ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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大好きヘノちゃん

「思うんだけど、ヘノちゃんだけ空を飛んでるのってずるくない……?」

 

「そんなこと言われても。困るぞ」

 

 ヘノとともに、サカモトを上層まで送ってきた帰り道。【隠遁】の効果により妖怪が襲ってくることこそなかったが、二度目の高さ15メートルの梁渡りを終えた桃子は、ほとんど魂が抜けていた。

 今となっては妖怪よりもなによりも、高所が怖い。河童の恐怖など、軽く吹き飛んでしまった気がする。

 

「うう、もう歩きたくない。休みたい。帰って夕ごはん食べて寝たいよぉ」

 

 まだ力の入らない足腰を奮い立たせ、壁に手を当ててよろよろと立ち上がる。朝から房総ダンジョンに潜ってから色々ありすぎて、ところどころで携帯食は口にしていたものの、さすがに心身ともにへとへとだ。

 まずは妖精の花畑に戻って、申し訳ないけれどそこでしばらく休ませてほしい。

 

「休息。そうだ。せっかくだから桃子。妖精の国に戻ったら。そこでカレーを食べよう」

 

「ふぇ、カレー? あそこでカレー作るの? さすがに迷惑じゃない?」

 

「そんなことはないだろ。女王は。カレーが好きだって言ってたぞ。妖精たちみんな。カレーに興味。津々だ」

 

「そ、そうなんだ……?」

 

 桃子はてっきり、妖精は花の蜜などを飲んでいるものだと思っていたのだが、どうやら想像とはちょっと違うらしい。

 そもそもあの場所でどういう経緯があればカレー好きになるのかわからなかったが、ヘノが言うのならばそうなのだろうと、桃子は疑念を飲み込んだ。

 

「じゃあ、頑張らないとね! カレー名人としては!」

 

「その意気だ。桃子はやっぱり。カレーの匂いが似合う人間だな」

 

「それって褒め言葉なの?」

 

 ヘノの応援なのかなんなのか分からない言葉に少々複雑な気持ちも湧くが、カレーの話をしていたらなんとなく元気が出てきた気がした。

 やはりスパイスの力は偉大である。

 

 

 そして数十分後、どうにかマヨイガの往復を果たして、へとへとの体で妖精の国へと戻ってくることができた。

 

 

 

「ただいま戻ったぞ。女王」

 

「ヘノちゃん、敬語使おうよ敬語。ティタニア様、無事にサカモトさん……例の鎧騎士さんは仲間と一緒に地上へと戻ったと思います」

 

 女王に対しても不遜であるヘノに苦笑を浮かべつつ、桃子は大きな花の玉座に座る女王ティタニアに頭を下げる。

 

 ここは妖精の国。無事にマヨイガを抜けて花畑に戻ってきた桃子たちは、まずは女王へ帰還の報告を届けることにした。

 実際にはサカモトが無事に地上へ戻ったのを見届けたわけではないのだが、あのパーティメンバーが揃っているのならば何も問題はないだろう。

 

 二人の報告を聞き届け、女王は満足げに頷く。

 

「ありがとうございます、桃子さん。それにヘノも、ご苦労様でした。桃子さんもお疲れでしょう、よろしければ本日はここで休んでいかれませんか? 人間用の部屋もご用意しますよ」

 

「え? いいんですか? じゃあ……どうしようか、ヘノちゃん」

 

「女王。桃子は。カレーを食べたいって言っているから。火を使ってもいい場所を。用意してほしい」

 

「まあ、カレーですか?」

 

 それまで座していた女王が、目を大きく開いて立ち上がる。

 更には、なんだか離れてみていた妖精たちも慌ただしくなってきた。

 

「では、調理場と大鍋も用意させましょう。しかしまずは、やはり桃子さんも疲れているでしょうから、ヘノ、部屋へ案内してあげて」

 

「わかった。じゃあ桃子。行くぞ」

 

「わ、ヘノちゃん早いって、待って待って……!」

 

