ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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恐怖のスライム地獄

「うわー、すごい、なんかすごい感じがする!」

 

 女王の間。

 

 ヘノと桃子がティタニアに挨拶にきたときには、すでにハンマーには【氷結】の魔法が付与されていた。手に持つと、感覚的に今までとは魔力の流れが違っているのが分かる。

 どうやら夜の間ずっとニムが魔法付与を頑張ってくれていたようで、そのニムは今は女王の膝の上でぐっすりと眠りこけている。

 

「ふふふ。最初のうちは慣れないかもしれませんから、まずは何度か使って慣れてみることをお勧めしますよ」

 

「はい、ティタニア様。……ニムちゃんも、ありがとうね」

 

「ん……むにゃ……」

 

 ハンマーを手に取るが、さすがに女王の間で試し打ちをしてみるわけにもいかないので、ひとまずは拡縮の魔法で小さくして懐に収める。

 

 そういえば、この拡縮の魔法はティタニアがあっという間に付与したものだ。いくら初めてと言えど、ニムが【氷結】の魔法を付与するのに一晩かかったのと比べれば、ティタニアの凄さがよく分かる。

 ティタニア本人は先代女王と自分を比べてまだまだ未熟だと思っているようだが、やはりティタニアの力は未熟どころか、遥か高みにいることは間違いない。先代女王がおかしいだけだ。

 

 しかし、女王たちがどうであれ、今回のハンマーに頑張って魔法を付与してくれたのはニムである。ニムが頑張ってやってくれたのだと思うと、桃子の心には嬉しさが込み上げてきた。

 女王の膝を枕にして眠るニムの髪を指先で軽く撫でると、ニムは少し擽ったそうに身をよじっている。

 起こしてしまってはかわいそうなので、桃子はすぐに指をひっこめた。

 

「桃子。早速どこかで試してみないか。どうせ小梅との約束まで時間もあるだろ。何か。凍らせてもいい場所とか。ないかな」

 

 ヘノはどうやら、新しくなった桃子のハンマーをすぐにでも見てみたいようで、早くどこかへ行こうとばかりに袖を引っ張って桃子を動かそうとしている。

 凍らせてもいい場所と言われてもすぐには思い付かないが、小梅と遊ぶ約束まで時間も余っているし、午前中のうちにどこかで試してみるのも良いだろう。

 

「凍らせてもいい場所なんてあんまりないと思うけど……まあでも、どっかで試してみようか」

 

「いきなり全力で使うと危険ですから、お気をつけくださいね」

 

 もう少しティタニアと話を交わしたい気持ちもあったものの、ニムを起こしてしまっても可哀想だ。

 ヘノも早くハンマーを見たがっていることだしと、ティタニアに小さく挨拶をして、ニムを起こさないよう静かに部屋を退室した。

 

 

 

「でもヘノちゃん、このハンマーどこで試そっか」

 

 女王の間を出たはいいものの、行き場所を決めていなかったために一度花畑で立ち止まる。

 ヘノに任せてもいいのだが、ヘノは考え無しに行き先を決めてしまいかねないので、ここはひとつ相談タイムだ。

 

「どうせ。あの子供と約束があるんだし。桃の窪地でいいんじゃないか?」

 

「いやいや、流石にあそこで武器の試し打ちなんてできないよ。畑を壊すわけにもいかないし、そもそも魔物がいないもん」

 

 ヘノの提案した桃の窪地だが、武器の試し打ちをしてはいけない場所の筆頭であった。魔物がいない代わりに、人間の子供とお婆ちゃんがいるのだ。普通に危なすぎる。

 ならどこにするかと桃子も考えてみるが、やはり一番妥当なのは房総ダンジョンだろうか。

 鍾乳洞窟なら人も少ないし、水っぽいモンスターも出現するので【氷結】の実験には向いているだろう。

 そう思い、桃子はヘノに提案しようと口を開くが、しかしヘノのほうが一手早かった。

 

「じゃあ。いい場所があるぞ」

 

「え? ちょ、ヘノちゃん待って待って! 置いていかないでねっ」

 

 そしていつものように、せっかちなヘノは桃子を置いて先に『いい場所』へと向かって真っすぐ飛んでいってしまう。

 

 

 

「桃子。ここなら。いくらか壊しても。大丈夫だな」

 

 そして、慌ててヘノを追いかけ、光の膜を潜って出た『いい場所』は、桃子も見慣れた場所の一つだった。

 

 

 そこは、常に滝の轟音が響いている水のダンジョン。琵琶湖ダンジョン第三層、滝の迷宮である。

 破壊活動という観点で言うならば、桃子が第四層まで降りる階段を破壊した実績のあるダンジョンだ。

 

「あのねヘノちゃん、無暗に壊して大丈夫なわけじゃないからね、確かにちょっと一回やらかしちゃったことがあるけど」

 

