ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「桃子。これはどうやら。氷属性の魔法みたいだぞ」
「氷属性の魔法? 私、多分覚えられないよ? これ持っても何もわからないし」
ニムから受け取った魔法書――スクロールを、ヘノが横から覗き込んで魔力を読み取っている。
スクロールには日本語で文字が書いているわけではなく、魔法の素質がある者が手に持つとなんとなくその効果などが理解できる不思議な本だ。
残念ながら桃子には魔法の素質が無かったようで、スクロールを手にしたところで何も感じるものはない。
柚花は一体、どういうつもりでニムにこのスクロールを渡したのかと桃子は疑問に思う。もしかしたら、売り払って美味しいものを食べろとか、そういう意味だろうか。
「あの、ええと……その……柚花さんは、桃子さんのハンマーにどうかって……」
「ああ、私じゃなくてハンマーに付与するってことか。そういえば、朝にそういう話をしてたもんね」
どうやら、売り払ってくれというわけではなかったようだ。
ハンマーに魔法を付与。確かに、今日の午前中に房総ダンジョンの第三層で、そのような話をしていたのを思い出す。
桃子のハンマーにも何か魔法を付与してみたらどうだろう、という話だったが、その時は最終的に有耶無耶になっていた気がする。
さすがにその時はもっと先の話として漠然と考えていたけれど、まさかその日のうちに柚花がスクロールを拾ってくるとは思わなかった。なんと行動力に溢れる後輩だろうか。
「女王。これ。具体的にどういう魔法なのか。わかるか?」
「ええ、これは【氷結】の魔法のスクロールですね。冷気で対象を凍らせる、なかなか強力な魔法ですよ。私か、もしくは属性の近いニムならば、ハンマーに付与することも可能ですよ」
「うぅ……わ、私もですか……」
それまで静かに成り行きを見守っていた女王ティタニアが、ふわりと羽根を軽く羽ばたかせて、桃子の横へと舞い降りた。
そしてティタニアが軽く手を翳せば、さすが女王だけのことはある、すぐにそのスクロールを読み解くことが出来たようである。
その内容は【氷結】。相手を凍らせることが出来るという氷属性の魔法だ。ティタニア本人はもちろんのこと、水の妖精であるニムにも親和性は高いのだろう。
「でも、【氷結】をハンマーに付与したら、どうなるんだろうね?」
「凍らせる魔法だろ。なら。桃子のハンマーが。カチカチに。冷たくなるんじゃないか?」
「ええ?! それはちょっと困っちゃう、かな。夏は涼しいかもしれないけど、冷たすぎて手がしもやけになっちゃう」
その【氷結】を付与したらどうなるのかと想像してみたが、ヘノの言うようにハンマーが凍り付いてしまうのは困る。
それでは桃子の手までがしもやけになってしまい、ハンマーを振るうどころではない。
「うぅ……ち、違いますよぅ。えと、ハンマーで叩いた相手が、氷漬けになると……思います」
「ニムの言う通りですね。桃子さんが魔力を注げば、冷気を伴う打撃を打ち込む武器となりましょう」
しかし、桃子とヘノの漫才じみたやり取りには即座に訂正が入る。
どうやらニムとティタニアの言うように、ハンマーで叩いた相手の方が凍り付く武器になるらしい。冷静に考えると、そりゃそうだろうな、といった効果だ。
気を取り直して、ハンマーで叩いた相手が凍り付く状況を想像してみる。
「凍り付くなら。桃子が苦手な。ぬるぬるしたモンスターが。倒しやすくなるんじゃないか?」
「あとは、河童のときみたいに防がれても、凍らせたなら反撃されにくくなるかなあ」
「それだけではなく、凍り付いた物体の方が衝撃に対して脆くなりますから、ハンマーで砕くのも容易になるのではないでしょうか」
「な、なるほどぉ……柚花さんも……そ、それを見越して……たんですかねえ」
凍り付く効果について、ヘノもティタニアも、あれこれと案を出していく。
