ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました【本編完結】 作:chikuwabu
「これが。カボチャなのか。なんか。前に食べたことあるのと。随分違うな」
「あはは、まあカボチャにも色々あるんだよ」
「そうなのか。カボチャも色々大変なんだな。頑張れ」
ヘノと二人、目の前に置かれているオレンジ色の巨大なカボチャを前に、噛み合わない会話を繰り広げつつそれを確認してみるが、やはり何度見ても馬鹿でかいだけのカボチャだった。
桃子の体格では手を回しても全く届かないほどのサイズと重量感。海外の画像でこれくらいのものを見かけたことはあるけれど、直に目の前で見るのは初めてだ。
外皮は硬く、まるで石のようだ。手のひらで叩けばぺちぺちと音が鳴り響く。
しかし、この正体がカボチャだったとして、何故こんな場所にあるのか。それが第二の謎である。
「今日の朝まで。こんなのなかったぞ。空から落ちてきたのかもな。カボチャだしな」
「カボチャってあんまり空から降ってくるものじゃなくない?」
「それもそうか」
ヘノはふわりとその固い皮に着地し、ツヨマージでつんつんとつついている。
小さなヘノが上に乗ると、それはもはや巨大な岩石のようだった。
「じゃあ。地面から生えてきたんだろ。カボチャだしな」
「植物だから地面から生えるのはそうなんだけどさ。いくら妖精の国だからって、数時間でこんなでっかく育ったりはしないと思うよ?」
「それもそうか」
いくらここが不思議な現象の起こるダンジョン内だとしても、さすがにここまで巨大なカボチャが何もない空から降ってくることはないし、いきなり地面から生えてくることもないだろう。
つまりは、謎である。桃子は額に指をあてて、賢そうなポーズで可能性を考えていく。
「どこかから運び込まれた? ……でも、妖精の子たちが運んでこられる大きさじゃないよねえ。柚花やポンコちゃんでも無理だよ」
「よくわからないけど。カボチャはカボチャなんだろ。とりあえず食べてみるか? 噛みついていいか?」
「噛みつくのはやめておこうね。それにだけど……これって多分、観賞用のカボチャだと思うし、食べてもそんなに美味しくはないんじゃないかな?」
「そうか。がっかりだな」
あくまで聞きかじった知識ではあるが、ハロウィンのジャック・オー・ランタンでも有名なオレンジ色の大きなカボチャというのは、基本的には食用ではないのだそうだ。食べられないことはないのだが、味が薄く、期待するような味ではないらしい。
というか、さすがの桃子も、こんな出所不明の怪しすぎるカボチャをいきなり食べるのは抵抗がある。
「なんなんだろうな。これ」
「うーん、わかんないや」
残念ながら、桃子とヘノは花畑に入って早々、途方に暮れていた。
いくら賢そうなポーズで推理しても、わからないものはわからない。目の前の事件が解決できる気がしない。
名探偵桃子も大人しく敗北宣言をして、事情を知っていそうな他の仲間に答えを聞きに行くべきか――と。そう桃子が考えたとき、蒼い光を纏う救世主がやってきた。
「うぅ……さっきから見ていたんですけど、出てきてからずーっと、カ、カボチャを見つめて……何をしてるんですかぁ?」
巨大カボチャを前にしてうんうんうなっている桃子たちの前にふわふわと飛んできたのは、ヘノの親友、水の妖精ニムである。
どうやら桃子たちがやってきたあたりから、離れて二人の様子を眺めていたようだ。
「あっ、ニムちゃんおはよう! ニムちゃん、このカボチャのこと知ってるの?」
「知ってますよぉ? つい先ほど……桃子さんたちが来る前のことですけどぉ、じ、実はですねぇ……」
