ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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蛇神は雪空に舞う

「桃子。頼む。クルラの力になってやってくれ」

 

 ダンジョンから湧き出てくる魔物の対応はサカモトと風間、そして柚花に任せて、桃子は雪の中を桃の木まで駆けて行く。雪ん子のわら帽子の下で、白い息が跳ねる。

 焼け焦げ、半ばで折られた桃の木はしかしそれでも、まだ黄金色のオーラを放っていた。

 桃子はその幹に手を添えて、そこに居るクルラと会話する。

 

『んふふ♪ でっかくて、強いのでお願いね♪』

 

「……わかった。私が、クルラちゃんを……ウワバミ様を、想像してみればいいんだね」

 

 桃子も、自分がお爺さんと同じ力を持っていると言われても、そんな力に覚えはないし、そもそもお爺さんの力というのも聞いたことが無い為よく分かっていない。

 だが、知識としての理解はなくとも、感覚的に、自分がどうすれば良いのかを理解していた。それがきっと、身に刻まれた【スキル】というものなのだろう。

 

 桃子は桃の木に手を当て、目を瞑ってその姿を想像する。

 巨大なウワバミの姿を。この地の守護者の姿を。

 

「ククク……私たちの、大切な仲間の……晴れ姿だねぇ」

 

「クルラぁ……うぅ……」

 

 

 

 

 

 

「リーダー、相変わらずの切れ味っすね! あんなでかくて硬いの、よくもまあ豆腐みたいに斬れるもんですよ」

 

 サカモトが大剣を振り回しながら、深援隊リーダーである風間の剣の鋭さを褒め称える。

 彼がいるのは既に大きく開ききった洞穴の内部。

 すでに裂け目は開ききり、一つのダンジョンとしてその姿を現した。サカモトはそこから這い出てくる魔物たちにとっての、一つ目の壁として立ちはだかっている。

 サカモトの【魔法耐性】は、炎も雷も効かない。そして彼の着る特注の鎧は、並の魔物の爪や牙は通さない。サカモトは、魔物たちにとって難攻不落の壁だった。

 

「所詮は鵺も倒せないなまくら剣だ! ほらサカモト、まだまだ来るぞ!」

 

「お二人とも、遠野ダンジョンぶりですね。さっきは恥ずかしいところ見せちゃいましたけど、タチバナも頑張りますよっ!」

 

 サカモトの鎧には、魔物を引き寄せる特殊な薬草を塗り込んでいる。そのサカモトが魔物を引き寄せ、障害となって魔物たちの突進の勢いを殺す。そしてサカモトに纏わりつく魔獣たちは、風間の黄金に光る剣舞によって煤へと変わる。

 そしてサカモトと風間の領域を潜り抜けてくる魔獣たちは、柚花――美少女探索者タチバナによる雷撃によって煤へと化していく。

 時折、迸る雷撃がサカモトを基点にして広がるが、サカモト自身には雷撃が効いていないためにちょうど良い電撃の爆心地だ。

 

「色々とキミには聞きたいこともあるが、今はそれどころではなさそうだな。前衛は俺たちに任せて、このまますり抜けた魔物を頼む」

 

「はいっ」

 

 どうやら最初に涌き出ていた足の速い小型魔獣は殆どがすでに煤へと帰ったようで、今は中型、そして大型の魔獣が増えてきた。

 この後どれほどの魔物が這い出てくるのかは不明だが、現状を見て風間が司令塔となり、同じ探索者であるタチバナにも指示を出す。

 

「でもリーダー、流石にきつくないすか!? 俺たちだけで、このままダンジョン一つ分の魔物退治ですよね?」

 

「きつくてもやるんだよ! お前なんか立ってるだけでも壁になるんだからいいだろうが! 楽なもんだろ!」

 

「ひでえ横暴だ! 帰ったら訴えてやる!」

 

 中型魔物に囲まれて、とにかく倒れないように背を丸めて身を固めた状態のサカモトが、防御状態のまま風間へと声を張り上げる。どうやら、大剣を振るう余裕がなくなり、敵の標的となる壁に徹することにしたらしい。

 風間はサカモトに群がる魔物を、まるで作業のように端から黄金の刃で削り落としていく。

 阿吽の呼吸と呼ぶべき合体技――なのかは分からないが、二人とも互いに仲良く罵声を浴びせながら順調に魔物を減らしていく。

 

 が、その量は一向に減る気配がない。

 

「こんな場所で喧嘩はやめてくださいねっ! でも、正直ちょっと……このままだと魔力はやばいかもです」

 

 抜け出てきた魔物の対処だけに専念しているため、タチバナの魔力は節約できているのだが、そもそも深援隊の二人が来るまでの間にずっと殲滅戦を続けていたのだ。妖精の女王ティタニアから譲り受けた魔力も、もう底を突きかけている。

