ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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閑話/ハンマー少女はバズらない!

「お前。ちゃんと新しい『はちみつ』は。集めてきたか? 蜂の巣は。あったか?」

 

「お前、じゃなくて桃子ね? あとハチミツは自分で採るんじゃなくて、お店で買うんだよ」

 

 ふと思いだしたのは、私がヘノちゃんと出会った頃のこと。

 ヘノちゃんと初めて出会ったとき、ヘノちゃんはハチミツの瓶の中身をつまみ食いしてて、ハチミツでべちょべちょになってたんだよね。懐かしいなあ。

 あの頃はヘノちゃん、私のこと『お前』って呼んでたんだよね。

 初めて名前で呼ばれたときは、嬉しかったな。

 

「おみせってなんだ。人間がたくさんいる場所か?」

 

「うーんとね、地上の人たちが、食べ物とか道具とか、色々なものをお金で買う場所なんだよ。お金、ってわかる?」

 

「わかるぞ。ダンジョンでもたまに。暴れてるやつだろ」

 

「違うよ?」

 

 あはは、そういえば最初はヘノちゃんは地上のこととか全然知らなくて、会話が全然噛み合わないことが沢山あったっけ。

 ヘノちゃんて表情がほとんど変わらないから、真面目に言ってるのか適当なこと言ってるだけなのか、最初はあんまり分からなかったんだよね。

 今思えば、ヘノちゃんてかなりの頻度で適当なこと言ってたよね……。

 

 でも、あの時は本当に嬉しかったよ、ヘノちゃん。

 

 ずっとさ、私はダンジョンでは独りぼっちで、誰からも気づかれなくて――。

 そんな中で、私に話しかけてくれたのが、ヘノちゃん。ハチミツまみれで、カレーに興味津々で、お菓子が大好きなヘノちゃん。

 あなたと出会えて、本当に、本当に、嬉しかったよ。

 

 ところで、私はずっとあの頃のことも覚えてるんだけど、ヘノちゃんはちゃんと覚えててくれてるかな?

 

 

 

 

「桃子。大丈夫だ。ヘノがついてるから。大丈夫だぞ」

 

「ヘノちゃん……」

 

 ヘノちゃんは、いつも私のことを応援してくれたよね。

 大丈夫だ。ヘノがついてる。

 私がピンチのときにはいつもヘノちゃんがいてくれて、その声をかけてくれた。

 本当にね、私はヘノちゃんに、力づけられてきたんだよ。

 

「桃子なら。この位の高さから落ちても。へっちゃらだろ」

 

「待って待って。全然へっちゃらじゃないからね?」

 

 まあ、本当のピンチのときだけじゃなくて、無茶ぶりも多かったけどね。

 ヘノちゃんってば、たまに滅茶苦茶スパルタなときがあるんだよなあ。

 お陰で私も強くなれたから感謝はしてるけど、感謝はしてるけど……うーん。

 

 

 

 

 

「どうした桃子。そんな。出会い頭にリドルに絡まれた後輩みたいな顔して」

 

「ちょっとヘノ先輩、なんで私の顔で例えるんですか。そこは『苦虫を噛み潰したような顔』でいいですよね?」

 

「でも後輩。桃子は苦い虫なんか。食べたことないぞ」

 

「そりゃそうでしょうけど」

 

 ふと気づいたら、目の前でヘノちゃんと柚花がなんだか面白い会話を繰り広げてた。その二人を、ニムちゃんがにっこりと眺めている。

 どうやら私は、カレーを食べながら白昼夢を見ていたらしい。

 あぶないあぶない、白昼夢を見るのはカレーを食べ終わってからにしないとね。

 

「あはは。いや、ヘノちゃんと出会った頃のこと思い出してたんだよね。最初のうちのヘノちゃんは、結構滅茶苦茶だったなあと思って」

 

「ヘノ先輩は今でも相当に滅茶苦茶ですよ?」

 

「よくわからないけど。滅茶苦茶ならまかせろ」

 

「うぅ……ヘノ、滅茶苦茶って意味、わかってますかぁ?」

 

 私は今、柚花とヘノちゃんの二人と一緒に妖精の湖を眺めながら、レトルトカレーと桃缶で簡易的に作った桃カレーを食べているところだった。

 妖精の湖は今は復旧作業中で、ティタニア様とりりたんが頑張って湖を浄化し、減ってしまった水位を貯めている。

 ジャバウォックとの戦いの余波で、水の中にいた食材……じゃなくて、生き物たちは可哀想なことに全滅しちゃったから、水位が貯まったらまた各地に魚介類を探しにいかないといけない。

 魚とかを集めるのは大変だけど、今度はヒメちゃんやセイレーンさんにも手伝ってもらえるから、前よりは楽かな?

