ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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第一ラウンド

 さほど広いわけでもない桃の窪地には、すでに両手では足りないほどの獣タイプのモンスターがひしめいていた。

 

 桃子と柚花は阿吽の呼吸とまではいかないものの、互いの得意なやり方くらいは把握している。

 窪地を闊歩する大きい魔物は、一撃で魔物を昏倒させることが出来る桃子が。

 そして、小さめの魔獣が群れをなしている、半ば焦げて失われている桃の木の方面には、双剣を手にした柚花が走り出した。

 

 

 

 桃の木の根本には、赤く染まった雪の上に倒れたお婆さんと、それに必死にしがみついて魔法を発動している子供の姿。

 柚花はその姿を見るのは初めてだが、前に桃子に聞いていた。この子が、光の魔法を使うという少女、小梅だろう。

 そして、桃の木を守るように妖精たちが雪の中を飛び交い、様々な魔法で魔物を妨害している。しかし、攻撃型の妖精でもない限りは魔物を押し止めるので精一杯のようだった。

 

「手伝いますっ! 電撃の魔法で纏めてやっつけちゃいます!」

 

「よしっ! お前ら! 巻き込まれないように離れろ!」

 

「待ってたよぉ、力貸すよぉ!」

 

 桃の木の周囲には火の妖精を中心にして妖精たちが固まっていたが、柚花の登場で形勢が変わる。

 

 小さな兎や狐のようなサイズの魔獣の群れ。

 亀裂が小さくとも、これらの小型の魔獣はそこから際限なく現れ、群れとなって押し寄せてくる。

 

 しかし、その群れに走る、枝分かれした電撃。

 電撃を受けた魔獣からは、更なる電撃が枝分かれに広がっていき、魔獣が密集していればしているほどその効果を発揮する。

 それは、ソロ探索者タチバナの十八番でもある魔法【チェイン・ライトニング】。密集した敵を相手に無双を誇る、集団戦特化の電撃魔法である。

 目の前にいる小型魔獣の群れなどは、柚花にとっては一番倒しやすいターゲットだった。

 

 彼女とて魔力に限界はあるため好きに連発できるわけではないが、しかし今回はティタニアから譲り受けた莫大な魔力がある。ならば、この程度の魔獣の群れなど敵ではない。

 

 電撃を避けることが出来た魔獣が柚花に飛びかかるが、しかしそれは大地の妖精が出現させた小さな土壁に阻まれて、それに怯んだ魔獣へと火の妖精が撃ちだした火の玉が、その魔獣を焼き払う。

 

「さすがヘノの知り合いだな! 強いな! とにかく! ここにいる集団は! 全部やっつけるぞ!」

 

「前に桃子さんと一緒に来てた人間だねぇ。守るのは得意だから、手伝うよぉ」

 

「オッケーです! 期待に応えられるよう、タチバナ頑張りますよっ!」

 

 戦いのさなか、【看破】の目でもって桃の木の方を確認する。

 そこには少女、小梅が己のスキルをお婆さんに向けている。あのスキルならば、きっとお婆さんは大丈夫だろう。

 そのそばには、何人かの妖精たち。よく見知ったニムもいる。

 

 そして、その人間たちの後ろには、半ばで折れ、黒く焦げ付いた桃の木。柚花がその木を見るのは初めてだが、本来はもっと巨大な樹だったのだろう。

 そして、その木を視て、柚花は察した。

 ここに自分たちが来る前に、この桃の木こそが、身を挺して小梅たちを守っていたのだと。

 

 

 

 

 

「ククク……どうやら、獣どもの相手は彼女らがやってくれるようだねぇ」

 

「うぅ……柚花さん……」

 

 ルイとニム。薬草の妖精と水の妖精の二人は、先ほどまでは他の妖精と共に魔獣の相手をしていたが、今は焼け焦げた桃の木の消火にあたっていた。

 癒しの力を持つ二人はさほど戦闘では役に立てないため、柚花が魔獣を引き受けているこのタイミングで桃の木の様子を見に来たのだ。

 

