ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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創造テスト

「がんばれ、がんばれっ」

 

 今日も今日とて房総ダンジョン。

 第一層では、ヘノと桃子が、新人探索者のパーティーとゴブリンの群れの集団戦を応援していた。

 どうやら彼らは、引率のベテラン探索者の手を離れたばかり、見習いから一皮むけたばかりのひよっこ集団のようで、ゴブリン相手にもなかなかの及び腰である。

 いくら房総ダンジョンのゴブリンが弱いとはいえ、人型で武器を持った存在を相手にしたら、誰だって最初は怖いのだ。

 

「桃子は。初めてゴブリンを倒したのは。投石器とかいう道具だったか」

 

「うん。私ね、一人きりだったから、最初はゴブリンに近づくのも怖くって。だから、遠くからこうやって……その時は自作の道具を使ったんだけど、岩をぽいって飛ばしたの」

 

 そう説明しながらサッカーボールほどの適当な岩を拾い上げ、探索者たちの死角に潜んでいたゴブリンに素手で投石をして、見事に命中させる。

 ゴブリンはグギャッという奇声を上げて、しかしすぐに煤になって消滅していく。

 

 雑談交じりにゴブリンに岩を投げて消滅させる桃子の姿は、優しい女の子どころか、一周廻って恐ろしさすら感じる姿であるが、例のごとく【隠遁】の魔力で覆われているので目撃者は皆無であった。

 もし、この姿を柚花や窓口が見たらまた「超合金のマシュマロ」なる言葉で桃子を評価したことだろう。

 

「今思えば、私も強くなったんだなーって思うよ。多分いまなら、素手でもゴブリンのことボコボコに出来る自信あるもん」

 

「ヘノは。桃子は。ハンマーを構えてる姿が。一番似合うと思うから。素手よりもハンマーがいいぞ」

 

「じゃあ、次にゴブリンが出てきたら、ハンマーで叩こうね」

 

 若い探索者たちが無事ゴブリンを倒しきったのを見届けたところで、桃子とヘノは再び下層へと向かい、森の中を進んでいく。

 後ろでは、大きな魔石が出てきたことではしゃぐ探索者の少年たちの弾む声が響いていた。

 

 

 

 

「ところで桃子。どうだ? 何か出てきたか?」

 

「ううん、なーんにも。やっぱり、適当にものを想像したら出てくるようなスキルってわけじゃないみたいだねえ」

 

 森を歩きながら、桃子の肩にのったヘノが声をかける。

 実は先ほどから、ただただ森を散歩していたわけではなく、桃子は歩きながらも【創造】の実験をしていたのだ。

 具体的には、桃子がとにかくあれこれと想像してみて、それの実体化を目指してみよう、といった内容の実験だ。

 場所はどこでもよかったので、妖精の国へと向かうついでに歩きながら色々とテストしていたのだ。

 

「カレーのことなら間違いなく細部まで想像できるんだけど、カレーは出てこなかったねえ」

 

「じゃあ桃子。次はもっと簡単なものにしよう。じゃがいもだ」

 

 そんなわけで、歩きながらひたすらカレーを想像したり、じゃがいもを想像したり、歩き疲れたら椅子を想像してみたりと色々試してみたものの、全く以て何かを新たに【創造】できそうな気配はない。

 

「やっぱり、りりたんの動画で言ってたみたいに、色々な人の信仰心とか、そういうのが必要なんだろうね。あとは、桃の木に毎日お供えをして、そこの神様に祈り続けるとか」

 

「それは最後の手段だな。クルラみたいなのが増えたら。さすがに。困るだろ」

 

 結局、この後もうどんやらチョコレートやら色々と想像しながら歩いてみたのだが、何一つ成果は出ないのだった。

 

 ただ、歩きながら桃子は思う。

 もしかしたら、本当にもしかしたら。

 

 この房総ダンジョンにてドワーフのことを『ソウゾウ』していけば、噂になっているドワーフと会えるのかもしれない。

 

 遠野ダンジョンで座敷童子の少女を『ソウゾウ』していけば、具体的に、多くの人々が愛する『あの子』がこの世界に本当に現れるのかもしれない。

 

 しかし、桃子は自分から意図的にその実験へと足を踏み込むことはしなかった。いくらなんでも、新たな命を創る責任というのは、重すぎる。

 とはいえ。そもそも桃子は現段階でこのスキルを自分の力で制御出来ているわけではないので、ひょんなタイミングで知らず知らずに発動してしまっている可能性もあるのだが。

 

