ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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桃カレー

「この。すいはんき。とかいう道具は便利だな。ダンジョンに。持って行かないのか?」

 

「これはねえ、電気がないと使えないんだよ。ダンジョンって何かと電化製品と相性悪いから、誰かが魔石動力の炊飯器を作ってくれればいいんだけどね」

 

 

 文化祭から帰ってきて、現在は桃子の家である。

 

 あの後、当初の予定とは違っていたものの、ヘノは柚花と二人で文化祭を見てまわることが出来た。特に、演劇部による劇の出し物はヘノにとっては実に興味深いものだったようだ。

 ヘノ曰く「あいつら。物凄い緊張していたぞ」とのことなので、純粋に劇を見ていたというよりは、劇を演じる生徒たちを観察していたようだが。まあ、それはそれで楽しみ方の一つだろう。

 他にも、柚花とともに学校の図書室や、生徒たちが普段勉強する教室。体育館などを見て回ったりしているうちに桃子から連絡がきて、無事に再会できたのだ。

 

 柚花とはそこで別れて、桃子と二人で生徒たちの出し物をいくつか見てから、帰宅することとなったのだ。

 聖ミュゲット女学園と桃子のいまの住居とはかなりの距離があり、帰りの電車もそれなりに時間のかかるものだったが、ヘノは電車の外を流れていく街並みをじっくり眺めることができたので電車も楽しめたようである。

 今や、ヘノはおそらく地上のことを一番沢山知っている妖精かもしれない。

 

 そして桃子の家に帰ってから、ようやくヘノがずっと楽しみにしていたものが開封される時が来た。

 

 すなわち、『桃カレー』である。

 

 桃子の後輩たちは随分と気を利かせてくれたようで、かなり大きなタッパーに詰め込んでくれていた。保冷剤と保冷バッグ付きである。

 おまけに、まだ開けていない桃の缶詰も一緒に渡されている。後入れ用、ということだろう。

 

「これはねえ、私が在学中に色々と試した配合なんだけどねえ――」

 

 そこから、桃子の長い長いカレー話が始まった。

 

 最初のほうは興味深く素直に聞いていたヘノも、そのうち閉口してしまうくらい、長かった。

 省略すると、元々カレーを作るためにお料理研究部に入った桃子が、自分の名前にちなんで桃の缶詰をカレーに入れてみたら美味しかったのがきっかけだという。

 その後、色々なカレーの配合や桃の入れ方などを試してみた結果として、ひとまずの完成を見せたのが『桃カレー』であり、桃子が学校へ残したというレシピだった。

 そして、文化祭では前年度の卒業生のレシピを使うというお料理研究部の伝統に従い、今年は桃子の『桃カレー』が提供されていた、ということだ。

 タッパーの中に詰まっているのは、カレーと、桃と、桃子の青春の日々なのだ。

 

「よし、ご飯も炊けたし、ちょっと待っててね?」

 

 桃子はキッチンにたち、炊飯器から真っ白なご飯をお皿によそい入れる。

 ヘノは炊飯器にも興味を持っているようだが、残念ながらダンジョン内では電力で動く機械はまともに機能しないことが判明しているので、炊飯器は持ち込めない。

 湯気のたつ白いご飯の上に、お鍋で温めなおした桃カレーをかけて完成だ。桃子が自分で食べるカレーと、ヘノの食べる小さい器。このために、ヘノにちょうどよさげなサイズのおちょこを購入しておいた。

 

「なんだか。桃子の後輩が作った。桃子のカレーを食べるのって。面白いな」

 

「そういえば、そっか。私以外が作ったカレーを食べるのって、ヘノちゃんは初めてだよね?」

 

 小さいスプーンを鳴らしながらヘノがカレーを覗き込む。小さなスプーンと言ってもヘノの身体には少々大き目なのだが、そこは慣れたものなのだろう。器用に扱っている。

 いただきます、の挨拶をすると、ヘノはさっそくカレールーの中からごろっと塊で入っている桃へとスプーンを伸ばす。

 少しだけスプーンで押したりつついたりして様子を見てから、ハムハムと大口をあけて桃を食べ始める。口のまわりがカレーだらけになるのは、最後にふき取れば良いだろう。

 

