ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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世界を呪ったもの

「ジャバウォックが落ちます! 先輩、行きましょう!」

 

「うん! 地上に落ちたなら、私だって戦える!!」

 

 はるか上空で戦っていたジャバウォックが、妖精たちの猛攻でその翼を失い、ゆっくりと落下していくのが見える。

 そしてその百メートルを超える巨躯が大地に落ちるとともに、世界の終わりでも来たかというほどの轟音と衝撃が妖精の国に響きわたった。

 

 この機を逃がさぬとばかりに動いたのは植物の力を司るものたちだ。彼女らに操作された精霊樹の巨大な根が、ジャバウォックのその巨体を大地に縛り付けていく。もう、妖精たちはジャバウォックの自由を許しはしない。

 だが、いかに邪竜が地に落ちようが、その巨躯を大地に縛り付けようが。未だ妖精の国には瘴気の風が吹きすさび、この戦いが終わっていないことを教えてくれる。

 

「みんな、無事だといいけどっ!」

 

「はいっ、急ぎましょう!」

 

 桃子と柚花は、すでに荒れ地と化してしまった花畑を駈けていく。

 視線の先には、山のような巨体を大地に縛られた邪竜の姿がある。巨大すぎて距離感をつかむのも難しいそれは、暴れ、もがき、とうとう元の『ドラゴンの形状』すら捨てようとしていた。

 その闇のような身体の至る箇所から、新たな腕や触手、翼のなりそこねのような部位、更には目や口のついた『何か』が生え、広がっていく。

 見ている間にもそれらが別々の意志を持つ生命体のように動きはじめ、周囲へと侵食し始めている。

 

「うげ……正直あんまり近づきたくはないですけど、これまで何体もの特殊個体を倒してきた先輩のハンマーなら、邪竜にだって――」

 

 駆けながら言葉を交わしていた柚花の言葉が、ふいに止まる。見ればそのオッドアイが強く光を放っている。

『怪異』の力を得た今の桃子も、柚花と同じように邪竜がまき散らす瘴気を漠然と視認できるようになっている。だが、何かを『視る』能力にかけては、やはり柚花の【看破】のほうが一日の長がある。

 いったい何があったのか。桃子が、柚花に問いかけようとしたその瞬間――。

 

 ドクン

 

 桃子の――いや、この妖精の国にいる全員の心臓が跳ね上がった。

 

 ジャバウォックが、今、この瞬間。

 これまでとは全く別のものに『進化』した。

「このまま皆で戦えば勝てるはずだ」といった希望を容易く塗り潰すほどの、異質で妬ましい『何か』が、この妖精の国に生まれてしまったのを、全員が確信してしまった。

 

 

『菴墓腐谿コ縺励◆――!!』

 

 

 ビリビリと、大気が割れるのではないかというほどの圧とともに、咆哮があがる。

 それとほぼ同時。柚花が桃子に抱きつくようにして横から全力で飛びついた。

 

「先輩っ!!」

 

「うあっ!?」

 

 瞬時に弾ける爆音。そして衝撃。

 桃子と柚花はごろごろと地面を転がる。

 

 桃子が地面に倒れ込む瞬間、柚花と桃子がいた場所に、一メートルはありそうな巨大な漆黒の棘が突き刺さり、衝撃とともに黒い炎が爆ぜる様子が見えた。

 明らかに桃子たちを狙った射撃だった。いや、もはや射撃というより爆撃と呼ぶべきかもしれない。

 そこから見上げれば、邪竜の身体から突き出た管のような器官が、桃子と柚花に向け照準を定めている。

 まっすぐに、桃子たちを狙っている。

 

「な……なに……あれ」

 

「わ、かりませんけど! 先輩、立って! とにかく逃げないと……っ!!」

 

「わ、私たちが狙われてるの?!」

 

 慌てて二人は立ち上がり、花畑を横方向に駆け出す。するとやはり、二人が立っていた地面に漆黒の棘が射出され、爆音とともに砕け散るのが見えた。

 

「私にも何がなんだか、わかりません! けど、ジャバウォックがとうとう本能に従い始めたみたいです!」

 

「本能って、つまり……っ」

 

「人間です! 私たち人間が狙われています!!」

 