 相変わらずさっさと移動を始めるヘノを追いかけ、桃子も慌ててお辞儀をしてから女王の部屋から立ち去る。

 

「カレー……ですか。懐かしいですね、あの子は今も、元気にやっているでしょうか」

 

 桃子の後ろ姿を眺め、妖精の女王ティタニアは、遠い過去に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

「うわあぁぁ、溶けるぅう……」

 

 桃子は実にだらしない顔で溶けていた。

 

 もとい。極上のフワフワのベッドに身体を預けて、顔がだらしなく、ふにゃふにゃになって脱力していた。

 案内された部屋はきちんと人間サイズの部屋で、設置されていたベッドはマシュマロと綿あめとお餅を足したような、至高の弾力である。何の素材で出来ているのかはさっぱりわからないが、原材料などは些細なことだ。

 

 とにかく理想的な、人間をダメにするベッドだった。

 

「桃子。大丈夫か。人間は。布団では溶けないと思うぞ」

 

「比喩なんだけどなぁ……ねえヘノちゃん」

 

 ふわふわに包まれた状態で、顔を枕に押し付けたままで、桃子は枕元にいるヘノに声をかける。

 先ほどまでは考えていなかったのだが、ベッドに横になってから、考えていたことだ。

 

「ヘノちゃんは、サカモトさんを連れて帰る役目のために、私に声をかけてくれたんだよね」

 

「そうだな」

 

「じゃあ、明日からは……」

 

 桃子は、こんなに誰かと話しながらダンジョンを探索したのは今日が初めてだった。

 足はヘトヘトだし、河童には襲われるし、高所を渡る羽目にはなるし、散々といえば散々だったのだが、それでも今日の感想は『楽しかった』と、断言できる。

 

 それはきっと、未知のダンジョンだから、人を助けることが出来たから、それだけではなく、ヘノというパートナーが居たからだろう。

 

「桃子。ヘノは。桃子が気に入っているし。桃子に加護を与えているし。一緒にいて。嫌な気はしないぞ」

 

「うん……」

 

「だから。明日からも。ヘノは桃子につきまとうぞ。カレーも食べたいしな」

 

「ヘノちゃん……大好き……!」

 

「んぐぐぐ。何するんだ」

 

 ヘノを捕まえて、胸元に抱き寄せる。

 今、どんな顔をしているのかは見られたくないので、ヘノが桃子の顔を見れないように。ぎゅっと抱きしめる。

 

「んぐぐ。押し付けられると。桃子の胸は。小さいから。ちょっと痛いぞ」

 

「ヘノちゃんのあほっ」

 

 胸元からぽいっと追い出した。

 いくら大好きな相手でも許されない言動というのはあるのだと、桃子は嘆いた。ヘノは、わけがわからなかった。

 

 そんな風にベッドで二人、ゴロゴロしていると。こんこん、と小さなノックの音がする。

 

「あ、あのぉ……ちょ、調理場の準備が出来ましたよぉ……?」

 

 ガチャリと扉が開き、ヘノと同じくらいのサイズで、うっすらと青い光を放つ妖精が、扉の隙間から中を覗いていた。

 どうやら準備が出来て呼びにきてくれたらしい。妙におどおどしていて、同じ妖精と言えどもヘノとは全く違うんだなと、桃子は新たな発見に感心していた。

 

 もしかして、誰に対しても不遜な態度のヘノだけが、妖精の中でも特別おかしいのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【深援隊リーダー 風間の手記より抜粋】

 

 

 〇月△日

 

 坂本がダンジョン内で失踪してから、六か月。

 あの日以来、俺たち深援隊は遠野ダンジョン近くに仮拠点を作り、坂本の行方を追う目的で遠野ダンジョンにアタックし続けている。

 本来ならばもっと各地のダンジョンや、それこそ今一番警戒すべき首都、新宿ダンジョンを調べるべきなのだろう。

 俺のわがままに付き合ってくれて、メンバーの皆には本当に頭があがらない。

 

