ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「お待だせ、雪ちゃん。あったけえもんは食べられっか? 溶けちゃわねえか?」
「お婆ちゃんがね、シチュー作ってくれたよ! 雪ちゃんも、一緒に食べよ!」
「だ、大丈夫です。あの、こっちの小さいお皿は……?」
お婆さんが持ってきたのは、お盆に乗せられたクリームシチューだった。
どうやら桃子が雪ん子だと思っているらしく、温かいものが食べられるかどうか確認されてしまったが、本当はただの人間なので何も問題はない。
それより桃子が気になったのは、桃子のぶんのクリームシチューの横に置かれた、他のものより一回り小さな器に盛られたクリームシチューである。
「おれ、ボケちまってるからよぉ。間違えて小さい器を余計に出しちまったんだ。せっかくだから、そっちに置いておこうかねえ」
そう言って、居間ではなく隣の部屋のテーブルの上に、まだ湯気の立っている小さな器と小さじのセットを置いておくお婆さん。
小梅もそれを何も言わずに眺めている。
「んふふ♪ ヘノ、ちょうどいいから私たちも貰っちゃお♪ お婆ちゃん、いつもこうやって余分に出しちゃうのよ♪」
「そうなのか。仕方ない年よりだな。余らせても勿体ないし。貰っておくか」
そして、しめしめとばかりに小さな器に群がる二人の妖精。ヘノも先ほどまでは隠れていたのだが、クルラが堂々と姿を見せているのをみていちいち隠れるのが面倒臭くなったらしい。堂々と姿を現している。
そしてお婆さんと小梅は、『うっかり間違えて器を余分に出してしまった』という体のまま、自分らも食卓へとついた。
妖精に気付いていないフリにしても、ここまであからさまだと、桃子も言葉がない。
隣の部屋から響いてくる食器がカチャカチャ言う音をよそに、桃子もシチューを頂こうかと思ったが、その前に手を止めて、小さな声でお婆さんに尋ねてみる。
「あの、お婆ちゃん……その、見えてますよね?」
何が、とは言わない。
「死んだ爺さんが言ってたんだあ。人に見づがったってわがったら逃げちまうから、気づいてねえことにしなきゃなんね、ってよお」
「あのね、集落ではね。みんな見つけても、気づいてないフリをしてないと駄目なの!」
「そ、そっか……ふふ、なんか、面白いですね」
お婆さんも小梅も、何を、とは言わない。
もちろんそれは『ウワバミ様』ことクルラであり、妖精たちのことだろう。なるほど、どうりでクルラは自由に室内を飛び回っていたわけだ。桃子は納得する。
お婆さんの作ってくれた、人参とジャガイモが入っただけのクリームシチューは、温かくて美味しかった。
脱ぐタイミングを逸してわら帽子を頭からかぶったままの食事となったが、お婆さんも小梅も桃子には何も聞かないでいてくれる。
食事中の会話として、お婆さんが色々とこの地域のことを教えてくれた。この集落は昔は電気が通っていなかったこと。以前は活気のある集落だったこと。数十年前まではあの窪地は無かったこと。あの窪地は不思議なことがよく起こり、お爺さんがお酒を供えるようになるといつしかウワバミ様が現れるようになったこと。窪地の桃は普通のものと違い、数か月ごとに実がなる不思議な桃だということ。
「ねえ、雪ちゃん。雪ちゃんは、あの桃の窪地からきたんだよね……?」
「うん、まあ……そうなるのかな?」
シチューを食べ終えた小梅が、キラキラした瞳で聞いてくる。先ほどのお婆さんの説明からして、この集落の人から見ても、あの窪地は不可思議で、神秘的で、一種の聖域として扱われているようだった。
「桃の窪地ね、たまにツチノコが出るんだよ。知ってる?」
「え、ツチノコが出るの?!」
急な話題に、ちょっと声が大きくなってしまった。
ツチノコとは、日本にダンジョンが出没するよりも昔から各地で目撃されていた不思議生物の一つで、胴体部分が横に大きく広がった蛇のような外見の生物だと言われている。
ダンジョンが発生し、河童やらゴブリンやら様々な生物が目撃されている現在でも、ツチノコというものは目撃例はない。
「それにね! それにね! あそこに行くと、小梅もなんだか、超能力が使える気がするの!」
「小梅はあの窪地が好きだかんなあ。でも、危険だで一人で行っちゃなんねえよ?」
「はーい」
小梅とお婆さんのやり取りを聞いていて、桃子はひとつだけ引っかかった部分があった。
――あそこに行くと、小梅もなんだか、超能力が使える気がするの!
