ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

8 / 624
ももこちゃん

「もう、ヘノちゃんの馬鹿ぁ! あんな……ひっく……音……ぐす……」

 

「すまない。ヘノが油断していた。泣かせるつもりは。なかった」

 

 

 ヘノが一反木綿を撃退して戻ってきてから、今の音でまた妖怪が出てきても困るからと一行は移動して、今は少し大きめの畳張りの部屋で休んでいる。この部屋には小さな火鉢もあり、中央でぱちぱちと熱を発していた。

 ヘノによれば、この部屋のあたりは瘴気が薄いらしく、妖怪は出てこないらしい。

 瘴気という、さらりと語られた新用語に鎧騎士が興奮気味に食いついていたが、ヘノにスルーされて意気消沈していた。

 

 そして、桃子が泣き止むまでの間、火鉢の間で休憩を取ろうということになったわけだ。

 その間、ヘノが念のため部屋に風魔法の防護を貼り、鎧騎士……名をサカモトというらしい、サカモトが部屋の入り口近くでずっと警護をしてくれていた。

 ヘノは桃子の横で、ずっとそわそわ、おろおろと落ち着かない。先ほど魔物たちが襲ってきたのは、ヘノが調子にのって無駄に派手な風を起こしたからなのは間違いない。

 人の感情に無頓着な妖精だが、さすがに今回は罪悪感くらいは感じている。

 

「ヘノちゃん……罰として、次のカレーはハチミツ抜きだよ……もう」

 

「つらい。けど。わかった。桃子がそれで許してくれるなら。甘くないカレーを。食べるぞ」

 

 こんな時に今更だが桃子は、ヘノが自分のことを「お前」でなく名前で呼ぶようになってきたことに気が付いた。

 少しだけ心がほっこりしてきたので、ハチミツ以外の甘いものを入れてあげようかと思案するが、ふるふると頭を振って思考を現実に戻す。

 今は、カレーのことじゃなくて、とりあえずこれからどうするか、だ。

 

「おい。イビキ男。お前は迷惑だけど。桃子を守ってくれたから。少しだけ。感謝してるぞ。礼に。お前を。上の階層まで案内してやる」

 

「恩に着ます、ヘノさん。俺一人では、このマヨイガを抜け出すことは出来ず、仲間をここに呼ぶこともできないので、地上に帰ることは出来そうにありません」

 

「桃子のためだからな。お前のためじゃないぞ」

 

 小さな妖精に頭を下げるサカモト。

 鎧騎士ことサカモトは、立ち上がると身長190cmはあり、桃子からしたらとんでもない大男だ。彫りの深い顔立ちだが、年齢は24歳と意外と若かった。

 彼は固有スキル【魔法耐性】によってモンスターからの魔法攻撃や罠への耐性を得る代わりに、仲間からの回復魔法の効果も受け付けない。魔法ではなさそうなものだが、薬草にすら耐性を持つらしい。

 

 そういう事情で、防御力重視の装備を選んだ結果、鎧騎士のような姿になってしまったとのことだ。

 彼の得物である両刃の剣は行方不明になった際に妖精の国で紛失したらしい。今度、代わりに探しておいてあげよう、と桃子は考える。

 なお、サカモトは桃子のことを子供だと勘違いしているようだが、わざわざ訂正して個人情報を伝えるのも面倒だったので、そこは放置している。

 

 

「ええと、サカモトさんは第三層からは一人で戻れるんですか?」

 

「ん? ああ、今の声は桃子ちゃんか。すごいな、少し気を抜くとすぐに認識から外れるんだね」

 

 ヘノと会話している間に、桃子のことを忘れていたらしい。

 こういうときに【隠遁】は非常に不便である。

 

「有難いことに俺の端末はまだ生きていたから、さっき仲間にメッセージを送ったんだ。すぐに仲間で編成を組んで、第三層まで迎えに来てくれるそうだ」

 

 サカモトは、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。どうやら、先ほどからずっと仲間や友人たちからメッセージが届いているらしく、返信を送っても送ってもキリがない、といった様子だ。

 

 

 ちなみに、ここで一つ桃子の知らない【隠遁】の効果が判明していた。

 

 

