ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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桜の下で

 この日。とあるダンジョンにて、妖精たちによる突発的な『お花見会』が開催されていた。

 

 

 

「師匠、玄米はそろそろいい感じに炊きあがりそうっすよ!」

 

「さすがポンコちゃん、料理人だね! じゃあヘノちゃん、こっちもカレーを仕上げちゃおうね」

 

「カレールーだな。任せろ」

 

 桜の花びらの舞い散る中で、うどん職人の調理服を着込んだ化け狸の少女――ポンコが桃子に声をかけてくる。

 ポンコはかまどで火を焚き、カレーのための玄米を炊き上げてくれていた。いつもならば柚花が【看破】の力で火加減を見極め、最高の玄米を炊き上げてくれるところだが、残念ながらこの日は平日なために柚花は今頃学校だ。

 なので、柚花の代わりに桃子のサポートについてくれているのが、暇を持て余して妖精の国へと遊びに来ていたポンコだった。

 少女たちには、調理のアシスタントとしてかまどを作る土の妖精、火加減を調整する火の妖精、水を生み出す水の妖精、冷却担当に氷の花の妖精がつきっきりで手伝ってくれているため、場所は野外ながらも調理環境は完璧だ。

 

「ククク……団子も、きれいに並べられたようだねぇ……」

 

「さては、これこそが団子の『ピラミッド』では、ないかな?」

 

 そして今日はカレーだけではない。花見のメインともいえる『団子』も準備ばっちりである。

 団子そのものは桃子が地上で購入してきた業務用の大袋の商品である。賞味期限が迫っており、半額シールが貼られた直後に桃子が早い者勝ちでゲットしてきたものだ。

 それを妖精たちが、きちんと袋から出して、地面に敷いた紙の上に並べてくれていた。ピラミッドのように三角形に積まれたそれは、花見団子というよりは秋の月見団子を彷彿とさせる。

 妖精たちがそんな団子を綺麗に並べ終えたところで、桃子の調理もまたクライマックスを迎えていた。

 

「信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」

 

 信じて混ぜる。【カレー製作】の合い言葉だ。

 この場にはいつもコールを返してくれる小妖精たちはおらず、桃子のかけ声は空へと消えていく。

 だが、コールがなくとも【カレー製作】の力はまばゆい光を放ち、桃子の目の前の大鍋を完成へと導いてくれる。

 

「完成! 桃子特製『花より団子のサクラモリカレー』!!」

 

「さすが桃子。今日のカレーも。いかにもカレーって感じだな」

 

「えへへ、いかにもカレーに見えるでしょ? なんとこれ、カレーなの」

 

「なるほどな」

 

 本日のカレーは『花より団子のサクラモリカレー』。

 そう、いま桃子たちがいるこの場所は、奈良県は吉野山に口をひらいた吉野ダンジョン第二層、咲き誇る桜の森で覆われた階層『サクラモリ』である。

 まさに今、桃子がカレーを作るのに使っていた石のかまどは、過去にこの場所で桃子たちがカレーを作るときにノンが作り上げ、一部の探索者から『美食のオーパーツ』として認識されているあのかまどだ。

 

 三月のこの日。

 桃子たちは、常に満開の桜を楽しめるこの『サクラモリ』にて、少し早いお花見会を開催しているのだった。

 

 

 なお。なぜ平日に花見を開催したのか。

 それは理由は単純で、桃子が買ってきた団子の賞味期限が今日までだったからだ。

 今日中に食べねばならない団子が先にあり「それならせっかくだし桜の下で食べてみよう」という提案が後から出てきて、急遽サクラモリへとやってきたわけである。

 今回の花見に参加しているのは、桃子とポンコ、そしておなじみの妖精たちだ。柚花やりりたんは学校に行っているので不参加だ。

 参加者たちは、桃子が製作した特製カレーを味わい、団子に黒蜜やきな粉をつけて頬張り、それぞれ思い思いに過ごしていた。

 

「んふふ♪ お猪口に桜の花びらが浮いてるわ♪ 花見酒ね♪」

 