挨拶もそこそこに桃子がカボチャについて質問すると、ニムはさっそく話を聞かせてくれた。
驚いたことに。
ニムは、この巨大カボチャ設置事件の実行犯一味だった。
◇ ◇ ◇
「あの、お、おっきな……巨人の方が、桃子さん宛に運んできたんですよねぇ……」
ニムが語ったカボチャの真実。
それはやはり空から落ちてきたわけでも地面から生えてきたわけでもなく、別のダンジョンからやってきた人物が、ここに置いていったものだった。
運んできたのは、世界魔法協会会長であるクリスティーナの護衛である、アフリカの巨人リヨンゴ。確かに彼ならばこの巨大カボチャも運び込めるだろう。
どうやら彼がその怪力を駆使し、クリスティーナの代理としてこのカボチャを届けにきてくれたのだそうだ。
「それで、どうしてこの場所に置かれてたの?」
「そ、それなら、カボチャが桃子さん宛てと言っていたので、私がこの場所を教えてあげたんですねぇ……」
「あー、ニムちゃんだったかあ」
カボチャがどうしてこの場所にあったのか。
それはまさに今ニムが語った通りで、桃子が入ってきたらすぐにわかるこの場所を、他でもないニムがカボチャ置き場として指定してくれていたからだった。
つまり実行犯はリヨンゴ、指示役がニムだ。実に衝撃的な真相だ。
「じゃあ、これってクリスティーナ会長が私に届けてくれたものなの? なんで?」
「そ、それがですねぇ……? 例の、ルシオンさんが、ふ、ふらんすの住み処で育てていたカボチャを、世界魔法協会経由で、お、送ってくれたそうなんですよねぇ……」
「えっ。っていうことは、じゃあ……」
ルシオンとは、フランスからきた強大な魔法生物『ジェヴォーダンの獣』の人としての名である。
ルシオンの住み処は、フランスはジェヴォーダン地方の森の中に古くから存在するダンジョンにある。つまりこの巨大カボチャは、ルシオンの支配するダンジョンで育てられたカボチャということだ。
「これってもしかして、ダンジョンカボチャってこと?!」
「そ、そうだと思いますよぉ? ま、魔力が豊富で、こんな見た目でも……あ、甘くて、美味しいんだそうですよぉ……?」
「うわあ! それって、すごいじゃん!」
次々と判明していく衝撃の真実。花畑に鎮座していた巨大なカボチャは、観賞用どころか、なんと甘くて美味しいダンジョンカボチャだった。
あまりに巨大で『野菜』というイメージとはかけ離れていたけれど、つまりこれは間違いなく念願の『ダンジョン野菜』なのである。
三月の戦いで妖精の畑は荒らされ、今はまた各地のダンジョンから果実や薬草類を集め育てている最中だが、しかしそこには相変わらず『野菜』と呼べるようなものはない。
そこにようやく、歴史ある『ダンジョン野菜』が現れたのだ。
「ヘノちゃん聞いた?! すごいよ、すごいよ!」
「そうか。すごいな。ヘノもびっくりだ。ところで何がすごかったんだ?」
「ヘノちゃん聞いてなかったの?! 私がびっくりだよ!」
信じられないことに、ヘノは話を聞いたふりだけしていて、内容を全然聞いていなかった。
これには相棒である桃子、親友であるニムもびっくりな上にがっかりだ。
「うぅ……い、いま、頑張って説明してたのに……めそめそ」
「どうした。泣くなニム。何があったか知らないけど。たまにはそういうこともあるぞ」
「いや、ヘノちゃんが泣かせたんだからね?」
「そうなのか。まいったな」
ヘノが、どことなく困ったようにしてニムの頭を撫でて慰めている。一応、ニムを泣かせてしまったことには申し訳なく思っているようだ。
仕方ないので、桃子はそんなヘノにもう一度、今の話をかいつまんで説明していくのだった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ。さっそくこのカボチャを畑に埋めておくか」
