ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
【ハンマー少女について 考察・報告スレ】
:数年前だと思うけど、僕がまだ新人でゴブリン相手に苦戦してたんだけど、そのときに助けてくれたのがハンマーを持った女の子だったと思う。
ドワーフが助けてくれたと思ってたけど、もしかしたらあの子はドワーフと一緒にいたのかもしれない。武器も似てるし、ドワーフの孫なのかも。
思い出したのはついさっき。なんで忘れてたのかはわからない。
:ドワーフってことは、房総ダンジョンか
房総ダンジョンでの目撃例が多いのはやっぱり、ドワーフの関係者ってことなのかな
:うちの従兄弟が蔵王ダンジョンの近くの集落なんだけど、ダンジョンが見つかったときに、でかい木槌を持った雪ん子が魔物から山を守って戦ってたって噂は聞いたことあるぞ。完全にネタ話だと思ってたんだけど……。
:俺も関東の新宿・房総・鎌倉をメインにしてるんだが、どこかで見たことあるんだよな。思い出せないけど、なんか小さな子供だった気がするんだ。
:あの木槌を見てるとなんだか懐かしいというか、感謝というか、よくわかんないけど泣けてくる
:自分もそんな感じで、大切なことなのに思い出せないんです。でも、助けてもらったんだと思う。房総ダンジョンの新人です。
:香川ダンジョンだけど、あのハンマーを振り回す女の子に危ないところを助けられたよ
風のように駆け抜けていったから、もしかしたら、あの子からしたら通りすがりに邪魔な魔物を倒しただけだったかもしれないけど
:ええと、守秘義務があるから詳しくは書けないけど、とあるでかい戦いで、最前線で戦っているのを見ました。ハンマー持った女の子が、妖精を連れてた。
:間違いない
長崎ダンジョンで俺たちを助けてくれた赤ずきんが同じハンマーを持ってた
めちゃくちゃ強かったんだよ
:尾道ダンジョンで、なんか上下白の水着で水面にハンマーを振り下ろして水遊びしてる女の子と妖精を見たことあるけど、あれってこの子だったのかな。無邪気で、警戒心がなくて、とてもエッチだった。
:多分、摩周ダンジョンの奇跡の日に、その子もあの場所に滞在していた気がします
自分、あの直前にダンジョンに潜ってたんだけど、大きなハンマーを持った子がいたことを今なら思い出せます
きっとあの子が皆を守護してくれてたんだと思う
:鎌倉の石拾いの日に魔物の大群に追われて死ぬかと思ったけど、あのとき目の前でハンマー持った女の子が骸骨をなぎ払ってくれてたんだ
思い出せるのは、三つ編みの小学生くらいの子の姿
どうしよう、お礼もなにも伝えてない
:お前あの大声で叫びながら骸骨の大群を引き連れてた奴か
:滝の迷宮で助けて貰ったことがある気がする。俺たち、その時は人魚姫の襲撃かと思って逃げちゃったんだ。
:明らかに異質な報告が紛れてるのが気になって仕方がない
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:房総ダンジョンでハンマー持ってる女の子が一人でカレー食べてるのを何度も目撃した気がする
何度も見たとは言っても、今まで覚えてすらいなかったんだけど
:そんな子がいたら絶対報告があるはずなのに、誰も気付かないって時点で『人ならざる者』なのでしょうね。
:そりゃそうだろ
妖精の国ってところで妖精と一緒に戦ってたのなら、妖精の一種なんだろう
あの妖精が言ってた「ももこ」は萌々子ちゃんのことだろうから、座敷童子とも関係はあるんだろうなって思う
:あのさ。萌々子ちゃんといえば、遠野で前の鵺討伐のときにさ
結局最後のトドメを誰がさしたのか分からないまま有耶無耶になってたのって、やっぱり……
:多分それビンゴだろ
ハンマーで鵺を倒したあと、サカモトの剣をたたき割ったんだろ
:鎧マン、ハンマー少女に一体なにをしたらそんな仕打ちを受けるんだw
:それだけじゃない
吉野ダンジョンで、けものの姫がだいだらぼっちを倒したとき、姫と一緒にハンマーを持った子が戦ってたはずだ。本当に記憶が曖昧なんだけど、あんなでかいハンマーなんてそうそう無いし、いま突然思い出したってのも、この状況に合致してると思う。
:去年のお盆の長崎ダンジョンのスタンピードも、結局あれって全部ギルドと魔法協会が手を回して有耶無耶になっちゃったけど、俺はあの日、セーラー服を着た子供が馬鹿でかいハンマーを持ってるのを見たのを思いだした
:さっき思い出してからずっと書き込むべきかどうか悩んでたんだけど、いいよな
萌々子ちゃんを守る会でマヨイガに常駐してた時期のことなんだけど、このハンマーの子と萌々子ちゃんが、二人して俺の焼いてた松茸盗んでったぞ
:嘘だろw
:松 茸 泥 棒
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:ハンマー少女まとめ
・北から南まで、色んなダンジョンで多くの人を助けてきている小学生くらいの女の子。(※ラノベ『人魚の姫はボコらない!』の姫に似た雰囲気という報告あり)
・各地の守護者たちと協力して、特殊個体を倒してまわっている可能性が高い
・カレーが主食で、房総ダンジョンの目撃例が一番多いので、恐らくドワーフの関係者(ドワーフの孫娘?)
