ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「目的の。芋と。ついでにトウガラシとかいうのを拾ったけど。次はどうする」
いつもとは違う、窓口さんが準備してくれたリュックに芋と唐辛子を押し込んでいると、ヘノが桃子と柚花に問いかけてきた。
ヘノとしては芋が入手できたのであとはどうでもいいようで、これからの行動は他のメンバーに委ねることにしたようだ。
「うーん、もっと探索するか、一旦戻るか、ですよね」
「どうしようか。時間的にはまだ余裕はあるけど……」
手ごろな木の根に腰を下ろして足を休めていた人間たちも、どうしたものかと考える。
今回はそもそもヘノの発案な上に、二人ともこの階層に何があるのかは殆ど知らないために、何かしたいことがあるかと問われるとなかなか困る。
「わ、わたしは……うぅ……柚花さんの、配信を……見ていたいです」
しかし、柚花の肩に乗っかっていたニムは、どうやら柚花の配信姿を、もっと見ていたいらしい。
「確かに。後輩の。配信を続けるなら。それもありかもしれないな」
「そうだね、確かにここで引き返しちゃうと、配信動画としてもなんだか中途半端かもしれないもんね」
「え、そんな大したものを撮影しているわけではないんですけど……。まあでも、私は構いませんよ? じゃあもう少しだけ、奥に行っちゃいましょうか」
結論。もう少しだけ奥まで行って、柚花の配信の撮影を続ける。
ニムの出してくれた綺麗な水で喉を潤して、桃子と柚花は再び立ち上がり、配信撮影のための準備を始めるのだった。
「視聴者の皆さん、今日はさっきのお芋っぽいのが目的だったんですけど、せっかくなのでもうちょーっとだけ、進んでみようと思います! やっぱり配信としては、もう少し何か驚きの発見とか欲しいですしね♪」
撮影を再開して、ドローンカメラに向かって手を振る柚花。いまは双剣の片方だけを手にして、もう片手はフリーにしている。
やはり二刀というのは両手とも塞がってしまうため、戦闘中以外はなかなか不便そうだ。
戦闘中でも柚花の剣は大体が雷の発生装置としての役目なため、二刀流という形で近接戦をすること自体があまりないようだが。
「一応改めて説明しておきますけど、今日のこの配信動画は、私のソロ探索じゃないですからね。カメラの後ろには、顔出しNGなだけで頼りになる先輩方が揃ってるんですよ」
巨大な根と岩の蔓延るダンジョンを歩きながら、視聴者にもわかりやすく解説していく柚花。
道のりは舗装された道ではなく、ゴツゴツしていたりへこんでいたり、そもそも道の形をしていなかったりするのだが、それを視聴者に気にもさせないバランス感覚。
桃子は柚花を眺めながら感嘆の息をつく。やはり天性の素質というものはあるのだな、と。
「お、随分と天井が開けた場所に出ましたね。ここはダンジョンの広さ的には、真ん中くら……」
そして、柚花が大きな根で作られたアーチを潜った先は、巨大な空間になっていた。
これまでの道のりは、ゴツゴツした根と岩に囲まれており、どちらかと言えば閉鎖的な洞窟に近い階層だった。しかし、この空間はそれとは一変している。
見た目が岩と大樹で構成されている空間というのは同様だが、まるでスポーツのグラウンドのごとく広々とした空間になっていた。そして更に上を見上げれば、それまで根でしかなかった大樹そのものが、上へと延びている。広がった枝と根により空は見えないが、明らかに広く、上へ上へと広がる空間だった。
しかし、その空間を少し進んだところで、柚花の解説が止まる。
「桃子。来た道に戻るんだ。早く逃げた方が。いいぞ」
「え? え?」
そして、柚花だけでなく、周囲を舞って魔物を警戒していたヘノまでもがスピードを上げて桃子の下へと戻ってきたかと思えば、この場から退避するように指示を出す。
