横に振る。会話が互いに端的だが意外と相性がいいのか、意思の疎通が滑らかだ。

 

「なら。今は調理部屋のほうに。ノンたちがいるはずだから。探してみるといいぞ」

 

「分かったわ。ありがとうね……ヘノ」

 

「あら♪ ヘノったら、私よりもお姉ちゃんと円滑に会話が出来てるじゃない。妬いちゃうわね」

 

「そんなこと言われても。困るぞ」

 

 そうして。滑らかなのかぎこちないのか分からないやりとりを経て、ヘノの情報をもとにミカとクルラは調理部屋のほうへと飛んで行った。

 ヘノたちは金と銀の好対照な魔力を纏った二人が離れていくのを見送ってから、再び四人の会話に戻る。

 

「あいつ。楽しそうだったな」

 

「そ、そうですねぇ。クルラもミカさんも楽しそうで、見てて嬉しくなりますねぇ……」

 

 クルラはいつも以上に会話を楽しんでおり、今回新しく仲間となったミカもまた、どことなく楽しげな雰囲気だった。

 彼女はヘノと同様に無表情なタイプの妖精だが、だからこそヘノを見慣れている妖精の姉妹たちにはわかる。彼女は蔵王ダンジョンの冷たい世界にいたときと比べて、明らかに雰囲気が柔らかくなっていたのだ。

 きっと、彼女はいま、とてもうきうきで楽しんでいるに違いないと、妖精たちは確信した。

 

「ご飯になったら、ミカにもカレー、食べてもらおう、ね!」

 

「だったら。果物がたっぷり入ってる甘いカレーを。食べさせないとな」

 

「お、お魚とか貝が沢山入ってるシーフードカレーも、美味しいですけどねぇ?」

 

「アタシ、桃子が地上から買ってくるでっかい肉が好きだぞ! なんか、熱くなる!」

 

 きっと今頃、彼女らは他の姉妹たちと出会い、今と同じような自己紹介を繰り返しているのだろう。

 ヘノたちは、そんな風にして。新たな仲間についてああだこうだと話し合いながらも、会話は次第に「カレーに入れるべき一番美味しい具材はなにか」へと戻っていくのだった。

 

 

 

 ――そうして、時間は進む。

 

 

 

 ヘノたちと出会った後、女王ティタニアをはじめ、姉妹たちに一通り挨拶をすませたミカとクルラは、妖精の畑に生えている桃の木の下へとやってきていた。

 畑というには果樹の方が多い不思議な場所だが、桃の木を中心に豊富な魔力が循環しており、妖精たちにとっては居心地の良いスポットだ。

 

「この桃の木が、クルラの本体……なのね?」

 

「そうなの♪ 一度は焼け落ちちゃったけどね」

 

 桃の木の枝に腰掛け、畑を見下ろす。

 すぐ目の前では、下半身が土に埋まった緑色の幼女が、無言のままミカたちをジッと見上げていた。

 土から上半身だけ飛び出した幼女の手には、その身の丈よりも大きいであろう、鞘に入ったままの日本刀が握られている。普通に考えれば意味不明にも程がある光景なのだが、地上のことをあまり知らないミカは「これが地上の畑の風景なのだろう」と、誤った知識を吸収していく。

 

 ミカは、こちらを見つめる幼女から視線をはずすと、枝の上から見える景色を見渡した。

 広大な花畑。なんだか色々なものが生えている畑。あちこちで遊び回る小妖精たち。地面から生える、刀を持った幼女。ここは、決して静かな場所とは言えないけれど。

 何もない空間で数十年も過ごしてきたミカにとっては、その全てが新鮮で、内心では驚きの連続だった。

 

「ここが、妖精たちの国……なのね」

 

「そうなのよ。お姉ちゃんも、楽しかったでしょう?」

 

「ええ……とても」

 

「んふふ♪ 嬉しいわ、とっても嬉しいわ♪」

 

 クルラは、姉の楽しそうな無表情に満足したのか、ぐびっと愛用の瓢箪を持ち上げて、酒をグビグビと飲んでいる。祝い酒だ。

 ミカはそんな妹の様子を眺めている。嬉しそうにお酒をガブ飲みするクルラの姿は、ミカからみればとても愛らしい姿に見えた。なお、ミカはお酒とジュースの違いもよくわかっていない。

 

「本当に、楽しい。仲間がいるのは、とてもうれしい……わね」

 

「ええ、そうなの。これからもずっと、みんな仲間よ♪」

 

 冷たかった迷宮の底ではない。何もない一人だけの世界ではない。

 今はただ、花が咲き乱れ、多くの小妖精たちの楽しげな声が響き渡る、土に埋まった緑の幼女が、自分より大きい日本刀を持ったまま無言で見つめてくるこの世界が。

 

 ミカには、とても愛おしく思えるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、妖精たちがそのようなやりとりをしていた日。地上では――。

 

 

「あけましておめでとうございます、お婆ちゃん」

 

「今年もよろしくお願いします、イネさん」

 

「わははは、めでてえなあ。桃ちゃんに柚花ちゃん、よう来たの」

 

 山形県、蔵王ダンジョンが目と鼻の先にある村で。

 桃子と柚花は風間イネの家を訪れ、新年の挨拶を交わしていた。

 

「えへへ、なんか昨日の今日でいきなりお呼ばれしちゃってすみません」

 

「イネさん。これ、妖精の国で作られた果物です。お正月らしくはありませんが、どうぞみなさんでお召し上がりください」

 