 そんな、桃の木の周囲に漂う二人の妖精に、下から縋るような声がかかる。

 

「おねがい、ウワバミ様のお友達さん、お婆ちゃんを助けて……!」

 

「人間の子供かい……勘違いしないでほしいねぇ。私たちは、あくまでクルラを助けたいだけだねぇ。そもそもクルラは、キミたちのせいで――」

 

 縋る相手もおらず、小梅は、ウワバミ様に言われた通りに、ずっとお婆ちゃんを抱き締めて手から出る光を当て続けていた。

 だがしかし、そんな小梅対する薬草の妖精、ルイの返答は冷たいものだった。彼女たちが助けたいのはクルラという仲間であり、名前も知らぬ人間を助けに来たわけではないのだ。

 しかし、このまま小梅を責め立て兼ねないルイの言葉を遮ったのは、仲間である水の妖精だった。

 

「ル、ルイ! 駄目です! こ、この二人は、クルラの大切な人間なんです……! だ、だから……うぅ……た、助けましょう」

 

 クルラが大切にしていた人間だから、助けたい。

 水の妖精ニムは、その瞳に涙を潤ませながらも、そうルイに食い下がる。

 

「……やれやれ、人間に心を奪われた妖精というのは、厄介だねぇ。ククク……人間の子供、キミはその光を当て続けるといいさぁ」

 

 やれやれだ、とでも言うようにルイは人間の少女の横へと着地する。続いてニムが、嬉しそうにその横へと舞い降りた。

 

 小梅は、ルイの言葉に大きく頷いてみせる。そして、ウワバミ様に言われた通りに、お婆ちゃんを抱き締めて手から出る光を当て続けた。

 小梅本人はわかっていなかったが、これは【治癒】の力だ。まだ能力の使い方も知らない小梅の力では、怪我に合わせて的確に治していくことができない。

 だがしかし、流れ出る血をとどめ置き、冷たくなろうとする身体の熱を強引にでも保つことが出来た。

 

「ククク……ご丁寧に、ここの獣たちの身体にはちょっとした毒も備わっているようだねぇ……なかなか回復が進まないわけさぁ」

 

「ど、毒は私たちがやりましょう……うぅ……あ、あなたはそのまま、このお婆さんに光をお願いしますね……」

 

「はい……はいっ」

 

 目を瞑りすでに意識を失っている老婆は、腹部を魔物に貫かれ常人ならすでに息絶えていてもおかしくない重傷だが、小梅の力によりギリギリ命を保っている状態だ。

 ルイが解毒を試み、ニムがそのサポートで体内の循環を回復させるにしても、腹部を貫通している穴をまずどうにかしなければ助かるものも助からない。

 それを今どうにか出来そうなのは、この少女、小梅だけである。

 

「ククク……隙をついて、妖精の国に連れていけばどうにかなりそうなものだけれど……そうもいかないようだねぇ」

 

 ルイが顔を上げると、窪地の中央には柚花が相手取っている小動物たちとは別の、更にサイズの大きい魔物たちが闊歩している。

 とてもではないが、眠った老婆を連れたまま突っ切れるような状況ではなくなっている。

 

「しかし、この子供はすごいねぇ……潜在魔力は桃子くん以上じゃないか。ククク……クルラも、そう思うだろう……なぁ……返事をしたまえよ」

 

「クルラ……うぅ……」

 

 ルイとニムの二人の妖精は、治療の準備をしながらも、半ばまで焼け焦げすでに原型を留めていない桃の木を見上げて、静かに語りかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

「桃子。気を付けろ。ここは【隠遁】が効きにくい。魔物にも認識されやすいと。思っておいた方がいい」

 

「わかった!」

 

 ヘノと桃子は、この魔物たちの発生源でもある壁の割れ目へと向かう。

 前に見たときはただの小さいひび割れだったはずが、今は遠目に見ても一つの小さなトンネルと呼べるほどに大きくなっていた。しかし、その割れ目の周囲へと伸びる罅はまだまだ広範囲に広がっている。

