ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「こっちこっち、ついてきてね♪」
桃子は肩にヘノを乗せたまま、酒の妖精――クルラの後をついていく。
クルラは軽やかに鼻唄を歌いながら、時折急にふらつくように飛び、まさに『千鳥足』というべき飛び方だった。飛び方には妖精の性格が表れる。
「ねえ、この格好ってどうかな? 変じゃないかな?」
そしてクルラの後に続く桃子は、頭の上から大きな『わら帽子』を被っていた。
藁の帽子と言っても麦わら帽子などではなく、地域によっては『すげぼうし』『藁頭巾』などとも呼ばれる、藁を編んで作られた大きな頭巾、あるいはポンチョのような昔の防寒具である。
クルラが案内する先が寒い場所だという話を聞いて、ヘノが持ってきてくれたのがこれだ。
「似合ってるんじゃないか。マヨイガは。意外と。こういうのが沢山あって。便利だな」
どうやら、前にマヨイガで見つけたものだそうだ。
昔話に出てくる雪国の子供みたいな装いで、現代っ子としてはなんだか妙な感じがするものの、しかし意外とそれを被るだけで暖かく、着心地も悪くない。
普通に考えれば現代の服飾技術で作った防寒具のほうが性能は良いように思えるが、しかしこのような見栄えでもダンジョンでの取得品だ。魔力が籠っており、見た目以上の性能を秘めている。
「マヨイガなら、他にもこういう珍しい物沢山あるかもしれないし、また今度探検してみよっか」
「そうだな。そろそろ。調理部屋の玄米が。なくなってきたしな」
そんな風にヘノとマヨイガの話で盛り上がっているうちに、先を行くクルラは目的地に到着したようで、花畑の一角で進みが止まった。
「ここよ♪ ここの先に、桃の木があるのよ♪」
「こんなところに。出入口があったのか。知らなかったな」
桃子にしてみれば他の場所と変わらない花畑のど真ん中なのだけれど、どうやら妖精たちにしてみればここは珍しい場所なのだろう。
桃子の肩から離れて何もない空間をしげしげと眺めるヘノを、桃子は後ろからしげしげと眺めている。
「じゃあ、さっそく行ってみる? お酒があるかもしれないし、行くのよ♪」
「え、お酒がある場所なの?」
桃子の疑問をよそに、クルラが空中に手を差し伸べると、いつもの見慣れた光の膜が空中に現れる。心なしか、他の場所のものと比べるとサイズが小さい気がする。
何はともあれ、行ってみないことには始まらない。先に入っていったクルラとヘノに続き、桃子も光の膜に触れて、まばゆい光と共に初めて見る新たなダンジョンへと転移された。
「うわっ! このダンジョン、本当に寒い場所なんだね」
桃子の吐いた息が白い。
光が収まって桃子の眼前に現れた新たなダンジョン。そこは房総ダンジョンの第一層や、遠野ダンジョン第二層に近い、自然風景タイプのダンジョンだった。
見上げた空からはちらほらと雪が降っている。土の地面には雪は積もっておらず、もしかしたらこの雪は降り始めて間もないのかもしれない。
寒いは寒いのだが、しかし凍えるほどの極寒というわけでもないので、わら帽子の下のスカジャンのボタンをしめておけばなんとか耐えられる。手袋くらいは用意しておけばよかったかもしれないが、仕方がない。
膜から出た場所はがっしりとした岩の上で、周囲より少しだけ高い位置から地面を見下ろすことが出来た。
例えるなら、そこは山の中に存在する、ちょっとした窪地だった。
体育館程度の広さの地面に、いくつかの木や小さな池、そしてある程度整えられた畑のようなものも見える。ダンジョン内に畑? とも思ったが、遠野にはダンジョン内に家があり、干し大根があるのだから、畑くらいは珍しいことではないのかもしれない。
「なんだ。随分と。狭いダンジョンなんだな。どうなってるんだ?」
「ヘノちゃん、多分ここって外にまだ森が広がってるんじゃないかな。ほら、あっちから更に上に出れそうだよ?」
窪地の周囲は5メートルほどの崖――というほどではないものの、それなりに大きめの段差で囲まれており、窪地より外に広がるダンジョンの全貌は今の位置からは確認できない。
だが周囲を見てみれば、所々に段差が緩やかで岩や木の根による自然の階段のようになっている場所もあるので、そこを登っていけば窪地より外にも出られそうだ。
「外にも出られるけど、桃の木はそっちじゃないのよ♪ ここの窪地に生えてるの♪ ほら、あそこよ♪」
クルラは慣れた様子で窪地を先へと進んで行く。
狭い窪地なので、クルラに案内されるまでもなく、視線の先に立派な樹が生えているのがわかる。