「似たようなものだぞ。とりあえず桃子。ここなら。水っぽい連中。でかいヤドカリとか。スライムとかいるから。凍らせてみよう」

 

「そういえばこの滝の迷宮って、房総ダンジョンの鍾乳洞窟と敵層が似てるよね。水っぽいし、スライム出てくるし。探したら虹色スライムもいるかな……」

 

 この場所は、時折出てくる魚人などを除けば、出てくる魔物の方向性は鍾乳洞窟と似通っている。

 もちろん、房総ダンジョンと全く同じわけではない。同じ第三層と言っても、魔物の凶暴性はこちらのほうが明らかに高いし、外見が似ているだけで生態も能力も大きく違っているかもしれない。

 しかし、スライムが出てくることに変わりないのも確かだ。

 今まで、潰すたびに変な液体をまき散らしていたスライム。可愛い後輩である柚花を苦しめたスライム。

 

「決めた! ヘノちゃん、今日はスライム沢山退治しよう! どこかスライムが多い場所ってあるかな?」

 

「わかったぞ。昨日の変な色のスライム。ヘノも見てみたいからな。スライムみたいな魔力が。集まってるところを。探してみよう」

 

 柚花が苦しめられたことへのリベンジ、というとただの逆恨みになりそうだが、しかしどうせなら自分も虹色スライムを見てみたいし、レア素材が入手できるのならそれも欲しい。

 というわけで、積極的にスライム探しを提案してみるとヘノも乗り気だ。

 

 

 さっそくスライムの集団を感知したというヘノを追いかけて、意気揚々と進軍する氷結ハンマー少女であった。

 

 

 まさか、その先に。

 

 阿鼻叫喚のスライム地獄の運命が待ち構えているとは思いもせずに。

 

 

 

 

 

 

 そこには、地獄のような光景が広がっていた。

 

 

 

 そこには、一切の慈悲などなかった。

 

 

 

 具体的には、スライムにとっての地獄の光景が広がっていた。

 

 スライムたちが集合してウジュルウジュルしていた巨大な巣。いわゆるスライムのモンスターハウスに、正体不明の氷結ハンマー破壊神が降臨したのである。

 

 

 

「すごいぞ。桃子。もっとだ。もっと行けるぞ」

 

 

「ふんふんふふー♪ はんまーそーん♪」

 

 

 ヘノのスパルタ声援と、桃子の上機嫌な鼻唄が響く。

 

 ここはとある滝の裏に隠されていた隠し部屋だ。しかしその実態は、探索者たちを追い詰める、恐ろしいスライムのモンスターハウスだった。

 宝物や未知の素材を探し求め探索者が踏み入ったが最後、出口を大量のスライムが埋め尽くし、気づけば四方からスライムの群れに飲み込まれるのだ。

 隠れられそうな横穴程度はあるが、そこに逃げ込んだところでどうしようもない。哀れな探索者は、息をひそめて救援が間に合うのを待つか、あるいはゆっくりとその餌食になるかの選択に迫られる。

 

 しかし、そのモンスターハウスには今、哀れな探索者とは全く逆の存在が訪れていた。

 

 スライムの群体を追いかけ、リズミカルに歌を歌いながら【氷結】の付与されたハンマーを振り回し、スライムたちを潰して――いや、砕いてまわる破壊神の姿があった。

 破壊神――桃子が歌う、有名ミュージシャンのハンマーソングと、凍りついたスライムが砕け散る音が滝の轟音に負けじと洞窟内に反響する。

 マヨイガの一反木綿モンスターハウスでは武器の相性が悪すぎて半泣きになっていた桃子だが、今回は逆に武器の相性が良すぎて超テンションだ。実にノリノリで暴れまわっていた。

 

 

「すごいな。桃子。スライムがパキパキになるんだな」

 

 スライムの群れを見つけてからこれ幸いにと【氷結】の試し打ちをしていたのだが、結論から言えば、効果は抜群だった。

 一撃入れればそこから凍り付いていくので、液体が飛び散ることもないし、多少中心を外したところで勝手に氷結部位が広がっていき、ハンマーの衝撃で簡単に割れていく。

 そのうえ、ここのスライムにも【隠遁】はきちんと効いているらしく、スライムが桃子を襲ってくることはない。つまりは、一方的な蹂躙である。

 

「うん、ちょっと魔力の加減が難しいけど、これはいいね! 水っぽいの叩いても、べちょって飛び散らないのは最高だね!」

 

「毎回。変な液体が。飛び散ってたからな」

 

 桃子が前々から水っぽい魔物を苦手としていたのは、ハンマーでの潰し辛さにある。

 ぬめっとしていて滑るため、ハンマーでうまく中心を潰せないことが多いのだ。そして、敵を倒したときに飛び散るヌメヌメも非常に不快だった。

 魔物なので、倒せばそのヌメヌメもまた煤に戻るのだが、そうだとしても好き好んでヌメヌメした生臭い液体をわざわざ浴びたくはない。

 