 正直なところ、残りの自前の魔力だけでは、流石にスタンピードを乗り切ることは不可能だ。

 

「……タチバナさん、最悪、君はうちの婆さんたちを連れて逃げてくれ。俺の故郷は、俺がなんとかするさ。サカモトも、無理なら退け」

 

「付き合いますよ、リーダー。人々を護るためなら、俺はいくらでも戦えます! まあ、立ってるだけの楽なポジションですけどね!」

 

「この鎧さん、こういう時はまともなんですけどねえ……」

 

 タチバナが思い返す限りでは、地上で気を抜いているときのやり取りや、あの訳のわからない飲酒配信、そして桃子から聞いた彼らの工房での言動はそれはもう不名誉なものばかりだった。

 しかし、人には裏があれば表がある。ダンジョン内で覚悟を決めた彼らは、【看破】で覗いたタチバナから見ても、邪念の少ない、信頼できるものだった。

 サカモトは少々、タチバナの前で見栄を張っているようだが、それくらいは仕方がない。タチバナすら、先程は小梅の前で見栄を張ったのだから。

 

「ほら、またでかいのがお出ましだぞ、気張れよ! サカモト!」

 

「ちょ、待ってくださいリーダー。あれなんですか?! なんか光が……!!」

 

 奥から再び例の巨獣どもが姿を見せた。

 が、魔物に囲まれ身を固めていたサカモトの視線は、巨獣ではなく洞穴の外側……桃の木の方角へと注がれていた。

 

「うそ……なんですか……アレ……」

 

 タチバナが後ろを振り返ると、彼女の目には、巨大な魔力の奔流が見えた。

 桃の木を中心に金色の光が輝き、そこには白く輝く、巨大な一匹の神獣が降臨しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「小梅さんは、今は力尽きて眠っているだけですわ。お婆様も峠は越えましたが、明日にはきちんと病院へ連れていってくださいまし」

 

「おお、どこのどなたか知りませんが、本当に……本当にありがとうございましたっす」

 

 治療を終え、峠を越えた老婆を抱きかかえ、オウカは坂道を上がり窪地の周囲へと集まる村人へとその身を引き渡した。

 妖精たちの力なのか、はたまた小梅が魔力を注ぎ続けた結果か、老婆はこの吹雪の下に何時間も横たわっていたというのに身体はまだ熱を保ち、大量の血を流したとは思えないほどに顔色も安定してきている。

 しかし、その服は赤黒く固まり、それが幻ではなかったことを物語っていた。

 

「小梅……小梅、全く……お前、母ちゃんメチャクチャ泣いてんだぞ……明日は覚悟しとけよ……このあほたれ……」

 

 オウカと共に坂を上り切った小梅は、どうやら父親らしき人物の腕に抱かれて、今は眠りについている。

 涙を隠そうともしない父親は、もう離さぬとばかりに小梅を抱きしめて、声を震わせている。

 

「さて。ではわたくしも、ここで包囲網に参加させていただくとしましょうか。わたくし、これでも一流の探索者ですのよ!」

 

 オウカは房総ダンジョンから直接訪れたため、雪をよけるためのフードすら被っていない。風雪を叩きつけられ、その煌びやかな髪もすでに散々に荒らされているが、しかしそんなことを気にする素振りもなく、彼女はまっすぐに前を向き、その杖を高らかに掲げる。

 彼女は回復スキルのエキスパートだが、高レベル探索者パーティ深援隊の一員だ。魔物と戦う術も心得ていた。

 その杖の先からは白い光弾が放たれ、風間たちの隙をついて穴から出てきた魔獣たちを一匹ずつ、的確に撃ち抜いていく。

 

「べっぴんさんがやるなら、俺らはもっと頑張らんとだのぉ!」

 

 そのオウカの姿を見た村の男たちは更にやる気を出し、今度は我先にと逃げてきた魔獣を叩き落とそうと声を上げる。

 が。

 

「なんだぁ? ありゃあ!?」

 

 しかし、唐突な光の爆発に、彼らは皆、心を奪われる。知らぬ間に、その手に持つ武器を取り落とすものもいる。

 桃の木を中心に、昼間かと思うくらいのまばゆい黄金の光が広がっていったのだ。

 

「こりゃ見覚えがある。ウワバミ様の光だで……」

 

「ウワバミ様だ……」

 

 村人たちは、その光をただただ、見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウワバミ。ウワバミ……大きな蛇、大きな蛇」

 

――桃の窪地ね、たまにツチノコが出るんだよ。知ってる?