「桃子のカレーとは。また違う気もするけど。でも。やっぱり。カレーはうまいな」

 

「私のレシピだけど、作ったのは後輩の子たちだもん。それにきっと、レシピを更に改良してくれてるんじゃないかなあ。前に食べたときよりも美味しい気がするし」

 

 文化祭で食べた時にも感じたが、おそらくこれは桃子が残したレシピを更に改良していったものなのだろう。

 文化祭である以上、コストや手間も考えないといけないので、単純にレシピ通りに作れば良いというわけではないのだ。その過程で、元のレシピよりも更に良い料理に変化していくというのは、珍しいことでもない。

 

 そしてそんなカレーだが、ヘノもどうやらお気に召してくれたようで、結局はお代わりを3回もしてくれた。

 口の周りはすでにカレーだらけである。

 

「わ、わ、ティッシュティッシュ……と。どう? 桃は美味しかった?」

 

 桃子も自分のカレーを食べ終えて、ヘノの口の周りをティッシュでふきふきする。

 ヘノも慣れたもので、桃子が拭く間は大人しく目を瞑ってされるがままだ。

 

「甘くて。うまかったぞ。今のが桃か? 桃子と同じ名前なんだな」

 

「うん。私の名前は、その果物の『桃』の『子供』で桃子って読むんだよ」

 

 桃子はスマホ画面に自分の名前を入力して、漢字を並べてヘノに見えるように差し出す。

 ヘノが漢字まで理解してくれているとは思わないが、ヘノが自分の名前に興味を持ってくれているのが嬉しかった。

 

「桃子。ヘノは思いついたぞ。ダンジョン産の桃を。妖精の国の畑で育てよう。そうすれば。妖精の国で桃カレーがいつでも作れるぞ」

 

「ええっ?! いきなりだね。いや、でも桃かあ……桃の木があったら、確かになんだか嬉しいかも」

 

 桃子は、子供の頃に行ったことがある果樹園の桃の木を思い出す。

 確かに、今のような独り暮らしでは育てようがない果樹だとしても、妖精の国ならば場所もあるし、すくすくと育ってくれるに違いない。

 

「ってヘノちゃん、そもそもなんだけど、ダンジョンに桃の木なんてあったっけ? 私もある程度ダンジョン食材とか調べるようにしてるんだけど、ダンジョン産の桃っていうお話は聞いたことないよ?」

 

 桃子が卓上にノートパソコンを開き、ダンジョンの食材情報を載せているサイトにアクセスして果物の情報ページを見てみるが、少なくとも今のところは桃の報告というのはないようだ。

 もしかしたら誰もが入ったことのない深層ならばまだ可能性はあるのだろうが、瘴気の深い場所に桃の木がなっているというイメージはあまりない。

 ここに報告されていない果物も探せばあるかもしれないが、何の情報もないところから1種類の果物を探すというのは、なかなか骨の折れる作業だろう。

 

「うーん。仕方ないな。でも。一応妖精の国でも。聞いてみようと思うぞ」

 

「そうだね、桃の木、あったら嬉しいもんね! 私もちょっと、柚花にでも聞いてみるよ。柚花は結構物知りだから、ダンジョンのこと色々知ってるの」

 

 ダンジョン食材のページでは、最近チャンネルを開設したという食事系のチャンネルが再生を始めているが、さすがの桃子もお腹が膨れたあとに食事系のチャンネルを見ても微妙な気分になるだけなので、ページを閉じておく。

 またいつか、機会があったら見てみれば良いだろう。

 

「そうだ。桃子。すっかり忘れてたんだけどな。後輩のことなんだけどな」

 

「後輩って、柚花のこと? 今日はいっぱい遊んだんだよね? 何かあったの?」

 

「あいつ。りりたんに。目をつけられてたぞ」

 

「へ?!」

 

 りりたん。先日の琵琶湖ダンジョンの一連の事件で、その中心に居座っていた真の人魚姫であり、魔女であり、先代女王の生まれ変わりの底知れない少女。

 青い花畑ごとどこかへと引っ越しをしたらしく、あの後ニムが琵琶湖ダンジョンの第五層を覗きに行くと、そこには半魚人たちがたむろする巨大な宮殿のような迷宮になっていたとのことだ。

 ニムは寂しくなって、泣きべそをかきながら妖精の国へと帰ってきた。

 

 そしてそのまま行方をくらました形になるりりたんが、どうして柚花と?

