ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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豆まき鬼退治

『よろしくね、ミカさん!』

 

「よろしくお願い……するわ。座敷童子」

 

 ここは果てしなく広がる巨大な和風建築の迷宮、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』。

 この日、この場所に訪れているのは、サンタクロースの如くその背に大きな袋を抱えた桃子と、そのパートナーのヘノ。

 そして最後のもう一人が、銀色の翅をもつ鏡の妖精、ミカだった。

 

『わー、鏡だ! 萌々子の顔が写ってる!』

 

 そしてその三人に対面するのは、このマヨイガに住んでいる座敷童子の萌々子だった。

 ミカと初対面の挨拶を交わした萌々子は、さっそくミカの背後に浮かぶ鏡を見てはしゃいでいる。

 

「それでね、萌々子ちゃん。今日は節分だから豆まきをしようと思うんだよ。萌々子ちゃんは豆まきにちょうどいいお部屋とか知ってる?」

 

『豆まきかー』

 

「今日は。でか豆を乾燥させて。堅くしたのをたくさん持ってきたんだ」

 

 そう、この日の目的は『節分の豆まき』である。

 豆をまくだけならどこでも良いかもしれないが、せっかくの日本の風習なので、和風な場所でやってみようということでマヨイガまでやってきたのだ。

 

 そもそも、豆まき自体はただの思いつきだった。たまたまヘノがでか豆を乾燥させて遊んでいるのを見た桃子が、『豆まき』という地上の文化をヘノに紹介したのだ。

 他にも節分について様々な知識を桃子は教えたはずなのだが、ヘノがはっきり覚えていたのは『豆を鬼に投げつけて追い払う』という面白そうな部分だけだった。なので今日のヘノは、豆を鬼にぶつけて遊ぶ気満々だ。

 ちなみに、ミカをつれてきたのは、萌々子との顔合わせと他のダンジョンの紹介を兼ねたものであり、そこに大きな意味はない。

 

『んーとね、お部屋はいっぱいあるにはあるけど、豆まきならマヨイガよりも、ここの第二層がいいと思うよ』

 

「第二層? そうなの?」

 

『うん。実はね――』

 

 

 

 萌々子が語ったのは、なかなかに有用な情報だった。

 曰く、マヨイガに鬼はほとんど出現しないけれど、第二層の『大竹林』にはその名のとおりの『鬼』が出現すること。

 曰く、最近の魔物の出現傾向として、大竹林の『鬼』が過剰に増えているということ。

 それらは全て、萌々子が探索者同士の会話から得た情報である。

 

『――って、探索者のみんなが話してたの』

 

 そしてそれらの情報は、豆まきを目的としてやってきた桃子たちにとって渡りに船のような話であった。

 雰囲気を味わうだけでなく、本当に『鬼』を節分の豆で撃退するチャンスである。こんな機会は、滅多にあることではない。

 

「そっかそっか、鬼が増えてるんだったら、豆まきで退治しないとね」

 

「よし。弱点の豆をぶつけて。鬼の群れを。どんどん叩き潰していくか」

 

「豆まきとは、そういう行事……なのね」

 

 鬼情報を得て、さっそく桃子たちはやる気をみせる。

 桃子がその背に掲げた大きな布袋の中身は、このイベントのためにヘノが大量に乾燥させたでか豆である。

 中にはまだ熟す前段階で乾燥されてしまった豆もあるが、とにかく大量の乾燥した豆が山のように袋に入っているため、豆まきの準備は万全だ。

 

『第二層には、マヨイガとは違う魔物が多いから、気をつけてね?』

 

「うん、大丈夫! 今日はヘノちゃんとミカちゃんもいるし、豆もたっぷりあるからね!」

 

「服を着てる魔物がいたら。はぎ取って。集めてくるぞ」

 

『そうなんだ! 意味わかんないけど、気をつけてね?』

 

 ヘノの言う「服をはぎ取る」とは、恐らく桃子が説明した「ふくはうち」を誤って覚えてしまったのだろう。

 桃子と萌々子は頭の横でハテナを浮かべているけれど、両者ともヘノの言うことなのであまり気にしないことにした。

 

