ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「くっ……この身がどうなろうとも、私は……あな、たを……自由には、させません、ジャバウォック!」
『險ア縺輔〓縲?サ?∋縲?t繧?`a!!』
妖精の国の空に、言葉にならぬ咆哮が響く。それは、ティタニアによって拘束されている邪竜、ジャバウォックのものだ。
すでにティタニアの魔力も限界が近い。虹色の多重封印魔法はすでにその大半が弾け飛び、ジャバウォックは封印を抜け出そうとしている。強大な邪竜が自由となるのも時間の問題であることは、間違いない。
だが、ティタニアはそれでもなお、死力を尽くしジャバウォックを封印し続けていた。
「お母様……クリス……」
ティタニアは信じていた。自分が時間を稼げば、きっといつかは母であるネーレイスが、そして契りを結んだパートナーであるクリスティーナが来てくれるはずだと。
だからこそ、その虹色の翅が漆黒の炎で焼かれようと、その身がワイバーンの凶刃に晒されようと、ジャバウォックの封印だけは緩めはしない。
そして、そんなティタニアを守るために集まった妖精たちがいた。
「お母様、負けない……でっ!」
「うぅ……わ、私たちが、お母様を守りますからねぇ……!」
ティタニアに向けて放射された黒炎を、妖精たちの作りだした氷の霧が掻き消していく。
氷の花の妖精ルゥと水の妖精ニム。彼女たちもまた、その限界を超えて、残された魔力を振り絞ってでも、愛する母を守る壁となろうとする。
「ルゥ、ニム。あなたたちは……もう、逃げなさい……!」
ティタニアは、娘たちに逃げるように声をかける。
この戦場はもう、命を削ることでしか戦えない戦場だ。
自分はいいのだ。最期まで母と親友を信じ、彼女らにその命を託すことを厭わない。
けれど、ルゥやニム――いや、全ての娘たちにはもう、命を投げ捨てるような戦場からは離脱してほしい。生き残ってほしい。
それが今の、妖精女王ティタニアの真の願いだった。
けれど、その願いを聞き届けてくれる娘は、誰一人としていなかった。
「馬鹿を言わないでヨ! ルゥとニムだけじゃないのヨ! 皆、命をかけてもいいくらい、お母様のことは大好きなのヨ!」
「その通りでは、ないかな? ボクたちは皆、覚悟は決めているのさ」
「大丈夫だよぉ。桃子さんとヘノが無事でいてくれれば……妖精の国はきっと、存続できるんだよぉ」
ティタニアの周りに、いくつもの結界が張られる。魔法による障壁が張られる。
すでに二人の娘、ルイとフラムが戦闘不能となり、ツヨマージを所有するヘノは生死の境を彷徨う桃子を守るために戦線を離脱している。
けれど、残りの娘たちは皆、ティタニアを守るためにこの場に集まっていた。
『んふふ♪ わたしが皆を守っている間は、大丈夫。大丈夫よ、お母様♪』
そして、最後の一人。
桃の木の妖精であり、とある地の土地神であるクルラはいま、その『神』としての権能で数多くのワイバーンを相手取っていた。
巨大な白蛇が空を舞い、数多のワイバーンを妨害している。当初の一体や二体とは比べものにならぬほどの数の黒いワイバーンが、白蛇の光に当てられ次々と消滅していく。同時に、白蛇の巨大なる体躯もまた敵の標的となり、黒炎の爆撃を食らい続けている。
神気を伴う結界で身を守り続けているとはいえ、これだけ濃厚な瘴気の爆撃を食らい続ければ、クルラとて長くは持たない。
「駄目です! クルラ……!」
『そ……れにっ、わたしは大丈夫よ、お母様♪ どうやら、強い味方が、来てくれたみたいなの♪』
空を舞う巨大な白蛇の身体を包囲したワイバーンたちが、再びその神の白蛇へと向けて、一斉に黒炎を放出しようと大きく口を開いた――そのとき。
はるか地面から。幾本もの植物の槍が伸び上がり、次々と瘴気の魔物を貫いていく姿を、妖精たちは見た。
「ククク……アルラウネ、その調子さぁ。その槍で、あの黒い魔物どもを殲滅してくれるかい……?」
「ウン……リリィ……リリリィ……リッ!!」
緑の幼女――アルラウネは、自身と同じく来智ミト博士に育てられた薬草の妖精ルイを胸に抱き、植物を操るその能力を振るっていた。
妖精であり、神でもあるクルラの細胞を元に育ち、自然の力、科学の力、そして魔物の力をも融合させ、一時は妖精の姉妹たちにも圧勝してみせたその強さは、魔物の力を失った今でも健在だ。
いや、むしろ。『新たな力』を得た今のほうが、もしかしたら彼女は強く変化しているのかもしれない。
