ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「え、えと……その……あれ、私のこと見えてるんですか?」
蓑ぼうし越しに見上げた木の根と岩の階段の上には、普通の女の子と、お婆さんが立っていた。
ふたりともどう見ても探索者の装備ではなく、恐らく市販品の長靴に暖かそうな防寒着。武具などというものはもちろん装備しておらず、雪除けに大きなフードを被り、背中に籠を背負っているのみである。ダンジョンではなく、家の裏手の畑にでも出向くような服装だ。
そしてその子供とお婆さんが、【隠遁】を持っているはずの桃子を見て、目を丸くしている。
「お婆ちゃん、あのこ雪ん子なの?」
「そうだで、小梅。死んだ爺さんが言うどったよ、この場所はそういうモノが多く出てくるってな。昔この山でいなぐなった雪ちゃんが、雪ん子になって帰ってきたんだなあ。ちょうど雪が降り始めだもんなあ」
「え、私って雪ん子の雪ちゃんなんですか?」
桃子の正体は、雪ん子の雪ちゃんだった。
――というわけではないが、どうやらお婆さんは「雪ちゃん」なる人物と桃子を勘違いしているらしく、気さくに話しかけてくる。
少しずつ雪の量も増えてきて、見上げる二人の姿が雪に隠れ始めてきた。
「雪ちゃん、おいで、おいで。いくら雪ん子でも、そだな所にひどりでいられるとおれのほうが心配になっちまうよ。うちであったけえもん出してやっからよ」
「え……いや、でも」
「ねえ、雪ちゃん、雪ん子なの? すごい! すごい!」
なんだか状況が分からないまま、お婆さんは桃子に手招きをするし、女の子も無邪気に喜んでいる。はたしてどうしたものかと、桃子は判断に悩む。
ここは見知らぬダンジョン……な、はずだ。ならばお婆さんたちは探索者かと言えば、どう見ても違う。それどころか、家に誘われてしまった。
「ど、どうしようか、ヘノちゃん、クルラちゃん」
「桃子。あれは人間の子供と、しわくちゃなのは年寄りだな? この前文化祭で見たぞ。とりあえず。ついていこう。悪い奴じゃなさそうだ」
「んふふ♪ あのお婆ちゃんのおうちに行きましょ♪ たまにお酒をくれるのよ♪」
桃子のわら帽子に隠れるヘノと、隠れもせずにふよふよ浮いているクルラに小声で相談すると、両者ともが「ついていこう」という判断だった。それに桃子も頷いて、お婆さんたちの方へと歩き出す。
よいしょ、と自然の階段をつかってお婆さんのほうへと近づくと、階段を上る桃子にお婆さんが手を差し伸べてくれた。
「あんれまあ、最近の雪ん子は、蓑の下には随分ハイカラなもんを着てるんだなあ。雪ちゃん、でええかな?」
「はい! 私、雪ちゃんです! 服装はハイカラです!」
「うわー、すごーい! ふもとの町でもそんなの売ってないよ?」
ここでわざわざ訂正をしても説明が余計に面倒臭いことになるのは明白だ。こういうときは相手に合わせておけばいい。ということで、とりあえず今は相手の勘違いに乗じて雪ちゃんを名乗っておいた。
この場所では、桃子は桃ちゃんではなく雪ちゃんだ。古めかしいわら帽子を被り、その下にはスカジャンを着ている新種の雪ん子だ。新キャラが増えた。
「めんこいねえ。こだな場所で暮らしてっと、孫たちもなかなか会いに来てぐれねからよお。雪ちゃんがお化けでも妖でもええから、おれのわがままに、付き合ってけろ」
「い、いえ……。あの、この子はお孫さんじゃないんですか?」
「ううん、小梅のうちはお婆ちゃんちの、更に向こうのおうちだよ。お婆ちゃんの孫って、小梅のパパくらいの年齢だよ」
どうやら、この小梅という少女とお婆さんは、あくまでご近所さんらしい。というか、お婆ちゃんは見た目以上に高齢なようである。具体的に何歳なのかはわからないが、実に元気だ。
ご近所さん同士で裏手の畑までやってきたところで、わら帽子を被った雪ん子の雪ちゃんを発見したのだという。ダンジョンのダの字も出てこず、二人とも普通に桃子の目を見て話しているので【隠遁】も機能していない。
今までも座敷童子などの妖怪扱いされていたので、お化け扱いは今更ではあるのだが、しかし自分の姿を見える人間にまでお化け扱いされるとは思わなかった。
やっぱりこのわら帽子が原因かな、と心の中で自問自答しながら、雪がうっすらと積もる道のりをお婆さんの後からついていく。