・いつも妖精と一緒に行動している
・俺たちは皆、それらのことを完全に今回の事態になるまで忘れていた
:白の上下別な水着を着てるのも絶対追加しろ。
:セーラー服もだ
緑色だったぞ
:松茸泥棒もだ
:それ何度見ても笑っちゃうw
:ダンジョンで大勢が命がけで戦ってる最中にお前らってやつは
:きっと、ハンマーちゃんは今もまた妖精と一緒に戦ってるんだろうなあ
:ハンマーが焼け焦げて落ちてたし、ハンマー少女はもう……
:やめれ
:その子を助けるために、緑の妖精が配信を撮影したし、探索者たちは今も命がけでスタンピードをおさえてるんだよ
:俺、まだお礼を言ってないんだよ。
ギルドじゃ経験が浅すぎるって理由で入場弾かれたけど、もう一度ギルドに行ってみる。中に入れなくても、外で待機する役目でもいい。
:きっと、ダンジョンの守護者なのかなって。見た目は小さな女の子だけど、聖母様みたいな存在なんじゃないかって思うんだよね。
:『妖精』と一緒に、『ハンマー少女』が密かにバズってるよ
:SNS見てると、新たな都市伝説として尾ひれをつけて語られてるな
:『ドワーフのお母さん説』が出てて緊急時だってのに笑っちゃった。どんだけロリババアなんだよ。
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:なんで、今まで忘れてたんだろう。なんで、ずっと忘れるようになってたんだろう。
:記憶に関する魔法は実際にあるけど、こんな大規模に影響させられるかっていうと流石に無理があるよな
:神様とかそういう存在ってのはさ、本当は人前に出てこないんだよ
今みたいに、本当の緊急事態で人の身を受肉したときにだけ、俺たちに認識できるようになってるんじゃないかな……なんて
:なんだかどうしても描かないといけない気がしたので、センターにハンマー少女を描き加えました。見た目は報告通り、人魚姫を柔和にした雰囲気にしてみた。(ダンジョン守護者集合イラスト)
:カレーライス持ってるw
:緑の妖精が肩に乗ってて可愛い。幸せそう。gj
:緑の妖精、あの後大丈夫だったのかな
:どうしよう、守護者たちのリーダーにしか見えない
:現状の報告を並べると、実際にその可能性が高いからね……。
:いつも配信で見かける人と同じ台詞書き込んで良い?