戻るのは吝かではないのだが、しかし何があったのかは気にはなる。桃子はヘノの指示通りに来た道に戻るが、その際に少しだけ振り返り広い空間の上方に目を向けた。
そしてそこに居たのは、何匹もの巨大な蜂。
巨大な蜂たちが、モーター音のような激しい羽音を響かせながら真っすぐにこちらをめがけて急降下している姿である。
「キャー!! あれはちょっと、無理です無理! 逃げましょう先輩!!」
「ひぃ……うぅ……」
配信ドローンを手で直接つかんで、柚花も慌てて先ほどまでの通路めがけて走る。
ニムも柚花の服に掴まって、振り落とされないようにと必死にしがみついている。
「は、蜂?! うわーっ?! 怖っ! 速っ!」
そして桃子も、巨大な蜂の群れを視認すると慌てて柚花と共に走りだした。
さすがにアレは、巨大な蜂の群れは、先ほどまで撃退していた蟻の魔物とは比べ物にならない。
ただでさえ空中から猛スピードで襲い掛かる敵など、この場ではヘノしか対応できないのだ。そのヘノが逃げろというからには、逃げなきゃヤバいのだ。
四人は慌てて先ほどの根のアーチを潜り抜け、蜂が入ってこれない細い通路まで逃げ込むのだった。
「お、お見苦しいところをお見せしましたね。さすがに第四層、アレはちょっと、配信気分で挑む魔物じゃなさそうです。多分、一匹や二匹じゃすまないと思いますし、上空に大規模攻撃が出来る魔法使いでもいないと無理じゃないですかねえ……」
四人とも落ち着いてから、再び配信録画を開始する。
どうやらさすがのヘノでも巨大な蜂の群れなど相手にしたくはないようで、一番後ろでアーチの向こうに突風を叩きつけて敵の妨害をしてからは、すぐに桃子の肩へと飛びついて一緒に逃げてきた。
ヘノでも相手をしたくない空飛ぶ魔物など、いったいどれだけの探索者が対応できるのだろうか。
房総ダンジョンが簡単だなんて、嘘なんじゃないかと、桃子はちょっとだけ思った。
その間も、柚花の配信は続いている。
「私の電撃って上層の魔物にはめっぽう強いんですけど、流石に第四層までくると倒せない敵が多いんですよ。今度ちょっと、魔法協会に高額払って、高レベル魔法のスクロールをお願いしようかなって、本気で考えてます」
柚花が剣先から電撃をびりびりと出しながら言う。
確かに、蟻を撃退するにしても、先ほどの姿を見ていると単純な電撃では蟻は煤には戻らないようだった。
ニムが蟻を濡らして電撃を通りやすくして、そこに電撃を浴びせるという協力技でようやく撃退できていたのだ。
桃子の【氷結】つきのハンマーは、今のところは破壊力に困ることはないのだが、しかし下層のモンスターともなるとそれすら効かなくなるのかもしれない。
やはり、そもそもの桃子の技術力を上げるべきなのかな、と桃子は考える。
しかし、肝心の『ハンマーの技術力』とはどのようなものだろうかと、考えてみる。剣術や弓術と違い、ハンマー術というのはあまり聞いたことがない。それとも、探せばどこかにハンマー術の達人というものが居るのだろうか。ちょっと想像つかない。
そんな変なことを考え込んでいる桃子を、ヘノは無言で見つめていた。
「えと、というわけでですね。房総ダンジョンでも第四層までくると、普通にヤバいことがわかりましたね! さすがにこれ以上は進みません、戻りますよ」
そして柚花についていくように、桃子たちもゆっくりとダンジョンの道のりを戻っていく。
戻るとはいっても来た道と全く同じルートではなく、方向感覚を頼りにして大体合ってそうな道を選んだだけなのだが、ヘノが何も言わないあたり、こちらが帰り道で問題ない様子だ。
そんな道を歩いていたら、柚花が足をとめた。桃子にも手を伸ばし、一旦止まるように手で制してくる。
桃子は言われるように止まるが、上空を飛んでいるヘノに質問をすることも出来ず、どうしてそこで立ち止まっているのかまでは分からなかった。
「……視聴者さん、見えますか? カメラでちゃんと映るかどうかわからないですけど、あそこにすごく魔力を含んだ蜘蛛の糸がありますよ」