 もしあの穴が更に広がっていけば、巨大な力を持つ魔物が発生することもあり得る。

 そして最悪なことに、ただダンジョンが口を開いただけではなく、今はスタンピードが起きているのである。

 

 ダンジョンが口を開いただけならまだよかった。

 窪地に魔物が出没しようと、それらが魔力の薄い地上へ侵攻することはない。しかし、スタンピードという状況下ならば魔物が人の世界まで侵攻しうることを桃子は知っている。

 そして実際に、自然の階段を上りこの窪地から出ようとしている魔物の姿も見受けられる。

 

「ああもう、穴をどうにかしようとしても敵が邪魔してくるよっ!」

 

「どうやら。魔物の中にも。あの穴が重要な拠点だという認識が。あるみたいだな」

 

 巨大な【氷結】ハンマーを抱えて、どうにかして氷結の氷であの割れ目を封じてしまいたい桃子だが、しかしそうはさせじと桃子の行く手を魔物の群れが阻む。

 

 桃子より遥かに大きい、狼のような獣。

 猪のように、力任せで突進してくる魔獣。

 2本足で立ち上がり、鋭い爪で切りかかってくる理性を持たない獣人。

 

 どうやら、このダンジョンの真の姿は、獣型の魔物が多く出没するダンジョンなのだろう。

 両の足につむじ風を纏った桃子は疾風のように駆け抜けて、すれ違いざまに、あるいは背後をとってハンマーを振り抜いていく。

 柚花のように一度に大量の魔物を倒すことはできないが、的確に一体ずつ凍らせ、破壊していった。

 

 中には炎を吐く魔物も現れたが、ヘノが暴風の壁で炎を押し返す。

 いくらかは桃子にも攻撃が届いてしまうが、マヨイガのわら帽子はどうやら多少の炎くらいならば防いでくれるようである。

 

 

 

 すでに壁の割れ目は、猪程度の大きさの魔物ならば自由に出てこられる大きさになっていた。

 その穴をどうにかしようと悪戦苦闘していた桃子だが、なかなか魔物たちの壁を突破できなかったが、転機が訪れる。

 

「桃子。どうやら。不幸中の幸いというやつだ。【隠遁】が。安定してるぞ」

 

「じゃあ、今だね!」

 

 不幸中の幸い。ダンジョンが広がり大気の含有魔力が多くなってきた影響で、桃子の【隠遁】の効果が安定してきたのだ。つまり、いまは殆どの敵は桃子を認識できなくなっている。桃子もヘノも、そのチャンスを見逃さない。

 

「ヘノちゃん、まずあの大きいのからやろう!」

 

「わかったぞ」

 

 炎の角を持った狼。

 狼の姿かたちでありながら、炎の牙と角を持ったそれは、おそらくはこの群れのリーダー的なものなのだろう。無論、魔物の世界にリーダーという概念があるならば、だが。

 

「桃子。翔ぶぞ。鵺の時と同じでいくぞ」

 

「おっけ! 合わせてね!」

 

 

 

 吹きすさぶ雪の中、桃子は翔んだ。

 獣の魔獣たちの大半は、【隠遁】の効果でそもそも桃子の姿を見失っているため、迎撃はされない。

 そして迎撃の心配がないならば、やることはひとつ。

 

 鵺のときと違い、サカモトの剣はないけれど。

 

 その代わりに、巨大なハンマーをリーダー格の炎の狼へと、振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

「……ふう、よし! どうにか裂け目も氷漬けにしたよ!」

 

 まだ魔物はいくつか残っているものの、しかしその出現地点である崖の割れ目に【氷結】で氷を張り、魔物たちがこれ以上入ってこないようには出来た。

 根本的な問題解決ではないものの、これで小梅とお婆ちゃんを家まで送り届けて、あとはギルドを通してダンジョン庁に職員や探索者を派遣さえしてもらえば、集落の人たちの安全も保障されるだろう。

 

 桃子はそう考えて、少しの疲労を感じたものの、残りの魔物を撃退しようと歩き出すが。

 しかし背後から、氷がパキ、パキ、とひび割れる音が響き、脚をとめた。

 