 走る。

 走る。

 棘の脅威度は、いつかの女王蜂の魔弾とは比べものにならない。この黒い棘は、人体など瞬時に焼き尽くしてしまいそうな威力を秘めている。

 桃子も柚花も、魔物を攻撃する手段こそあるけれど、結界などで身を守る術を持っていないのだ。ここにきて、妖精たちと離れて戦っていたことが裏目にでた。

 すでにもう、桃子たちは邪竜へ向かうどころではなくなっていた。

 

 

『蜈ィ縺ヲ貊??繧?――!!』

 

 

 再びの咆哮とともに、爆音が鳴り響く。桃子たちの周囲で立て続けに地面が崩壊していき、逃げ場が失われていく。

 

「柚花っ!」

 

「先輩っ!」

 

 桃子と柚花はそれでも、最後まで手を握り合い、目を瞑ったまま、互いを強く抱きしめて――。

 

 カチン カチン

 

 爆音の中、金属質な音が耳元で聞こえた。

 轟音の中、大好きな声が聞こえた。

 

「桃子。大丈夫だ。何があっても。ヘノがついてる……!」

 

「うぅ……ゆ、柚花さぁん……っ!」

 

『ヘノちゃん、ニムちゃん! このまま何があっても、モモちゃんとユカちゃんを護るよ! 護るよ!』

 

 緑と、蒼と、紫。

 桃子と柚花が顔をあげれば、そこにいたのは、三つの光。

 ヘノ、ニム、そしてエレクの三人が、桃子たちを守るように嵐の結界を張り巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ。やられました。邪竜ジャバウォックがまだ、ここまでの力を隠しているとは思いませんでしたよ」

 

 桃子たちが瘴気の砲撃で逃げ惑っていた時、別な地点でもまた、桃子たちと同様に邪竜に狙われる人間の少女たちがいた。

 天海梨々と大神檸檬。

 このジャバウォックによる砲撃は、檸檬が鏡の妖精ミカとともにりりたんの元へとやってきた直後に開始された。

 

 

『險ア縺吶b縺ョ縺?――!!』

 

 

「おい、ありゃどうなってるんだ、隠さず吐け!」

 

 竜の形を捨て、異形の『何か』へと進化し始めたジャバウォックの咆哮と、檸檬たちを狙い撃つ爆撃。

 それらに晒される中、駆けつけた檸檬がりりたんの首根っこを掴む勢いで飛びかかり、その華奢な身体を押し倒す。

 りりたんを檸檬が身を挺して庇っているような状況になっているのは決して偶然ではないが、檸檬はそれについて何も言わないし、りりたんは嬉しげに目を細めるだけだ。

 

「なんですか、藪から棒に。見ての通り、りりたんも滅多矢鱈に襲われているところですよ。今はれもたんに押し倒されておりますが。破廉恥ですね」

 

「とても大胆……だわ」

 

「ふざけてる場合かっての! そういう状況じゃないだろ!」

 

 檸檬がツッコミとともにりりたんから離れ、りりたんとミカを叱りつける。

 爆撃に気づきとっさに庇ったはいいものの、そもそも瘴気の弾丸はりりたんの結界によってあっさりと霧散していったために、檸檬はりりたんを意味もなく押し倒し、のし掛かっただけだった。

 少しばかりばつの悪い顔を見せた檸檬だが、しかしすぐに真面目な顔に戻る。

 

「言えよ、天海梨々。何があったのか、何に追いつめられているのか。アタシには、きちんと聞かせろ」

 

「……貴女は、大神れもたんであることを選んでくれたのですね」

 

「大神れもたん……なのね」

 

「二人して変な名前で呼ぶな」

 

 檸檬にとっては目の前の少女は、先代女王ネーレイスでもなく、深潭の魔女でもなく、あくまで天海梨々という名の人間だった。

 ダンジョンでは魔女を名乗り好き放題しているし、その暗躍につきあわされたことも何度もある。

 だが、檸檬は知っていた。ショッピングでは無駄にあれこれ文句をいいながら、しこたま買い込む天海梨々を。ネット掲示板では頻繁にレスバに発展している、大人げない天海梨々を。共に甘いものを食べると、年相応の笑顔を見せる天海梨々を。

 檸檬には年相応の素顔を見せ、何かと甘えている天海梨々を。

 

「いいから、先代女王だの深潭の魔女だの格好つけてないで、アタシにくらい素直に話してみろっての」

 

 梨々は檸檬を見つめて、嬉しげに頬を染める。

 けれど、すぐに観念したかのようにため息をつき、他の誰にも見せない弱気な表情をさらけ出した。

 