 

「それで、先輩。昔のことを思い返すなんて、何かあったんです?」

 

「うん、あの頃と比べるとさ、私も随分と成長したなーって思ったの」

 

「桃子。大丈夫か? 桃子は全然大きくなってないし。小さいから桃子なんだろ」

 

「む、むしろ、最初に見たときよりも……ち、小さくなったような……」

 

「あの、そういうことじゃなくてね?」

 

 ヘノちゃんは私が大きくなる可能性を一ミリたりとも信じてないみたい。ニムちゃんに至っては私が縮んでるように見えているらしいけど、それはさすがに気のせいだと信じたい。

 いや、身長はここ数年は全然変わってないから、大きくも小さくもなってないんだけど、いま話してるのはそれとは違くってね。

 

「私さ、今は世間じゃ『ハンマー少女』なんて呼ばれて、有名な存在になっちゃったわけじゃない? ヘノちゃんと出会う前と比べてずいぶん変わったなあって、自分で驚いてるの」

 

「そういえば桃子は。そんな名前になったんだったか」

 

「そうらしいんだよね」

 

 怪異『ハンマー少女』。戦いの最中にはわからなかったけど、あとから柚花が端末で調べて教えてくれた。どうやら日本のインターネット上では私はそういう存在になっていたらしい。

 私を指す言葉としてはひねりもなにもないけれど、魔法生物とか怪異の名前なんてそれくらい適当なものなのかもしれない。

 イチゴちゃんの『ハーメルンの笛吹き』なんて、ドイツの地名だしね。日本の怪異なのに。

 

 まあ、それはいいとして。

 私は思ってたことをヘノちゃんと柚花に話してみることにした。

 

「最初はちょっと戸惑ったけどさ、結果的にはそれでヘノちゃんと色々できるようになるなら、怪異になれて良かったなって」

 

「よくわからないけど。空も飛べるようになったしな」

 

「あ、あの羽衣……大空の妖精さんみたいでしたねぇ……?」

 

「うんうん、それそれ」

 

 自分が人間じゃなくなってしまうことに関しては、実はそれほど思うところはない。

 というか、妖精のリンゴと妖精のお酒で不老不死なんていうのに片足踏み込んじゃった時点で、なんだかそこら辺は開きなおっちゃったしね。

 それはともかく、その『怪異』の力だよ!

 

 大空の妖精の羽衣を身につけて空を翔んだのも、各地の仲間たちからの応援を受信できたのも、多分あれは『怪異』としての力の一部だと思うんだよね。

 あと柚花みたいに、この眼で色々なものを見られるようになったことも普通に嬉しい。

 

 でも、そんな風に喜んでいると柚花が、まるで出会い頭にリドルちゃんに絡まれたみたいな苦々しい顔で何か言おうとしている。

 

「あー、先輩。それについてなんですけど……」

 

「うん?」

 

「先輩って今、私の魔力とか視えてますか?」

 

「へ?」

 

 当たり前だよ。だって私、『怪異ハンマー少女』だもん。

 ――って、言おうとしたんだけど。

 言われてみればおかしい。私にもはっきりと見えてたはずの柚花の魔力が、見えなくなっている。

 

「……あれれ? なんで? 柚花の魔力が視えなくなってるけど、柚花が何かやったの?」

 

「私は何もしてないですよ。先輩のほうがその力をなくしてるんです」

 

「うぅ……そ、そういえば、桃子さんのへんてこな魔力が、今はなくなってますねぇ……」

 

 ニムちゃん、へんてこな魔力ってなに?

 

「あれれ? おかしいなあ、魔力の使い過ぎとかそういうものかな?」

 

「魔力がなくなったわけじゃないぞ。へんてこなアレがなくなったんだぞ」

 

 ヘノちゃん、へんてこなアレってなに?

