ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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風間へのお礼

「和歌さん、深援隊のニュースってもう見ましたか?」

 

「ええ、新しいダンジョンを発見されたとかで、大変みたいですねー」

 

 工房にて。

 作業が一段落したタイミングで机に戻り、桃子は隣の席のほんわかお姉さん、和歌に声をかける。

 話の内容は深援隊のニュース。先日この工房へとやってきた風間たちのパーティだが、彼らはいま、ちょっとした話題の中心となっていた。

 というのも、深援隊リーダーである風間その人が、東北の山村にて新たなダンジョンを発見した、というのだ。即日ダンジョン庁の人員が派遣され、間違いなくダンジョンとして認定されたらしい。

 様々な情報によると、風間の実家のほど近い場所に以前から異変が起きており、それを調べに行ったところでダンジョンを発見した、という流れになっている。まあ細かいところはさておき、大まかなところでは嘘ではない。

 

 というわけで、当然ながら風間はそのダンジョンの発見された山村に常駐しており、このまま深援隊がそのダンジョンの先遣隊として選ばれることになるのだろう。

 しかし、ダンジョンの先遣隊に選ばれたというと聞こえはいいが、しかしそれは、何の事前情報もなしに、何が潜んでいるのかも分からないダンジョンへと赴くという、文字通り命がけの仕事に選ばれたということだ。

 

「えと、それでその……風間さんとあれからは?」

 

「いえ、特に何かあったわけではありませんよー? まあ、お食事とかのお誘いはありましたけど、件のダンジョンの先遣隊に選ばれたとかで、お流れになりましたねー」

 

「あー、そうですよね」

 

 何故桃子が和歌に対して、唐突に深援隊の話題を振ったのか。

 もちろん先日会ったばかりの人間が時の人となっているのだから、話題に出すのは何もおかしいことではないのだが、しかし桃子の目的は別にある。

 

 ズバリ、『風間へのお礼』である。

 

 桃子は先日の桃の窪地にて、風間たちに危ないところを救われた。桃子も柚花も、あのとき深援隊の救援が無ければ、命を失っていたか、そうでなくとも無事では済まない状態であったのだ。それだけあの巨獣は強かった。

 しかし、結局あの後は何のお礼も出来ずに別れてしまい、実は少々気になっていたのだ。

 風間からすれば姿の見えない雪ん子だったので、あの正体が工房にいた小柄な笹川さんだとは思ってもいないだろうが、工房の笹川さんは意外とそこは律儀なのである。

 

 そして、桃子が出来るお礼は何だろう、と考えた結果として出たのがこれだ。

 つまりは、『和歌に風間の良いところを売り込む』作戦であった。いや、もっと率直に言えば、『風間の恋が実るように応援する』ということである。

 

「どうしましたー? まさか桃ちゃん、あの……なんでしたっけ、サカモトさんが気になってたりするんです?」

 

「いえ別に。どっちかというと、風間さんのほうが、ほら、リーダーですし」

 

 ちなみに、風間だけではなくサカモトとオウカも当然お礼をすべき対象なので、今度何かダンジョンで見つけた貴重なものでもお礼として送ろうかと考えている。これは桃子ではなく、柚花からの提案だ。

 サカモトとしては工房にいた運命を感じる女性、笹川さん――つまり桃子とデートできるのが一番嬉しいのだろうが、当の笹川さんが万一その考えに行きつく前に、柚花が別案を提示して阻止した形だ。サカモトにとっては残念なことである。

 

「風間さんが気になるだなんて。桃ちゃん、あれくらいおじさんがタイプだったんです……?」

 

 風間は年齢にして30代半ば。小学生にも見える桃子が隣に立つと、親子のようにしか見えないし、場合によってはお巡りさんが来るかもしれない。和歌は心配した。

 なお、風間をおじさん呼ばわりしている和歌だが、自分も風間と同年代、同学年だということは棚に上げている。

 

「いや、そのお、柚花がですね! 前にあの、風間さんにとっても力になってもらったとかで」

 

「柚花さん? ああ、もしかして例の、美少女ちゃんですねー?」

 

「はい、あの美少女の柚花です。それで、えーと……風間さん、家族想いで、誠実で、ダンジョンの危険な時にも信頼できる人なので、ええと……とてもいい人だったって、柚花が言ってました」

 

