ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「こりゃあ驚いたのぉ、本当にウワバミ様がいらした!」
わたしがわたしになってから、初めて認識した人間の声は、そんな声だったわ。
それは、今からずっと昔のこと。
その聞こえてきた声は、最期のときよりも若くて、まだまだ元気だった頃の、お爺ちゃんの声。
最初はその大きな声が怖くて、わたしはお爺ちゃんの前からすぐに逃げだしちゃった。
離れてからこっそりと覗いてみたら、お爺ちゃんはとっても悲しそうな顔をしていたわ。あの時はちょっと、悪いことしたなって思う。
「ウワバミ様、こん前はでけぇ声だすつまって申し訳ね。どうかこのお神酒で、許してけらっしゃい」
次にお爺ちゃんと会ったときには、お爺ちゃんはわたしのためにお酒を持ってきてくれたわ。
その香りは、わたしがわたしになる前から大好きだった香り。いつも、誰かがわたしに飲ませてくれていた大好きな香り。
恐る恐る、お爺ちゃんが作った『オヤシロ』という小さなおうちに供えられたお酒を飲んでみたの。今までもわたしはそのお酒が好きだったのだけど、妖精の身体になってから初めて飲んだお酒は、とっても美味しかった。
おいしくて、全部、飲んじゃったわ。
「クルラ。あなたは私の子でもありますが、そのお爺様の子でもあるのでしょうね」
女王様、ティタニア様は、わたしのお母さま。
わたしは、この女王様の魔力をもとにして生まれたわ。生まれたときのことは覚えていないのだけれど、わたしが今のわたしになったときから、それは当たり前のこととして知っていたの。
でも、わたしは他の子たちと違って、お爺ちゃんの子でもあると言われたわ。
他の子たちは、お爺ちゃんが生んでくれたわけじゃないのかしら? その時はとっても、不思議だった。
「ウワバミ様、今日もよろしくお願いするっす、村を守ってけらっしゃい」
お爺ちゃんは、わたしが生まれたときからわたしをウワバミ様と呼んでいたみたい。
いつもお爺ちゃんと一緒にくる、お婆ちゃんもわたしをそう呼んでいる。
わたしはどうやら、わたしになる前から、お酒が大好きで、お供えのお酒があると全部飲み干していたんだって。
お爺ちゃんのお話を聞いたところ、ウワバミというのは大きな蛇で、お酒を沢山飲むんですって。わたし、蛇なのかしら?
それ以降、たまに、小さい蛇になる夢を見るようになったわ。不思議ね。
「おじいちゃん! あれなあに? ひかってるよ?」
わたしは集落に行くのが好きだった。その日は珍しく、お爺ちゃんとお婆ちゃんの孫の小さな男の子、リュウちゃんが訪れていたわ。
リュウちゃんは小さくて可愛いけれど、すごい魔力を持っている。
近くでよく見たら、お婆ちゃんに似た、悪いものを消すことができる力を秘めているように感じたわ。
妖精の国から行けるほかの色々な「ダンジョン」という場所には沢山の探索者がいるけど、リュウちゃんはきっと、その人たちと比べてもなお、とっても強い探索者になれるとその時のわたしは確信したのよ。
でも、あのお爺ちゃんとお婆ちゃんの孫だもの。凄いのは当たり前よね。
「ウワバミ様! 僕、強くなりたいんです! どうか、お願いします!」
あるとき、小学生に育ったリュウちゃんがやってきたわ。
わたしはよくわからなかったけど、とりあえずは「ダンジョン」で探索者さんたちを見ていて気付いたことをリュウちゃんに教えてあげたわ。魔力をうまく使えれば、人間はそれだけで強くなるのに、探索者さんたちは魔力をうまく使おうとしないんだもの。不思議。
リュウちゃんが魔力をうまく使えるように、色んなやり方を教えてみたわ。
でも、リュウちゃんが帰るときには、女王様に頼んでわたしとダンジョンに関わる記憶だけ消してもらうことになったわ。やっぱり、忘れられるのは寂しかった。
でも、それからというもの、リュウちゃんは、わたしのことを忘れているにもかかわらず、数年おきにやってきては修行をしていったわ。
その度に記憶を消しちゃった。ごめんなさいね。
「ウワバミ様、リュウのやつ、探索者になって活躍してるってよ。ウワバミ様のおかげだぁ」
リュウちゃんはあれから何度もここに来て、魔力のトレーニングをしていって、その度に記憶を消していったわ。リュウちゃんの記憶がおかしくならないかって、ちょっと心配だったけど。
もともと素質のある子だし、お婆ちゃんと同じような、悪い力を撃退する力を持っているんだもの。大活躍するに決まってるわね。
でもリュウちゃんとは逆に、お爺ちゃんとお婆ちゃんは歳をとって、ちょっと弱弱しくなっていっちゃった。
