ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「う、うわぁ。ねえヘノちゃん、このあとどうするの? マヨイガ……この第四層って、多分かなり危険な場所なんだと思うんだけど……」
鎧騎士を抱えてやってきたはいいものの、出た先は遠野ダンジョン第四層。未だ踏破できたものがいない、難関とされる巨大日本家屋。
話に流されるままに鎧騎士を運んできてしまったものの、その場所がどこかまでは確認していなかったのを今更ながら思い出す。
桃子は基本的には安全第一。自分の身の丈にあったダンジョンを選んで潜るタイプだったので、急な高難易度ダンジョンに、心の準備が出来ていなかった。
正直いって、尻込みしている。
「それなら。問題ない。このイビキ男を。ここに置いて。ヘノたちは戻るだけだからな」
「わ、わー! それはダメだよっ。ダンジョンの第四層に寝てる人を置いてったりしたら、この人が魔物に襲われて危険だよ」
ヘノの無情な物言いに慌てて首を振る桃子。
人の命がかかっているからと協力したのに、その相手を見殺しにするような真似はさすがの桃子も受け入れられない。
「思ったんだけどさ、何もこの場所じゃなくても、この人が地上に戻ればいいんだよね? 別に、房総ダンジョンに連れて帰ったって問題はないんじゃないかなーって思うんだけど」
桃子はある程度はソロでも戦える自信はあるが、何が出るかわからない難関ダンジョンで、眠っている男性を守りながら戦うなどまず不可能だと、自分でもわかっている。
なので、できるだけ安全に、自分も鎧騎士も無事に地上に戻れる提案をしてみたものの……。
「桃子。弱気にならなくていいぞ。ヘノがなんで。女王に言われて。お前を探す役目を受けたのか。知っているか」
「え、いや知らないけど。変わり者だから……とか?」
「変わりものは桃子だぞ。ヘノは。妖精の中でも。とても強いんだ。桃子を守るくらい造作もないから。ヘノが選ばれたんだぞ」
桃子をまっすぐ見据えるヘノの顔は、真剣……に見えた。いつも無表情なので、ちょっと分からないけれど。あと、さらっと変わり者認定されていた気がする。
「ヘノは。魔法もすごいけど。武器もすごいんだ。見せてやる」
「えっ、ちょっと待って……きゃっ?! か、風がっ……」
桃子が止める暇もなくヘノが右手を掲げると、そこを中心に、室内に強風が渦巻く。近場の襖が巻き込まれて宙を飛び交い、行燈の火が渦を巻く。
そしてその風が、数センチにも満たないヘノの手に収束していき――
「すごいだろ。これが神槍。ツヨマージだ。これがある限り。ヘノは負けない」
「つまようじ……」
ヘノが手にする、木製の小さな槍、というか、サイズ的にはちょっとした長めの棘。
そしてそれは、どこからどう見ても爪楊枝であった。ご丁寧に、尻側の溝までもがしっかりついている。
桃子はさらに、不安になった。
しかし、その爪楊枝……いや、ツヨマージについて質問をする暇は、与えられない。
「来たぞ、桃子。ハンマーを構えろ」
「!!」
ヘノが起こした強風によって物音が響き、それに気づいた魔物たち……いや、妖怪たちがどこからともなく現れたのだ。
桃子も抱えていた鎧騎士を床へ寝かせると、懐から小槌を取り出し、大きくなれと念じることで巨大なハンマーへと変化させる。
河童や唐傘お化け、一反木綿といった、どこかで見たような妖怪たちが二人の周囲を取り囲む。その姿は妖怪アニメのようなコミカルな印象はなく、怪奇、の一言につきる。やはりアニメと現実は違うようだ。
「いきなり魔物が出るのは。想定外だけど。仕方がないな。その頭がツルツルしてるのは任せるぞ。桃子ならやれるだろ」
想定外もなにも、ヘノが余計な敵をおびき寄せただけにも思えるが、こうなったら、ヘノを信じてやるしかない。
ヘノは強風で一反木綿と唐傘お化けたちを宙に巻き上げ、すでに飛び立ってしまった。