 というわけで、今はとりあえず深援隊リーダー、風間の良いところを必死にアピールだ。

 しかし、桃子が風間を気にしているのではないか、などと和歌に変な風に勘繰られてしまったので、柚花の話ということでエピソードを追加する。柚花にはあとで事情を話して、謝っておこう。

 美少女の柚花が、ダンジョン内で風間に危険なところを助けてもらい、そのときの会話で人となりが信頼に値する男性だった、という話である。多少誇張してはいるが、基本的には実話に基づいているため、嘘や捏造だというわけでもない。

 それに、さすがに和歌に言える話ではないが、妖精であるクルラが大切にしていた相手のひとりなのだ。それが悪人なわけがないと、桃子は信じている。

 

 そんな風に、とりあえず風間のいいところと思われる情報を並べ立ててみたのだが。

 

「桃ちゃん、なんでそんなに風間さんを猛プッシュしてるんですー?」

 

 ジト目で桃子を視る和歌。

 どうやら唐突な風間プッシュが不自然すぎて、余計に疑われてしまったようである。

 

「いや、別に他意はないですっ。ただ、本当にいい人だったから……って、柚花が言ってました!」

 

「まあまあまあ、そんなに慌てなくてもいいですよー? 桃ちゃんが年上好みでも、私は否定しませんしー」

 

「あうあう、そうじゃなくて……」

 

 ふふふー、とにまにま笑いながら、桃子の頭をさわさわと撫で始める和歌。和歌は嬉しかったり、がっかりしたり、むしゃくしゃすることがあったりすると、何かと桃子の頭を撫でるのだ。

 そして存分に撫でたらテンションが上がっていき、元気になるのである。

 それが分かっているので、桃子もこういう場合はあまり抵抗せずにされるがままになっている。

 

 そして、和歌のもみくちゃに撫でまわす手が止まった。

 

「冗談ですよ、冗談。大方、先日私が不機嫌になってたこと、桃ちゃん気にしてくれてるんですよね?」

 

「え、いや、まあ、はい」

 

 先日とは、風間とサカモトが工房へやってきたこと。あの時は、サカモトのナンパ紛いのお誘いが原因で和歌は最初から不機嫌だった。それこそ、桃子や親方が恐怖を感じるくらいに。

 そして和歌のファンであった風間もその煽りで随分な塩対応をされていたのだが、そのことを桃子が気にしているのだろうと勘違いされているようである。

 

 実のところその時のことは全然考えていなかったのだが、和歌が勘違いしているならそれでいいや、とこの時桃子は思った。

 

「桃ちゃん、優しいですからねー。まあ、あのときは私も大人げなかったです。心配しなくても、ちゃんとお友達としてやりとりは続いておりますから、大丈夫ですよー」

 

 桃子は心の中で、風間に懺悔した。

 さりげなく、桃子なりに風間を猛アピールしてみたけど、最終的には「お友達」という評価だ。

 

 こりゃ風間の恋は実らないなと思った桃子は、人生の諸行無常を感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、ちょっと柚花の名前を使わせてもらいました」

 

 その夜、自宅にて。

 名前を勝手に使わせてもらったこともあり、桃子は柚花へと通話をかけていた。

 最近は柚花は【看破】所有者としてのギルドからの依頼が立て続けに入っており、房総ダンジョンでゆっくり話す機会が無かったので、柚花の声を聴くのも数日ぶりだ。

 

『構いませんよ。っていうか、風間さんたちに危険なところを救われたのは紛れもない事実じゃないですか』

 

 実際に、桃子と柚花では手も足も出なかった巨獣を、サカモトと風間はあっさりと倒してしまった。

 なので、柚花の言う通り、桃子は何も嘘はついておらず、事実を列挙しただけなのだ。さすがにそれで文句を言うほど柚花は狭量なつもりもない。

 

「でも、これで、和歌さんとうまくいってくれればいいんだけどなあ。やっぱり、お友達、じゃ難しいかなあ」

 

『うーん、どうでしょうね。大人のお付き合いってわかりませんし。あとはまあ、本人たちの問題ですしね、さすがに』

 

 柚花としては、桃子がお世話になっている同僚のお姉さんというだけの情報しかないため、脈があるかないか、などの区別はつけようがない。

 そして桃子には申し訳なく思うけれど、こればかりは17歳と19歳の小娘が頭を悩ませたところで、自分の二倍は生きている風間たちの恋愛のことなどさっぱり分からない。というか、本音を言えば興味もない。

 そして更に言えば、桃子が他の男や他の女の話ばかりしているので、柚花としてはあまり面白くなかった。

 

