ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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鏡妖精と一緒

【水面に映る】

 

「なんだ。お前ら。どうしちゃったんだ」

 

 その日、ヘノが暇にまかせて妖精の国を飛び回っていると、奇妙な光景を目撃した。

 場所は妖精の湖。水中にはシーフードカレーの食材として集められた生き物たちが数多く生息している湖だ。

 その湖の縁、段差から水面をのぞき込める場所。そこで、二人の妖精が四つん這いの姿になり、微動だにせず水面をのぞき込んでいるのである。

 

「水面を。眺めていた……のよ」

 

「あのですねぇ、ここの水面が……面白いんですよぉ……?」

 

 二人の妖精。

 その片方の妖精は、四つん這いになった背中に銀色の大きな翅がついており、その翅が鏡のように光を反射している。更に、すぐ横には丸い鏡が常にふわふわと浮遊しているのが非常に目立っている。

 彼女は最近仲間になった鏡の妖精、ミカだ。

 そしてもう一人は、碧色の魔力光をまとっている。首からは人間の子供用の小さな指輪をネックレスのようにたらしている。こちらは、ヘノの親友である水の妖精、ニムである。

 

「水面から。何か見えるのか? 珍しい魚でもいたのか? つかまえるか?」

 

「ち、違いますよぉ。ほ、ほら、水面に私たちの顔が映ってるじゃないですかぁ……?」

 

「水面が鏡になっているの……だわ」

 

 二人の妖精が、四つん這いで水面を覗いたままの姿勢でヘノに説明する。

 後ろからお尻を押したら二人とも湖に落っこちそうだなとヘノは頭の中で思いつつ、二人の横に立って水面をのぞき見る。

 光の加減でちょうどのぞき見た真下の湖面は影になっており、上からのぞき見る自分たちの顔が水面にはっきりと映っている。

 

「そうだな。映ってるな」

 

「それをずっと見てたら……と、とっても、面白いんですよねぇ……」

 

「楽しいの。ヘノも、一緒にどう……かしら?」

 

「二人がそこまで言うなら。ヘノも。やってみるか」

 

 ヘノは別に水面に映る自分を見てもさほど楽しくは感じなかったけれど、ニムとミカの二人が楽しいというのならば、自分もやってみるのはやぶさかではない。

 しばらくやっていたら自分にも楽しさがわかるかもしれないと考えて、ニムとミカの横に並んで、四つん這いになって水面をのぞき見る。

 

「さ、三人の顔が並んでて、揺れてて、いいですねぇ……」

 

「ええ。吸い込まれるように、映り込んでいる……わね」

 

「……」

 

 その日の夕方。

 妖精の仲間に「あいつらの言ってることが全然わからない」とぼやくヘノの姿があったという。

 

 

 

 

 

 

 

【鏡と鍵】

 

「あれぇ? 珍しい組み合わせだよぉ」

 

 その日、大地の妖精ノンの前に、なにやら珍しい妖精の組み合わせがあった。

 片方は褐色肌のボーイッシュな妖精、リドル。ノンの親友である彼女は、いつも世の中の『謎』を追求している変わった妖精だ。

 もう一人は鏡の妖精ミカ。桃の木の妖精クルラと顔立ちは似ているのだが、いつも笑顔でお酒を飲んでいるクルラと違い、こちらはスンとした無表情で、表情がほとんど動かない。

 

「やあ、ノン。実はいま、彼女の『魔鏡』を触らせてもらうところでは、ないかな?」

 

「この鏡は、私の本体……なの」

 

「そういえば、二人とも魔法道具の妖精っていう共通点があるんだねぇ」

 

 ミカの本体は、常に彼女の背後を浮遊する『魔鏡』と呼ばれるこの丸い鏡である。

 一方、リドルもまた『スフィンクスの鍵』という魔法道具が意志を持ち妖精へと成った存在だ。

 性格的には全く噛み合いそうにない二人の共通点をみつけて、ノンはその意外性に感嘆の息をもらす。

 

「その『魔鏡』は、離れた場所を映し出すことが……できるわ」

 

「ふむふむ、なるほど。これは離れた場所を映し出せる鏡では、ないかな?」

 