「やれやれ、『怪異』の力を付与するとは、桃子くんも眠りながら愉快なことをしてくれたねぇ……」
「リリィ……リッ!」
そう。
魔物としての力を失ったアルラウネが、どうしていま、自我を確立し戦えているのか。
それは全て、桃子による力の譲渡である。七不思議の世界で百を超える怪異の力を取り込んだ桃子が、己のすぐ側で『力』を欲していた幼女にもその力を分け与えたのだ。
アルラウネははるか上空を飛び交う魔物の群れめがけて、大地から伸びる幾つもの植物の根槍を伸ばし、更にはそれを自由に操り戦っている。
白蛇に群がっていたワイバーンの群れが、根槍により散り散りに散開していった。
「よし、躯! アタシたちも、負けてられないぞ!」
「ふむ……行くか。焔よ、落ちるでないぞ……!」
桃子から『怪異』の力を譲渡されたのは、アルラウネだけではない。
鎌倉ダンジョンにて、火の妖精とともに人々を救ってきたとされる骸骨武者。
そして最後は魔物としての本能に抗えず、絆を結んだ妖精、焔を案じながらも、他ならぬ桃子の手によって炎の大地に散った魔物――躯。
この躯もまた、その身を魔物ではなく、一体の『怪異』として、この戦いのさなかに復活を果たしていた。
「行け行け! うりゃあ!!」
「妖精女王よ。助太刀……す」
魔力を失っている割にテンションが跳ね上がっているフラムを肩に乗せた躯は、すさまじい速度でアルラウネの出した根槍を駆け上っていく。それはまるで、一つの炎閃が大地から空へと迸るようだった。
上空まで達した躯は、アルラウネの槍を足場に、あるいは魔物たるワイバーンを飛び石とし、時には己の権能による『転移』で空間を自由に移動して、はるか上空を縦横無尽に駆けめぐる。
目にも留まらぬ速度で空を駆け抜け、それと同時に振るわれる業火の刃は、次々とワイバーンを切り裂き、焼き尽くし、瞬く間に飛び交う敵の数を減らしていく。
「あいつら。なんなんだ。強すぎだろ」
地上の、桃の木のふもとでは。
上空を見上げていたヘノが先ほどまでの悲壮感も忘れ、なんとも言えぬ表情でつぶやいていた。
頼りになる援軍のお陰で、ヘノの目から見ても当面の危機は遠のいたように見えた。
けれど、桃子は未だ眠り続けている。
先ほどと比べても血色はよく、その寝顔に苦しげな様子はないが、しかしヘノはそんな桃子のそばから離れず、また魔物が来てもすぐ対処できるよう見守っていた。
そんなヘノに声をかけてきたのは、アルラウネの胸元に身を寄せていたルイである。
「ヘノ。全く、先ほどは危ないところだったねぇ……ククク」
ルイはその身に受けたダメージが大きく、その魔力は非常に心許ない。
だから今は、己と属性が一番近いアルラウネの懐で、漂う植物の魔力に身を浸しているところだった。
「ルイ。お前たちが無事なのは。嬉しいけど。どういうことなんだ。あるらうねたちに。何があった」
「やれやれ、私とて、実際のところはよくわからないのだけれどねぇ……」
会話の中で名前が出された緑の幼女が、チラリとヘノに視線を送る。けれど、彼女はすぐに視線を空へと向ける。
アルラウネは今も根槍の遠隔操作中なので、さすがによそ見をしている余裕はなさそうだ。
「ククク……アルラウネも躯も、桃子くんから新たな力を受けとったのさぁ」
「新たな力って。なんだ? カレーか? カレーの力か? 桃子はまだ起きてないけど。夢の中で。カレーでも食べてたのか? 桃子は大丈夫なのか?」
「落ち着きたまえ。さすがに、桃子くんがどのような夢を見ているかまでは分からないけれどねぇ……」
桃子が夢のなかでカレーを食べていたかどうかは定かではないので、ルイは小さくかぶりを振る。
普通に考えればこの状態で呑気にカレーを食べる夢など見ているわけがないと思いたいが、相手が桃子なので否定も出来ない。
「アルラウネたちが新たに得たのは『怪異』の力さぁ。かの魔女どのの言葉を借りるならば、人間たちの『想いの力』を糧にして活動する、いわば魔法生物の亜種だねぇ……」
「よくわからないけど。桃子の【創造】みたいなものか」
「ククク……桃子くんは、もとから『怪異』を生み出して回っていたのかもしれないねぇ。彼女は、人々の想いを集めることに長けているようだからねぇ」
互いに言葉を交わしながらも、二人の視線は眠る桃子へと注がれる。ルイの話を聞きながらも、ヘノはやはり桃子の容態が気になっているようだった。
「ククク……安心するがいい。私がみる限り、桃子くんは今……眠ることで、体力を回復しているところさぁ。目覚めるのも、時間の問題だろうねぇ」