 それが今では、叩いたとたんに凍りつくので、ヌメヌメもベチョベチョもなくなった。凍り付いて結晶化した綺麗な破片が周囲に舞い散るだけだ。

 ヌルヌル汚れの悩みが解消されたというだけで、柚花には感謝の賞状を与えたいくらいである。

 

 

 桃子がヘノと会話をしている間も、リズミカルにハンマーは振るわれていき、スライムたちは氷の花を咲かせるようにして煌めいて消失していく。その姿は一種の芸術すら感じさせた。

 残念ながら虹色スライムはいなかったが、もしこのハンマーで虹色スライムを冷凍して砕いたら、それはきっと非常に美しい景色になったことだろう。

 

「……ふう、スライム掃討完了! じゃあ、小腹も空いてきたし、魔石を拾ったらそろそろ戻ろうね。畑で何か果物でも食べてから、桃の窪地に行こうか」

 

「畑と言えば。なんか。スーッとする葉っぱが。滅茶苦茶増えてるんだ」

 

「ああ、やっぱりあれ気のせいじゃなかったんだね……」

 

 スライムから出てきた大量の魔石を拾い集めながら、顔をしかめる。

 なんとなく桃子も気になってはいたのだ。ミントのような植物がやけに増えていたな、と。

 

「あれをどうにかしないとな」

 

「うえー……」

 

 桃子も知識としては知っていた。ミントという植物はとんでもない繁殖力で畑を駄目にしてしまうので、絶対に畑に植えてはいけないのだ。

 ダンジョンのミントがそれと全く同じとは限らないものの、あの繁殖力を見る限りは、畑に植えるべきではないというのは間違いなさそうだ。

 

「【氷結】の次は、【ミントを除草する魔法】のスクロールが欲しいよ……」

 

 なにかの小咄みたいなオチを呟く桃子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある深援隊メンバーの会話】

 

 

「さて、オウカの【天啓】だが、どうしたものか」

 

「そもそもあれって誰に対する天啓だったんスか? あの場には姐さんと、俺と、リーダーの三人がいましたけど」

 

「てんでわかりませんわよ。わたくしも【天啓】のときは意識が半分飛んでますから、詳細まではさっぱり。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あれは、今までの予言よりは重大なものだと思いますわね。恐らく、一人や二人ではなく、放っておけば甚大な被害が出るやつですわよ」

 

「んで、解決できたならより大きなプラスが出る、って感じですかね」

 

「……なんにせよ、誰に対する【天啓】だったとしても対処できるよう、俺たち三人が動くべきだろうな。サカモト、オウカ。構わないか?」

 

「わたくしは全然構いませんことよ? どうせなら、行き先でもお食事配信をいたしましょうか。お二人はスタッフ続行ですわね」

 

「姐さん、あの配信ちょっと無理がありませんか? いくらお淑やかキャラつくったって、どうせ最後はお酒でぶっ壊れてるじゃないですか」

 

「うっさいですわねサカモト。金玉蹴り上げますわよ? お酒については実家からも厭味ったらしく同じことを言われたばかりでムカついてるんですの。あいつらマジブッコロですわ」

 

「オウカ、もう少し言葉を選べ、あとスカートでサカモトを蹴り上げるな。見えるぞ」

 

「なんで良家のお嬢様がこんなになっちゃうんスか。悪役令嬢でももっとお上品ですよ」

 

「なんですの? 喧嘩なら買いますわよ、ステゴロですの?」

 

「おい、話を進めるぞ。ここで喧嘩の売買はするな」

 

「売り買いの予定はないですよ。で、俺たちは何をすればいいんですかね、リーダー」

 

「小人の鉱夫、か。サカモト、白雪姫と七人の小人って知ってるか?」

 

「さすがに俺でも分かりますよ。童話のアレですよね?」

 

「あの小人たちは、職業は宝石掘りの鉱夫だ。そしてあの小人たちの種族は、ドワーフ」

 

「つまり、わたくしたちはドワーフに会いに行かなきゃならないってことですのね?

 噂によれば、大きなハンマーを持った髭の小人。緑色の妖精を従えた、ここの座敷童子と同様の伝説の存在ですわね」

 

「ハンマーで、緑の妖精か……」

 

「サカモト、どうした?」

 

「……いえ、萌々子ちゃんも、ドワーフも、人魚姫も、みんな妖精と一緒に目撃されてるなと思って」

 

「妖精か……そういえば、何か大切なことを忘れている気がするんだよな」

 

「あらリーダー、もう記憶障害ですの? 老け込むには早いのではなくて?」

 

「いや、気のせいかもな。千葉にいくついでだ。サカモトの剣を直してくれた鍛冶職人にも挨拶しておくか。礼の一つくらいしておかないとな」

 

「ンじゃわたくしは、さっそく房総ダンジョンのうめぇ食材を調べときますわね!」

 

「お酒は駄目ですからね、姐さん」

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