「豆まきとは、衣服を強奪する行事……なのね」

 

 約一名。

 節分の誤った行事内容を学びつつある妖精がいるけれど、残念ながらこの場には彼女に正しい知識を教えてくれるような相手はいなかった。

 

 

 

 

「よし。鬼を探すぞ。どこだ。どこだ」

 

「ヘノちゃん、もう少し落ち着いて探そう。鬼は逃げないから!」

 

「鬼は逃げない……のね」

 

 そして、萌々子に見送られた桃子は両足にヘノのつむじ風の魔法をまとうと、さっそく第二層へとやってきた。

 過去にも何度か訪れたことのある第二層。ここは環境としては空のひらけた山岳地帯のような地形の階層だが、その特徴はなんといってもその大半を覆っている竹林だ。

 階層のほとんどが竹林で構成されたこの『大竹林』で、桃子たちの豆まきが始まった。

 

「いたぞ。風を起こすから。全力で投げるんだぞ」

 

「わかった! てやああぁっ!!」

 

「それが、豆の投げ方……なのね」

 

 ヘノが指さす視線の先には確かに、赤い肌をした巨大な人影――いや、魔物影が見えた。赤鬼と呼ばれる魔物だ。

 大柄で、肌は文字通り赤く、頭には角が生えている。服装は腰蓑のようなものをつけているだけで、剥ぎ取れそうな服は着ていない。

 全体的なフォルムは人間に近くはあるのだが、そこにはマンガやアニメに出てくるような心優しい鬼の面影などなく、残忍で暴力的な、瘴気で動く魔物としての恐ろしさがにじみ出ており、人間とは間違えようのない存在感を放っていた。

 

 その赤鬼に向けて。

 桃子が乾燥した豆を握り、大きく投球フォームに入る。

 学校の体育の時間でしか野球に触れたことのない桃子なので、投球フォームは見よう見まねのへんてこなものだったが、それはそれ。

 ヘノの起こした追い風を味方にして、桃子のへんてこ投球フォームから飛びだした乾燥でか豆は、見事に赤鬼の後頭部にヒットする。

 

 ――が、それだけだ。

 

 赤鬼は、後頭部にぶつかった何かに反応して振り返り、なにやら獣じみた雄叫びをあげている。

 

「あいつ。丈夫だな。全然ダメージを受けてないぞ?」

 

「うーん。やっぱり豆が軽いからかな、ダメージが入ってないね。別に鬼に特効もなさそう」

 

 桃子の分析は大正解だ。

 過去に投石器でゴブリンめがけて投げつけていた重い岩と違い、中身が乾燥した豆など投げたところで、それは実際のダメージにはつながらない。

 魔力を乗せたでか豆発射装置でもあれば別だろうが、桃子のへんてこフォームでは豆に力など乗っていない。

 桃子としては、豆が鬼に対する魔法的な特効武器になったりしないかと期待していたのだが、残念ながらそんな都合のよい展開は訪れなかった。

 

「まいったな。重い豆なんて。持ってきてないぞ」

 

「鬼が、向かってくる……わよ?」

 

 ミカが言うとおり、後頭部に豆の直撃をくらった鬼は、周囲をキョロキョロと見回しながらこちらへと近づいてくる。

【隠遁】に守られた桃子の姿が認識できているわけではなさそうだが、投擲物の飛んできた方向から、姿を見せない狙撃手の居場所を憶測する程度の知能は持ち合わせているようだ。

 

「あの鬼。もしかしたら頭が異常に丈夫だったんじゃないか?」

 

「その可能性もあるけど、やっぱり単純に威力不足だったんじゃないかなあ」

 

 しかし、桃子たちはこれでもすでに数多の危機を乗り越えてきた名コンビだ。

 たとえ乾燥でか豆に鬼に対する効果がなかったとしても、その程度で慌てる素振りは見せず、むしろ二人とも結構のんきに会話を続けていた。

 

「仕方ないな。桃子。作戦Mだぞ」

 

「わかった! 作戦『豆でおびき寄せて、ぶちのめし』だね!」

 