桃子が任された『頭がツルツルしているの』というのは、頭に立派な皿を被った河童たち。
のそりと、三匹の河童が桃子を、いや、鎧騎士を囲むようにゆっくりと迫ってくる。
「うー、もう! どうにでもなれだ! このぉッ!!」
スキル【隠遁】は効いている。
河童たちは眠っている鎧騎士へと向いていて、桃子は認識外にいる。
意を決して、桃子は一番近くに迫ってきた河童の背後へと回り込み、その頭の皿へとハンマーを振り下ろした。
ブシュッ
河童は、ハンマーで叩き潰された。というより、一瞬で煤になって消滅した。
「やった! どうにかなる!」
そのままハンマーを高く持ち上げ、困惑していた二体目の河童にも一撃。
頭上の皿が砕け散ると同時に、二体目も一瞬で煤になって消滅する。
しかし、好調なのもここまで。
「クキャアアアア!!」
「ぴぃっ?!」
目の前で二体の仲間が敵に襲われた河童は、そこに認識外の敵――桃子の存在を知る。
いくら【隠遁】が強力なスキルといえど、透明人間になれるわけではないのだ。
三匹目の河童の威嚇に慌てた桃子はとにかく頭めがけてハンマーを振り下ろすが、最後の一体はすかさず背を丸め、背中の甲羅でハンマーを受けとめた。
ハンマーと甲羅がぶつかる、強烈な音が響く。
渾身の一撃ならばいざ知らず、慌てて振るったハンマーにそこまでの勢いはなく、河童は無傷のまま甲高い奇声を上げて、すかさず桃子へ襲い掛かった。
「や、やだぁ! もう!」
【隠遁】に頼りすぎていた桃子は、自分めがけて襲い掛かってくるモンスターの対処法を知らない。面と向かっての戦い自体は、素人のそれだ。
今まで、房総ダンジョンの単純なモンスターしか見てこなかった経験の少なさが、ツケとして回ってきてしまった。
襲い来る河童に向けてハンマーを叩きつけるが、桃子のハンマーは大きく振りかぶって、渾身の力で振り下ろすことで真価を発揮するものだ。
至近距離で力任せに叩きつけるだけでは、そこまでの威力にはならない。
ヘノに助けを求めるように目を向けるが、ヘノはヘノで一反木綿と共に遥か上の吹き抜けを高速で飛び交い、戦闘機のドッグファイトのごとく空中戦を繰り広げていた。
なお、唐傘お化けはヘノの突風で簡単に傘が破れ、畳の上に散らばっている。煤になって消えるのも時間の問題だ。
ヘノの助けは期待できない。
河童は桃子の腕を掴むと、力ずくで壁へと押し倒してくる。
桃子も負けじと、河童を押し返す。
だが。
「ちょ、つよ……なんでっ!!」
桃子はスキル【怪力◎】の恩恵で、並のモンスターよりは腕力はあると自負していた。しかし、実際に組み付かれてみると、腕の細い河童もまた力強い。
桃子は失念していたが、各地に伝わる伝承において、河童は相撲が強いという特徴がある。目の前の河童も伝承のそれと同様、組み付いて相撲の形になると、強い。
相撲のような力比べになった段階で、桃子は相手の土俵の上に乗せられていた。
「うぐ……ヘノ……ちゃ……」
力と力の勝負では、体格差が大きくものをいう。
しかし残念ながら、桃子はその体格において致命的に、圧倒的に不利だった。
身体ごと持ち上げられ、足はすでに地についていない。腕を払おうにも、地に足がつかないのでは力など入らない。
ハンマーはすでに取り落としている。
河童は桃子の首に手をかけ、そのまま壁に押し付ける形で力を籠める。
桃子は目に涙を浮かべたまま、意識が遠のき――
「その子から、手を放せ! このバケモノが!!」
フッと、河童の腕の力が弱まり、自然と桃子は尻餅をつく形で床へと落ちる。
せき込みながらも見上げると、河童の背後に、すくっと立ち上がる巨大な影。いや、鎧の大男がたっていた。
妖精の国で眠りこけていた鎧騎士が、その目を見開き、両足で立ち上がり、河童の頭を鷲掴みにしていた。
「その子はな、俺の命の恩人なんだよ! その頭の皿に、刻み付けておけ!!」
力と力の勝負では、体格差が大きくものをいう。