「あと、対象の心の中や記憶を映し出すことも……できるわ」

 

「ふむふむ、なるほど。これは対象の心の中や記憶を映し出せる鏡では、ないかな?」

 

「ほとんどミカの言葉を繰り返してるだけだよぉ」

 

 リドルは先ほどから、好奇心旺盛な瞳でその鏡をあちこち観察しているが、口から飛び出る台詞は全てミカの言葉を反芻しているだけだった。

 ノンはもはや口癖のようになってしまった、控えめなつっこみをいれる。

 

「ふむふむ、なるほど。こう使うのでは、ないかな?」

 

 そして、おもむろに。

 リドルは魔鏡に魔力を流し込み、その魔道具『魔鏡』を起動させる。

 ノンが気づいたときには、鏡にはこことは違う場所――妖精の国の調理部屋が映り込んでいる。見れば、調理用のナイフを手にした桃子がジャガイモの皮をむいている姿がそこにあった。

 不思議な魔鏡の力に感心して見入ってしまったのは数秒のこと。ノンはすぐ、他人の本体に魔力を注いで起動させているリドルを止めようと動き出した。

 

「ちょっと、リドル。勝手に人の本体に魔力を流し込んじゃだめだよぉ」

 

 ノンが慌てて、魔鏡に魔力を流し込むリドルにストップをかける。

 ただの魔法道具ならばリドルが勝手に起動させるのはかまわないかもしれないが、魔鏡はミカの所有物であり、それどころか彼女の本体なのだ。

 

「大丈夫。それくらいでは、私に影響はないのでは……ないかしら?」

 

「え、えぇ……?」

 

「私は、どうもしていないのでは……ないかしら?」

 

 ノンは絶句した。

 ミカの口調がリドルっぽくなってしまったのだ。

 

「ほら、リドルが魔力なんて注ぎ込むから、ミカの話し方がリドルっぽくなっちゃったよぉ。事件だよぉ」

 

「なんと。魔力を流し込むことで話し方が影響するとは、これは実に興味深いのでは、ないかな?」

 

 ノンがあわあわとリドルから魔鏡をひったくるように取り上げ、リドルは新たに生まれた『謎』に瞳をらんらんと輝かせる。

 一方、鏡の妖精ミカは相変わらず無表情だ。

 

「違うのよ。彼女の話し方が素敵だったから、参考にしただけでは……ないかしら?」

 

「なるほど。魔力は関係なく、賢そうなボクの口調を参考にしただけでは、ないかな?」

 

 そう。タイミング的にノンが勘違いしただけで、ミカは単にリドルの「賢そうな口調」を真似してみただけだった。

 しかし、リドルの口調は彼女に知識を与えた人間である砂園教授の口癖が影響しているのだが、口癖だけを真似ても本人が賢くなるわけではないのだと、ノンはよく知っている。

 むしろ、繰り返しすぎるとちょっと馬鹿っぽくなるのだと、ノンはよく知っている。

 

「なんだかもうよくわからないから、普通に話してよぉ」

 

 ノンの目の前には、額に指をあてて賢そうなポーズをとるリドルと、それを真似て同じポーズをとってみるミカの姿。

 さすがは鏡の妖精だけのことはある、ポーズの再現は完璧だった。

 

 ノンは大きくため息をつきつつ、「これからはもしかして、自分が頑張って二人にストップをかけなければいけないのか」、と。

 心の中で、戦々恐々としているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【鏡の世界と氷の花】

 

 

『すごーい! すごーい! ひろーい!』

 

『秘密基地! 秘密基地!』

 

『うわー! うわああーっ!!』

 

 ただ、凍りついた地面が広がる世界。

 その世界には今、小さな少女たちの楽しげな声が響きわたっていた。

 それぞれが薄い氷の翅を背に持った彼女たちは、北海道は摩周ダンジョンに生まれた『氷の花』から誕生した小妖精である。

 

「みんなー! あまり、遠くに行き過ぎちゃダメだ、よ!」

 

『はーい!』

 

『わかった、わかったよー』

 