 

 

 

 

 

 結論は、柚花が語ってくれた。

 

「つまりですね。先輩があの戦いで死にかけたとき、【隠遁】が一度途切れたんですよ。だからこそ、地上で色んな人たちが先輩を思いだしたんですけど」

 

「あっ、そうだったの?」

 

 知らなかった。

 妖精の国だともともと【隠遁】は効果が消えるから、自分ではそんなことこれっぽっちも気づかなかったけど、そうなんだ。

 

「で、先輩が元気になってからまた【隠遁】が働き始めたんで、世間では『ハンマー少女』は忘れられました」

 

「へ?」

 

 ぽかーん。

 私はつい、口を半開きにして変な顔になっちゃった。

 そんなあっさり「忘れられました」って言われても、『怪異』にまでなったのにそんなことあるの?

 

「なんだ。桃子。また忘れられちゃったのか」

 

「も、桃子さんは忘れられる名人ですねぇ……」

 

「待って待って。え、だって私、『怪異』になったんじゃないの?」

 

「『怪異』は人々の想いと共にありますからね。つまり、世間から忘れられた今の先輩は、怪異の素質があるだけのただの人間です」

 

「えええぇぇ?!」

 

 柚花が語ってくれた結論。

 それはいま聞いた通りで、私の【隠遁】の力が戻ってきたお陰で、私のことを思いだした皆が、また私のことを忘れちゃってるんだってさ。

 それだけで『怪異』になったりならなかったり、そんなあっさり怪異の壁って越えちゃっていいの? そんな柔軟なものなの? 柔軟すぎない?

 いや、そもそも『怪異の素質があるだけのただの人間』ってなんだろう。私って人間なの? 怪異なの?

 とりあえず、私はなんだか不思議な生き物になっちゃったのは間違いなさそうだ。

 

「逆にですけど、先輩がまた死にかけて【隠遁】が途切れたなら、地上で再び『ハンマー少女』の話題が再燃するかもしれませんよ」

 

「ええ……」

 

 それはそうかもしれないけど、そもそも死にかけたくないなあ。

 柚花はしれっと言ってるけど、もしかして他人事だと思ってる? あれ? もっと親身になってくれるんじゃないの? 柚花って、私のこと好きって言ってくれたよね?

 

「桃子。元気だせ。あと桃子のカレーの桃。もらっていいか」

 

「え、駄目だけど」

 

「そうか」

 

 私のカレー皿には、最後の桃が一切れ残っている。

 これは最後にとっておいたやつだから、ヘノちゃんにもあげません。ていうか、ヘノちゃんも桃はたっぷり食べてたよね?

 じゃなくて。

 ちょっと柚花が話してくれたことがショッキングすぎて、今は桃を味わうどころじゃないんだけど……。

 

「つまり、先輩が生きている限りは『ハンマー少女』は二度とバズりません」

 

 断言されちゃった。

 

「まあぎりぎり、先輩があちこちで形跡を残して、それが都市伝説として語られるくらいじゃないですかね」

 

「えー……せっかく『ハンマー少女』らしく、ヘノちゃんと自由に空を飛んだり、各地のみんなとテレパシーでお話しできるようになったのになあ」

 

「もうそれハンマー関係ないじゃないですか」

 

「だって、実際にできたんだもん」

 

「なんなんですかね。『怪異』になった影響で、所有する【創造】のスペックが100パーセント引き出せるようになったとか、そういう話ですかね」

 

「むぐむぐ。桃カレーの桃は。やっぱりうまいな」

 

「ヘ、ヘノぉ……それ、食べていいんですかぁ?」

 

 うー……。

 元に戻っただけといえば元に戻っただけなんだけど、残念といえば残念。

 ヘノちゃんと一緒に空を飛んだり、離れたところで萌々子ちゃんやヒメちゃんと意志の疎通ができるのって、ものすっごく素敵なことだったんだけどな。

 どうにか【創造】の応用でできるようにならないかな。

 

 そんな風に考え込む私をよそに、柚花は更に熱弁を続けてる。

 ところで、熱弁してる柚花はどことなく嬉しそうなんだけど、もしかして柚花ったら、他人事なわけじゃなくて、私が普通の人間に戻ったことが嬉しかったりするのかな?

 そうだとしたら、まあ……うん、後輩思いの先輩としては、普通の人間に戻るのもやぶさかではないです。

 もう、柚花ったら回りくどくて可愛いなあ。

 

「先輩は、こっそりひっそり、都市伝説として語られるくらいが丁度いいと思いますよ? 下手にバズったってろくなことないですし」

 

「そうだな。桃子は一人でこっそりカレーを食べてるほうが。桃子っぽいぞ」

 

「そ、そうですねぇ。ひ、一人ぼっちで友達がいないほうが、桃子さんっていう感じがしますねぇ……」

 

「うーん、三人がそう言うならそれでいいかな」

 

 三人ともがそう言うなら、仕方ないね。ニムちゃんの表現はなんだかひっかかるけどね。

 決めた! 私も腹をくくったよ! ここで宣言します!

