ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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鎌倉発掘隊

 鎌倉ダンジョン第一層『枯戦場』。

 ここはその名の通り、枯れた大地と枯れた木々が広がる、乾ききった階層だ。

 この階層にはいま、一つのブームが訪れていた。

 

「アケビちゃあん、こっちにも何か面白いのが埋まってそうですよお!」

 

「わかったから、大声出さないで」

 

 桃子たちから百メートル以上は離れた場所で、ゆるふわな女性探索者ハスカが、相棒のクール系探索者のアケビとともに地面をひたすら掘り進めていた。

 彼女らの足下には、すでにいくつかの大穴が空いている。

 いや、厳密に言うならば、地面を掘っているのはハスカやアケビだけではない。枯れた大地を見渡せば、何組かの探索者たちがあちこちで地面に穴を掘っているのが見える。

 

「ハスカさんたちは相変わらず元気だね」

 

「気をつけて下さいね、先輩。あの人、あのゆるふわオーラに反して、かなり勘が鋭いんですから」

 

 そして、そんな景色を眺める桃子と柚花もまた、スコップで地面を掘り返していた。

 桃子たちの周りには、風の妖精ヘノ、水の妖精ニム、そしてこの鎌倉ダンジョン出身の火の妖精フラムが集まっている。

 

「そういえば。前に一度。あのゆるいのに見つかったことがあるぞ」

 

「アタシも、あのハスカっていう探索者には見つかったことがあるな!」

 

「そういえば、前にルビィちゃんもハスカさんに見つかってたっけ」

 

「なんですかそれ、妖精を全員コンプリートしそうな勢いじゃないですか」

 

 穴を掘りながら、会話の中身はこの鎌倉ダンジョンの探索者であるハスカの話題だった。

 彼女は希少な探知系のスキルを保持する探索者であり、その影響もあってか非常に勘が鋭いのだ。

 ヘノたちの自己申告通りで、何かと妖精を目撃することが多い人物である。

 

「うーん、コンプリートされても困っちゃうし、ニムちゃんは気をつけてね?」

 

「うぅ……実はなんだか、さっきから視線を向けられている気がするんですよねぇ……こ、こわい」

 

 どうやら、百メートル以上は離れているというのに、彼女はこちらの妖精たちの気配に気づいているのかいないのか、こちらにちらちらと視線を向けているらしい。

 桃子と柚花は、何ともいえない不気味さを感じて、互いに視線を合わせる。

 

「……先輩。ここは何も埋まってなさそうですし、場所を変えましょうか。出来れば、あちらのハスカさんから見えない場所に」

 

「あはは、そうしよっか」

 

 柚花はよく知っているのだ。

 ああいった、無邪気で、思考回路の大半をその場の感覚に割り振っている人間というのは、関わると一番厄介で手がつけられないのだと。

 

 

 

 

「それにしても、鎌倉ダンジョンを掘り返すだなんて誰が最初に始めたんだろうね」

 

「最初は、海だった場所から魚や貝の化石というか、カラカラに乾いた干物を探してたそうですね。そこで色々と、本来ここにあるわけのない鉱石や植物の名残りなんかが見つかったとかなんとか」

 

 ここ鎌倉ダンジョンでは最近『地面の発掘』がブームになっていた。

 昨年の躯との別れを経て、桃子はときおりフラムとともにこのダンジョンで魔物たちと戦う探索者たちをサポートしている。

 骸骨武者である躯のように姿を現して堂々と助けるわけではないけれど、炎の妖精の登場とともに魔物が煤になっていく光景は、探索者を守ってくれると言われる『骸骨武者』を彷彿とさせ、掲示板やSNSではそれなりに話題になっていた。

 その活動のなかでこの階層を何回か覗き見たけれど、少なくとも少し前までは穴掘りブームなど無かったはずだ。

 

「この階層に。昔は。海があったのか?」

 

「そうなんですよ。うちの両親が言うには、ここにダンジョンが見つかった頃は木も枯れてなくて、水があったんだそうですよ。ただ、国の調査なんかが終わって探索者が入れるようになった頃にはもう、今と同じ枯戦場になってたみたいですけど」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、柚花のご両親は探索者さんたちが入る前の鎌倉ダンジョンを見たことがあるってこと?」

 

「はい。二人とも探索者に公開される前の鎌倉ダンジョンを見たことがあるみたいです。今もダンジョン庁関連の仕事してますしね」

 

「そっかー。なんか、誰も入ったことのないダンジョンに潜るのって、ちょっとロマンだね」

 