:いいよ 俺も同じ気持ちだから
:じゃあ書き込む 涙でてきた
:俺も。涙とまらん。
七不思議の世界でカレーを食べ、茉莉子の前から消えた桃子は今、不思議な空間を漂っていた。
何もない真っ白な空間だ。上も下もなく、もしかしたら桃子の肉体すら存在していないのではないかというほど、何も感じない空間だ。はたして時間の概念が存在しているのかどうかも怪しいくらいだ。
そこで桃子は揺蕩いながら、幾つもの声に耳を傾けていた。
――ありがとう。きっと、僕はあのとき助けてもらえなかったら、探索者にはなれなかったと思う。
――俺たちを救ってくれてありがとう。そして、ずっと忘れていて、ごめん。
それらの声は実際の音として聞こえたわけではない。けれど、桃子の心にはその言葉が、顔も知らないような、どこかの誰かの気持ちが、はっきりと感じ取れた。
だから、相手に届くことはないと思いながらも、桃子は自分の口で想いを返す。
『私は……いいんだよ』
きっと、過去のどこかで自分が助けてきたのだろう人々に、言葉を紡ぐ。
『私はただ、今まで助けてきた人たちが、みんな無事でいてくれてるなら……それが、一番嬉しいことだから』
お礼が欲しくて人々を救ってきたわけではない。
忘れられていたからといって、そのことを謝って欲しいなんて思っていない。
桃子はただ、自らの思うがままにハンマーを振るってきただけだ。見返りがないからといって、助けを求める人たちを見捨てる人間にはなりたくなかっただけだ。
それでもなお、更なる祈りの声が桃子の元へと降り注いでくる。
カチン
――ハンマー少女は、この国の守り神みたいなものなんだろう。
――普段は俺たちの記憶には残らないけど、今みたいな本当の危機に陥ったときにだけ、神として俺たちに力を与えてくれるのかもしれない。
『い、いや、さすがにそんなに凄いことはしてないよ?! 考えすぎだよ?!』
何もない真っ白な空間に揺蕩いながらも、桃子は焦ったように否定の言葉を口にする。
果たしていま、自分の身体がこの空間に存在しているのかもよくわからないけれど、桃子は自意識の中ではとにかく手をぱたぱたとさせて、己に届く人々の言葉に慌てて首を横に振る。
いくらなんでも『守り神』は言い過ぎだ。聞いていて恥ずかしくなるほどだ。
カチン
あくまでただの人間でしかない桃子には、神のような奇跡を起こすことなど出来やしない。やったことと言えばウワバミ様のような土地神、メジェドのような神が由来になった守護者を新たに生み出したくらいである。
決して、桃子自身が直接『神』と呼ばれるようなことをした覚えなどないのだ。
だから、桃子は必死で、何もない世界でひとり、ただ焦った声をあげていた。
――ドワーフも、萌々子ちゃんも、人魚姫も、コロポックルも。みんなこの子と関わりがあるのかな。
――きっと、妖精の仲間みたいな存在なんだろう。各地の魔法生物と一緒に、あちこちで俺たちを助けてくれたんだろうな。
――ハンマー少女は、守護者たちを率いる母のような女の子。
『あはは、それはちょっと、否定できないや』
桃子自身にそんなつもりはなかったけれど、結果としてはドワーフも、座敷童子も、人魚姫も、自分の力で生み出してしまった。
そして、コロポックルも、化け狸も、スフィンクスも、他にも様々な魔法生物たちが桃子の仲間であることは、間違いのない事実である。自分で言うのもなんだが、桃子は日本の魔法生物たちの中ではかなり顔が広いほうだと自負している。
だから、『ハンマー少女は守護者たちのまとめ役』という言葉には、どことなくしっくりきた。しっくりきてしまった。
曰く、日本中のダンジョンで人々を助け続けてきた少女。
曰く、各地の魔法生物のまとめ役として、各地のダンジョンを守護する存在。
桃子は、気付けば身体を得ていた。
自然と、この何もない世界での自分の身体がそのような『形』で構成される。そんな、不思議な実感があった。
『……そっか。萌々子ちゃんも、ドワーフさんも、ヒメちゃんも、きっとこうして――』
そして桃子は、守護者たちのまとめ役として――。
カチン カチン カチン
『って、この音、ヘノちゃん……! そうだ、行かなきゃ!!』
直前まで、自分がどうあろうとしたのかも忘れて。
桃子は、大好きな、そしてけっこう耳障りなこの金属音目指して、光の中を真っ直ぐに泳いでいく。
「先輩! 先輩!」
「うぅ……桃子さん、桃子さぁん……起きてくださいよぉ……」
「桃子。桃子。そろそろ起きてくれ。起きないと。駄目だぞ」
カチン カチン カチン
気づけば桃子は、ゆっさゆっさと揺られていた。まるで、幼い頃に母親におんぶをしてもらった日を思い出す。