柚花がどこまで想定したのかはわからないものの、少なくともこのスクロールの【氷結】という魔法は、桃子のハンマーとの相性も悪くはないようである。
しいて言えば、冷気に耐性がある魔物が相手だと冷気の効果はなくなるだろうが、そういう相手なら普通にボコボコにすればよいだけだ。
「風の魔法じゃないのは。残念だけど。せっかくだし。余っている魔石をくっつけて。その。【氷結】っていうの。付与したらいいんじゃないか?」
桃子はもとより、相棒の風の妖精であるヘノも、この話には異論はないようである。
しかし、魔法と言うものは普通はその核となる魔石に付与するものだ。しかも適当に拾ったものではなく、しっかりとした形状、品質、そして場合によっては技師による調整と、色々と手を加えた魔石が必要になる。
そして、桃子が個人的に所有している魔石の中では、武器への装着に耐えうる品質のものは、先日暴走してダンジョンを崩落させた、鵺の魔石のみである。
「鵺の魔石かあ。サイズ的にはつけられるだろうけど、この前みたいな暴走がちょっと、怖いなあ……」
「ふふふ。大丈夫ですよ、桃子さん。あの時は魔力が全て『破壊力』に変換されていたのであのようなことになってしまいましたが、魔力を『氷結』に変換するのであれば、むしろ暴走してしまうリスクは軽減できるでしょう」
「そ、そうなんですかね」
「桃子さんは潜在魔力がかなり多いですから、適度に放出する手段が増えるのは悪くはないと思いますよ」
女王ティタニアの言葉を信じるならば、【氷結】の魔法を付与したほうが、先日のような滅茶苦茶な暴走のリスクは抑えられるようだ。
あのときは、桃子の潜在魔力に加えてヘノ、ニム、そして鵺の魔石の魔力がすべてが『破壊力』というものに変換されていたため、起こるべくして起こった状況だったようである。そしてやはり、そこまで説明されれば、桃子も前向きに考えることができた。
「じゃあ、せっかく柚花がくれた魔法でもあるし、付与をお願いしようかな……」
ハンマーを巨大化し、ぽつんと埋め込まれた何も石の入っていない石座に、鵺の魔石をはめ込む。サイズがぴったりというわけではないのだが、しかしこれくらいなら問題ない範囲だ。
右手に魔力を込めて【加工】の発動を念じると、普段工房で魔石を埋め込む作業と同様に、いや……むしろその時よりもはるかに調子よく、あっさりと鵺の魔石はハンマーと一体化する。まるで元から、その位置に嵌め込むのが正解だったかのように。
そしてその重量級のハンマーをごとんと重たい音と共に床に置く。さすがに女王やニムが持てるサイズではないだろう。
あとは、この何も付与されていない魔石に先ほどのスクロールの魔法を付与していけば良い。
「ふふふ。もし、なのですが。桃子さんがよろしければ、ニムにやらせてあげても宜しいですか?」
「はい、実は私も今、それをお願いしようかなって思ってました」
「えぇ……?! わ、私……そういうこと……やったことないですぅ」
急に役目を振られて、ニムはわたわたオロオロするが、しかし桃子とティタニアは互いに視線を合わせて、含むように微笑みあう。
そもそも、このスクロールをニムに託した柚花は女王ティタニアとは面識がないのだ。つまりは、このスクロールは最初から、ニムに任せられた代物である。
「ニムちゃんがやってくれるのなら、柚花も嬉しいんじゃないかな。それに私も、一緒に琵琶湖で冒険した仲間だもん。ニムちゃんの魔法だったら、すっごく嬉しいな」
「ニム。どうせ。水も氷も似たようなものだろ。出来るんじゃないか?」
「へノぉ……簡単に言いますねぇ……」
「ふふふ。でしたらニム、私が後ろでサポートして差し上げますね。貴女なら、大丈夫ですよ」
「は、はいぃ……」
三人に笑顔を……いや、ヘノは無表情のようなものだが、とにかく笑顔を向けられたニムはオロオロとしつつも、しかし最終的にはしかとスクロールを受け取るのだった。
「桃子。朝だぞ。起きろ」
妖精の国にある、桃子の寝室。