 

 ああ、そうか。

 桃子は思い出した。小梅が、この窪地にツチノコが出るという話をしていた。

 小梅が見たものが、どのような姿かたちだったのかはわからない。小梅が何をもって、それをツチノコだと考えたのかは知らない。

 だが、ツチノコとは蛇の一種だ。おそらく小梅は、ここにだけ出没する珍しい蛇の姿を、何度も目撃しているのだろう。その蛇の正体は、きっと――。

 

 桃子の脳裏に、白く小さな蛇と小梅が戯れる景色が、ふと、映し出された。

 

 そして桃子は確信する。今、脳裏に浮かんだこの蛇こそが、ウワバミ様なのだ。クルラの、もう一つの姿だ。

 

 桃子はソウゾウする。その蛇が、人々を守護する姿を。

 

 

 

 

『ありがとう、桃子♪ ありがとう、みんな♪』

 

 

 

 

 瞬間、桃の木を中心に黄金色の光が膨れ上がる。

 桃子から、窪地から、集落から、その山から。その地の信仰と魔力を吸い上げて、それは出現した。

 

 見上げるような、黄金の光を放つ巨大な白蛇。それこそが、この地を守護するもの、ウワバミ様だった。

 

 

 

 

 

 

『みんな、大好きよ♪ ちゃんと、家族を大切にするのよ♪』

 

 

 黄金の光を放つ巨大な白蛇が、舞い踊るように雪の吹きすさぶ空を泳ぎ、桃の窪地の周囲を旋回する。

 窪地を囲うように集まった村の人々の目の前を、全員の顔を見て巡るように泳いでいく。

 村人たちは、口々にウワバミ様の名を呼び、中には手を合わせるものもいた。

 

 

『小梅ちゃん、お婆ちゃん。無事でよかったわ♪』

 

 

 眠る小梅たちに金色の光が降り注ぐと、疲れ果てていた二人の寝顔が、穏やかなものになっていく。

 小梅を守るようにして立っていたオウカは、唖然としてその白蛇が泳ぐ姿を見送っていった。

 

 巨大な白蛇が泳いだ軌跡には金色の光が広がり、その光にあてられた魔獣たちは光に消えるように煤へと変わっていく。

 そして一度天高く舞い上がった白蛇は、集落のある方向を数秒程眺めてから、満足したかのように下降していき、桃の窪地に開いたダンジョンの洞穴へと真っすぐ向かっていく。

 

 

『リュウちゃん♪ これからは、あなたがここを護ってあげてね♪』

 

 

 すれ違い様に、風間に声をかけて、一方的に意思を伝え。

 そして白蛇は、洞穴に殺到していた魔物たちを煤へと変えながらダンジョンへと潜っていく。

 風間たちが声を上げる間も与えられなかった。

 

 そしてその白蛇の姿が全て洞穴へと飲み込まれると、洞穴からまばゆい光の爆発が発せられた。

 金色の光は、まばゆく、でも優しい光で、そしてほのかに桃の香りと、酒精の香りを漂わせながら、ゆっくり消えていく。

 

 

 

 

 気づけば、吹雪も止み、静かな夜だけがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

「……ダンジョンから、魔物が消えました。スタンピードが、終わったみたいです」

 

 ダンジョンの洞穴からその中を【看破】で覗いた柚花が、同じくその場に立ち尽くしていたサカモトに声をかける。

 サカモトと柚花は、先ほどのすべての魔物を祓って消えていった白蛇が何者なのかは分からない。

 分からないが、あの白蛇が、この土地を救ってくれたことくらいは理解できる。

 ダンジョンはこの地に口を開いてしまったものの、しかし少なくとも今は、ここに魔物の脅威はなくなった。

 サカモトと柚花は、その場に腰を下ろして、互いに息をつく。

 しかし、二人の間にそれ以上の言葉は出ない。

 

 

 今はただ、地面に膝から崩れ落ちて涙を流す、風間の嗚咽の声だけが、静かな洞穴に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「ふふふ。私も沢山物語を読んできましたが、やっぱりハッピーエンドのほうが好きなのですよ」

 

「そういう意味では『人魚姫』の物語は、改変の余地がありますよね」

 

「あと、私。あの集落のお爺さんには恩があるのですよ。おかげで、とても珍しいスキルを製本できるようになりましたからね」

 

「ですからそろそろ、その恩を返すべきだと思ってやってきたのですよ。まあ、この身体は分身体ですけれどね」

 

「でも、お爺さんはもう、いらっしゃらないじゃないですか。なので、代わりにあの子を、助けてあげるのも良いかなと思うのですよ」

 

「私からしても、孫みたいなものですからね」

 

「だからティタニア、いつまでも泣いてないで。私にしがみついている場合じゃ、ないでしょう?」

 

「少しの時間くらい、女王の役割を代わってあげますから。行ってきなさい、ティタニア」

 

 

「はい、お母さま……」

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