 小妖精たちを引率しているのは、氷の花の小妖精の一人が自我を持ち覚醒した存在、ルゥである。

 ヘノたち姉妹のなかでは一番末っ子で言動も不安の残る彼女だけれど、氷の花から生まれた小妖精からは、自分たちのリーダーとして扱われているようだ。

 

「この場所、カレーがないし、ちょっと来るのは大変だけど、楽しい、ね!」

 

「そう……かしら」

 

 そして、ルゥの横で小妖精たちを静かに眺めているのは、この世界の主である鏡の妖精ミカである。

 そう、ここは彼女の世界。蔵王ダンジョン第三層の大鏡から繋がる隠れ里。『鏡の中の世界』である。

 

 なぜここに氷の花の小妖精たちがやってきたのか。

 そこに大した理由はない。単に、凍り付いた世界の噂を聞いた氷の花の小妖精たちが、遊びにいきたいとミカにねだったのだ。

 小妖精の元気さに気圧されて黙りこくってしまったミカの代わりに、氷の花の妖精であるルゥが引率として同行することになり、今に至る。

 

「ここには何もないけれど、気に入ってくれているの……かしら?」

 

「うん! ここは、魔力も沢山あって氷も多いから、氷の花が沢山咲きそうだ、よ!」

 

「そうなの……ね」

 

 氷の花。それは、三十年の間瘴気に晒され続けた摩周ダンジョンの中で、コロポックルの少女パイカラが残された力で作り出した、奇跡のような花である。

 当然、現在は摩周ダンジョンにしか自生していない魔法の花だ。

 しかし、この日を境に氷の花は、繁殖地を増加させていくこととなる。

 

「さっそく、種を埋めてみる、よ!」

 

「お願いするわ……ね」

 

 ルゥが、凍り付いた大地に氷の花の種子を埋めていく。

 地上の植物と違い、氷の花の種子はまるで氷の欠片のようなもので、暖かすぎる場所や魔力の少ない場所ではすぐに露となって消えてしまう。

 しかし、地脈や龍脈とでも呼ぶべき魔力の流れに晒された蔵王ダンジョンの氷の世界は、氷の花が適応するには最適な環境だった。

 

 

『鬼ごっこ! 鬼ごっこ!』

 

『ジャガイモごっこ! ジャガイモごっこ!』

 

 

 伸び伸びと遊び回る小妖精たちの声をBGMに、ルゥは一つ一つ、氷の地面に種をなじませていく。

 この種はきっと、豊富な魔力を吸い上げて、近い内に芽を出し、花を咲かせることとなる。

 

「ここなら、ひろーい花畑になるかも、ね!」

 

「この世界に、綺麗な花が咲く……のね」

 

 ミカは、自分の作り出した鏡のなかの世界を見回した。

 一時は誤解により桃子が「この世界を稲で満たそう!」などと意気込んでいたけれど、稲でこそないものの、この世界が花で満たされる日がくるかもしれない。

 ミカはそんな未来を妄想する。

 

「ミカ? どした? 泣いてる、の? カレーが食べたい、の?」

 

「違うわ。ただ、目から水が出ただけ……だわ」

 

「ふーん。面白い、目だね!」

 

 ルゥはある程度の範囲に氷の花の種を植えると、うーんと伸びをして立ち上がる。

 ルゥの氷の翅とミカの鏡の翅は、少しだけ似ている。白くきらめく二人の翅が、凍える世界に降り注ぐ白い光を反射させる。

 

「こんど、コロポックルっていう友達もいるから、連れてこようか、な! 気に入ってくれるといい、ね!」

 

「そうね、気に入ってくれるお友達がいるなら……とても、幸せ……ね」

 

 今はまだ、氷の花の種が植えられただけで、何もないことには変わりない。

 けれど、いつの日か。

 ここは氷の花の小妖精たちにとって特別な別荘地となり、大地には氷の花が咲き乱れ。

 さらには、妖精の国では育てられない、氷の植物や氷の果樹が各地から集められて。

 いつしか『氷の果樹園』なる別名を与えられ、皆から愛される隠れ里になろうとは。

 この日のミカはまだ、知る由もないのだった。

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