「実は……わからないのですよ。外のダンジョンから吸い取っていた瘴気の道は消えました。ならば私やティタニア、数多の妖精たちが全員で戦って、勝てない道理はないのです。なのに……」

 

 なのに、妖精の国を奪還できない。

 なのに、邪竜が弱体化していくそぶりがない。

 なのに、ジャバウォックの力が加速度的に増していく。

 

 ティル・ナ・ノーグが滅びた日には、残念ながらネーレイスはジャバウォックをここまで追いつめることはできなかった。

 だからこそ、追い詰められたときのジャバウォックの能力がわからないのだ。その力の根源が読めないのだ。

 

「あーもう! ティタニアには格好つけちゃいましたけど、私にだってわかんないことはあるのですよーだっ!」

 

 先代女王でもなく、深潭の魔女でもなく、天海梨々という少女が地面に寝転がり、子供じみた素振りで足をじたばたさせている。

 もう見るからに、梨々はやけっぱちだった。制服は乱れ、黒の高級ショーツも檸檬から丸見えだ。檸檬が無言で、梨々のスカートを直す。

 

「ったく。なら、調べるしかないだろ。ちょうどここに、そういうのが得意な妖精がいるからな」

 

「そうね。私は魔鏡。全てを映す鏡……だもの」

 

「……もう。れもたんはもう少し、可愛らしくじたばたしてる女子高生に反応してくれてもいいんじゃありませんか?」

 

「気が向いたらな。んなことより今は、桃子ちゃん、タチバナ、クリスティーナ会長、それにすももちゃんが狙われてる。遊んでる場合はないぞ」

 

 拗ねる梨々をよそに、檸檬は標的を逃さぬスキル【鷹の目】を応用し、瞳を光らせ桃子たちの様子を確認する。

 この地に踏み込んだ『人間』たちが狙われている。アルラウネや植物系妖精に囲まれているすももは一番強固な結界で護られているが、遊撃に出ていた桃子たち、そして足の不自由なクリスティーナは危険な状態と言えるだろう。

 

「ふふふ。そうですね。では……ここは徹底的に、邪竜の真実を暴いてしまいましょうか」

 

 そして、梨々は再び『りりたん』に。

 不敵で、ミステリアスで、何でも知っている。そんな、深潭の魔女の顔に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

『縺薙s縺ェ荳也阜――!!』

 

 

 邪竜の砲撃は、車椅子に座ったままのクリスティーナにも向いていた。

 もっとも、クリスティーナは不老の魔女とも称されるほどの、人間としては最強格の魔法使いである。長時間の封印によって魔力を消耗しているティタニアに代わり、自身を守る結界を維持することくらいは容易いことだった。更に言えば、この場には何人もの妖精たちがいるため、クリスティーナの無事は確保されていると言えるだろう。

 ただし、彼女の足が不自由であることが災いし、結果としてこの場所に縫いつけられてしまう。いくら英霊の加護で瘴気から護られていようと、動かぬ足が動くようになったわけではない。

 

「クリス、気をつけて! とうとう妖精ではなく、人間を標的に変えてきたみたいよ」

 

「ティタニア。やっぱり、いマ狙われているのは私なのね」

 

 クリスティーナが中心となって張った結界に幾つもの瘴気の棘がぶつかり、その度に激しい爆発を起こしている。

 

 ティタニアはすぐさま、この場にいる他の人間――桃子、柚花、檸檬、りりたん、そしてすももの様子を確認する。

 すももとりりたん、そして檸檬は強固な結界で覆われていた。桃子たちは危ういところだったが、すぐに急行したヘノとニム、そしてエレクが間に合ってくれたようで、ティタニアは安堵の息を吐いてから、すぐさまクリスティーナの懐へと戻る。

 

「ねえティタニア、邪竜の動きが――ううん、その在り方全てが変わったということは、きっと何か、あるノよ!」

 

「ええ、けれど……これでは……」

 

 ティタニアはクリスの言葉を受け、しかし険しい顔を見せる。

 周囲では相変わらず、ティタニアの娘たち、そしてネーレイスの娘たちが互いに力を補い合い、邪竜ジャバウォックに向けて各々の魔法を叩きつけ続けている。

 しかし、その妖精たちの魔法は、広がり続けるジャバウォックの瘴気の壁――あるいは、肥大化し続けるジャバウォックそのものに阻まれつつあった。

 これはもう、今まで戦ってきた魔物などとは異質なものだ。天災そのものに攻撃をしているような錯覚を覚える。

 今、自分たちが何に立ち向かっているのかすら、わからなくなってくる。

 

