ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
【怪力◎】非常に怪力になる
【頑強〇】身体が丈夫になる
【環境耐性〇】環境の変化に強くなる
【カレー製作】特殊なカレーを製作できる
【創造】様々なものを加工・創造できる
【妖精の加護】妖精の加護を受けている
【蟶ク闍・】繝?ぅ繝ォ繝サ繝翫?繝弱?繧ー縺ョ蜉?隴キ
【固有スキル:隠遁】ダンジョン内で、他者からの認識を阻害する
「あら、本当にスキルが変化していますね」
ここは最近お馴染みとなってしまった、房総ダンジョンギルドの応接室。
桃子が自分のスキルに変化があったことを窓口に伝えて、改めてスキルを鑑定してもらい、その結果について話し合っているところだった。
普段の探索者ならば受付にて口頭で説明するようなことなのだが、桃子はスキル内容がすでに機密事項になっているため、念のためと応接室で調べることになったのだ。
そして、印字された鑑定結果を見て、桃子担当の受付職員である窓口杏が口を開く。
「まず、【環境耐性〇】というのが増えてますね。あと、【加工】スキルが、【創造】というものに変化していますね」
「【環境耐性〇】は……まあ、水とか吹雪とかいろいろあったからかなあ。それで……【創造】……様々なものを加工、創造できる。うわ、なんか説明がすごくアバウトなんですね」
桃子も杏の横に座って、一緒にその紙を眺めている。
前までならば互いに正面に座ってやりとりしていたのだが、窓口に抱き抱えられたまま誕生祝いのピザパーティを開催して以降は、互いに遠慮や抵抗が薄れてきてしまい、少々距離感が近くなってしまった。
もちろん、人目がある場所では探索者と職員、肩入れせずに正式な距離感を保っているのだが、応接室のような人目のない場所ならばそこまで気にすることもない。普通に隣にくっついて座っている。
肩と肩が触れ合う距離ではあるが、柚花と違って杏は桃子へ向けた重い感情があるわけではなく、そこに他意はない。単に、1つの紙を二人で眺めるならば横に座って覗き込んだほうが圧倒的に楽なのだ。
さて、そんなわけで変化のあったスキルである。
まず【環境耐性〇】は桃子にとっては普通に嬉しいスキルだ。
どのタイミングで増えたのかは分からないが、あれだけ水中や雪の中で暴れていたのだから、その結果として増えたものなのだろうと思う。雪があまり冷たくなかったのは、わら帽子の効果だけではなかったようだ。
問題はもう一つの側、【創造】だ。
「【創造】というのは私も聞いたことがないスキルではありますが、どうしましょう、こちらで詳しく調べてみますか? 加工の亜種だとは思いますけど、ギルドの情報にアクセスすればもしかしたら該当するものがあるかもしれませんよ?」
「いえ、大丈夫です! 把握……っていうか、説明はちょっと難しいんですけど、とある筋の助言もあってなんとなく理解してるので」
ふるふると首を横に振って、杏の申し出に対して大丈夫だと断る。
出力された説明は非常にアバウトではあるが、この【創造】は、クルラを巨大な白蛇へと変貌させたスキルだ。クルラ曰く、桃の窪地でクルラを誕生させたというお爺ちゃんも持っていた不思議な力。
この力は、様々な信仰心や、想いの力など、とにかく目に見えないそういう力を糧にして、実際にそれを作り出してしまうという、率直に言ってヤバい力らしい。
らしい、というか、【りりたんの朗読チャンネル】でりりたんがそういうスキルだと解説していた。桃子にこのスキルを植え付けた張本人がにこやかにそう説明していたのだから、そこに間違いはないのだろう。
あの後、ティタニアと共に配信を見ていたら、りりたんが普通に桃の窪地のお爺ちゃんの話をはじめたので、桃子は普通に驚いた。驚きすぎて、椅子から転がり落ちるかと思った。
ティタニアが言うには、あの時ティタニアが桃の窪地へとやって来られたのは、りりたんの分身体である黒い羽根の妖精が、女王の仕事を代わっていてくれたかららしい。