 サカモトは夢の中でも桃子たちの声が聞こえた、と話していた。つまり、【隠遁】が効いていなかった。

 それもまたヘノに言わせれば単純な話で、桃子に触れている相手には効果が薄くなり、それこそ桃子がサカモトを背負っているような密着状態ではまず効果が現れないのだそうだ。

 道端の石ころには誰も気がつかないが、その石を両の手で握っている状態ならば石を認識できて当然、ということだろう。

 

 ならば逆に、自分が桃子を抱き上げれば顔が認識出来るのではないかとサカモトが言い出したが、さすがにお断りした。顔を見せたくないわけではないが、今日見知っただけの男性に抱き上げられるのは……なんだか、抵抗がある。

 

 しかし、触れていると効果が薄くなるというのは、重要な発見だった。

 ヘノのように特殊な目すら必要とせず、ただ直に触れるだけ、ならばどのような魔物でも桃子を認識できる可能性があるということだ。

 これは【隠遁】に頼り切っていた桃子にとっては、致命的な弱点である。

 今後、どうにかすべき課題だろう。

 

 

「さて、第三層への道のりに出てくる妖怪は、俺とヘノちゃんに任せてくれ。桃子ちゃんは、できるだけモンスターからは身を隠すように移動するんだ、いいかい?」

 

「イビキ男の言う通り。桃子は無理をするな。桃子の姿を。見れる魔物もいるかもしれないし。また。河童に組み付かれても。危険だからな」

 

 折れた柱で即興の武器を作ったサカモトと、神槍ツヨマージをシュッシュと振るって自信満々のヘノ。

 弱点があらわになったことで、より過保護になってしまった二人に言い聞かせられ、桃子も頷くしかなかった。まあ実際、桃子も河童はトラウマになりそうなので、出来れば相対したくはない。

 

「善は急げだ。桃子も。元気が出たから。上層までの道を。案内する。ついてこい」

 

 マヨイガは、出現する魔物のレベルも高くないし、屋内なため自然の驚異などもありはしない。ただただ、踏み入ったものを迷わせることに特化した迷宮性こそが、探索者への牙だ。

 逆に言えば、迷う心配さえないのならば、高レベル探索者であるサカモトと戦闘タイプの妖精のヘノの二人で桃子を守りながら進むことは容易であった。

 

「この場所は。正しい道を行かないと。別な場所に転移しちゃうからな。遠回りするのが。一番いいんだぞ」

 

「俺はたまたま転移してしまった先が、さっきの場所だったということか」

 

 サカモトは行方不明になったとされる日に、たまたま妖精の国への入り口がある廊下へと転移してしまった。

 そして運の悪いことに、直前に妖精が開いていた光の膜が残っており、興味本位で触れてしまったらしい。

 次の瞬間には花畑にいて、猛烈な眠気にも魔法耐性で耐えていたのだが、気づけばどこかの室内……女王の間だろうけれど、そこで眠気に抗えなくなった、とのことだ。

 

「偶然もそこまで重なるとすごいぞ。イビキ男。お前。すごい運だな」

 

 サカモトに呆れた視線を向けるヘノの案内のまま、一行は廊下を横断し、襖を破り、階段を上がり。途中に現れる多種多様な妖怪を意気揚々と撃退していく。

 基本的には室内なので歩きやすいダンジョンではあるのだが、高さ15メートルはありそうな梁の上を歩くルートだけは、人間二人の心にトラウマを植え付けた。

 

 そして気づけば、三人の前には、上層へとつながる巨大な階段が延びている。

 

 その上には――

 

「馬鹿野郎、心配させやがって……!」

 

「すみません、リーダー。半年ほど、昼寝しちゃってました」

 

 サカモトの所属パーティ『深援隊』のメンバーたちが、サカモトの帰還を待ち構えていたのだった。

 

 

 

 

「よかったね、サカモトさんはちゃんと帰れそうだよ、ヘノちゃん」

 

「思いのほか。時間がかかっちゃったな。ヘノたちも帰って。カレーを食べよう」

 

 仲間と抱擁するサカモトを下から眺めていた桃子たちは、邪魔をしないように、静かに戻ることにした。

 ヘノも、目立たないように光を抑えて桃子の服の胸元に身を隠している。これで、サカモトの仲間たちからは【隠遁】の効果により、よほど意識しない限りは認識されるようなこともないだろう。