 桃子には自分のことをもっと見てほしいと思う。 

 

「うん、そうだよね。じゃあ次は柚花のお話聞かせて?」

 

『うわっ、心の声漏れてました?!』

 

「え? なんの話?」

 

 とか考えていたら、柚花自身のことを聞かれた。

 この先輩は超能力者か何かか? と柚花は訝しむが、能力的にはむしろ自分の方が超能力者みたいなものである。桃子が人の考えなど読めないことは柚花が一番分かっているのだった。

 

『コホン……失礼。えと、私のお話ですか? 学校の話と探索依頼の話、どちらがいいですか?』

 

「学校生活も気になるけど、そういえば探索依頼ってどうなってるの?」

 

 桃子が聞いている話では、柚花はしばらくの間はギルドからの依頼で出ずっぱりという話だ。

 

 柚花の【看破】は敵の罠を見つけ、隠し通路を発見し、そして条件次第では事前に魔物の襲撃に気付くことが出来るという、一人いるだけでダンジョン探索の成功率が上昇する、どのダンジョンでも重宝する能力なのだ。

 もちろんその【看破】をもってどのダンジョンに、どの探索者と潜るかというのは柚花の自由であり、他者が強制は出来ない。

 なので、あくまでギルドからの「お願い」という形で、柚花にはちょくちょく探索依頼が舞い込んでくる。

 

『流石にギルドからのお願いですし、無下には出来ませんからね。私が学生だから土日だけの依頼となってますけど、これからしばらくの間は土日はあちこち出ずっぱりみたいで、先輩と遊びに行けないみたいです……めそめそ』

 

「そっか……あまり、無理しないでね。もう柚花の身体は柚花だけのものじゃないんだから」

 

『なんか意味深な言い方』

 

「柚花の身体はニムちゃんのものでもあるからね』

 

『妖精の加護ってそんな恐ろし気なものでしたっけ? まあでも、依頼自体は大した内容じゃないんですけど、せっかくニムちゃんにも加護を貰ったのに、その間みんなに会えないのが寂しいですよ』

 

 通話の向こうで、柚花の大きなため息が聞こえる。

 

 この後輩は、スキルの影響で他の人とともに行動することに負担を感じるからこそ、ソロ探索者の道を選んだのだ。

 だからきっと今回も、共に行動する人たちとの間に軋轢を感じてしまうのだろう。表面的なトラブルが無かったとしても、だ。

 なので、せめて自分だけでも柚花の安心できる人物でいよう、たっぷり柚花を甘やかしてあげようと、桃子は思う。

 

「よしよし、今度一緒にダンジョン行ったら、カレーうどん食べようね」

 

『先輩、カレーライスからカレーうどんに乗り換えたんです?』

 

「やだなあ、カレーは何にでも合うでしょ?」

 

 カレーうどんを引き合いに出したのは、ヘノに食べさせる約束をしたからであって、特に他意はない。

 もちろん、何かのフラグをたてようとしたわけでもない。

 

『あ、はい。そうですね』

 

 しかし、妙に勘のいい柚花は思うのだった。

 自分がいない間、この先輩はカレーうどんでひと騒動起こしたりするんじゃないかな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「女王。うどんダンジョンへの道を。知らないか?」

 

「……?」

 

「女王。聞こえているか。ヘノは。うどんダンジョンに。行ってみたいぞ」

 

「いえ、聞こえておりますよ。ただ、その……なんでしょうか? その、うどんダンジョンとは」

 

「なんだ。女王でも知らないのか。桃子と後輩が言っていたんだけどな。うどんで出来たダンジョンらしいぞ?」

 

「……?」

 

「女王。どうしたんだ。耳でも。疲れちゃったか」

 

「いえ、聞こえてはおります。聞こえてはおりますが……その、うどんで出来たダンジョン、とは?」

 

「うどんていう。白くて長い。食べ物があるんだ。確か。それのダンジョンとか言っていた気がするな」

 

「なるほど」

 

「それで。そのダンジョンに行ってみたいと思うんだけど。そこに続く道とかは。ないのか?」

 

「ヘノ、恐らくですがその『うどんダンジョン』という名称は、地上の方々が付けた名称だと思うので、私は存じません。もう少し、どのようなダンジョンなのかという情報があれば、もしかしたら探せるかもしれませんが……」

 

「他の情報か。ええとな。うどんはカレーにつけても美味しいらしいぞ」

 

「なるほど」

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