ダンジョン内の木らしく雪が降る中でも緑の葉を保ったままなのだが、見たところ残念ながらいまは実が獲れるタイミングではなさそうだ。桃の実がついているようには見えない。
「桃子。ここの畑。何か変な葉っぱがあるぞ。これ。スーパーにあったやつじゃないか?」
「わ、これキャベツじゃない? ダンジョン内にキャベツ畑があるんだ……」
桃の木の周囲には小さな畑があり、ヘノに誘われて近づいて見るとそれがうっすらと雪を被ったキャベツ畑だと分かった。
その横には何もない畑もあり、もしかしたら周期によっては別な野菜が実っているのかもしれない。
帰りに1つか2つ貰っていって、カレーの付け合わせのサラダにでもしようかなと、桃子は考える。
「クルラ。お前。こんな場所を。内緒にしてたのか。ずるいぞ」
「うふふ♪ ここはね、わたしの、秘密の場所なのよ♪」
桃の木の前で、空中で踊るようにクルラが宙をくるくると回る。
どうやらクルラにとってこの場所はお気に入りの場所らしく、クルラをあまり知らない桃子から見ても、彼女がとてもご機嫌なのがわかる。
きっと、この場所が本当に好きなのだろう。
「そっか、秘密の場所だったんだね。じゃあ、私たちに秘密の場所教えてくれたんだね、ありがとうクルラちゃん」
「うふふふ♪」
桃子がお礼を言うと、いつものほんのり赤らんだ頬が、より赤くなったような気がした。
「なあクルラ。これはなんだ? なんだか。小さな家があるぞ」
桃子が雪を被ったキャベツを見ていると、木を挟んだ反対側からヘノの声がした。
どうやら、小さな家なるものがあるらしい。桃子も立ち上がってそちらへ向かっていく。
相変わらず空からはまだはらはらと雪が降ってきており、わら帽子で隠れている上半身はともかく、脚はたまに雪が入ってきてなかなかに冷たい。とはいえ、時間と共に多少は寒さには慣れてきた。
もしかしたら【頑強〇】スキルは寒さに対する耐性も備えているのかもしれない。
ヘノとクルラのいる場所にたどり着くと、そこには確かに小さな建物が建てられている。
大きさや佇まいは、まるで学校で見たことのある百葉箱にも似ている。
しかしそれは、百葉箱よりもしっかりとした装飾で飾られており、言うならば――。
「これね、オヤシロって言うのよ♪ ここにね、たまにお酒があるのよ♪」
「お社……って、神様を祀ったりするあれだよね」
お社。つまりは、神様を祀るための祭壇だ。
遠野ダンジョンには建築物そのものな階層があるくらいなので、人工的な建築物がダンジョン内にあっても別に今更驚きはしない。
のだが、神様を祀るためのものがダンジョン内にあるというのは、とても不思議な感じがした。
「じゃあ、お酒っていうのは、お供え物ってこと?」
「そうよ♪ わたしに、飲んでくださいって置いてあるのよ♪」
「そ、それはわからないけど。まあでも、妖精も神様も似たようなもの……なのかな」
おそらく、お社に供えられたお酒は、実際にはクルラ宛ではなくて神様へと捧げたお供え物なのだろうと桃子は考える。
とはいえ、人間の身からすれば、妖精も、魔物も、神様も。超自然的な存在という意味ではあまり違いがないのかもしれない。それが人間に対して友好的か、敵対的か、という違いこそあれ。
「神様か。このダンジョンには。本当に神様なんているのか?」
「どうなのかなあ。私としては、妖精とか妖怪がいるなら神様もいても不思議じゃないなって思うけど、実際にここに神様がいるかどうかとなると……どうなんだろうね」
神様がいるのかどうかは、桃子にはわからない。
だがそれはそれとして、超自然的な存在そのものと言える妖精が、神様の存在には懐疑的というのはなんだか不思議だなとも思う。
桃子が神様について思案している間も、ヘノはしきりに周囲をキョロキョロと確認している。そして、上空に広がる空を確認している。上を向けば、広い空から雪が降り続けていた。
しきりに周囲を気にするヘノを見て、もしかしたら、この場所には妖精にだけ感じとれる何かがあるのだろうかと桃子は考える。桃子にはその手のパワーを感じ取る力はないので、そういうのはヘノ頼りなのだ。
「クルラ。お前はこの変な場所。前から知ってるのか?」
「あのね♪ クルラ、ヘノが生まれる前からここにいるのよ♪ ここに来る人たち、お酒持ってきてくれるの♪」
「クルラちゃん、結構頻繁に人間に近づいてるんだね……」
ヘノは少なくとも五年以上前に生まれていた筈だ。
実際にヘノが何歳なのかはわからないが、仮にヘノが五歳程度だったとしても、クルラはそれより前からここに入り浸っていることになる。