柚花の指さす場所を、桃子もドローンカメラギリギリまで近づいてからジッと見てみると、確かにそこにはきらりと光る何かが存在するような気もする。
しかし、光の加減で一瞬見えた程度で、角度が変わればすぐに見えなくなってしまう。巨大な昆虫の巣だというのに、どうやら蜘蛛の糸は通常のものと同等か、あるいは下手をすればそれより細く、見にくい代物かもしれない。
「ちょっと何か、岩でも投げてみましょうか。先輩、お願いしていいですか?」
うーんと唸りながら蜘蛛の糸を眺めていると、柚花がドローンカメラの背後にいる桃子に声をかけてきた。
そういえば、カメラの裏に先輩がいるという設定の配信なのを思い出す。まあ設定も何も、事実ではあるのだが。
桃子はジェスチャーでOKのサインを送ると、キョロキョロと周囲を見回してから、手ごろなスイカ大の岩をその手に持つ。
子供のような体躯をしていても、桃子の持つスキル【怪力◎】は伊達ではない。この程度の岩なら、今の桃子にとってはスイカと同じようなものだ。
そして柚花の言う通りに、その岩を編み込まれた巨大な蜘蛛の糸へと両手でポイっと投げ込んだ。左手もきちんと添えた。
すると。
巨大な影が一瞬で覆いかぶさるように横から現れたかと思ったら、そのまま糸に触れた岩を咥えて反対側まで走り去っていく。
あまりに一瞬のことで最初は何か分からなかったが、走り去る姿を眺めたところ、どうやら今のは巨大な蜘蛛のようだった。
通路に張り出した蜘蛛の巣に引っかかった獲物を、瞬時にして捕えて去っていく巨大蜘蛛。
正直、かなり怖い。
「うわー……ちょっと、不意打ちであんな蜘蛛に襲われたら、並の探索者さんじゃひとたまりもないですね。皆さん、蜘蛛の糸には気を付けてくださいね? でも、本体がどっか行ってるうちに端っこの糸だけ回収してみましょうね。素材集めです」
桃子が巨大蜘蛛の生態にびっくりしてポカンとしている間に、柚花は適当な根っこを切断して2本の棒を作り出し、その棒をぐるぐる回すようにして器用に蜘蛛の巣を巻き付けていく。どうやら、蜘蛛の巣もモンスター素材として持ち帰るようだ。
もっぱら魔石と鉱石ばかり拾ってお小遣い稼ぎをしていた桃子にとっては、蜘蛛の巣までもを素材として持ち帰るという発想があまりなかったため、柚花の配信は目からウロコであった。
「ふぅ、ようやく三層と繋がる階段まで戻ってきました。元々は芋掘り配信のつもりだったんですけど、なんだか後半の方が大変になっちゃいましたね」
そしてしばらくそのような旅路を撮影してから、気づけば最初の位置。
第三層、鍾乳洞窟から続く階段前へとたどり着き、柚花は撮影の締めへと入っていた。
「今回の『房総ダンジョン第四層 大樹の根』でお芋を掘る配信はこれにて終了です。先輩方もありがとうございました♪ では皆さん、またねー♪」
パチパチパチ。ずっと柚花を見ていたニムが、その小さな手で拍手をしている。
桃子も拍手をして柚花をねぎらい、ドローンの撮影ランプが消えたのを見計らって、ようやく声をかけた。
「お疲れ様、配信ってすごいね。いつもはこれを生でやってるんだよね。柚花、すごいっ」
「えへへ、すごいですか? 褒めてくれていいですよ? 頭も撫でてください♪」
なんだかやたらに甘えてくる柚花の頭をなでなでと撫でる。
「お、お疲れさまです……柚花さん。お水、どうぞ……?」
そしてニムが空中に出す水の流れを両手で受け取り、ぐびっと喉を潤す。
まさに、先輩と相棒の二人によるちやほやタイムだった。
一方ヘノは、役目を終えたドローンにしがみつき、ツヨマージで勝負を挑んでいた。
「後輩。ドローンって。こいつ。どうやったら止まるんだ? 倒してみていいか?」
「ちょ、ヘノ先輩、さすがにやめてくださいねっ?! それメチャ高いんですからっ」
あわや、高級なドローンカメラはヘノに撃退される寸前で、命を救われるのだった。