「電気が通ってる……」
窪地から100メートルも行けば、そこにはお婆さんの住まいがあった。というか、普通に家が建っていた。やや年季のある木造の平屋で、普通に電線も通っているし、照明器具もある。
なんなら玄関横にはプロパンガスや、動くのかどうかは分からないが古めかしいバイクも停められていた。
「昔はこだな場所だから電気も無がったけんど、最近はちゃんとガスも、携帯電話の電波も通っとるよお。便利な時代になったねえ」
「が、ガスとかもあるんですね……」
「そだなあ。雪ちゃんが生きていた頃はみんな井戸で汲んでだ時代だから、電波つーてもわからんよねえ」
「ねえねえお婆ちゃん、おそと寒いし中に入ろうよー。それとも、雪ん子って暖かいところだと溶けちゃうの?」
「と、溶けないよ? じゃあ、お邪魔します……」
お婆さんと話している間に、小梅のほうがガラリと鍵もかかっていない玄関を開けて平屋の中へと入っていく。
桃子も促されるままに玄関で探索者用の丈夫な靴を脱ぎ、勧められるままにスリッパを履き、居間へと通される。
外観だけ見れば古めかしい木造平屋だが、中身はそれなりに手を入れているようで、家電などは最近のものが揃っているようだ。なんなら居間のテレビは桃子の自宅のものより大きい。
小梅が雪で濡れた上着を玄関横のコート掛けにかけて、お婆さんが手慣れた手つきで室内のストーブに火をかけている間、桃子はどうしたものかと突っ立ったままそれを見ていたのだが。
「んふふ♪ 昔はね、このお婆ちゃんだけじゃなくて、お爺ちゃんも住んでたのよ♪」
「あ……クルラちゃんっ?!」
なんと、黄色い光を放つ妖精、クルラが普通に室内を飛び回り、桃子にお婆さんの説明を始めるではないか。
妖精の姿を隠さなければならないと思っていた桃子はつい大きい声で驚いてしまう。わら帽子の中ではヘノも目を丸くしていた。
しかし、ストーブに火をつけたお婆さんは、クルラには全く目を向けないまま、桃子に向かってけらけらと笑顔を見せる。
「ありゃあ、おれも目も悪いし、耳も遠いからよぉ、ウワバミ様のことは見えねえし、なんも気づかねえよ。ま、あだけえスープでも入れっけ、雪ちゃんはそこに座って待っでてくんろ」
それに続いて、少女、小梅も。
「あ、ウワバミ様! ……ええと、小梅、なんにも見てないから、わかんないや!」
小梅はひたすら視線をさまよわせるが、決してクルラのほうは見ない。
そしてお婆さんは驚くでもなく、何でもなかったかのように、そのまま奥に行ってしまう。驚いてぽかんとするのはむしろ桃子のほうだった。
とりあえず言われるままに座布団に座って、心を落ち着けることにした。室内に響く石油ストーブの音と独特の匂いには、どこか懐かしいものを覚える。
桃子が座ると、上着を脱いだ小梅も正面の座布団に腰を下ろした。先ほどまで被っていたフードの下にはちょこんとしたツインテールが隠れていて、子供っぽい可愛らしさを醸し出していた。小梅は見た所、小学校の3年生か4年生くらいだろう。
「ねえ、小梅ちゃん。今言ってたウワバミ様ってなあに?」
「え、雪ちゃんはウワバミ様のお友達じゃないの? ウワバミ様は……ええと、お酒の神様だよ? こ、小梅はよくわからないけど」
ちなみに、桃子は室内に入ってもわら帽子を被ったままである。脱ぐタイミングを逸した上に、そもそも今はわら帽子の内側にはヘノが隠れているので、下手に脱ぐわけにもいかなかったのだ。
ヘノも当然今のやり取りは聞いていたらしく、桃子の耳の後ろからそっと声をかけてくる。
「もしかして。クルラのことを。お酒の神様と思っているのかも。しれないな」
桃子も同じことを思っていたので、声には出さず軽くうんうんと頷いてヘノに同意してみせる。
しかし、ヘノの存在を隠している桃子の横では、クルラが堂々と室内を飛び回っていた。
「あのね♪ ここの集落の人たち、わたしのことウワバミ様って呼ぶのよ♪ なんでかわからないけど、目の前を通っても、気づかれないの♪」
どうやら、クルラは小梅やお婆さんをはじめ、恐らく近場の集落の人の前に普通に姿を現しているらしい。
そしてクルラは自分が気づかれていないと言ってはいるものの……。
「いや、絶対気づかれてたでしょ……」