 とはいえ、いつまでも遠野に固執するわけにはいくまい。

 

 明日、坂本の両親に、話をしに行く。

 

 

 

 〇月▽日

 

 結論から書こう。

 

 奇跡が起こった。

 

 坂本が、五体満足で生還を果たした。

 坂本のご両親も新幹線でこちらに向かっているらしい。

 俺は今からギルドに行かねばならない。ギルドで説明するのはいいのだが、メディアの取材は正直なところ気が重い。

 手記を残している時間がないので、後日まとめよう。

 

 

 

 〇月▼日

 

 昨日は大変だったが、さすがに色々と落ち着いてきたので、時間が過ぎてしまったがことの顛末を書き残しておこうと思う。

 

 あれは、坂本の探索を打ち切る決定をした日の翌日。

 最後に全メンバーで第四層を限界まで探索しようと集合し、第一層でミーティングをしていた時のことだ。

 各自の確認を終え、いざ第二層へ潜ろうとしたところで、俺の端末へメッセージが届いた。当然、行方不明だった坂本からだ。

 今でも信じられないメッセージだった。

 

『おはです 寝坊しちゃいました』

 

 半年間行方不明だった男の言葉が「おはです」だ。

 今日の探索は、一般に向けても最後だと説明した上で配信をしていたから、最初は事情を知っている部外者による悪質な悪戯かと思っていた。

 しかし、しかしだ。

 

『ごめんちゃい』

 

 続いてきたメッセージは、奴がハマっていたアニメキャラのスタンプだ。

 これは坂本本人だと確信できたが、やはり別な意味で信じられなかった。

 半年間行方不明になったうえで「ごめんちゃい」のアニメスタンプはないだろう。当時は驚きと困惑でそれどころではなかったが、あいつなんなんだ。書いていて少し怒りが湧いてきた。落ち着こう。後で改めて説教だ。

 メッセージは他のメンバー全員に共通で届いていたようで、全員が同時に困惑顔を浮かべていたのが、記憶に残っている。

 

 その後の道のりは、正直あまり覚えていない。

 あとから当時の配信を確認すると、俺たち全員が鬼気迫る表情で進軍していた。普段からあの実力が出せれば、新宿ダンジョンも下まで進めるかもしれないな。

 迷ヒ家に到着して、坂本の無事を確認したときは、どうやら俺は泣いていたらしい。やはり、迂闊に配信なんてするものじゃないな。世界に泣き顔を発信してしまうとは。

 

 最後に、ここにだけ記しておこう。

 坂本の頼みで、ギルドにも、メディアにも話さなかったことだ。もしかしたら、いつかは表に出すべき話かもしれないが。

 

 坂本は、妖精の花園へと迷い込み、そこで眠りに落ちたらしい。奴の【魔力耐性】が悪い方向で作用し、そこから目覚めることも、出ていくこともできなかったということだ。

 妖精の花園には妖精が大勢いて、各地のダンジョンと繋がっている。

 そして、坂本を助け出したのは、ももこ、という妖精をつれた小学生ほどの子供だそうだ。

 

 ダンジョンに小学生が居るはずがない。のだが、坂本は実際に、その子供に救われた。

 その少女が何者なのか、妖精とどういう関係なのか、どこから来たのか、坂本も知らないと言っていた。或いは、坂本の胸の内にだけ真実があるのかもしれないな。

 

 あのとき、階段の下に居たらしいが、俺はその姿を見ていない。いや、見逃していた? 今となってはわからない。

 配信では『座敷童子』と言われているが、俺個人としても、その少女は本当に遠野に古くから存在していたという座敷童子だったのではないかと思っている。

 結局のところ、座敷童子のももこが何者なのかはわからないが、俺たち『深援隊』は、その少女と妖精たちの情報を秘匿し、もし必要ならば、力になることを誓おう。

 

 俺たちの意志を、せめてこの手記にだけは記しておくこととする。

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