『ティタ、クリス、今は耐えるノヨ! お母様がどうにかしてくれるはずなノヨ!』

 

「ええ、ルビィ。私たちは、負けません……!」

 

 状況は、ここに来て悪化の一途を辿り始めた。

 この地が堕ちれば、一度は勝利を得た地上のダンジョンは再び、闇の世界へと堕ちるだろう。

 蔵王ダンジョンにて魔女たちがこじ開けた穴も、すでに閉じている。この妖精の国の主導権を取り戻さない限り、外からの更なる援軍も期待できないだろう。

 だが、主導権の奪還が何より難しいのは、もはや火を見るより明らかだ。

 

 ティタニアは。歯噛みして、悔しげに。今はただ結界に護られて、憎き宿敵の姿を睨み続けるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

『蜈ィ縺ヲ縲∵サ??縺ヲ縺励∪縺?――!!』

 

 

 桃子たちへの砲撃も続いている。

 

 ヘノとニム、エレクが張り出した嵐の盾のほか、ティタニアの娘である妖精の何人かも桃子たちを守るために力を貸してくれているため、すぐさま桃子たちが瘴気の砲撃の餌食になることはない。

 けれど、時間とともにジャバウォックはその身を進化させ続けている。外部から瘴気を得られなくなったにしては、不自然なほどに。あり得ないほどに。

 

 そこに、一番初めの『気付き』を得たのは、意外にも桃子だった。

 

「柚花、柚花! 私、なんだかジャバウォックの力が、すごく引っかかる……!」

 

「ええ、先輩。私もいい加減、気づきましたよ。あの魔力の形、見覚えありますもん!」

 

 今、この場で戦っている桃子はひとりの『怪異』でもある。

 人々の信じた、あらゆるダンジョンで人々を守ってくれる都市伝説のような少女。各地のダンジョンをその土地の魔法生物たちとともに守護してまわる、守護者たちの母のような存在、ハンマー少女。

 そんな今の桃子は、客観的に『自身に宿る力』を俯瞰して見ることができている。

 だからこそ、気づくことがあったのだ。

 

 そして柚花もまた『過去に何度も視てきた経験』から、ほぼ同時にそれに気付いていた。

 

「桃子。後輩。どういうことだ」

 

『もしかして、推理タイムかなっ? 推理タイムかなっ?』

 

「うぅ……な、何がわかったんですかぁ?」

 

 妖精たちは、ジャバウォックのこの無尽蔵のエネルギーがなんなのか、未だにわかっていないようだ。

 桃子と柚花に、この場の妖精たちの視線が集まっていく。

 

「この邪竜の力の源は、瘴気なんかじゃありません。もっと根源的なものです。本当、これだけ間近で何度も進化を見せつけられればわかりますよ」

 

「じゃあ、柚花。やっぱりジャバウォックって……」

 

 今もまだ、桃子たちには聞き取れない咆吼を上げ続ける邪竜。

 過去の妖精の国を滅ぼし、多くの犠牲者を出してきた許されざる存在。

 桃子と柚花は、今。その真実に、手を届かせることができた。

 

 

 

 

 真実に辿り着いたのは、桃子たちだけではない。

 

「そう、そうだったのね……。ジャバウォックを進化させているあの力には、見覚えがあるわ」

 

「ティタニア?」

 

「ねえクリス。人々は――未だ、世界を恨んでいるのかしら」

 

 妖精女王ティタニアもまた、柚花と同じくそれを『知っている』からこそ気付いてしまった。

 そして、ティタニアが思うのは、地上の人間たちの在り方である。

 ティタニアは知っている。地上の人間たちは、ときに互いの命を奪い合う。そこには何も生まれないと分かっていても、常に争いというものは人間たちの世界と共にある。

 そしてそこには、どうしようもない程の悲劇も数え切れないほどにあるはずだ。

 

「……ええ。残念だけれど、地上の人間の全てが幸せとは限らナい。社会を恨み、世界を呪う悲しい人々がいることモ、否定はできないわ」

 

 クリスティーナもまた、ティタニアの質問からその真意を掴めたようだ。

 いや、気付いたのはクリスティーナだけではない。ティタニアの娘たちの何人かは、それに気付いているだろう。

 考えればとてもシンプルなことだったのだ。ジャバウォックが無尽蔵の力を得るには、瘴気などなくとも、事足りるのだ。

 そして、その身を変貌させ続けるジャバウォックの纏う瘴気の形が、魔力の形が。ティタニアに、はっきりと答えを示していた。

 

