ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ひとり暮らし

「ゆ、柚花さんはもうすぐ、一人暮らしをするんですよねぇ……?」

 

「はい。今住んでる場所とくらべて房総ダンジョンに結構近い場所に引っ越してくることになったんですよ」

 

 階層中で鳴り響く滝の音と、四方から降り注ぐ水しぶき。

 ここは琵琶湖ダンジョン第三層『滝の迷宮』。この水しぶきの止まぬ階層で、柚花とニムの二人は魔物を討伐しつつダンジョンを探索していた。

 この場所は常に響く滝の轟音と、まるで霧のように飛び交う水しぶきのお陰で、柚花とニムがうろついても他の探索者に目撃されるリスクが少ないため、二人の定番探索スポットの一つとなっている場所だ。

 

 遠方に見えた巨大な蟹のような魔物に【チェイン・ライトニング】を放つと、水に塗れた魔物は一瞬で感電し、そのまま煤へとなっていく。

 柚花たちはその魔石を回収しながら、楽しげに柚花の『引っ越し』について会話を交わしていた。

 

「じゃ、じゃあ……い、今までよりもたくさん、房総ダンジョンから遊びに来てもらえるわけですねぇ……?」

 

「そうですね。学校とかお仕事はありますけど、単純に距離が近いので夕方に気軽に遊びに来たりとかもできそうです」

 

「い、いまから楽しみになってきましたねぇ……」

 

 ニムは、水を司る妖精の力で、柚花の上に半円状の水の膜を張っている。それが壁となり、降り注ぐ水しぶきは柚花の身体を濡らさない。

 傘のようなこれは、そのものズバリ、傘である。初めのうちは柚花が毎回レインコートを着用していたのだが、ニムが柚花のためにと魔法を工夫することによって誕生したのがこの『傘の魔法』だ。

 今日も柚花とニムはこの傘で守られながら、楽しげに滝の迷宮の散歩を続けていた。

 

 

 そしてこの日、この『滝の迷宮』に訪れていた妖精はニムだけではない。

 

 

「引っ越しか。人間は。自由に好きな場所で寝泊まりできなくて。大変そうだな」

 

「あはは、ヘノちゃんたちからすると、そう見えちゃうかもね」

 

 柚花たちから少し離れた場所では桃子とヘノが、道すがら現れるスライムを氷結ハンマーで砕いては、その粉末を回収しながら『滝の迷宮』を歩いていた。

 桃子たちは水に濡れるこの階層へ訪れることは少ないが、この日はスライム粉の在庫確保も兼ねて、柚花たちの散歩に参加させてもらっていた。なお、ニムの傘の魔法は複数には発動できないので、桃子は普通にピンクのレインコートを着用している。

 

「でも。自分だけの家っていうのも。楽しそうだな」

 

「妖精のみんなはいつも花畑で思い思いに寝てるし、そもそも家っていう考え方はあるの?」

 

「ないこともないぞ。自分だけの。秘密の場所をみつけて。そこに住んでる奴も。いるからな」

 

「そうなんだ?」

 

 これはただの雑談。柚花が引っ越すという話が聞こえてきたので、引っ越しや『家』について話していただけである。

 桃子は過去に見知った妖精たちの生活拠点について考えてみる。クルラにとっての桃の窪地。ルイにとっての薬草園。ミカにとっての鏡の世界。どれも彼女らの領域という雰囲気ではあるが、『家』とはまた違うように思える。

 桃子がそんな風に考えていると、ヘノがその場で止まり、何やら周囲をきょろきょろし始めたのに気づいた。

 そしてふいに、ヘノはツヨマージで迷宮の一方向を指し示す。

 

「ここら辺だと。こっちだぞ。桃子」

 

「え、ヘノちゃん?!」

 

 言うが早いか、ヘノが桃子を先導するように真っ直ぐに飛んでいってしまう。

 ヘノは相変わらずのせっかちで、善は急げ、思い立ったが吉日とでも言うかのように、なにか閃いたらすぐに飛んでいってしまう妖精だ。

 桃子はあわててヘノの後を追いかける。

 