「ダメだ。桃子。穴が広がっていくぞ。次は。もっとでかいのが来るぞ」

 

「うそ……うそ! これじゃ……」

 

 もう一度ハンマーを使って氷を張るが、しかし見る間に壁のひび割れが広がっていき、ハンマーの氷では対処できなくなるのも時間の問題だろう。

 そして次は、先ほどよりも大きな穴から、より多くの、より大きな魔物が出現する。

 それらが集落に入り込んでしまえば……。

 

「ごめんね、私がもっと早くに気付いて、ギルドとかに報告しておけば……」

 

「言うな。スタンピードなんか。女王だって予想できなかったんだ」

 

「でも……ううん、そうだね。反省はあとで。今はやれることをやろう」

 

 

 そこまで考えて、桃子はギュッとハンマーを握りなおし、ヘノを見つめる。

 

「あのね、ヘノちゃん……お願いがあります」

 

 

「ああ。わかってる。助けを呼んでくる。桃子と後輩だけでは。足りない」

 

「うん……待ってるね」

 

 桃子が言うまでもなく、ヘノは桃子の言いたいことを理解していた。

 ここが広がる深淵ならば、助けが来るはずなのだ。ヘノも、今ならあの予言の言葉を理解できる。

 

 桃子と頷きあってから、ヘノが光の膜へと飛び立つのと、氷に大きなヒビが入るのはほぼ同時だった。

 氷の向こうに透けて見える影は、先ほどよりも大きな魔物たち。

 

 

「みんな、力を貸してね」

 

 桃子は、周囲に飛び交う妖精たちに声をかけ、氷の上から更に【氷結】を叩き込み、とにかく時間を稼ぐ。

 

 日は沈み、風と雪が吹雪く桃の窪地で。

 

 殲滅戦の第二ラウンドが、刻一刻と迫ってきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある深援隊メンバーの会話】

 

 

「リーダー、俺思ったんですけどね。この剣を修理してくださった職人さんって、ちょっとドワーフっぽくありませんでしたか?」

 

「なんだいきなり」

 

「いえ、もしかして姐さんの予言の『小人の鉱夫』って、あの職人さんだったんじゃないですかね」

 

「あら、そこまでドワーフっぽい方でしたの? サカモト、そう思うならなんで写真の一つ送らないんですか」

 

「いや、今思いついたんスよ。あの職人さんがドワーフだったら、『かのモノ』ってのは笹川さんだったんじゃないかなって。俺、何か運命を感じるんですよね」

 

「お前な。それはただ単にお前がああいう子が好みってだけだろう。運命の相手というなら、和歌さんに決まっている。俺が何年来のファンだと思ってるんだ」

 

「お二人とも、わたくしの【天啓】を縁結びの神様かなにかと考えておりませんこと? 一度その湯だった脳みそを冷水でしめてさしあげましょうか?」

 

「いや、大丈夫っす! いま頭冷えました! 姐さんの寒気すら感じる殺意の波動で!」

 

「ああ、すまん。俺も今はそういうことを考えている場合じゃないな。しかし……」

 

「ほら、お二人とも。サワガニは見つかりましたの? あれ、この鍾乳洞窟に潜んでる知る人ぞ知るグルメらしいですわよ?」

 

「思うんですけど、多分【天啓】も、房総ダンジョンでサワガニを探せとは言ってないと思うんですけどねえ。せめて、ドワーフか妖精を探しましょうよ」

 

「妖精か……なんだか、記憶に引っかかるんだがな」

 

「……お二人とも。サワガニはいいですわ。すぐに水からこちらへ。見つけました」

 

 

「なんすか? あれ。他の探索者……にしては小さいですよね」

 

「鎧に、髭。ビンゴだな」

 

「どうやら、向こうもこちらに気付いているようですわね。私たちを誘っているようにも見えますわ」

 

「……ドワーフは、座敷童子と同様に探索者を護る存在らしい。武器はしまってついていくぞ。ここらの魔物なら、先手をとられても問題ないだろう」

 

「でも、あのドワーフ……気のせいか、身体が透けて見えますわね。まるで、幻みたいですね……」

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