「こ、これを畑に埋めるのは、なかなか大変そうですねぇ……」
「待って待って。二人とも待ってね」
行動力があるのはヘノの長所だが、考えなしなのは短所である。
桃子が知る限り、カボチャはそれをそのまま地面に植えて育てる作物ではない。あくまでその内部に種があり、それを土に埋めることで育てるものだ。
桃子はヘノとニムを引き留めてそれを説明していく。
「なら。中の種を取りださなきゃな。どうするんだ?」
「問題はそこなんだよね。さすがにこのサイズじゃ包丁も通らないだろうし、いっそハンマーで思いっきり叩き潰しちゃおうか」
「うぅ……ひ、ひどく、暴力的ですねぇ」
「相変わらず。桃子は考えなしに豪快で。面白いな」
「二人とも酷くない?」
どうやら、とりあえず困ったらハンマーで叩き潰すというのは、妖精から見てもなかなかに野蛮な行為として認識されているようだ。
しかし、この二人の意見はともかく、何事も力ずくで解決するのは周囲を飛び回る小妖精たちの情操教育に良くない気がするのも間違いない。
なので、桃子は頭をひねり、別な角度から推理を働かせていく。
桃子はカボチャの前に屈み込み、近くでじっくり観察をする。
重量感のあるカボチャは、軽く押しただけではびくともしない。今はヘノとニムが陣取っているけれど、桃子が腰を下ろすスツール代わりにもなりそうだ。
「このサイズのカボチャの調理かあ。うーん、桃の窪地から風間さんを連れてきて斬ってもらう? でも、さすがになあ……」
桃の窪地こと蔵王ダンジョンに所属する高ランクパーティ、深援隊リーダーである風間。
彼のスキルとその実力ならば、巨大カボチャをスパスパ切断することくらい訳ないことだろう。
だが、今や正式に稼働を始めた蔵王ダンジョンギルド長となった彼を、カボチャ切断のためだけに呼び出すのはいくらなんでも迷惑がすぎる。
桃子は仕方なく、頭の中で別案をひねる。
ぶつぶつ独り言を続ける桃子を、二人の妖精たちはカボチャの上で興味深そうに観察している。
「ライチちゃんならダンジョン野菜にも詳しいかな? いやでも、今から聞きにいくわけにもいかないし。ダンジョン野菜、ダンジョン野菜……あれ?」
頭の中で、過去の様々な出来事が蘇る。
筑波ダンジョンに所属する、ダンジョン植物研究の第一人者である来智ミト。彼女には以前もダンジョン産のトマトを貰ったことがあったはずだ。
あのトマトは、その後――。
「あ、いいこと思いついた!」
言うが早いか、桃子は巨大カボチャを抱えるようにして両腕をまわした。
「ヘノちゃん、ニムちゃん、ちょっとこのカボチャ持ち上げるね! よいっしょっとぉ!!」
スキル【怪力◎】によって、桃子は外見に反して滅茶苦茶にパワフルだ。巨大なハンマーを普段から振り回すパワーは伊達ではない。
桃子が力を込めると、下手をすれば200kgくらいはありそうなカボチャも、意外とすんなりと持ち上がる。
バランスは悪くよたよたしてしまうものの、どうにか運べそうだ。
「じゃあ、ちょっとこれ運ぶねー!」
「なんだかわからないけど。頑張れ。桃子。いけるぞ。運べるぞ」
「うぅ……も、桃子さん、カボチャをどこまで運ぶつもりなんですかぁ……? こ、こわいけど、頑張ってくださいねぇ……?」
耳元で過剰な応援を繰り返す風の妖精と、桃子の奇行を怖がっている水の妖精に、一応の応援を受けながら。
桃子は思いついた目的地――精霊樹の麓へと、巨大カボチャを運んでいくのだった。
◇ ◇ ◇
「リリリィ……リリリリイ……」
精霊樹の麓では、一人の緑色の肌をした幼女が土に下半身を埋めた状態のまま、鈴の音のような声で歌っていた。