 昨晩、ダンジョンから皆が帰ってきたのは例のごとくとうに日付が変わった頃合いだった。日付としては新年に切り替わっていたけれど、さすがに桃子が途中で眠りに落ちてしまったため、改めて正月のこの日に挨拶へとやってきたのだ。

 イネの家に訪れることは昨晩のうちに約束していたので、家主のイネも快く二人を迎え入れてくれた。

 もしかしたら食事中だったのか、奥からは何やら美味しそうな香りが漂っている。

 

「奥であだけえ雑煮を仕込んでるからよ、まあどうぞあがってけれ」

 

「はい、じゃあ、おじゃましまーす」

 

 この日の桃子は、いつものわら帽子は被っていない。

 桃子のことを把握しているイネ相手に雪ん子になりすます必要もなく、そもそも正月の挨拶くらいは素顔で訪れるべきだろうという桃子の判断だった。

 防寒着としても効果の大きいわら帽子だけれど、さすがに普段使いするデザインのものではないのだ。

 すでに何度か訪れている家なので、桃子は柚花をつれて堂々と居間へと入っていく。

 

 すると、そこで意外な人物と出くわした。

 

「桃ちゃん、話は伺いましたよ。ずいぶん大冒険だったみたいですねー」

 

「えっ、和歌さん?!」

 

 そこにいたのは、工房の同僚である和歌。

 いつも工房の隣の席で仕事をしているはずの彼女が、奥の台所からお盆に器を乗せてやってきた。

 

「え、なんでここに和歌さんが?!」

 

「先輩。どっちかというとそれは和歌さんの台詞ですよ」

 

「私、一応ここのお孫さんに嫁入りする立場ですし、お婆さまとは香川で共闘した仲なんですよねー。まあ、とりあえず、こたつにどうぞー?」

 

 唐突な和歌の登場に驚きつつも。

 桃子たちは和歌の言葉に従い、居間のこたつに腰を落ち着かせるのだった。

 

 

 

「――っていう感じで、クルラちゃんが張り切ってたので、今頃は妖精の国で挨拶回りをしてると思います」

 

「そか、そか。ミカガミ様も、ウワバミ様も、えがったのぉ」

 

 お餅の入ったお雑煮をご馳走になりながら、桃子はその後の顛末をイネに伝えていた。いくらイネが今回の出来事の中心人物の一人だとはいえ、妖精の国での出来事までは彼女の耳には入ってこないのだ。

 桃子の口から、ずっと自分たちを護ってくれていた二人の妖精が仲間と仲良くしているという話を聞いて、イネは皺の増えた顔にさらに皺を増やし、満面の笑顔を浮かべている。

 笑顔を浮かべるイネの視線の先には、お爺ちゃん――生前の、年老いた風間大地の写真が飾られている。

 

「それで、村のほうはどうなんですか? 雪ちゃんとかは」

 

 イネとともににこにこしている桃子に代わり、それまでお雑煮のお餅を食べていた柚花が問いかける。

 ミカガミ様は今回の中心人物ではあるものの、今回の事件にはもう一人、風間雪という中心人物がいる。

 彼女の遺骨は深援隊リーダーである風間が責任を持って弔うという約束はあったものの、その風間が正月からギルドの仕事で忙しくこの場にいないので、桃子たちはそちらの顛末を知らないのだ。

 

「村の連中と話し合うんはこれからだなあ。雪ちゃんは爺さんと一緒の墓に入れるつもりだけどもよ、それも一度本人に確認してからでねえとな」

 

「そっか、確かに、雪ちゃんの希望も聞いた方がいいですもんね」

 

「遺骨の扱いを本人に確認してから決めるとか、前代未聞ですよ」

 

 桃子はイネの言葉に納得して頷き、柚花はなんとも言えない、呆れたような、驚いたような顔で呟いている。

 一方、横でにこやかに聞いていた和歌は、その内心を推し量るのは難しいものの、恐らくは「桃ちゃんのお友達は相変わらず意味不明ですねー」とでも思っているはずだ。そういう顔をしている。

 

 なお、その雪ん子本人だけれど、いかに怪異としての力を得たとしても、四六時中好き放題に姿を現すわけではないらしい。

 イチゴ曰く、怪異には怪異の条件やルールがあるので、意外と大変なようだ。

 

「でも先輩、良かったですね。とりあえず、風間さんの胃痛以外には被害もなさそうですし、丸く収まったんじゃないですか?」

 

「リュウくんには、胃に優しいものを作ってあげないといけませんねー」

 

「リュウのやつ、昔から胃腸さ弱ぇとこあるかんなあ」

 

 柚花の言う通りである。

 今回はなんだかんだで誰も犠牲になることなく、誰も孤独になることなく、結末だけ見れば、風間の胃痛を除けば全てが丸くおさまったのだ。

 桃子は今回の大変だった三日間を思い返す。そして、最後に笑顔で抱き合っていたクルラとミカガミ様の二人の姿を思い出し、小さく呟きが漏れる。

 

「良かったね。良かったよ……本当にさ、良かったよね」

 

「ええ。そうですね、良かったです」

 

 何が、などと言わなくても伝わる。

 柚花は桃子の手を取り、その通りだと言ってくれる。和歌も、イネも、桃子の呟きに微笑んで頷いてくれている。

 

 ウワバミ様と、ミカガミ様。

【創造】という力が生み出した二人の守り神の物語は、これから先、ずっと、ずっと。

 

 幸せな物語として語り継がれていくのだろうと。永遠に語り継がれて欲しいと。

 

 二人の妖精の姿を想いながら。桃子はそう、心の中で願っていた。

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