 なんにせよ、少なくとも本日のこの道のりでは、桃子たちが新たに何かを【創造】することはなかったようである。

 

 

 

 

 

「というわけで、道すがら【創造】をテストしてみたんですけど、なんにも作れませんでした。全然スキルのこと、わからないままです」

 

「そうなのですね。お母さまが桃子さんに付与したというのなら、決して悪質なものではないとは思うのですが……」

 

 ここは妖精の国、女王の間。

 

 スキル【創造】について、桃子は妖精の女王であるティタニアに相談しているところだった。

 後からヘノたちに聞いたのだが、どうやらこの【創造】は桃子が寝ている間にりりたんが付与したものだという。それは早く教えてほしかった。

 りりたん絡みならば現女王であるティタニアが何か知っているかとも思ったのだが、しかし残念ながら、ティタニアも人間のスキルというものにはさほど造詣が深いわけではないらしい。

 

 桃子とて、クルラの誕生にも関わるこのスキルが悪質なものだとは思ってはいないが、扱いが難しく、責任重大なスキルであるのは確かだ。

 このスキルに関しては、もっとじっくりと調べていく必要もありそうだし、出来ることなら自分で制御出来るようになりたい。

 いざとなればりりたんに直接コンタクトをとってみる選択肢も、やはり考慮に入れておくべきかもしれない。

 

 

「ズルズル」

 

 

「クルラちゃんは、元から小さな妖精が宿る桃の木に、お爺さんが毎日お祈りしてたら女の子の姿に進化したんですよね?」

 

「ええ。まあ、それは滅多にあることではないとは思いますが。やはり、お母さまの言っていたように、信仰心などの人間の持つ心の力がカギとなるのではないでしょうか」

 

 クルラは、元から小さな妖精が宿るほどの力を持った桃の木。ウワバミ様という、架空の神様への信仰心。そしてあの、実際に神がいてもおかしくないと人々に信じさせる不可思議な窪地。それらの要因が重なったところに、最後にお爺さんの【創造】というスキルが後押しをしたのだ。

 もしそのどれかが欠けていれば、お爺さんの【創造】と言えども、クルラを生み出すことはなかったのだろう。そして、桃子の【創造】が土地神としてのウワバミ様を生み出すことも当然、無かっただろう。

 

 

「ズルズル」

 

 

「あの、妖精の誕生って言えばなんですけど。前から疑問だったんですけど、ティタニア様が治めていないような遠くのダンジョンだと、妖精さんってどういう風にして生まれるんですか?」

 

「そうですね。私のような存在がいない場所であれば、魔力の集合体としての光……柚花さんの言うところの妖精の赤ちゃんはいたとしても、少女の姿を得ることはほぼ無いと思います。あれは、私の魔力がもとになっていますからね」

 

 せっかくなので、桃子は前から聞いてみたいと思っていたことをティタニアに聞いてみた。ティタニアが治めているダンジョン以外の、妖精のことを。

 

 ティタニアが治めている土地というのは、存外狭い。この妖精の国は日本にあるらしく、海外のダンジョンとは繋がっていないのだ。

 ならば、ティタニアの手が届かない場所の妖精たちはどう過ごしているのかと思い聞いてみたのだが、どうやらティタニアの魔力が無ければそもそも少女の姿に転じることが無いのだという。

 

 口ぶりからして、他にもティタニアのような存在はいるようなので、必ずしもゼロというわけではなさそうだが……。

 

 

「ズルルッ。ピチャッ」

 

 

 

 

「あ、ティタニア様の魔力がもとになってるから『お母さま』なんですね。じゃあ、ティタニア様が行なっている、ええと……浄化、というのは、他の場所だと?」

 

「それは場所に寄りますね。私たちのような魔力で生まれたものが瘴気を抑えている場合が多いと思いますが、場所によっては誰も治めるものがおらず、上層も下層も関係なく、瘴気が渦巻いているような場所もあるでしょう」

 

 更に話題を深く掘り起こしてみると、どうやら他の場所なら他の場所で、ティタニアのように「魔力で生まれたもの」が治めているのだという。

 桃子はそれを聞いて、つまりティタニアの縄張りの外は、他の何者かの縄張りなのだな、と理解した。

 噂に聞くコロボックルとか化け狸とかも、もしかしたらその他の縄張りの所有者の類なのだろうか。それとも、ティタニアとは別の女王が治める、こことは違う妖精の国が存在するのだろうか。

 

 

「ズルズル。ピチャピチャッ」

 

