ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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柚花テレフォン

「――っていうことがあったよ」

 

『あーもう。だから桃子先輩に近づけたくなかったのにー!』  

 

 その夜、久しぶりに自宅でクミンやカルダモンのスパイス類の封をあけて、1からカレーを作って満足した桃子は、食後にベッドに横になった状態で後輩の柚花へと通話を繋いでいた。

 休日に桃の窪地から帰ってから、きちんとメッセージで連絡は取りあっていたものの、やはり直に声で話した方が色々と話せるものだ。

 

 話の内容は、工房であったこと。

 深援隊、そしてサカモトは柚花との共通の関係者でもあるので、サカモトがやってきたというニュースを柚花に真っ先に伝えてみた。

 とはいえ、桃子はいきなり骨盤を見られ、食事に誘われ、その後は別な話題で有耶無耶になったタイミングで逃げてきた、というだけではあるのだが。

 

 なお、何故彼らが千葉に来ているかというそもそもの話だが、柚花の掴んでいた情報では彼らはドワーフを探しに来ているのだという。

 ドワーフ本人である桃子にしてみればいい迷惑だが、とはいえ柚花のように【看破】を持っているわけでもないので、今のところは他のドワーフ探しの探索者と同様に、スルーしておいても大丈夫だろう。

 ただ、サカモトの顔見知りともいえるヘノが見つかったら困るので、ヘノには一応深援隊のメンバーには気を付けるように伝えておかないといけないけれど。

 

「まあ、ちょっとお食事に誘われかけただけで、変なことはされてないよ。根はいい人みたいだし、そこまで警戒しなくても大丈夫だよ」

 

『先輩、善人だからって無害なわけじゃないですからね!』

 

「哲学じゃん。私はどっちかというと、その後の深援隊のリーダーの人? のほうがびっくりしちゃった」

 

 善人が無害なわけではない。それはまさに真理だなと桃子は思う。

 世の中には、そういう話は多いのだ。善意で行動した結果、とんでもない高価な剣をへし折ったりとか。善意で行動した結果、迷宮を崩落させてしまったりとか。桃子はそういう世界の不条理をよく知っていた。

 サカモトもまた、似たような不条理の中にいるだけなのだろう。

 

 とか哲学的な思考でサカモトのことは適当にまとめつつ、桃子が気になったのはむしろ深援隊リーダーである風間である。

 

「最初はね、映画俳優さんみたいで正直恰好いいなーって思ったんだけど。和歌さんの前でいきなり豹変しちゃうんだもん。あれかね、一目惚れってやつなのかな」

 

 桃子は学校はエレベータ式に女学園に通っており、周囲もお嬢様が多くて浮ついた男女の話などは話題にあまり出なかった。

 就職後も、身近にいるのは父親より少し上の所長と、もはやお爺ちゃんになりつつある親方だけだ。

 なので、目の前で展開された風間の告白劇は、なかなかにショッキングだった。あまりに混沌が過ぎたのですぐに部屋を出てしまったが、正直言うとあの後どうなったのか気になってモヤモヤしている。

 あの後、部屋から出てきた和歌はまだプンスカしていたので、流石に聞くのはためらわれたのだ。

 

 

『前々から気になってたんですけど、先輩の同僚の和歌さんて方、昔は探索者で、配信もなさってたんですよね?』

 

「うん、そうみたい。昔のことを聞いたら、なんかいつも話しづらそうだったから、私からはあんまり聞くことないけどね」

 

 実は桃子は、和歌のことをそこまで多くは知らない。

 

 出会って半年とちょっと。桃子のことを妹のように可愛がってくれる和歌は、常に優しく、微笑みを絶やさないお姉さんだ。

 すでに引退しているが、過去には探索者をやっていて、火属性の魔法を味方もろとも撃ち込むやや過激な魔法使いだったというのは聞いたことがあるし、配信をしていたということも少し聞いた。

 だが、当時の話を聞こうとすると、すぐに話を有耶無耶にされてしまうのだ。

 きっと、和歌には人には話し辛い出来事があったのだろうと桃子は察して、それからはあまり桃子から過去の話を聞くことはなくなった。

 

 なお余談だが、和歌が話し辛い過去があるというのもあながち間違いではないものの、桃子に過去のことを聞かれて有耶無耶にしたのは、ただ単に年齢バレを恐れているだけである。

 桃子は初対面のときから、和歌を20代半ばくらいのお姉さんだと思い込んでいるので、和歌も調子にのってそれを肯定してしまったのだ。

 なので、実年齢と齟齬が出る話を聞かれたときに、ついつい誤魔化し続けているのであった。実際には和歌はギリギリ昭和生まれだ。

 

 無論、そんな事実は今の桃子が知る由もなかったのだが。

 

『多分なんですけど、その和歌さんて、元祖アイドル系配信者の和歌さんなんじゃないですかね?』

 

「そうなの? アイドル系とかってあんまり調べたことないんだけど、和歌さんってアイドルなの?」

 