歌いながら、伸ばした蔦にオレンジ色のカボチャを次々と実らせていく。
「すごいな。カボチャが。みるみる。膨らんできたな」
「えへへ、良かったー。アルラウネちゃんなら、カボチャを取り込んで増やせるかなって思ったんだよね」
そう。桃子がここまで巨大カボチャを運び込んだ目的は、精霊樹そのものではない。
精霊樹の麓を定位置としている存在、アルラウネに提供するためである。
「リィ……リリィ……カボチャ、カボチャ、タクサン」
桃子のもくろみは成功だった。
桃子がアルラウネに事情を話し、彼女の前にあの巨大なカボチャを置くと、彼女は精霊樹と繋げたその長い根を操り、巨大なカボチャを物理的に取り込んだ。
精霊樹の巨大な根がカボチャを巻き取り、ぐしゃり、べきべき、と潰して吸収していく様子はなかなかホラーだったけれど、その結果としてアルラウネはカボチャの因子を手に入れた。
そして今は楽しげに歌いながら、身体から蔦をのばし、そこに小さなカボチャを産み出している。こればかりは植物の妖精たちでも真似をできない、植物そのものであるアルラウネだけの権能だ。
「うぅ……ちょ、ちょっと、多すぎるんじゃないですかねぇ……?」
「うーん、そうかもね。アルラウネちゃん、ストップ、ストップ! ごめんね、ありがとう、それくらいで大丈夫だよ?」
「リリィ……リリッ」
桃子が頼むと、アルラウネは少しばかり不思議そうに桃子を見上げてから、最後のカボチャがちょうどいいサイズに育ったところで、カボチャに力を注ぐのをやめてくれた。
新たに生まれたカボチャは数にして、小振りなものから大きめのものまで十数個。
体積としては最初の巨大カボチャの十分の一にも満たないだろうが、料理につかうならこれくらいのほうがありがたい。
「やったな桃子。これで。カボチャカレーが食べ放題だな」
「最高だね! あ、でもね、カボチャはカレーだけじゃなくて、甘みのあるサラダとか、スープとか、あとはおやつの材料にもなるから色々作ってみようね」
「うぅ……カボチャって、万能なんですねぇ……」
見れば、アルラウネは今ので力を使いすぎてしまったのか、両の瞼を閉じてうとうとし始めている。
ダンジョン野菜を量産する権能はすごいけれど、アルラウネへの負担を考えればやはり、後ほど種を回収して、畑で普通に育てるべきだろうなと桃子は頭のなかでカボチャの育成について考える。
――が。
カボチャを育てる計画は後にして、まずは今日のレシピを考えるのが先だろう。
「ってなわけで、アルラウネちゃん、ケールも数枚ほどもらっていい? えい!」
すでに寝こけている緑の幼女に一言断ってから、桃子は彼女が身にまとっている植物のドレスの葉をぶちぶちともぎ取っていく。
彼女のドレスは現代の野菜の始祖とも呼ばれるケールで出来ているので、桃子はたまにこうして幼女の衣服をもぎ取り、サラダにさせてもらっている。
「桃子は最近。遠慮なく。こいつの服を剥ぎ取るようになってきたな」
「うぅ……こわい」
「サラダを貰ってるだけなんだけどなあ。まあでも、今度アルラウネちゃんには肥料でもお礼に持ってこようね」
桃子はすやすやと眠るアルラウネの頭を軽く撫でると、両手いっぱいにカボチャと、ついでにケールを抱えて歩き出す。
数が多く一度では運びきれないため何往復かする必要はあるものの、これだけのカボチャがあれば、カレー以外にも色々な料理が作れるはずだ。
「今日はせっかくだし、カボチャ祭りにしようか。四月のハロウィンだね!」
「はろうぃんか。知ってるぞ。甘じょっぱいやつだな」
「い、田舎の味って言うんですよねぇ……?」
「二人とも、何か違う話をしてない?」
そんな風に、ずれた会話を続けながら。
桃子たちは早速、新しく立て直された調理部屋へと向かうのだった。