さすがに、五年以上の間、定期的にちょくちょくお酒がなくなっているようでは、ここを訪れている探索者とて疑問に思わないわけがないだろう。
もしかしたら、クルラの姿くらいは目撃されているのかもしれない。
そういえば、和歌が妖精にお酒をあげたのも随分と前の話な筈だと桃子は思い当たる。
よく今まで大規模な噂にならなかったものだと、クルラのお酒にかける手腕に感心するのだった。
「クルラ。ここは。なんていう場所なんだ? 人間たちは。なんて言ってるんだ?」
窪地自体は広くはないので探索はすぐに終了した。
池にはどうやら魚もいるようで、ヘノは次はここで釣りをしようと意気込んでいる。
しかし、桃子たちが探索したのはあくまで妖精の国の出入り口があるこの狭い窪地のみで、窪地の外に広がる領域には足を踏み出していない。果たして、ここは一体どこの、なんというダンジョンなのだろう。
クルラにそれを聞いてみたのだが、しかし残念ながら、クルラの返答は要領を得ない。
「ここに来る人たちは、ここを『桃の窪地』って呼んでるのよ♪ それ以上のことは、わかんない♪」
「桃の窪地……っていうのは、今いるこの窪地のことだよね。まあ、大きな桃の木があるからね」
ダンジョン内にある窪地を示す言葉としては、わかりやすい。
だがしかし、肝心のこのダンジョンそのものがどこにあるのかは分からないままだった。
「桃子。あそこの。登れそうな場所から。外に出てみるか? 何かあるかもしれないぞ?」
「うん、そうだね、少し探索してみようか。あ、でも魔物とかはいるのかな? 【隠遁】が効かない魔物とかもいるかもしれないし、気を付けないと」
「ここは。瘴気が大分薄いから。大した魔物は出てこないと思うぞ。それに桃子。【隠遁】はいま――」
しかし、ヘノが何か言おうとしていた言葉は、別な声に遮られることとなった。
たった今、桃子とヘノが登ろうとしていた、岩と木の根で作られた天然の階段の上から発せられた、その声は。
「おばあちゃーん! あそこに変な格好の女の子がいるー!!」
「あんれまあ! こんなところに、可愛らしい女の子がいるでねえの。もしかすて、雪ん子け?」
そこにいたのは、このダンジョンへと潜ってきた探索者――というにはあまりに場違いな姿。
市販の冬用ジャケットに長靴姿の女の子と、背中に大きな籠を背負った、同じく市販の防寒着を着た普通のおばちゃん。
どうみても探索者などではない、一般人だった。
【タチバナの真相解明チャンネル!】
こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!
この前ね、私の通ってる学校で文化祭があったんですよ。
そこで卒業した先輩と一緒にカレーを食べたんですけど、カレーに桃って合うんですね! 私、びっくりしちゃいました。
ん? 嘘じゃない嘘じゃない! 私はそりゃたまに視聴者さんたちには嘘つくこともありますけど、人様の作った食べ物に対して嘘なんてつきませんよっ!
まあ、もちろん味の好みは人それぞれなんですけど、興味があったら桃の缶詰でいいので試してみてもいいんじゃないですかね。
はい、反省ありがとうございます。ちゃんと謝ってくれる視聴者さん、好きですよ♪
さて、今日は見ての通り、房総ダンジョンの第三層です。
随分昔から目撃証言はあったものなので、もしかしたらもうネタとしては古いって思う人もいるかもしれませんけど、今日はここで虹色スライムを探そうと思います。
そうそう、いわゆるレアモンスター、レアモンですね。
レアモン、ゲットしますよー!
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わー! ちょっちょっちょっと、視聴者さん見てますか?
マジでいましたよ、あそこあそこ! 変な色のスライム! 虹色……というか、なんかオイルが混ざった下水みたいな色ですけど。
あんまり綺麗じゃないんですね。
あれ、倒したらレア素材が手に入るって言いますし、ここは逃がす手はないですよね。すみません、カメラはここに固定します。ガチで退治してきます。
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え……電撃効かないの?
ど、どうしよう。ちょ、ちょっとこれは……私の武器でも倒せなくはないけど、手間がものすごっ……!
このっ! ちょっ! このやろっ!
きゃっ、変なとこに入らないでよっ。このスライム!
『うぅ……』
ひーん! せんぱーい、助けてー!