『かもしれないなって。人気があったのに10年くらい前に急に引退しちゃって、伝説のアイドル系配信者なんて言われてるんですよ。当時からものすごい熱いファンの方が多くて、今でも古今和歌衆って呼ばれてるそうですよ』

 

「へえー……ん? 10年前に引退? おかしいな……じゃあ違う人かな?」

 

『うーん、ベビーフェイスに過激な言動のギャップが人気だったらしいので、先輩のお話に出てくる方ともちょっと違うかもしれませんね』

 

 お気に入りの、最近はヘノのベッドにもなっているクマぬいをお腹に抱きながら、頭の中で計算してみる。

 和歌がいま20代後半だったとしたら、10代のうちに引退したことになってしまう。無論、それもあり得ない話ではないだろうが、和歌がダンジョン内でお酒を飲んでいたエピソードを先日聞いたばかりなので、10代のうちに引退ということはないだろう。

 配信者として引退して、探索者は続けていた可能性もあるけれど、はて。

 ……と、色々考えてみたものの、そもそも人違いの可能性もあるのだし、今ここで考えることでもないだろう。桃子は思考を破棄した。

 

『まあ、珍しいお名前と言うほどではないですし、人違いかもしれませんね。すみません、なんか話が逸れちゃいましたね』

 

「ううん、いいのいいの。まあ実際に和歌さん綺麗だし、配信してたら人気あっただろうなって納得できるもの。でもそういえばさ、柚花もアイドル系配信者なの?」

 

 ついでに、桃子は気になっていたことを聞いてみた。

 柚花の配信は知っているし、アーカイブが残っていたら視聴もするが、画面の中の柚花は自分のことを美少女と言ってのける、小悪魔系の少女配信者だ。

 そして、可愛い女の子をアイドル系というのなら、柚花はアイドル配信者なのではないだろうか、と。

 

『わ、私は……まあ、自分では美少女配信者とか名乗ってますけど、どうなんですかね』

 

「特にそういうのって、決まりとかないのかな? じゃあ、柚花は可愛いから、アイドル配信者だね。柚花はアイドル、決定だね」

 

 桃子の目から見ても、柚花は並の女の子よりも顔立ちも整っており、愛嬌もある。可愛い子がアイドルならば、柚花はアイドルに違いない。桃子が決めた。いま決めた。

 スマホを持つ手が疲れてきたので姿勢を変えて左手に持ち替える。最近は柚花と話すことが増えたので、わざわざ手に持たなくてもいいワイヤレスのイヤホンマイクでも買おうかな、などと桃子が考えていると、なんだかスマホの向こうの柚花の様子がおかしい。

 

『は……か、かわ……ふぅ……ひっひっふぅ……』

 

「大丈夫? 呼吸法の修行でもしてるの?」

 

『いえ、何でもありませんとも! 呼吸法なんていくらでも、バチこいですよ! って、ええと、そうだ! この前のスクロールはどうでした?』

 

 イヤホンマイクのことを考えている桃子とは逆に、柚花は急に「可愛い」などと言われて、ちょっと脳内に花が咲いていたが、どうにか呼吸法で落ち着かせる。最近は柚花も、桃子やヘノの空気に影響されて、思考回路がやや緩くなってきたのかもしれない。

 そして気持ちを落ち着かせて、強引に話を変えた。

 というより、柚花としてはサカモトや深援隊リーダーがおかしい人だったなんていう話はどうでもよくて、自分が入手したスクロールがどうだったかのほうが聞きたいのだ。

 

「ああ、そうだった! すごいよ! なんかスライムが粉々になって、すごく便利! スライムの群れを全滅させちゃった!」

 

『ですよね! 琵琶湖ダンジョンのスライム全滅事件、あれやっぱり先輩ですよね! あんなことするの他にいないってわかってましたよ、私は』

 

「えっ、なにそれ……? 事件になってたの?」

 

 桃子は知らなかった。あの時、スライムハウスの片隅で、死を覚悟して隠れて震えている探索者たちがいたことを。

 そして柚花は分かっていた。歌を歌いながらスライムを砕き、探索者たちを救い出した人魚姫の正体を。それでも本人に聞くまでは確証はなかったが、やはり本人だった。

 柚花としても、自分が入手した【氷結】を使い、桃子がノリノリでスライムを叩いている姿を想像して、ようやく心がほっこりできた。

 

「まあいいや、事件ていうのはともかくとして、ありがと、柚花。あの【氷結】は、柚花とニムちゃんからの誕生日プレゼントとしてありがたく受け取っておくね」

 

『はい♪ ……ん? いま、なんて?』

 

 桃子にプレゼントした甲斐があったと、柚花もルンルンだ。

 が、少し引っかかる部分があったので、もう一度聞きなおす。

 

「え? 誕生日プレゼントとして……あ、そっか。私ね、今週の金曜日が誕生日なの」

 

 桃子の誕生日だった。

 実際に、誕生日の話などしてこなかったのだから、柚花とてそれを知らなかったのは仕方ないと思う。だが、だからってこんな形で誕生日を知らされるなんてことがあるだろうか。