 わざわざ持ち込んだお猪口に酒を注いでいるのはもちろん、桃の木の妖精クルラだ。

 いくらお猪口が小さい器だと言っても、妖精の身からすれば十分に大きな器だ。クルラは桜の花びらの浮いたその巨大な器を両腕で抱え、お酒をごきゅごきゅと飲みはじめる。

 その姿は山賊かなにかのような豪快な飲みっぷりであり、そこには花見の風情はあまりない。

 

「やれやれ、こういう明るい会合は苦手なのだがねぇ……」

 

「そう言いながらも、カレーと団子をもりもり食べてて楽しそうだヨ」

 

 クルラの横では、前髪で顔半分を隠した、薬草の妖精ルイが陰気さを隠そうともせず、ぶつぶつとつぶやいている。

 更にその横では、若葉のようなアホ毛を頭にぴょこんと生やした緑葉の妖精リフィがカレーを味わっていた。

 植物の妖精たちは、咲き乱れる桜の世界を見上げて。それぞれ何を思いながらか、この花見会を堪能していた。

 

 

 

 

 一方、桜には見向きもせずに、ご馳走に心を奪われている妖精たちもいる。

 

「これがお団子か! なんだか、焼いてもうまくなりそうだな!」

 

 火の妖精フラムは、熱くて辛いカレーが大好きだ。もっとも、妖精の国では辛いカレーを作ることはあまりないので、彼女はときおり桃子に頼んで自分のカレーにだけ唐辛子粉末を足してもらったりしている。

 そんなフラムは、今回はカレーとともに提供された『お団子』に心を奪われていた。

 おにぎりでも、餅でもない、お団子。妖精の国では滅多に見ることのないその丸い食べ物は、フラムの好奇心を十全に刺激しているようだ。彼女はさっそく団子を一つとって、炎で炙りはじめている。

 

「ルゥもこれ、知ってる! 本当は、棒にさして食べる食べ物、なんだよね?」

 

 一方、氷の花の妖精ルゥは、ドワーフとともに房総ダンジョンの探索者の食事風景をよく覗き見しているため、団子というものは知っていた。キャンプファイアーに集まる探索者たちが、地上で購入してきたパック入りの串団子を食べている姿を時折見かけることがあるのだ。

 とはいえ、ルゥ自身がそれを食べるのは初めてだ。彼女もまた、好奇心のままにまん丸な団子を口いっぱいに頬張り、もっちもっちとそれを味わっている。

 

 テンション高く団子に飛びついた末妹たちとは逆に、静かに淡々と団子を味わっている妖精もいる。

 

「はむ。これは……甘辛くて美味しい、お団子……だわ」

 

 鏡の妖精ミカ。ミカガミ様として長い間、風間イネの心を照らしてきた彼女なので、団子という食べ物に対する知識そのものは持っていた。けれど、実物をその眼で見るのはこれが初めてだ。

 ミカは恐る恐るその丸い物体を観察し、様々な角度から見つめてから、ゆっくりと。そのもちもちを、食べ始める。

 この三人は三者三様ながらも。昔から慣用句として述べられる『花より団子』という言葉を、それぞれが体現しているのだった。

 

 

 

 

 そして、今回の花見会の主催である桃子もまた、どちらかと言えば『花より団子』である。

 否、より具体的に言うならば『花より団子、団子よりカレー』といった具合で、桜の花香るカレーに舌鼓をうちながら、会話に花を咲かせていた。

 

「ねえ、ポンコちゃん、ノンちゃん。今頃この真下の階層では、化け狸のみんなが田んぼを耕してるのかな」

 

「最初のお米がそろそろ収穫できるらしいっすよ。さすがに最初は数もそこまでじゃないらしいっすけど、次からはどんどん数を増やしていくらしいっす!」

 

「さすがにダンジョン産の植物でも、いきなり完璧とはいかないかあ」

 

 話題の中心は、まさにこの第二層『サクラモリ』の下層に位置する第三層『ヒトザト』の様子である。

 桃子たち人間が二度と足を踏み込めないように封じられている第三層だが、しかし香川ダンジョンに存在する化け狸の里とは繋がっている。

 最初はただそこに『在るだけ』だった広大な田んぼも、今ではノンたち妖精と化け狸が協力して整備し、本物の田んぼとして運用を開始しているはずなのだ。

 

「お米の出来はまだまだみたいだけど、狸の皆がこれからあれこれ試行錯誤して、色々試していくみたいだよぉ」

 