昨夜は女王とニムにハンマーを預けてから、ヘノと共に桃子はこの部屋へと戻ってきたのだ。
それから、マシュマロと餅と綿あめを足したようなベッドに横になり、それから何かを見ていた気がするが、桃子はまだ頭が眠っているので思い出せない。
「んー、むにゃむにゃ……柚花は服着たのぉ?」
「桃子。どんな夢を見てるんだ。後輩はいないぞ。ちゃんと起きて。歯磨きして。水浴びして。朝ごはん食べるぞ」
寝ぼけたままの桃子は、マシュマロベッドに埋もれたままモゴモゴと寝言のようなことを口にするが、どうやらまだ半分寝ているようである。
ヘノが桃子の耳元に着地して、そろそろ起きるようにと声を上げる。
「んぁ……あれ、ヘノちゃん……おはよー」
「ん。ようやく起きたな。夜のうちに。ニムと女王が。桃子のハンマーを改造してくれたはずだぞ」
「んー、柚花が虹色スライムに服を溶かされて一緒にお風呂入る夢見てた……」
桃子はふわーっとマシュマロ布団の上で身体を伸ばす。ヘノも巻き込まれてマシュマロに埋もれるが、すぐに脱出して改めて桃子の目の前に着地した。
「夜更かしして動画なんて見るからだぞ。虹色スライムは。ニムと後輩が。ちゃんと倒したから安心しろ」
「ああ、そっか……ふぁーい」
桃子は半分ぼーっとした頭で思い出す。
昨夜はここに横になって、ニムと柚花がスクロールを入手するに至ったという虹色スライム配信動画を眺めていたのだった。
スライムを危なげなく撃退していく後輩の姿を桃子はニコニコと眺めていたが、電撃の効かない虹色スライムに襲われてピンチになったときには、何時間も前の動画だということも忘れて慌てて助けに行こうとした。ヘノが呆れて止めてくれなかったら、夜中に鍾乳洞窟へと走り出していたに違いない。
その次の動画では普通に虹色スライムを撃退していたので、動画と動画の間にニムと協力しあって虹色スライムを撃退した、ということなのだろう。
結局、そんな風にして夜更かしをしてしまったので、今朝の桃子はいつも以上に寝坊助が酷い有様になっているのだった。
【りりたんの朗読チャンネル】
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
今日の本は、どれにしましょうか。りりたん、色々な本を持っているので、迷ってしまうのですよ。
では、適当に選んでみますね。はい、これにしました。『【加工】でぼろもうけ ダンジョン攻略術』――
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――というわけで、【加工】スキルを持っている探索者は、職には困らない、というお話でしたよ。
道具を作る際にも、武具に魔石を装着するのも、きちんと魔力の通るものを作りたければ【加工】スキルを持っている人材が手を加えるのが一番確実ですからね。
誰しもが所持できるようなスキルではありませんが、それを持っているだけで出来ることが大きく変わるスキルですよ。
りりたんのお友達にも、【加工】でお仕事をしている方がいらっしゃいますよ。
ふふふ。でも、りりたんは知っているのですよ。
スキルには、上位互換のいわゆるレアスキルというのがありますからね。
もし【加工】よりも更に上位の、あらゆるものを【創造】してしまえるスキルがあったとしたら。
視聴者の方は、どのようなものを創造しますか? 道具ですか? 武器ですか?
それとも、意思を持つものでも創造してしまいますか?
ふふふ。そこまで大それた力があったとしても、人ひとりの力では使いこなせないでしょうね。
膨大な魔力が必要なのかもしれませんし、人々の願いや信仰心、あるいは長い時間のような、それ以外の要素が必要なのかもしれませんね。
たまに、あるのですよ。人ひとりの力では使いこなせないような、スキルというものが。
どのようなものか?
ふふふ。また機会があれば、ご紹介しますよ。
りりたん、色々と知っていますからね。