「先輩がそれを言いますか」

 

 誰も入ったことのないダンジョン。

 探索者に公開されていないダンジョンという意味では、つい先月繰り返し潜った『蔵王ダンジョン』などはまさにそれに当たるだろう。

 もっとも柚花の言う通りで、桃子の『誰も入ったことのないダンジョン経験数』は、りりたんのような特例を除けば日本で単独トップである。

 残念ながら大体の場合はロマンを感じる余裕などない大変な状況だったので、桃子の中ではノーカウントである。

 

 そんな雑談を交わしながら、桃子たちは持ち込みのシャベルでざっくざっくと地面を掘り返していく。

 枯れた地面の中からでてくるのはほとんどが岩や石、ときおり乾ききってすでにボロボロの木の根にぶつかる程度で、珍しいものが出てくる様子はない。

 空気が乾燥しているために、会話をしながら肉体を動かしていると、自然と喉がイガイガしてくる。

 

「あ、そういえば先輩。鎌倉ダンジョンに潜るって話をしたら、うちのお母さんからのど飴を貰ってたんですよ。舐めます?」

 

「あ、貰おうかな。乾燥が激しくて喉がガビガビになってきちゃったんだよね」

 

「飴か。ヘノも。舐めてみたいぞ」

 

「アタシも! 人間のお菓子を食べてみたいぞ!」

 

「わ、私も……飴、欲しいですねぇ」

 

 柚花がおもむろにポケットから取り出したのは、いわゆるミニキャンディと呼ばれるタイプの、小さな袋に6~7粒の飴玉が入っているタイプの商品だ。

 袋には可愛らしげなフォントで『ハチミツみるくキャンディ』と表記されており、デフォルメされた巨大な蜂と牛が踊っているイラストが描かれている。

 巨大な蜂に対して桃子たちはあまりいい思い出を持ってはいないが、さすがにキャンディ会社も他意はないだろう。

 

「ハチミツみるく味です。舐めるのは構いませんけど、いきなり飲み込まないように気をつけてくださいね?」

 

「わかったぞ。任せろ。飴玉を舐めるのは。得意だぞ」

 

「は、はちみつみるく味……ど、どんな味なんでしょうねぇ……?」

 

「刺激的で、ものすごく辛い味だと嬉しいな!」

 

「たぶんハチミツミルク味だと思うよ?」

 

 桃子、ヘノ、ニム、フラムが一粒ずつ柚花から飴玉を受け取ると、はむっと揃って飴玉を口にする。桃子は普通に口の中でコロコロと飴玉を転がし、ヘノたちは頬っぺたがぷっくりと飴玉で膨らんでいた。妖精の頬は実に柔らかい。

 そんな妖精たちと一緒に舐めるハチミツみるくキャンディは、喉を潤しながらも、甘くてほっとする味わいで。当然ながら刺激的でも辛くもなく、ハチミツを溶かしたミルク味の喉に優しいキャンディだった。

 

 

 それから、しばらくの時間が過ぎた。

 

 桃子と柚花は、最近の探索者の流行装備や、冬のカレーの話など、尽きぬ話題とともに穴をひたすら掘り進めていた。

 すでに足元にはいくつかの穴が掘られている。とはいえ、残念ながら出てきたのは大体が石や岩、そして木の根ばかりで、宝探しとしてはハズレと言えるだろう。

 もっとも、二人ともこの日は『ダメ元で自分たちも穴を掘ってみよう』程度にしか考えていないので、戦利品がなくとも大して気にはしていない。こういうのは、あくまで雰囲気を楽しむイベントなのだ。

 周囲には穴を掘ったぶんの土がそのまま小山のようになっていた。さすがにこのままで立ち去るわけにもいかないので、桃子はシャベルで小山を押し出すようにして、土を流し込んで穴を埋めていく。

 

 そんななか、少し離れた坂の上方では、先ほどまで魔物狩りに精を出していた三人の妖精たちが集まってなにやら話し込んでいた。

 

「ここだな。ヘノの予想だと。ここが一番。気になるぞ」

 

「アタシはわかんないけど、手伝うぞ! 燃やすか!」

 

「じ、地面を燃やしても穴は掘れませんよぉ……?」

 

 どうやら妖精たちは妖精たちで、何かが埋まっていそうな場所を探してくれていたらしい。

 桃子たちは足元の穴を土で埋め直し終えると、ヘノたちが話し合っている坂の上へと移動する。

 

「ヘノちゃーん? どうしたの? 何かあったの?」

 

「桃子。ここだ。ここが気になるから。その道具で掘ってもらえるか」

 