 そして、静かにその場を離れようとするが……。

 

 

 

「桃子ちゃん!」

 

 

 

 上から、サカモトの声。おそらくもう、認識が消えかかっているであろう桃子へと向けた、大きな声。

 

「桃子ちゃん、本当に、本当にありがとう! この恩は、一生忘れないよ。ありがとう!」

 

 サカモトはそう叫ぶと、階下に向かって大きく頭を下げる。

 それに合わせて、事情を知らないであろう深援隊の仲間たちも、一斉に頭を下げていた。

 

「……またね、サカモトさん。パーティの皆さんと、仲良くね」

 

「まったく。最後まで煩い。イビキ男だったな」

 

 ヘノは相変わらずの無表情だが、桃子には彼女がわずかに笑っているように見えた。

 最後にもう一度サカモトたちを見上げ、大きく手を振って、さよならの挨拶を送る。

 見えていなくてもいい、きっとサカモトには伝わっていることだろう。

 

 ところで。

 

「ねえ、ヘノちゃん。ここからの帰り道って、もしかして今の道のりをもう一度逆から行かなきゃいけないの?」

 

「安心しろ。どうやらここの階層には。桃子の姿を見られる奴は。いない。襲われる心配はないぞ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだよぉ……」

 

 またあの命がけの鉄骨渡りみたいな真似をしないといけないのか。しかも一人で。

 

 桃子は帰りの道のりを想像して、ちょっとばかし、泣きたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【探索者パーティ深援隊 配信チャンネル コメント抜粋】

 

 

:今北 サカモトからのメッセージが届いたってマジか?

 

:ガチ いま全員で迷ヒ家に向かってる

 

:大ニュースだろこれ

 

:涙出てきた

 

:メンバー全員フル装備でやばい。道のりの妖怪どもがあっさりと消滅していく

 

:竹林の奥で赤鬼が逃げてくのが見えたんだが

 

:草

 

:この半年でこの竹林アスレチックも何度攻略したことか

 

:第二層 大竹林クリア こんなの最短記録だろ

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:第三層はさすがにもう少しゆっくり進んだほうがいいんじゃないか

 

:人呼んで深淵渓谷 普通はこんなスピードで進んでいかない

 

:天狗も烏も布切れも近づけない 弾幕やばいだろ

 

:やめろ 崖落ちたらサカモトどころじゃないぞ

 

:その高さから飛ぶなよ! お前らが命を大切にしろよ!

 

:涙でてきた

 

:正直、この布陣なら鵺が出てきても倒せそう

 

:さすがにここで鵺が出たら撤退……はしないかもな。サカモトを助けにいかないと

 

:相変わらず深援隊のドローン配信カメラは画質がいいな

 

:渓谷の奥まで見下ろせる

 

:鵺はいないみたいでよかった

 

:鵺は捜索隊の二次被害につながるからな

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:サカモトいた

 

:サカモトお!!

 

:リーダー泣いてる

 

:( ;∀;)

 

:元気そうじゃん、どこにいたんだおまえ

 

:やっぱり深援隊にはこの鎧マンが居なきゃダメだよ

 

:たまにカメラがノイズ入るな

 

:階下に向いたときに画面が乱れるな

 

:マヨヒガに何かいる?

 

:映らないからわからん

 

:鎧マンどうした?

 

:モモコちゃん?

 

:ももこちゃん誰? 下に居るの?

 

:誰だかしらんが俺も頭をさげとく サカモトを助けてくれてありがとう

 

:ももこちゃんありがとう

 

:え、桃子ちゃんは連れていかないのか?

 

:迷い家に住んでる萌々子ちゃん? マジで?

 

:迷ヒ家で女の子って言ったら、あれだろ

 

:遠野でマヨイガって言ったら、本来は座敷わらしがいるんだよ

 

:確かに、座敷童子とオシラサマがいないなとは思ってた

 

:サカモトを助けてくれたのか

 

:涙とまらん

 

:座敷童に感謝

 

:サカモト 座敷童子 ももこちゃん トレンド入り

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。