「ちょっと先輩、どこ行くんですかーっ?」

 

 後ろからは、いきなり駆けだした桃子を心配する柚花の声が聞こえる。

 

「ヘノちゃんがーっ」

 

 桃子は後方に向けてそれだけ叫ぶと、すいすいと宙を飛んでいってしまうヘノに向き直って。

 ヘノを見失わないように、とにかくひいこら追いかけるのだった。

 

 

 

「こっちだぞ。桃子」

 

 桃子が追いついたのを確認したヘノが、滝と滝に挟まれた細い隙間をくぐり抜けていく。

 

「待って待って、水しぶき、水しぶきがっ」

 

 いくらレインコートを着用しているとはいえ、これはあくまで空から降る雨をよけるための、市販のレインコートだ。四方から降り注ぐ水しぶきの全てを防ぐようには出来ていない。

 ヘノを追いかける桃子はこれでもかというくらいに水しぶきを浴びている。

 

「こっちだ。もうすぐだぞ」

 

 レインコートの中にまでしっかり水が入り込んできたところで、ヘノは勢いよく音を立てる滝をくぐり抜けていった。どうやら滝の裏側にも、先へ続く道があるようだ。

 

「え、待って、滝だよね? これ、滝だよね?」

 

 桃子は数秒ほど逡巡する。桃子の着用しているレインコートは、あくまで雨の日用。滝の日用のレインコートではないのだ。

 だが、滝の奥から聞こえるヘノの急かすような声に負けて、桃子は意を決して滝をくぐり抜けていく。

 滝の勢いで頭のフードがはずれ、桃子は全身びしょびしょになった。

 

 

「到着したぞ。桃子」

 

 土砂降りの水のカーテンをくぐり抜け、しばらく進んだ場所でヘノはようやく止まってくれた。

 そこは四方を滝に囲まれた空間だ。飛び散る細かい水しぶきがまるで霧のようにあたりを白く染めている。

 そして、頭上から降り注ぐ光を受け、あたりにはいくつもの虹が発生していた。

 

「うわあ、綺麗! すごい、こんなスポットがあったんだねえ。ここまで来るのにびしょびしょだけど」

 

「ほら。上の方見えるか?」

 

「水しぶきでぜんぜん見えないや」

 

「そうか。困ったな」

 

 どうやら、ヘノは桃子に見せたかったものは、この虹の架かる景色の更に上にあるらしい。

 桃子としてはこの美しい景色を見られただけでも得した気分だったのだが、ヘノが本来見せたかったものが気にならないと言えば嘘になる。というか、非常に気になる。

 だが残念ながら、桃子が上を見上げると顔に大量の水しぶきが降り注いでくるので、上に見えるものを確認するどころではないのが現実だ。

 

 どうしたものかとヘノと桃子がぼんやりうろうろしていると、その空間に別な声が届く。

 

「うぅ……こ、こっちですかねぇ。ヘノぉ? 桃子さぁん?」

 

「あ、ニムちゃん! こっちこっち!」

 

 そして、桃子の声に誘われるようにこの空間までやってきたのは。

 突然駆けだした桃子を追いかけてきた、柚花とニムの二人だった。

 

 

 

 

「もう、先輩。探しましたよ、なにしてたんですか?」

 

「それがさ、実はかくかくしかじかなんだよ」

 

「なるほど、かくかくしかじかですか」

 

 柚花がいくつもの虹が出ている不思議な空間を見上げて驚いていたのは数秒のこと。

 すぐに柚花は桃子のもとへと駆けつけて、桃子の説明を聞いてなるほどと納得する。

 なお、ヘノとニムは再会の挨拶かなにかなのか、空中で互いに手を当ててぽんぽんとダンスのようにしている。最近どこかの探索者たちがやっている遊びを覚えたのだそうだ。

 

 柚花は、桃子の説明をきいてからその【看破】の瞳に魔力を宿して、上方の空間を見上げる。

 そしてひとり、なるほどなるほど、などと呟いて納得顔で頷いていた。

 