「って、ヘノちゃん、カレー汁飛んでるよ、カレー汁っ」

 

 だが、桃子の考察は先ほどから滅茶苦茶に飛び散ってくるカレー汁によって遮られる。実は、先ほどからティタニアと桃子の会話の横では、ずっとヘノがその小さい身体でカレーうどんをすすり続けていたのだ。

 カレーうどんというものは、汁を飛ばす食べ物として有名である。カレー大好きな桃子とて、白い服のときに進んでカレーうどんを食べようとはあまり思わない。

 

 うどんというものはご飯粒と違って麺の一本一本が長く太いので、ヘノの小さな身体では流石に食べられないかなとも思ったが、やはり妖精の胃袋は物理法則を超えている。

 時間をかけて、ヘノは一本ずつすすっていき、最終的にはカレーうどんを食べきった。

 

「ふふふ。ヘノにはちょっと。このうどんという麺は。太すぎるのかもしれませんね」

 

「ごめんね、次はもうちょっと細めの麺をスーパーで見てみるよ」

 

 しかし、食べ終えたとはいえやはりヘノにとって食べやすいものでないのは間違いないだろう。

 今度はもう少し細めのうどんで、いやいっそお蕎麦かラーメンで、と考えたのだが、しかし続くヘノの言葉にその思考も吹き飛んだ。

 

「桃子。スーパーも悪くはないけど。うどんダンジョンだ。うどんダンジョンで。もっとヘノにぴったしの。うどんを探そう。だから女王に。うどんダンジョンを説明してくれないか」

 

「ああ、そういえば桃子さん。先日からヘノが聞いてくるのですが、うどんで形作られたうどんダンジョンというのは……その、一体なんのことなのでしょうか?」

 

 うどんを食べ終えたと思ったら、うどんダンジョンについての説明を求められてしまった。

 うどんで形作られたダンジョンなんていうものは桃子だって知らない。情報がかなりねじ曲げられている。

 

 しかし桃子とて、遠く離れた四国にあるダンジョンについて知っていることなど少ない。

 半ばネタのように、ネット界隈では「うどんダンジョン」として語られている程度の知識で、実はそれ以上のことはよくわかっていないのである。しかし桃子に注がれる期待の視線に、「知らない」とは答えづらい。

 うーん、うーん、と頭をひねった末に、桃子はひとつの答えを導き出した。

 

「えーと……そ、そうだ! 話すと長くなっちゃうと思うんで、端末で、一緒に調べましょっか」

 

「さては桃子。あんまり。知らないんだな」

 

 ヘノの図星に、桃子はただただ目を泳がせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:ついに深援隊が遠野から去ってしまうのか。

 

:思えばもう1年くらいずっとここに居ついてたんだよな、ホーム登録もしてたんじゃねえの?

 

:萌々子ちゃんに守られる会のメンバーも減っちゃうのかあ

 

:名誉幹部のサカモト氏も新たなダンジョンへ旅立ってしまうのですね・・・

 

:深援隊メンバーがいなくなったら、戦力的にヤバくね? 鵺がいなくなったとしても、鬼とか烏天狗とかって残った連中だけで倒せる?

 

:だ、大丈夫、いけるやろ(震え声)

 

:最近はせっかく、マヨイガの拠点が形になってきたのになあ。寂しいね。

 

:結局サカモトは萌々子ちゃんには再会できたんだろうか?

 

:定期的に松茸が減ってたり、気づいたらお皿が綺麗になったりしてて、萌々子ちゃんはちょくちょく出没しているって話だが

 

:直接的に姿を見せてはくれないの寂しいね

 

:んでも実際、深援隊の全員が新ダンジョンに行っちゃったら遠野の戦力ダウンが怖いなあ

 

:メンバーの何人かは残ると思うけどね

 

:遠野に嫁さん作った奴とかな。

 

:なにそれめでたいじゃん

 

:いなくなる前に、深援隊の人たちに何かお礼したいなあ

 

:あいつらのお陰で遠野ダンジョンの治安よくなったしね。本当に。

 

:残ってる連中、最後にもう一回だけマヨイガに墓参りに行くってよ。メンバー募集してたよ。

 

:マジで? 俺参加するわ。

 

:私も参加したいなあ

 

:ミーも参加したいデース

 

:誰やねん

 

:ちゃんと、日持ちのするお菓子とかジュース持っていくんだぞ

 

:お墓に甘いお菓子と辛いお菓子置いといたら、甘いのだけなくなってた話すき

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