妖精の国の不思議な林檎も、妖精の国で生成できる不思議なお酒もあげた。けど、お爺ちゃんやお婆ちゃんくらいになると、それほど効果はないみたい。
昔は同じ効果のある、食べてもいなくならない豚もいたみたいだけれど、もういないのね。
もっと、二人が若いうちにあげておけばよかったな……。
「あはは、とうとう幻まで見えてきちゃいましたねー。走馬灯、でしょうかー」
色々な「ダンジョン」をさ迷っていると、お酒を飲んでいる探索者の人たちも少なくなかったわ。
何があったのか知らないけど、魔物に囲まれた穴の中で泣きながらお酒を飲んでる女の子がいたから、わたしから話しかけちゃった。
美味しいお酒をくれたから、お礼に林檎をあげたわ。
周りを囲ってた魔物は追い払ってあげたから、きっと明日には、元気になるんじゃないかしら。
たまにはこういうのもいいわね。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
集落に、可愛らしい赤ちゃんが生まれたわ。ちっちゃい、ちっちゃい、女の子。
わたしももちろん、見に行った。相変わらず集落の人たちはわたしがいることに気付いていないのだけれど、お祝いだからかしら? お酒が沢山出されてたわ。飲んじゃった。
赤ちゃんの名前は、小梅ちゃん。この子も、素敵な魔力を持ってるみたい。とても優しそうな力。将来が楽しみね。
たまに村で見かけるあの女の子も、小梅ちゃんのこと大切にしてるみたい。血のつながりがあるのかしら。不思議ね。
嬉しくて妖精の国のみんなに話したのだけれど、妖精のみんなは人間の赤ちゃんを知らないみたいで、あまり話を聞いてもらえなかったわ。残念だわ。
「ふふふ。本が欲しくて、随分と遠くまで来ちゃいましたよ」
お爺ちゃんのところに、見知らぬ小さい女の子が来た。けど、魔力が普通の子じゃない。あんなの人間じゃない。怖くなって、わたしは逃げちゃったわ。
わたしは隠れちゃったけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんは、見知らぬ子と仲良くなったみたいで、色んなお話をしていたみたいね。
わたしも、隠れないで話しかけていたら、あの女の子と友達になれたのかしら。
「……今まで……見守ってくれて……あんがとうなぁ……」
お爺ちゃんが、死んじゃった。
お婆ちゃんは沢山泣いてた。わたしは、お爺ちゃんが死んじゃったなんて、信じたくなかった。生まれたときから、ずっとそばにいてくれたお爺ちゃんが、もう。いない。もう、どこにもいない。
わたしは、お婆ちゃんと二人で、ずっと泣いていた。
お爺ちゃんのお骨は、桃の木の横に眠ってるわ。
ずっといっしょね、お爺ちゃん。
「ウワバミ様……おれに何かあっだらよぉ、小梅たちのこと、頼むなぁ」
お爺ちゃんがいなくなってから、お婆ちゃんはたまにそういうことを言うようになった。
このころには小梅ちゃんがよく遊びに来ていたから、お婆ちゃんは寂しくはなさそうだったけれど、それでもやっぱり、そういうことを言ってきた。
お婆ちゃんは、自分の力の衰えが気になっていたみたい。
この窪地には、悪いものを祓えるお婆ちゃんがいるから平和だけど、お婆ちゃんが力を失えば悪いものが増えて、他の「ダンジョン」みたいになっちゃう。
でもね、お婆ちゃん、わたしはそれでもよかったのよ。
お婆ちゃんが危険な目にあうくらいなら、魔物が沢山いる場所に放り込まれるくらいどうってことはないのよ。お爺ちゃんのお骨も、おうちに連れ帰ってくれていいのよ。
だから、無理はしないで、お婆ちゃん。
でもあの日、お婆ちゃんは無理をして、壁の割れ目を閉じようとした。
ダメだって言ったのに。もう無理だってとめたのに。
「ウワバミ様……い、一生のお願いだ、から……お婆ちゃん助けて! 小梅、なんでもするからぁ……」
一生なんて、言わないで。小梅ちゃん。
わたしが護ってあげるわ。それが、お爺ちゃんとお婆ちゃんとの約束だもの。
ううん、約束なんてなくても、生まれたときから知ってる小梅ちゃんだもの。
ウワバミ様が、護ってあげるから、泣かないで。小梅ちゃん。
そして私は、白蛇のウワバミ様になって……。
「おいクルラ! 変な妖精が! お酒を持ってきてくれたぞ!」
世の中って、不思議ね。
私はあのときにもう力を失くしたと思ったのに。今も、周りにみんながいて、女王様がいて、桃子も、後輩さんもいて。
そして、見知らぬ妖精さんが、何故だかわたしの好きなお酒を持ってきてくれたみたい。
懐かしいわ。お爺ちゃんが毎日持ってきてくれていたあの香りのお酒。
んふふ♪
美味しいわ♪ お酒、美味しいわ♪
みんな、大好きよ♪
三章 雪ん子とウワバミ様 了