 桃子はわけがわからないまま、ヘノに続きを促した。

 

「あの魔女も。文化祭に来ていて。後輩に話しかけてきたんだ。ヘノのことにも。気づいてたし。偶然というわけじゃないと思うぞ」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、もしかしたら聖ミュゲットに学校見学とか……?」

 

 りりたんは人間としては15歳。もし中学生だとしたら今頃は受験生の筈である。

 進路としてお嬢様学園である聖ミュゲット女学園を選ぶことも、可能性としてはもちろんあり得ない話ではない。

 或いは、たまたま近くの学校に遊びに来ただけという可能性も考えたが、さすがに琵琶湖と都内では距離がありすぎる。岩手県の場所がすぐに出てこない桃子でも、東京と琵琶湖が離れていることくらいは分かる。

 

 それとも、りりたんの住まいは思いのほか都内に近いのだろうか?

 りりたんならば、都内に住みながら毎週のように琵琶湖に遊びに行くとかいう突飛な行動をとっていても、何も不思議ではないなと桃子は考える。りりたんも、桃子には言われたくないだろうが。

 

「あの魔女が。何を考えているのかは。さすがにヘノもわからないぞ。ただ。本人が言うには。桃カレーを食べに来たらしいぞ」

 

「え、桃カレー? そうなんだ……りりたん、どこで情報得てるんだろうね、桃カレー食べてくれたなら嬉しいけど」

 

 意外と、ジョークが好きな彼女のことだ。

 

 もしかしたら、柚花に目をつけたのではなくて、桃カレーを食べたかったのでもなくて。

 彼女にすれば『孫』にあたるヘノに会って、ヘノの驚いた顔を見るのが一番の目的だったのでは? と、桃子はなんとなく、思いついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

「――っていうわけで、柚花に話しかけたのがりりたんなんだよ」

 

『わー、そりゃ可愛かったわけですよ。美少女配信者じゃないですか! 私としたことが!』

 

「まあ、りりたんは可愛いは可愛いんだけども。ちょっとミステリアスが過ぎるところがある、かな」

 

「後輩。お前。あの魔女から目をつけられたら。色々と取引を持ちかけられるから。気を付けるんだぞ」

 

『あ、ヘノ先輩もそちらにいらっしゃるんですね! こんばんは、ヘノ先輩』

 

「後輩。今日は。楽しかったぞ。お前と一緒なのも。悪くはなかったぞ」

 

『ふぇ?! あ、はい、私こそ! ヘノ先輩、いまデレました? もしかしてデレました?!』

 

「なんだ。デレってなんだ? 食べ物かなにかか?」

 

「ヘノちゃん、食べ物じゃないからね。ええとそうだ、食べ物と言えば柚花に聞きたいことがあったんだっけ」

 

『はい?』

 

「実はね――」

 

 

 

 

「――というわけで、桃の情報がないかなーって」

 

『ああ、桃! 具体的な情報じゃないですけど、ちょうどいま最新の情報で、桃の話がありますよ! ええと……先輩のほうで、オウカお嬢様の本日のお食事チャンネル、っての調べられますか?』

 

「オウカお嬢様? あった、これかな?」

 

『その方、実は深援隊の姉御さんなんですけどね。配信中に、昔、妖精にお酒をあげたらお礼に桃をくれたっていうお話をしてたんですよ』

 

「桃? ダンジョンで?」

 

『本人が言うには、魔力の籠った桃だったそうです。ただ、光る妖精の女の子がお酒を欲しがってたっていうお話しかなさっていないので、情報と言うにはちょっと具体性に欠けますが……』

 

「お酒を欲しがる妖精……かあ、なんか一人、思い当たるけど」

 

「お手柄だぞ。後輩。お前の情報で。犯人が絞れたぞ」

 

『え、犯人探してたんですか?! なんの?!』

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