 柚花はショックをうけた。

 

『えええ、聞いてないですよ! 何歳に若返るんですか?』

 

「若返らないよ? 17日で、19歳になります。これで更に大人に近づいちゃうね」

 

『肌年齢は?』

 

「10歳……」

 

 今まで小さくて可愛い存在だと思っていた先輩が、更に大人になってしまう現実に、柚花はなんとなく寂しさを感じた。

 そしてそれと同時に、19歳にして肌年齢が10歳と言う先輩に対して、恐ろしさすら感じる。たまたま調べたのが肌年齢なだけで、全身スキャンをしたらこの人は本当に若返っているのではないだろうかとも、正直思っている。

 サカモトに言わせれば桃子の骨盤はハイティーンのそれらしいので、全身が若返っているということはないのだろうが、残念ながらそんなことは柚花の知ることではなかった。

 

『先輩、どれだけ合法の道を突き進むんですか。もうちょっと頑張って成長しないとヤバいですよ』

 

「合法ってなに……? まあでも、うーん、どうにか老化しないとだね」

 

『先輩、それ年配の女性に言わないでくださいね。人間関係こじれちゃいますからね』

 

「えー、難しいなあ」

 

 世間一般的にみても、頑張って老化を目指す18歳、今週で19歳というのはあまりいないだろう。そんなのは桃子も聞いたことはないし、成長したいと思ったことはあっても、老化を望むことになるとは思いもしなかった。

 仮にダンジョン内の食べ物で若返ったのならば、逆にダンジョン内の食べ物で成長促進できたりしないだろうか。そうだ、今度のときにでも女王ティタニアに聞いてみよう。そう心の中のメモ帳に書き込む。

 そして桃子は左手が疲れてきたので、今度はまた右手に持ち直して、クマぬいを枕にして横にコロンと寝転がる。気心許した後輩が通話相手なので、柚花が見たら残念に思うくらいにリラックスしていた。

 

『とにかく話を戻して! 先輩の誕生日だっていうのなら、金曜日の夜は私そっちに行きますよっ。お誕生日のお祝いしましょう! お泊りの許可も貰っていきますから、構いませんね!』

 

 そしてまた話が戻り、桃子の誕生日の話。

 昨年までは両親や友人が祝ってくれていたものの、今年からは社会人なのだからとパーティなどは考えていなかった。だが、どうやら柚花は祝ってくれる気満々らしい。

 桃子も誕生日を祝いたくないというわけではないので、柚花が祝ってくれるなら、やっぱり本音を言えば嬉しい。

 

「えへへ……ありがと。でも、ちゃんと親御さんに許可を貰うのよ? じゃあ、その日はケーキでも一緒に食べよっか?」

 

『食べます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「よし。集まったな。お前たち。今日はみんなで。増えすぎたスーッとする葉っぱを引っこ抜くぞ」

 

「スーッとする葉っぱ、思ったより増えすぎちゃったヨ。沢山収穫できるヨ」

 

「うぅ……収穫というか、駆除なのでは……」

 

「ククク……畑に、草を根絶やしにする毒をまくわけにも、いかないからねぇ」

 

「なるほど。謎は解けたよ。つまり、スーッとする葉っぱを皆で引っこ抜こうという、ことだね?」

 

「最初から、ヘノがそう言ってるよぉ」

 

「よし! まかせろ! 目につく葉っぱ、全部引っこ抜くぞ!」

 

「お前。そんなこと言って。違うの引っこ抜いたら。ツヨマージでつつくからな」

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「ククク……大量大量、だねぇ?」

 

「まさか。こんな。山もりになるほど。増えてるとは思わなかったぞ」

 

「葉っぱ、葉っぱ。これだけあると、食べほうだいなのヨ」

 

「うぅ……気のせいか、手がずっと、スーッとしますよぅ」

 

「なるほど。謎は解けたよ。この葉っぱがスーッとして、いたのだね?」

 

「最初、何を聞いてたのよぉ?」

 

「ところで! この葉っぱの山! どうしたらいいんだ!?」

 

「そうだな。さすがに山のようにあっても。邪魔だから。いったん。魔法で乾燥させてみよう。多少は小さくなるだろ」

 

「乾燥した葉っぱも、お茶とかになるんだヨ」

 

「うぅ……それはそれで、悪くないですねぇ」

 

「じゃあ。魔法で一気に。やるぞ」

 

「ククク……今ここで全部気化させるのかい? 嫌な予感がするねぇ……」

 

 ・

 

 ・

 

「ぎゃあ! 目が! 目があ!」

 

「ひぃぃぃ……目が……沁みますよぅ……めそめそ」

 

「キャー! 目があけられないヨ!」

 

「目が……これは、一本とられたね?!」

 

「ひぃーっ、な、なんだか鼻も強烈だよぅ」

 

「……嫌な予感が……当たったねぇ……クク……」

 

 

「なんか。ちょっと。すまん」

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