気づいていない人は、唐突に『なんにも見てない』とか『なんも気づかねえよ』とかは言わないものなのだ。
人に気付かれないということに関しては、桃子はちょっとしたプロである。桃子くらいになれば、そのくらいの違和感には、簡単に気づくのだ。
「こ、小梅、お婆ちゃん手伝ってくる!」
目の前を行ったり来たりしているクルラを見ないように頑張っていた小梅だが、どうやら耐えきれなくなったらしく、逃げるように台所へとかけていってしまった。
そして今には、桃子と妖精二人だけが残される。ヘノも多少警戒を解いてか、雪ん子のわら帽子からスッと抜け出して、姿を現した。
奥の台所では、お婆さんが楽しそうに鼻歌を歌いながら何やら料理をしているようだ。
そして時間と共に、スープのいい香りが漂ってきている。
もうしばらくは二人はこちらに来なさそうなので、桃子はヘノに確認してみることにした。
「ヘノちゃん、ここってさ、気のせいじゃなければ……」
「そうだな。ここは。ダンジョンの外だぞ。さっきの窪みだけが。ダンジョンだ」
桃子が最後まで聞くのを待たずに、阿吽の呼吸でヘノが返答を返してきた。
やはりそうだ。ここはダンジョンではない。どう考えても、山の中に住んでいるお婆さんの家である。
つまり、あの狭い窪みだけがダンジョンで、そこから上った先は普通の山の中だった、というわけだ。
あの窪地がダンジョンであることは間違いないので、妖精の国からの転移の膜を出すことが出来るし、確かにあの窪地にいたときは桃子も体感として【怪力◎】や【頑強〇】の恩恵を受けていた気がする。
しかし、そこから木の根の階段を上った時点で、なんとなく体が重くなったのだ。つまり、あの瞬間に【怪力◎】の効力が切れたということだろう。
お婆さんと小梅が桃子の姿を認識できたのは、あのとき二人が階段の上――つまりはダンジョンの外にいたからか、はたまたあの窪地の魔力では【隠遁】の発動まで至らなかったからか、どちらにしろあの窪地が特殊すぎる場所だったからなのだろう。
「なんか変だと思ったけど、そういうことだったのね? でも、お酒が美味しいから良いのよ♪」
「お前は。もう少し。色々気にしたほうがいいぞ」
室内にある仏壇に供えられたお酒をジッと観察してるクルラには、流石のヘノも、呆れ顔を向けるのであった。
【タチバナの真相解明チャンネル!】
うわー! このスライム、スケベだ! ちょっと、服溶けてませんかこれ!
ちょ、それは私の精神ダメージがでかい! このっ!
『……か…さん……みず……うぅ……』
え?! あ、ニムちゃ……っと。
ちょっ、ちょーっと視聴者さんたちごめんね!! 少しだけ集中して撃退するから、ちょっとだけ配信停止しますね!
魔法で防御できるから負けることはないんだけど、服が溶けたらセンシティブすぎるから、またあとでね!!
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はい!
こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす! さきほどぶりです!
いやあ、まいっちゃいましたね。まさか電撃が効かないとは思いませんでした。
まあでもばっちり倒しましたよ、私、これでも魔法が無くても結構強い美少女ですからねっ。
え? 心配した?
はい、ごめんなさい。私も慢心してました。
視聴者さんたちに心配させちゃったのは、本当にごめんなさい。
え? 私が嬉しそう?
いや、まあ……ええと、嬉しいことがあったというか、今も嬉しいというか、えへへへ。
あー、何かって聞かれてもちょっと、困りますけど……あそうだ。
そうそう、嬉しいことですよ、ほらこれ!
虹色スライムからこれが出てきたんですよ!! 見えますかこれ、本です本!!
いや、私が持ち込んだ漫画とかじゃなくてっ。
スクロールが出てきたんですよ、スクロール!
これ、ギルドに持ち帰ったら魔法協会に提出しなきゃならないんですよねー。
もちろんいいお金にはなるんですけど、私が覚えられる魔法だったら先に覚えちゃいますよー。
ふむふむ……うわ、なかなかレアですよこれ。
氷属性の魔法ですよ、私じゃ覚えられませんね。
あ、でも、武器に付与とかできるのかな?