『ティタ! 駄目よネ! ジャバウォックがなんだったとしても、この邪竜は、沢山の人間や妖精の命を奪ってきたノヨ!』

 

「……そうね、ルビィ。悲しいけど、これは滅ぼさないといけない存在だわ」

 

 同じく、ティタニアの言葉を理解したルビィが声をあげる。

 その真実がどうであれ、ジャバウォックは倒すべき敵なのだと。存在を許していけないことに、変わりはないのだ、と。

 

 

 

 

 

 りりたんも当然のように、その真実に辿り着いていた。

 そして今は、その真実を知った上でどう対処すべきか、それに頭を悩ませていた。

 

「ふふふ。まいりましたね。どうしたものでしょうか。最後まで彼女に頼るしかないのはちょっと、格好つかないのですが……」

 

「まいってるのはこっちだっての。何がわかったんだよ」

 

 横から、りりたんの言葉を補足するように、鏡の妖精ミカが檸檬に声をかける。

 

「大神れもたん。邪竜ジャバウォックの力の源は、世界への恨み……よ」

 

「そりゃ、瘴気ってそういうものなんじゃないの? あとその呼び方やめろ」

 

 続いて、りりたんも檸檬に笑いかける。

 

「大神れもたんは考えすぎなのですよ。私ともあろうものが、こんな簡単なカラクリに気づくのに何十年もかかってしまいましたよ」

 

「まどろっこしいな。あとその呼び方やめろ。で、つまり?」

 

「ふふふ。シンプルなお話です。世界を恨んでいるのは、誰だと思いますか?」

 

「は? そりゃあ……」

 

 檸檬は、変な名前で呼ばれていることに丁寧にツッコミを入れはするが、しかし今はそれどころではない。

 そんな風に、檸檬の気が逸っている姿を見て微笑んでいたりりたんが、ふいに、真顔に戻り。

 邪竜――いや、もう竜らしい姿すら留めていないジャバウォックを見上げて、静かに口をひらく。

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、柚花もまた妖精たちに向けて語っている。

 爆撃の音は止まず、瘴気の風はむしろ強くなる一方だ。そんな世界で、柚花は確信を持って語る。

 

「ヘノ先輩、ニムさん、エレクさん。この邪竜ジャバウォックは、瘴気なんていうまどろっこしいもので動いてるわけじゃありません」

 

「うぅ……そ、それは、どういう……?」

 

「魔物なんだから。瘴気で動いてるんじゃないのか?」

 

『ケラケラっ! エレクちゃんはもう分かっちゃった! 分かっちゃった!』

 

 柚花は、妖精たちのそれぞれの言葉が終わるのを待ってから再び語り始める。

 

「それは、人の想いです」

 

 一呼吸挟み、続ける。

 

「想いの力が直接その力となる『怪異』の如く、人が世界を恨む想いを直接、邪竜の力に変貌させているんですよ」

 

 人間の感情。

 瘴気の元となりうるその目に見えない想いの力こそが、ジャバウォックを動かす力そのものである。

 まさに今の桃子がそうであるように。今まで出会ってきた幾人かの仲間たちがそうであったように。

 

「じゃあ。じゃばうぉっくは。『怪異』なのか?」

 

 ヘノの問いに、柚花は首を横に振る。

 

「地上の人間には、こんな怪異は知られていません。ですから、仮に『怪異』だったとしても、人々の想像力がまとまることなく、ここまでの力を得られることはありません」

 

「そうか」

 

「うぅ……なにがなんだか、わ、わかりませんねぇ……」

 

『あ……つまり、そういうことね! そういうことね! ――えっ?! じゃあ、どうするのさ!?』

 

 不思議そうなヘノとニム。そして、真相に辿り着いて困惑するエレク。

 そんな妖精たちの反応を見てから、柚花はちらりと桃子を見る。

 

 桃子は、自分の手を見て。

 自分の身体から溢れている魔力の『形』を見てから、心を決めたように、つぶやいた。

 

「ジャバウォックは、私が倒すよ。私がどうにかするよ。だって、だって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪竜ジャバウォックは――【創造】の力を持った、人間です」

 

 それが、深潭の魔女と、そして少女たちがたどり着いた、最後の真実だった。











次話は6月15日(月)23時更新予定です
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