桃の窪地限定で使える超能力。
ダンジョンで使える超能力というと、言うまでもなく【スキル】のことだろう。
もしかしたら小梅は、あの窪地に入り浸るうちに何かしらのスキルに目覚めているのかもしれない。或いは、元から先天的な【固有スキル】を所有している可能性もある。
本来ならば、どんなスキルを持っていようが、小梅は見たところ9歳か10歳。ダンジョンに入る許可が下りる14歳まであと4年もあるので、今からスキルについて考えるのも時期尚早な年齢だ。
しかし、桃の窪地はそもそもダンジョンとして認定された場所ではないため、年齢など関係ない。小梅は家の近くの遊び場として、好きに足を踏み込むし、そこでどんどんスキルを覚えていく可能性もある。
スキルは大体の場合は本人にとってはありがたい能力だけれど、場合によっては危険なこともあり得るし、厄介極まりないものもある。そこのところは、小梅の能力について調べられるようなら早めに調べておいた方がいいかもしれない。
と、小梅のスキルに対してそんな風に考えていると、隣の部屋からシチューを食べ終えた妖精たちが戻ってきた。
人間たちが気づいていないフリをしているのをいいことに、もはや姿を隠す気は微塵もないらしい。危機感や警戒心はどこかで落としてしまったのかもしれない。
「あのね♪ 美味しかったけど、そろそろ雪が強くなってきたのよ♪ 雪ん子の雪ちゃん♪」
「もも……じゃなくて。雪。そろそろ、帰らないと。道のりが。大変になるぞ」
妖精たちで話し合ったのだろうか、二人とも桃子の正体は隠してくれるようだ。桃子の正体よりも、まず自分たちの姿をもう少し隠そうとは思わなかったのかと、桃子は問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。
なお、普通に妖精たちが出てきたので、お婆さんはにこにこと何もない場所を見ているし、小梅は視線があっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しない。
「あの、シチューありがとうございました。私は今日はそろそろ、ええと……窪地に帰らないといけないので」
「雪ちゃん、窪地に住んでるの? 寂しくないの?」
雪ちゃんこと桃子が礼を言って立ち上がると、寂しそうな顔で小梅が桃子の手を握る。
確かに、あの窪地に住んでいると言われても心配するのは当然だろう。あそこは家も何もない、ただの寒い窪地だ。
だから、桃子は真実の混ざった嘘をつく。小さな小梅が心配しないように。
「実は桃の窪地にはね、ウワバミ様とそのお友達とかが住んでいる、不思議な国があるんだよ。私も、そこに住んでるの。だから寂しくないんだよ」
小梅の頭に手をあててポンポンと撫でる。
並んで立つと、桃子の方が少々背が高いくらいだが、実年齢は倍くらい離れているお姉さんなのだ。子供の前でくらい、きちんとお姉さんらしくしたい。
「そうなんだ……。じゃあさ、じゃあさ! 明日ね、学校お休みだから、一緒に桃の窪地で遊ぼうよ!」
「明日か……」
「雪。ヘノは別に。構わないぞ」
「わたしもね♪ 構わないのよ♪」
桃子が明日の予定を思案していると、桃子の左右から妖精たちの声がかかる。
小梅はそちらを見ていいのか駄目なのか判断つかず、こそっと盗み見てはすぐに視線を外すという挙動不審な子供になっているが、まあ流石に仕方ないだろう。
この集落と、妖精の関わり方がこういう形ならば、桃子が口をはさむことでもない。
と、思っていたのだが。
「んふふ♪ この子ね、昔はもっとちっちゃくて、言葉も話せなかったのよ♪ 赤ちゃんだったのに、こんなに大きくなって、嬉しいのよ♪」
「お前。そんな昔から。ここに入り浸ってたのか」
「う、ウワバミ様が……わたしのこと、話して……うわ、うわああ」
「こ、小梅ちゃん?!」
クルラが小梅のことを話したとたん、小梅が真っ赤になってうずくまってしまった。
桃子が慌てて屈みこみ小梅の顔を覗くが、どうやら別に何かショックを受けたとかいうことではなさそうで、なんだか口元がとってもニヤニヤしていた。
「小梅は、ウワバミ様に憧れでっからなあ。きっと、嬉しかったんだあ。おれには何も聞こえんがったから、何のことかわかんねけどな」
お婆さんがけらけら笑いながら補足してくれた。
なるほど、ウワバミ様が自分のことをちゃんと見てくれていたので、嬉しさのあまり笑みを隠せなくなってしまったようである。
ウワバミ様の声が聞こえていると知られるわけにはいかないので、小梅は顔を隠すしかなかったのだ。
「ま、まあ……大丈夫そうで、よかったよ、うん」
結局その後、小梅がきちんと冷静になるまで数分待ってから、明日のお昼にまた来るという約束をして、その日は桃子はお婆さんの家を後にするのだった。