ましてや背後から弱点の頭を、頭頂部の皿を鷲掴みにされては、河童がいくら手足をもがいてもどうにもならず、次第に力が抜けていく。
そしてその隙を逃さず、鎧の肘あて部分を叩きつけるような強烈な肘打ちで皿を叩き割ると、割れた皿から煤が弾け飛び、そのまま頭から順に煤へと変化して河童は消滅していった。
あたりには、河童だった煤と、唐傘お化けの残骸が残った。いずれそれも煤になるだろう。
「すまないな、命の恩人の危機だというのに、俺は寝起きが悪くてな。ええと、桃子ちゃん……でいいのかな?」
鎧騎士は屈みこんで、安心させるように桃子の頭へとそっと手を乗せる。
伸ばす手が探り探りだったのは、彼にも【隠遁】が効いていることを示している。
「けほっ、けほっ……わた……なんで……?」
「長い夢の中に、君たちの声が聞こえていたんだ。君が、妖精たちに頼まれて、俺を助けに来てくれた女の子だということも知っている」
男は、優しく語り掛けて、桃子の頭を撫でる。
「こんな小さい子に、怖い思いをさせてしまったな。もう少しで尻子玉が抜かれるところだった、間に合ってよかった……」
明らかに、小さい子供と思われている。そして、優しく抱擁されてしまった。
桃子としては、鎧で抱擁されても痛いし、子供ではないし、尻子玉が抜かれるところだったのかと問い質したかったのだが――遅れてやってきた恐怖と、助かった安堵感によって、涙と嗚咽が止まってくれず、文句も言えないのだった。
【りりたんの朗読チャンネル】
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
今日は、ちょっとした、昔話をいくつか朗読しますね。
まずは、こちら。『河童の妙薬』というお話。
昔、とある侍が川辺で馬を走らせていると、突然、川から緑色の腕が出てきて、馬を引き込もうとしました。
これはいかんと、お侍は持っていた刀でその緑色の腕を切り落とします。
その腕の主は水の中へ逃げてしまいましたが、馬を掴んでいた腕は残ったままでしたので、これは珍しいものだと、侍は腕を持ち帰ることにしました。
その夜。
侍の家に、一匹の河童が訪れました。
昼間の河童でございます。もう馬にいたずらをしませんから、腕を返していただけませんでしょうか。
しかし、侍は信用できないと言い、うなずきません。
河童は続けました。
腕を返して頂ければ、秘伝の妙薬の作り方を教えて差し上げます。
侍は考えてから答えました。
ならば、その妙薬でそなたの腕を治してみせよ。腕が戻るのならば、信じてみせよう。
頷き河童は、取り出した妙薬を切断面に塗り、見事に腕を付け直します。
そして、腕を返してもらったお礼にと、侍に妙薬の作り方を伝授しました。
その後、侍の妙薬のおかげで主をはじめ、その国の兵士たちはあっという間に怪我を癒すことができ、その土地はいつまでも平和に暮らすことができました。
めでたし。めでたし。
河童というと、皆さんはどのようなものを想像しますか?
最近は、遠野という場所のダンジョンにも河童が出没するそうですが、ダンジョンの魔物って人間を襲ってきますよね。
でも、各地に昔から伝わっている伝承だと、そこまで凶暴な生き物ではないようです。
河童のお話は、様々な地域に残っていますが、大体は河童が悪戯をして、人間に懲らしめられる。
でも最後は心優しい人間に許してもらって、お礼に薬などを差し出すというものが多いですね。
もしかしたら、ダンジョンの河童たちも、どうかしたら薬を出してくれるかもしれませんね。
まあ、その前に押し倒されて、尻子玉を抜かれてしまいますけどね。
え? 尻子玉とはなにか、ですか?
駄目ですよ、そんなことを聞いては。女の子に対して、尻子玉だなんて。
りりたんの尻子玉は抜かれていませんよ。
ここには河童はいないですからね。
ここがどこか? ふふ、秘密なのです。
ここは、魔物もいない、誰もいない、長い夢にいるような、静かな場所ですよ。