「なになに? 何があったの」

 

「水しぶきがひどいですし、そもそもうまく隠れてて肉眼じゃほとんど見えませんけど、少し上のくぼみに小妖精がいますね」

 

「そうなんだぞ。あの小妖精。ここに住んでるみたいなんだ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

 そうらしい。

 どうやらここには、この空間を拠点としている小妖精がいるのだそうだ。

 もっとも、大量の水しぶきに阻まれて、話を聞いた上でなお、桃子の目ではその姿を見つけることができそうにはなかった。

 

「ヘノちゃんはもしかして、私にその子を見せてくれようとしたの?」

 

「そうだぞ。ああいう風に。一人でこっそり。秘密基地に住んでる妖精もいるんだって。桃子にも。教えてあげたかったんだ」

 

「えへへ、そっか。ありがと、ヘノちゃん。びしょびしょだけど、ありがと」

 

「どういたしましたぞ」

 

 ヘノの優しさに、桃子はにっこりと微笑む。

 出来ればその上で「レインコートの内側までびっしょりになるルート」ではなく「もっと人間に優しいルート」を選んでくれていたらもっと良かったな、という本音も少しだけ漏れ出るが、それはもう過ぎたことだ。

 桃子はヘノには甘いのだ。

 

「それにしても、こんな場所を選んで一人で過ごしてるような子もいるんですね。まったく気づきませんでしたよ」

 

 柚花がしみじみと、オッドアイを魔力で輝かせたまま再び上を見上げている。

 ダンジョンに入ってはや四年。色々と【看破】の瞳で見て回った柚花をもってしても、このような『はぐれ小妖精』を見たのは、今回が初めてだった。

 

「ほ、本当にたまに、ああいう変わった子もいるみたいですねぇ……」

 

「思えば、ルゥちゃんとかもあきらかに言動が他と違う小妖精だったしね」

 

 桃子が知る限り、小妖精の頃からルゥは口を開けば「カレー!」と叫び、房総ダンジョンでハンバーグ泥棒を繰り返すような、明らかにおかしい小妖精だった。

 それ以外の姉たちは、薬草園でライチに育てられたルイ、スフィンクスの鍵として砂園教授に育てられたリドル、魔物である躯と育ったフラムなど、特殊な生い立ちの子たちが多い。

 

「やっぱり、変わった小妖精のほうが自我が芽生えやすいとかいうことがあるのかもね」

 

「そうなのか」

 

 桃子は、おそらく小妖精の頃からこの性格だったんだろうな、と思いながら。

 自分の大切なパートナーに、にっこりと視線を向けて微笑むのだった。

 

 

 

「ところで先輩。さっきから、水に飛び込んだのかってくらい全身ずぶぬれですけど、ヒメさんでも呼ぶ気ですか?」

 

「そういうわけじゃないんだけどなあ」

 

「本当だ。桃子。頭から水をかぶったみたいに。びしょぬれだな。どうした」

 

「まさに今、頭から水をかぶり続けてるんだよね」

 

「た、楽しそうですねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしています。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 さて、本日の本を紹介する前に――実はりりたん、つい少し前まで札幌にお出かけをしていたのですよ。ふふふ。もう三月になるというのに、北海道はまだまだ寒いですね。

 

 そんなわけで、北海道に関連するお話として、たまには漫画でも朗読してみようかと思いますよ。

 本日は――。

 

 

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 いかがでしたか?

 ハスキー犬たちはかわいらしいですね。

 

 そういえば、りりたんは先ほど北海道から帰ってきたばかりと言いましたが、実は諸事情あって今週は沖縄に行くことになっているのですよ。

 理由ですか?

 そうですね……「多くの人々を守るため」とでも言っておきましょうか。

 もしくは「失った故郷の復讐計画のため」とかはどうですか? 陰のある感じで、格好良さげではありませんか?

 

 どちらも大げさですか? でも、真実かもしれませんよ?

 りりたん、ミステリアスさが売りですからね。

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