「ボクが作った、稲作用の魔法器具も色々と活用されているのでは、ないかな?」

 

「リドルちゃん、そんなの作ってたの?」

 

「リドルさんはなんだかいろんな道具を作ってくれて、狸のみんなも助かってるっすよ」

 

「リドルは、『謎』とか言わないときはとっても有能なんだよぉ」

 

 桜の風味のカレーを食べながらも、桃子は自分の知らない場所でどんどん進んでいる『ヒトザト』の稲作について目を丸くしながら話を聞いている。

 永遠の夜空の下。ハクロウをはじめとしたオオカミたちが守ってきた土地で。妖精たちが大地を整え、道具を作り。それらを使い、その盟友となった化け狸たちが稲を育てる。

 それはとても素敵なことだなと、桃子は心を躍らせる。そしてそれと同時に、人間である桃子は一生その輪に加わることは許されないのだなと、心の中には一滴の寂しさが残る。

 

「ヒトザトはさ、平和になったんだよね。オオカミのみんなもハクロウさまも、元気に過ごせてるといいなあ」

 

「せ、せめて、あのニンゲンとかいう魔物さえいなくなってくれれば、桃子さんたちも入れるかもしれないんですけどねぇ……」

 

 すぐ真下の階層だというのに、人間である桃子は彼らのもとには遊びに行けない。

 第三層に現れるニンゲンという魔物は、探索者たちの文化を学んでいく危険な魔物だ。現代人である桃子は、だから絶対に第三層には入ってはならない。

 

「こんど。狸にでも頼んで。第三層の様子を配信してもらったらどうだ。ヘノも最近。配信ていうのを。覚えてきたんだぞ」

 

「さすがに狸とオオカミしかいない状況で配信なんてしたら大騒ぎになっちゃうよ。でも、映像で残してもらうのはいいかもね!」

 

 ポンコたち狸ならば、探索者用の端末を貸し出せば、ヒトザトの風景を撮影してくることは可能だろう。

 なにげに探索者用端末の使い方を覚えてきたヘノを、桃子は指先で優しく撫でながら。後日、ポンコに己の端末を預けてみることを思案しているのだった。

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 

「ヘノちゃん、楽しいね」

 

「そうだな。楽しいな」

 

 カレーの鍋は底をついているけれど、今はポンコが野鳥を絞めて、桜チップの燻し焼きを作ってくれているところだった。妖精たちは目の前で狩りから行われる調理風景に大騒ぎである。

 鳥を絞めるまでは桃子の目の届かない場所でやってくれたポンコの優しさと、命をいただくことになる野鳥に感謝しつつ。桃子はヘノとともに桜の花びらの絨毯の上に横になりながら、皆の声を聞いている。

 

「また一年後も、二年後も、三年後も、みんなでこうしてお花見を開きたいな」

 

「そうだな。次はもっと。他の連中も誘ってみるか」

 

「そうだね。次は皆がしっかりと来られる日で、柚花と、りりたんとルビィちゃん、あと檸檬さんも呼びたいよね」

 

 この日は平日で、団子の賞味期限がきっかけだったので少人数の小さなお花見になってしまった。

 けれど、また次に皆でお花見会を開くならば、事前に他の仲間にも声をかけて、もっと大人数で楽しみたい。

 桃子はそんな風に、多くの仲間がこのサクラの下に集まる姿を、脳内で想像する。

 

「じゃあ。次はまた。明日だな」

 

「いやいや、さすがにそれは気が早いよヘノちゃん。明日もまだ平日だし」

 

 今日は木曜日。明日は金曜日で、柚花たちは学校だ。

 

「じゃあ。明後日だな」

 

「あはは、ヘノちゃんたら本当にせっかちなんだから」

 

 さすがに、明後日いきなりではスケジュールが合わない場合もあるだろうし、通達するにも急すぎる。

 けれど、それでも。桃子は、妖精たちが楽しく笑い、はしゃいでいる姿を眺めながら。

 柚花やりりたんといった仲間たちを迎えて、誰一人欠けることなく、またみんなでこうして集まるのは素敵だなと。

 

 心から、そう思った。










次話更新は5月18日(月)23時予定です
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