すぐ近くからは、ヘノとニム、そして柚花の余裕のない声が聞こえてくる。あと、耳元では金属音が何度も繰り返されている。
桃子はつい今し方まで見ていた不思議な夢の余韻を引き連れながら、ゆっくりと目を開く。
「桃子。起きたか。桃子……!」
「う……あ……ヘノちゃん……?」
桃子が目を開くと。それまでずっと、桃子の耳元で腕輪を打ち付けていたヘノがふわりと飛び上がり、桃子の首もとに抱きついてきた。
桃子にしがみ付いたヘノのしゃくりあげる嗚咽が、桃子の耳に届く。ヘノの身体の震えが、桃子の身体に届く。
「ごめんね、ごめんね、ヘノちゃん。私、たくさん心配かけちゃったんだね」
「桃子が……このまま。起きないかと……思ったんだ……」
「うん。うん。大丈夫だよ、私は、ここにいるよ」
小さなヘノの身体が、桃子に温もりを与えてくれる。
桃子は、自分が寝ている間に見てきた七不思議の世界のことも、その後の真っ白な不思議な世界のことも、どちらもはっきりと覚えている。
けれど、今はそれより。ヘノがいるこの現実の世界がとても、愛おしかった。
それはそれとして。
「いや先輩、起きたんなら下りてくださいよ! 自分の足で走ってください!」
目の前には、柚花の後頭部があった。桃子は先ほどからずっと、柚花に背負われていたらしい。
柚花の背中から覗き見える花畑はもう、ぼろぼろだった。空は重く、様々な魔法が飛び交っている。
ちらりと背後に視線を向ければ、高層ビルほどの巨大な邪竜が空高い場所で暴れ回っているのが見える。あちこちが戦いの余波で破壊されており、柚花は恐らく、眠る桃子を安全な場所まで背負ってくれていたのだろう。
「ごめんごめん、いま下りるね! よいしょっと!」
「先輩が起きたんだったら、避難の必要もないですかね」
柚花はどうやら、視線の先に見える巨大な樹木――精霊樹へと桃子を避難させようとしていたようだ。
振り返れば、桃子が眠っていたと思われる妖精の畑はすでに荒らされ、燃やされ、跡形もなくなっていた。中央にあった桃の木も、既に燃え尽きている。
クルラの本体である桃の木は蔵王ダンジョンにも植えられているので、クルラがそのせいで消滅する心配こそないだろう。だが、様々な想い出とともにあった畑が燃え尽きてしまった様子は、桃子の心にチクリと痛みを走らせる。
桃子は柚花の背中からぴょこんと下りると、改めて柚花と向かい合った。柚花の肩には、ニムが涙でぐしゃぐしゃの顔でしがみ付いている。
桃子が起きた以上は、もう避難の必要はない。むしろ、戦力としてこの戦いに参加すべきなのだと両者とも分かっている。
けれど、その前に。
桃子は柚花に、伝えないといけないことがある。柚花は桃子に、聞かないといけないことがある。
空では様々な魔法が飛び交い、瘴気の風が吹きすさぶ花畑の中央で。
先に口を開いたのは、神妙な顔をした柚花だった。
「……死が二人を分かつまで。私、先輩と約束したつもりです。ずっと、ずっと、一緒にいるつもりです」
「うん」
「私は先輩が何者になったとしても、ずっと一緒にいるつもりです。これはプロポーズみたいなものだと考えてくれていいです」
「あ、え、うん……? そ、そうなの?」
桃子は、突然の爆弾発言を投げ込んできた柚花をまじまじと見つめる。
柚花の身体を覆う彼女の魔力が見えた。他の人間と比較したわけではないけれど、柚花の魔力はとても、綺麗に見えた。そこには、少しの寂しさと、それでも桃子を案じて、信じてくれる意思の強さが込められているように思えた。
そう。桃子には、柚花の魔力がはっきりと見えていた。
「だから、聞かせてください。いったい、何があったんです?」
「まあ、それは聞かれるよね……」
少しだけ、考え込んだ後。桃子はその口をひらく。
桃子にとっては、これは自分のことだ。
自分の身に起きていることだ。
だから、さすがにメカニズムまでは説明できそうにないけれど、結論だけは桃子自身でもよく、わかっていた。
「色々あって私、『怪異』になっちゃったみたい」
少しの沈黙。
妖精たちの戦う音が響く。邪竜の暴れる音が響く。
そして――。
「いや、その『色々』を聞いてるんですよっ! なに考えてるんですか! 私を置いてどんどん進化していくの、ホントやめてくださいよ! 大体そもそもどう生きてたら、二十歳で人間辞めて『怪異』になるんです? ありえなくないですか? カレーばかり食べてたらそうなっちゃうんですか?」
「うえぇ、柚花、辛辣じゃん」
――『ハンマー少女』。
それがこの日、この国のダンジョンに誕生した、新たな都市伝説の名称である。