あの日この場所にりりたんがいたのなら、その場でこの【創造】についてもクレームを入れるべきだった。もちろん、あの時は【創造】のお陰で助かったわけだけれど、だからと言って寝ている間に人にスキルを埋め込むのはマナー違反だと桃子は思う。
と、色々と思う所はあるのだけれど、幾らホウレンソウと言っても情報源としてりりたんのことを報告するのはちょっと危険な気がする。こればかりは『ギルドにも言えないこと』カテゴリにしておこうと、桃子は決めている。
りりたん本人が堂々と配信で語っているくらいなので、調べればすぐにたどり着くだろうが、それでもだ。
りりたんは、見知らぬ人間やギルド組織に対してちょっと……いや、かなり情が薄いので、下手にギルドがちょっかいをかけてりりたんの自由を脅かそうものなら、その後何が起こるか分からないのだ。恐らく、碌なことにはなるまい。
「では桃子さん、とりあえずこの【創造】についても、とくには問題なしということで良いですね?」
「はい。あ、でも、この【創造】のこと、出来れば他に広めないでおいてもらえますか? 私の方でも、一度ヘノちゃんたちと一緒に調べてみるつもりですけど、これは特殊すぎるというか、人に知れ渡るのはよくない気がするので……」
「なるほど……。ではわかりました、こちらは機密処理ということで。通常通りの【加工】として表示されるようにしておきますね」
「はい、お願いします」
杏も慣れたもので、変なところで好奇心を見せずに、事務的に処理してくれる。
印字した紙はシュレッダーで細切れにして、ネットワーク上の桃子のデータにも、何かしらの操作で書き換えだか何かをする。さすがに、個人情報に関わる画面は当人の桃子であっても覗かせてはもらえなかった。
そして一通り処理を終えたところで、そういえば、と杏は口を開く。
「そういえばなのですが。桃子さんの文字化けのスキルなのですけれど、ギルドに保管されていた昔のデータを辿っていくと、過去にも同様の文字化けのスキルを所有していた方がいらっしゃいましたよ」
「えっ、そうなんですか? その人はそのスキル、どうしてたんです?」
文字化けのスキル。
先ほどシュレッダーにかけた紙にも『【蟶ク闍・】繝?ぅ繝ォ繝サ繝翫?繝弱?繧ー縺ョ蜉?隴キ』という謎の文面があったのだが、それについての追加情報のようだ。
桃子もそのスキルについてヘノに聞いてみたものの、ヘノにもよく分からないらしい。変なものを食べたんじゃないか、の一言で済まされてしまったものだ。今思うとヘノの対応も酷い。
結局何も影響がなさそうだったので忘れていたのだが、女王ティタニアやりりたんなど、もっと詳しそうな相手もいることだし、後日機会があれば聞いてみても良いかもしれないなと思った。
しかしそれはそれとして、今は杏からの情報に耳を傾ける。
「それなんですが、10年ほど前に現役引退するまで、何も変わったことはなかったようですよ。その方は妖精には関わりのない一般の探索者の方ですので、さすがに個人情報に関わる範疇まではわたしの権限では伝えられませんが……」
とのことである。
しかし、ここで桃子の考えが一つ、間違いであることが確定した。
「そっかー。でも逆にそうなると、ヘノちゃんたちは無関係なんですかね」
そう。ヘノと出会ってから現れたスキルなので、桃子はこれはヘノたちとの関わりで得たスキルなのだろうと思っていたのだ。
しかし、桃子よりずっと前にいた普通の探索者が同じスキルを持っていたとなると、これはヘノが関わるスキルではない、ということになる。
スキルの中には【カレー製作】のように、一見ダンジョンでの活動とは無関係な行動の積み重ねで覚えるものも少なくないので、もしかしたら桃子が知らず知らずのうちにその何かしらの条件をクリアしていたのかもしれない。
「妖精が絡むことでしたら、ちょっとした強権で色々と調べられたのですけどね。ギルドも個人情報の扱いには色々とありまして……」
「なんだか、お疲れ様です」