「作戦Mは、豆でおびき寄せて、ぶちのめす……のね」

 

 作戦『豆でおびき寄せて、ぶちのめし』。略して、作戦M。

 それは、具体的に言うならば『豆を投げつけて、豆に興味を持って油断している魔物をハンマーでぶちのめす』といった、いつかの『カレーおにぎり作戦』を彷彿とさせる、実によく考えられた作戦である。

 なお、豆を投げる行程は必要だ。なぜならこれは『豆まき』なのだから。

 

 ヘノとミカが鬼を探す。

 桃子が豆を投げつけるが外れる。

 鬼がうろつく。

 ボコスカ

 

 ヘノが豆のかけらをガジガジ。

 ミカが鬼を探す。

 桃子が豆を投げつけるが外れる。

 鬼がうろつく。

 ボコスカ

 

 ヘノが木の実を見つけてもぐもぐ。

 ミカが鬼を探す。

 桃子が豆を投げつけるが外れる。

 鬼がうろつく。

 ボコスカ

 

 ――そうして、日差しが西へと近づいてきた頃。

 

 マヨイガでヘノが宣言したように、桃子たちはヘノとミカの感知能力を総動員し、手当たり次第に見つけた鬼を叩き潰していった。

 ときには鬼以外の魔物の姿もあったが、鬼以外の魔物を豆まきの標的にしてはいけない理由などない。豆を投げつけてはハンマーでボコボコにしていく。

 

「ふう、こんなものかな?」

 

「なかなか。鬼退治できたんじゃないか」

 

「これが、鬼退治……なのね」

 

 さすがにこの広い階層の鬼全てを倒したわけではないが、いくつか発見した鬼たちのコロニーを壊滅させたのは間違いない。

 もちろん、その時にとったのは『作戦M』である。

 

「あれだけあったお豆がほとんどなくなっちゃったね」

 

「思ったより。面白かったけど。大変だったぞ」

 

「節分は、こういうイベント……なのね。覚えたわ」

 

「私の知ってる節分イベントとはかなり違うけどね」

 

 桃子たちは、節分を存分に楽しんだ。

 豆そのもので鬼を撃退は出来なかったけれど、豆でもハンマーでも退治には変わりがない。終わりよければ全てよし。

 桃子たちは、節分をやりきった充実感で実にすっきりしていた。

 

「じゃあ、余った乾燥でか豆は粉々に砕いてきな粉にでもしようか。甘くしてさ、お餅を焼いて食べちゃおう」

 

「いいな。なら。座敷童子も誘って。いろりの部屋で餅を焼くか」

 

「節分の最後は、きな粉でお餅を食べる……のね」

 

 正月用に準備した餅が、まだ調理部屋には残っていたはずだ。

 桃子とヘノは、節分が終わったらさっそく午後のおやつの計画を立て始めている。

 初めての節分に同行したミカも、どんどん地上の風習について学んでいく。ストッパーはいない。

 

 そんなこんなで。

 桃子たちによる『豆まき』は、大量の鬼の殲滅とともに終了を告げるのだった。

 

 

 

 

【遠野ダンジョン専用 雑談スレ】

 

:なんか、第二層の大竹林でやたらに巨大な大豆が落ちてたんだが……(画像URL)

 

:でかくてわろた

 

:なんで竹林に大豆があるんだよw コラだろw コラだよね?

 

:残念ながら事実ですね。私たちのパーティも大豆が落ちてるのを見つけました。(画像URL)

 

:マジかよなにそれ、どこで採れるんだ?

 

:ヒント『今日は節分』

 

:豆まきか!

 

:いやおかしいだろ

 

:どこの誰がダンジョンに潜って、あんな巨大な大豆で豆まきするっちゅーねん!

 

:先日までやけに鬼が増えてたのに、今日は全然出会わなかったんだが。

 

:え、じゃあ本当に「鬼は外」つって鬼を撃退した奴がいるの? 大竹林に内も外もないけど。。。

 

:萌々子ちゃんがやったのか?

 

:衝撃の事実。座敷童子の投げる豆は超巨大。

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