 穴を掘って、埋めた直後に新しく掘るように言われる。

 場所が場所ならばちょっとした虐待じみた肉体労働だが、桃子は柚花と一度顔を合わせてから、ヘノたちのリクエストに応えることにした。

 桃子はダンジョン内では魔力量も人並み外れており、更には【怪力◎】というスキルもあるので、無闇にタフで、肉体労働が大得意なのだ。

 

「ここだぞ。ここを掘ると。多分なにかあるんだぞ」

 

「うん、オッケー! どっかんどっかん穴掘りしちゃうからね!」

 

「なんかもう『ここほれワンワン』みたいなことになってますね」

 

 桃子ほどタフではない柚花は、ヘノとともに穴掘りを楽しんでいる桃子の姿を、一歩離れて休憩しながら眺めているのだった。

 

 

 

 

 そして、桃子がひたすら穴を掘り始めてから数分後。

 時刻はまだ暗くなる時間というほどではないが、さすがにそろそろ撤収を考えるべき頃合いだ。いま掘っている穴になにもなければ、穴を埋めて妖精の国に帰ることになるだろう。

 そんな最後の穴掘りにて、桃子が土に刺したスコップが、ガチンと硬質的な音をたてて止まる。

 

「あれ、何かにぶつかった? 岩とはちょっと違う感じだけど」

 

「なんだ。なんだ。食べ物か?」

 

「食べ物じゃなさそうだけど、こんな場所に埋まってるってことは、それなりに古いものじゃないかなあ」

 

 桃子は屈み込み、自分の掘った穴の中を見下ろした。

 すでに五十センチほどの深さになった穴の底は影になってよく見えない。桃子はスコップでその物体を引っかけて持ち上げ、腕を穴に突っ込んでぐいっとそれを引っ張り上げる。

 

「え……?」

 

 それはどうやら、既に至る所が劣化してボロボロになってきているものの、間違いなく探索者の装備品のようだった。

 当然ながら全体的に土で汚れているが、しかしそれでも形状を見ればそれが何なのかはすぐにわかる。

 

「なんだこれ。誰かが古くなった道具を。埋めたのか」

 

「知ってるぞ! 腕につけるちっちゃな盾だな! 見たことあるぞ!」

 

「お、お水で洗い流さないと、土だらけでよくわかりませんねえ……」

 

 それは、小さな盾だった。

 名称としては『バックラー』と言えるだろう。決して大きなサイズではないが、片腕に装着することで簡素な防具となり、所有者の守りとなってくれる装備品だ。

 だが、桃子は自分が引き上げたその武具の姿に、一瞬、言葉を失う。

 

「柚花、これって……」

 

「ええ、先輩の言いたいことはわかりますけど……でも、そんなことあります?」

 

 柚花も桃子同様に、それが何かわかったようだ。柚花は【看破】の瞳で、改めてそのバックラーの姿を確認している。

 ニムがちょろちょろと出した水で土汚れを落としていく。土が落ちたとしても傷や経年劣化でとても綺麗な状態とは言えないが、次第にそのバックラーは、鏡のような美しい艶を取り戻す。

 

「桃子。この盾。知ってるぞ。ばじりすくの呪いを反射したやつだな」

 

「うぅ……そういえば、柚花さんも前に、これをつけてましたねぇ。昔から、人気の盾だったんですねぇ」

 

「うん……そう、なのかな」

 

 桃子は発掘成功に沸く妖精たちに生返事を返して、汚れのとれたバックラーを改めて手にとった。

 これは、ヘノの言う通り、間違いなく『鏡のバックラー』である。探索者ショップでは若い女性に人気の商品として新作が販売されている、初心者向けの人気商品だ。

 しかし――。

 この『鏡のバックラー』は、桃子の同僚である和歌が設計したものだ。一年前にバジリスクと戦う際に桃子が装着したものが最初の試作品であり、市販品として出まわったのは昨年の夏頃だったはずだ。

 だからこれが『かなり昔の装備』として、こんな場所に埋まっているわけがないのである。

 

「先輩。とりあえず、今日はもう帰りましょう。なんか腑に落ちないですけど、ここにいても仕方ないですし」

 

「ん、わかった。そうしよっか」

 

 桃子たちが、何の気なしに始めた鎌倉ダンジョン発掘の遊びは。

 なんとも言えない、喉につっかえるようなお宝を発掘して、終了を告げるのだが、その鎌倉ダンジョンの新たな謎の答えが見つかるのは、ずっと遠い時間の話である。

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