個人情報の取り扱いは難しいと、桃子も話にはよく聞く。
いや、少し前にも、工房で扱う武器の所有者の情報の扱いについて、親方やお弟子さんたちに注意されたのだ。
いくら杏と桃子が姉妹の様に思い合っている二人だとしても、桃子に他者の情報を漏らすほど杏の意識は低くはなかったようである。
「っていうわけで、私のあのスキル、【創造】だったって」
妖精の畑。
実は最近、この畑を見渡せる斜面に集まることが増えてきたので、桃子は自分で木材を運び込み、ここに新しくベンチを製作した。
元からDIYは趣味で行っていた上に、ダンジョン内では【加工】――今はすでに【創造】だが――が使い放題なので、素人の少女が作ったにしてはやたらと立派なベンチが斜面に座していた。
とはいえ、ここでベンチを使う人間というのは、今のところ桃子と柚花しかいないので、立派なベンチも宝の持ち腐れ感があるのだが。まあ立派に越したことはないだろう。
なお、もう一人の人間である柚花は、本日は別なダンジョンの探索に駆り出されている。【看破】を持つ柚花は、時折正式なギルドからの依頼が入るのだ。
どうやら先日、いくつかのダンジョンにて、数分程度ではあるものの、軽度のスタンピードに近い現象が起きたという。なので、【看破】で目に見えぬものを視ることができる柚花にも、異変がないかどうかの調査に同行してほしいという内容だった。
柚花は非常に残念そうにしていたが、依頼ばかりは仕方ないと受け入れて、この日はどこかのダンジョンへと派遣されているはずである。ニムの姿も見えないので、もしかしたら離れて柚花の雄姿を眺めているのかもしれない。
そして話を戻すと、ここは妖精の畑の端に新しく作られたベンチであるのだが。
『そういう名前のスキルだったのね♪ ところで桃子、お酒、欲しいわ♪』
「もうちょっとスキルの話に食いついてほしかったよ。お酒はまだ買えないんだよね。来年になれば買えるんだけど」
桃子の横には、小さな光が漂っていた。
白と黄色の混ざったようなその金色の光は、つい先日、桃子にも視認できる程度に力を取り戻した桃の木の妖精、クルラである。
謎の黒い蝶の羽根を持つ妖精が持ってきてくれたというお酒は、非常に魔力の濃いものだった。
お酒を飲みほした小さな光は、あっという間にある程度の力を取り戻して、ようやく桃子にも視認できるほどの光になったのである。また、すぐそばに近づけば、変わらないクルラの声を聞き取ることもできる。
まだ少女の姿も、ましてや白蛇の姿も取り戻してはいないが、このまま力が回復していけば、思いのほか早いうちに元の姿に戻れるのかもしれない。
「桃の窪地に。入れれば。酒くらい簡単に。供えられてそうなものだけどな」
「うーん、風間さんに止められちゃってるみたいだしねえ。監視の目ばかりは、仕方ないよ」
『お酒♪ 私、早くリュウちゃんたちのところで、お酒を飲みたいわね♪』
桃の窪地への光の膜は、現在は利用禁止となっていた。
これはティタニアら妖精の都合によるものではなく、人間の都合によるものだ。
桃の窪地はこれからしばらくの間は人間の監視下に置かれ、正式な門で管理されるまでの間は、24時間体制で映像、あるいは生身の探索者の目で監視されることになったそうだ。
これは風間が、妖精と繋がりを持つであろう探索者タチバナ――柚花のもとへとメッセージで連絡してきた事柄である。
また、柚花も風間へとクルラの無事を報告しており、その返信はかなりの時間を置いてから『ありがとう』の一言だけであった。風間はきっと、もっと多くの言葉を語りたいのだろうが、それはきっと、クルラがあの場所に帰った時のものだ。今じゃない。
余談だが、風間をはじめ、今回の関係者たちは記憶の抹消を免れている。妖精側から助力を頼んでおいて、事が済めばあっさり記憶を奪うという選択を、さすがのティタニアも良しとはしなかった。
サカモトに至っては記憶消去の魔法がうまく効かない上、風間に関してはもはやクルラの身内と認めざるを得ない。というか、彼は記憶を消したところでどうせまたやってくるのだ。記憶の消去など、もはや焼け石に水である。