「そう……か。よかった。よかったぞ。桃子」
ヘノは、ルイの診断を聞くと安心したように、口元をようやく和らげて。眠り続ける桃子の頬に、顔を当てている。
もっとも、一度は失ったはずの魔力をどうやって補充したのか。どうして、唐突に『怪異』の力が桃子からわき上がりはじめたのか。
今の桃子はルイにも理解出来ない不可解の塊なのだけれど、ヘノにそこまで伝える必要はないだろうとルイは判断し、口を閉ざす。
「ところで、分かるかい? ヘノ。段々、上空を飛び回るワイバーンが生み出される量が、減ってきているだろう?」
「そうか? そうなのか?」
上空では、今でもアルラウネの根槍と、それを足場にする躯、そしてクルラを中心に妖精たちの姉妹が戦い続けている。
命がけで戦い続けている姉妹たちとくらべ、ヘノは桃子のそばにただ静かに寄り添っているだけだ。それを思い、ヘノは少しだけ、胸にチクリとした痛みを覚える。
だが、ルイはヘノのそんな様子をわかったうえで、言葉を続けていく。
「おそらく、ヘノの配信が……地上の探索者たちに届いたのさぁ」
「そうか。そうなのか……?」
「ククク……キミは、やったのさ。誇りたまえよ、ヘノ」
「そうか……」
ここからでは、地上で何が起きているのかは分からない。だからこそ、ルイの言葉にも根拠などというものは薄く、あくまで予感めいたものでしかない。
だが、ルイには一つだけ、確信できることがあった。確かな予感があった。
今。自身とアルラウネの二人を育てた人間――来智ミトが目覚めていること。そして、来智ミトは間違いなく桃子のアカウントも確認しており、そこにあるヘノの配信動画を放置するわけがないということ。
ルイはそんな、確証めいた予感とともに。
妖精たちを救うための大仕事をやりとげた妹――風の妖精ヘノを、ただ、優しくみつめているのだった。
【守護者総合イラストスレ (旧 遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ)】
:学校から帰ってネットをみたらとんでもないことになっていた。どういうことなんだよ。
:日本中のダンジョンでスタンピード発生 → ダンジョン庁がダンジョン閉鎖を指示 → ライチちゃん配信 → ダンジョン庁が即座に指示を撤回 → 各地のダンジョンで、討伐隊が結成された
:なんか世界魔法協会が一定レベルの魔法使いに、スクロールを選定して魔法を覚えさせて回ってるって
:いつもなら太っ腹だなとか騒ぐところだけど、今はただただ嬉しい
:多分、世界魔法協会はこういう事態を想定してたんじゃないかって言われてる
:うち、山形と宮城の境目のあたりなんだけど、蔵王ダンジョン方面にひっきりなしにでかいヘリみたいなの行き来してるんだ。
:お前ら、ここはイラストスレだ! 雑談は別な場所でな!
:そうは言っても、この状況ではな。萌々子ちゃんは無事だろうか……。
:このスレは探索者以外の一般ファン層が主体だから情報があまり入ってこないし、探索者はイラストスレどころじゃないんだ。
:私、ダンジョンには憧れてるけど、家の近くにダンジョンがないからこういう風に絵で想像ばっかりしててさ。いま、何が出来るかなって思ったら、やっぱり絵で応援するのが私に出来ることなのかなって。過去絵の再掲だけど、みんな頑張ってほしい(イラスト)
:俺もそうする。またこんな風に、守護者たちの話題で盛り上がりたい(イラスト)
:ダンジョンで今も戦う彼らに、せめて私たちの想いが届くことを祈って加筆させて頂きました(ダンジョン守護者集合イラスト)
:前の集合絵に、ニホンオオカミと赤ずきん(と黒いオオカミ)が増えてるのか? あと、緑の妖精と、地面にハンマー。
:皆の絵を見てると、涙でてきた人じゃないけど、俺も涙出てきちゃった
:いま、守護者のみんなもダンジョンのために戦ってるんだろうか……
:あの映像に映ってたハンマー、なんか見覚えがあるんだけど思い出せないんだよ。気のせいかもしれないけど、記憶がもやもやする。
:奇遇だな。俺もなんだか、喉に引っかかってるような感じがしてならないんだ。あのハンマーにはどこかで助けられたような気がするんだよ。もう少しで何か思い出せそうなんだけど。ちな房総ダンジョン民。
:そうなんだよ。記憶に蓋をされてたのがジワジワ外れかかってるような気がするんだ。ちな香川ダンジョン民。
:わからんけど頑張れ! 頑張れ! とにかく頑張る鎧萌々子(イラスト)