外に出るとかなりの雪が降っており、気温もかなり下がっているようだ。とはいえマヨイガの魔力を纏ったわら帽子の効果が高く、雪の冷たさをかなり防いでくれているので見た目ほど寒くもない。ダンジョン外でも効力を保ってくれるとは、魔法アイテム様様だ。
「そういえば、お婆さんの名前も聞いてないや」
「お婆ちゃんね、風間のお婆ちゃんて呼ばれてるのよ♪ 孫が、探索者やってるの♪」
「お前。本当に。詳しいな。いつからここに。入り浸ってるんだ」
風間のお婆さんの家からは、桃の窪地へと続く雪ん子の小さな足跡が、しばらくの間、残っていたという。
木の根と岩で出来た自然の階段をゆっくりと踏みしめて、雪の積もった窪地へと降りる。
雪で足を滑らせないように気を付けて降りると、やはり階段の途中から身体が軽くなった。
この位置が、ダンジョンと人間界の境目になっているのだろう。
今までは、ダンジョンの入り口にはギルドが大きな門を作っているのが当たり前だと思っていたので、誰にも発見されていない自然のままのダンジョンというのは新鮮だ。
「ところで、ここって魔物とかは大丈夫なのかな?」
桃の窪地へと戻ってきた一行だが、窪地に降りたところで桃子が気になっていたことをクルラへと問う。
この場所がダンジョンとしては小さすぎて、集落の人たちもただの不思議なことが起こる窪地としか認識していない。それどころか、畑まで作っているのだから驚きだ。
しかしそれはそれとして、ダンジョンと言うのは人に仇なす魔物が出る場所なのだ。まだ小さな小梅や、歳老いた風間のお婆さんでは、さすがに魔物に対抗できるとは思えない。
「今のところはまだ、魔物の被害とかはないのよ♪」
「これだけ狭いと。たいした瘴気も。ないのかもな。もしかしたら。ツチノコとかいうのが。魔物なのかもしれないぞ」
「ああ、そっか。窪地にツチノコが出てくるって言ってたもんね、小梅ちゃん」
桃子としてはツチノコはペルケトゥスと同じような原生生物か、あるいは妖精たちと同じような害意をもたない魔法生物のイメージで想像していたが、普通に考えれば魔物という線が一番濃厚だろう。
とはいえ、小梅が笑いながら話していた程度なので、魔物だったとしても危険性は無さそうだ。
やはり、これだけ小さいダンジョンでは強い魔物が出ることはないのだろう。桃子はそう結論付けて、ホッとする。
雪の積もった窪地を歩いて、妖精の国へと戻る入り口のある岩の上へとよじ登った。
岩の上から眺めた窪地には、しんしんと雪が降り続け、桃子が眺めているこの時も地面を白く染め上げていく。
視線の先にある桃の木が、うっすらと黄色がかった光を放っているように見える。ここはダンジョン。魔法の光が灯るのも不思議ではない。
桃の木の光を視界にとらえて、その光の色はどこかで見たことがあるなと頭の片隅で思いながら、桃子は光の膜によって妖精の国へと転移されるのだった。
【オウカお嬢様の本日のお食事チャンネル】
皆様ごきげんよう、オウカですの。
前回も少々失態をお見せしてしまいましたわね。美味しいものを頂くとどうしても気分が昂ってしまいまして……誠にお恥ずかしいですわ。
それと、また視聴者さまから余計な……こほん、鋭い指摘がございましたわね。
少し前まで十代だったのに、どうして数年前に飲酒しているのか、と。
単純な話です。その数年を「少し」と表現しただけにすぎませんわ。お分かりいただけました? うふふふ、その手の話は引っ張りすぎるものでありませんことよ?
さて、本日のディナーはこちら、マヨイガの干し大根玄米、ですの。
……さすがのわたくしも、素材だけ出されても困ってしまいますが、実はカメラの裏では今、これらを使った炊き込みご飯が用意されておりますの。
さて、炊き込みご飯の準備の間に、わたくしのお話でもいかがですか?
実はわたくし、前回も軽く触れましたが【天啓】という固有スキル持ちですの。
時折……そうですね、予言のようなものがおりてくるのですが、自分で自由に発動させられるわけでもなく、意味も曖昧なので実に困った子ちゃんなスキルですわ。
実は、この配信もきっかけは【天啓】で……と、お話ししている間に炊き込みご飯が出来たようですわね。
では、一口。
あら? あらら? これは、仄かなおだしと大根が……あららら? ちょっとスタッフさん、これは熱燗ですわ! 熱燗ですわ!
お猪口! あ……。
『オウカ? どうした? ……おい、まさかここでか』
――シンエンに立ち向かうモノよ。
小人の鉱夫の下で、かのモノと邂逅せよ。
広がるシンエンが巫女を飲み込む前に――。
『おいサカモト、オウカが抜き打ち天啓してるぞ、聞き漏らすな!』
『マジっすか!? 生配信で勘弁してくださいよ姐さん!』