 

「わかった、ハンマー少女、バズるのやめる! こっそりひっそり、都市伝説になっちゃう!」

 

「むぐむぐ。うまいな」

 

「待って待ってヘノちゃん、何食べてるの?」

 

「ぎく。実は。いつの間にか。桃子のカレーの桃を。食べちゃったんだ」

 

「いま『ぎく』って言ったよね? わかってて食べたよね?」

 

 私が話してる間に桃泥棒が現れた。

 腹をくくってすっきりしたら、私が最後までとっておいた桃が食べられていた。

 あれ? っていうかそれ、私「駄目」って言わなかったっけ? あれれ?

 

「先輩の関係者はみんな食い意地張りすぎじゃないですか? どうにかしたほうがいいですよ?」

 

「え、これって私が怒られるの?」

 

「桃子。桃カレー。美味しかったぞ」

 

「ヘ、ヘノぉ……? 顔が、カレーでべちょべちょですよぉ?」

 

「そうか。困ったな」

 

 話はどんどん転がっていく。

 私の「都市伝説になる」宣言はあっさりと流れていっちゃったし、ヘノちゃんは桃泥棒な上に顔がカレーでべちょべちょだし、柚花には変な怒られ方をした。ニムちゃんは時折妙な発言をするから油断ならない。

 まったく、なにがなんだかわからない。

 

 けど、なんだか。

 わけがわからなさすぎて、いつもの妖精の国が戻ってきた感じがする。

 みんな、言ってることがバラバラで、話を聞いてるようで聞いてなくて、でも、一緒にいるとみんな嬉しい。

 そんな、私の大好きな妖精の国が戻ってきた気がする。

 

「はぁ……もう、ヘノちゃんったら。今度また桃カレーは作ってあげるから、つまみ食いは程々にね?」

 

 私は苦笑しつつ、今日もヘノちゃんの顔をティッシュで拭く。柚花とニムちゃんは、そんな私たちの姿を楽しげに眺めている。

 湖では、瘴気の傷が癒えて絶好調になったりりたんがスクール水着で泳ぎ始めているし、畑のほうでは妖精のみんなが集まって酒盛りを始めているし、見晴らしのいい花畑では小妖精たちの輪投げ大会で不正が発覚したらしく、とんだ大乱闘に発展している。

 とても楽しくて、とても自由で、滅茶苦茶だ。

 

「あはは、あんなことがあったけど、妖精の国はいつも通りだね」

 

「そうだな。今日はいつも通り。カレーを作ろうな」

 

「うん、そうだね! 今日はカレー!」

 

「お二人とも、たった今ここでカレーを食べてましたよね? 記憶なくしちゃいました?」

 

「いまのはレトルトだったし、ノーカウントだよ。大丈夫、カレーは何回食べても美味しいからね!」

 

 そうして、私は頭のなかで考える。

 

 りりたんやティタニア様にもリクエストを聞いて、今日のカレーの具材を選ぼう。具材がなければ、色んなダンジョンへ探しに行こう。

 そして、沢山の冒険をして、最後に美味しいカレーを食べるんだ。

 

 

 

 善は急げ。私はすっくと立ち上がって、三人を振り返る。

 

「行こう、ヘノちゃん、ニムちゃん、柚花っ。美味しいカレーを探しに!」

 

 世界にはまだまだ、私の知らない冒険やカレーが眠っている。

 だから、だからさ。

 

 色んなことがあったけど、楽しいことも、悲しいこともあったけど。

 でも、これからも。

 

 ずっと一緒に、冒険していこうね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 十八章『ハンマー少女と妖精の国』了













『ハンマー少女はバズらない!』をここまで読んでくださいありがとうございました!
すでにXや活動報告では伝えさせていただいておりますが、桃子の物語本編としてはこのお話で一区切り、連載状況も便宜上『完結』とさせていただこうと思います。

とはいえ後日談などは掲載しますけども。

後日談にあたる幕間話は、一週間あけて6月29日(月)23時に投稿予定です。五話ほど予定しております。



活動報告にあとがき等も掲載しておりますので、気が向いた方はどうぞ活動報告やXも覗いてみてくださいませ。
また、本編としては完結ということで、評価や感想などいただけたら滅茶苦茶嬉しいです!

ではでは。
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