そもそもクルラの記憶に関しては、集落の人たちの大半がウワバミ様を知っているので、今更どうしようもなかった、という都合もあるのだが。
改めて考えると、クルラの自由奔放さは、もしかしなくともヘノを軽く超えていた。ティタニアが人間だったならば、度重なるストレスに今頃は胃薬のお世話になっていたことだろう。
『桃子も柚花も、まだお酒は買えないのよね♪ 残念ね♪』
「クルラちゃんって、本当に桃の木の妖精なの? 本当にお酒の妖精じゃないの?」
「こいつに関しては。女王も。頭をひねってたぞ。やっぱり本当は。お酒の妖精なんじゃないかって」
『私としては、どっちでもいいのよ♪』
桃の木の妖精として、お婆ちゃんと小梅を守り抜いたクルラの姿は桃子も見ている。あの無惨に折れ、焼け焦げた姿はやはり、小梅たちへの被害を桃の木が肩代わりしていた故のものだったらしい。
そしてその後、桃の木に宿ったクルラと会話もしている。ならばクルラは桃の木の妖精なのだ。
しかし、やっぱりどれだけ頭で理解しようとも、目の前を漂うクルラはお酒の妖精にしか思えないのだった。なんなら、お酒要素が100%で、桃の木要素がどこにあるのかわからないくらいだ。
もしかしたら、これもお爺さんの【創造】によって作られたクルラの属性なのかもしれない。だとしたらお爺さんはクルラに何を求めていたのだろうか。
「ところで桃子。この前の芋だけど。そろそろカレーに。入れてみるか?」
「そうだね、一応地上で柚花も査定してもらったみたいだけど、毒性はないみたい。食べて美味しいかどうかは分からないんだけど」
「そうなのか。まあ。カレーにすればだいたい美味しいだろ。やってみるか」
そして話が一段落すると、先日『大樹の根』で掘ってきた芋の話題になる。
あれから、地上に戻った柚花がギルドに芋と唐辛子を提出して成分を確認をしてもらったのだが、どちらも毒性はないとのことだった。
あとの問題は味が旨いかどうかだが、そればかりは食べてみなければ分からない。
『桃子♪ わたし、カレーのおうどんが。食べたいわ♪ お婆ちゃんがよく食べてたのよ♪』
そして結局のところ、食べ物の話をすれば最終的にはカレーに収束するのだが、今日は珍しく、クルラからお酒以外のリクエストが飛び出てきた。
カレーはカレーでもカレーうどん。どうやら、風間のおばあちゃんはカレーうどんをよく食べていたのだそうだ。
「あはは、じゃあクルラちゃんがもう少し力を取り戻したら、たまにはカレーうどんでも作ってみようかな」
「桃子。カレーうどんって。なんだ? うどんって。前に後輩が話していた食べ物でいいのか?」
カレーうどん。それはもちろん、カレーつゆで食べるうどんのことだ。
以前に柚花がうどんダンジョンについての話を聞かせてくれた際は、実のところヘノはあまり興味を持っていなかった。のだが、どうやらそれにカレーが関わるとなると話は変わってくるようだ。
「うん。そういえば前に、うどんダンジョンのお話もしてたね。うどんっていうのは、麺類……ええと、白くて長い食べ物なんだけど、それにカレーで作ったおつゆを作って食べるんだよ。ヘノちゃん、食べてみたい?」
「カレーうどんも。ダンジョンで食べられるのか?」
「うん、スーパーで買ってくればここの調理部屋でも食べられるよ? まあ、さすがに本場のうどんダンジョンのものには劣ると思うけどね」
「なるほどな。よし。次にスーパーに寄ってくるときは。うどんを頼むぞ」
うどんといえば、うどんダンジョン。
うどんダンジョンとは、四国にあるとあるダンジョンの通称なのだが、最近ではそれが殆ど正式名称になりつつあるという。
うどんに支配された、四国のうどんダンジョン。
きっと、そこで食べたらカレーうどんも美味しいに違いない。
このとき、気軽にヘノにカレーうどんの話をしてしまった結果、この先うどんまみれの12月を迎えることになるのだが、今の桃子はまだそのことを知らなかった。