ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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未知のダンジョンと女王の懸念

 香川ダンジョンは、香川県南部の山間部、徳島県との県境近くに昔から存在する歴史の古いダンジョンである。

 

 第一層、通称『石造りの街』と呼ばれるそこは、古代ローマを思わせるような石造りの廃墟を思わせるダンジョンである。所々には屋根の残った廃墟もあり、探索者、あるいは特定の組合の拠点として使われているものも多い。

 この階層の特徴は、至る所に流れている水路だ。

 この水路には通称ではあるが雨季と乾季に分かれており、定期的に大量の水が流れ続ける周期と、完全に水が乾ききる周期が交互にやってくる。

 

 近年では、大量の水が流れる雨季になると様々な探索者たちが石の街並みに自分の簡易的な店を作り、各々が腕を振るってうどん店を開く風景が見られるようになった。

 

 

「……っていう感じのダンジョンですけど、どうですかね」

 

 カレーうどんを食べた食卓に、探索者用の端末を立てかけて、桃子・ヘノ・女王ティタニアの三人でその画面を覗き見る。

 

 端末で検索した結果として、うどんダンジョンこと香川ダンジョンの第一層は、上記の説明のようなダンジョンになっているという。

 桃子も、古代ローマ風という説明を読み終えた時点では「あまりうどんっぽくはないのだな」と思っていたけれど、しかし説明の最後は完全にうどんの話だった。

 

「桃子。残念ながら。女王はいまひとつわかってないみたいだぞ」

 

「ありゃりゃ。じゃあ、軽く二層以降も見てみましょうか」

 

 ヘノの言う通り、女王は特に思い当たる場所がないようで、首を傾げてしまっている。

 まあ確かに、多数あるダンジョンの中では石造りの建造物というだけではありがちな話だ。なんなら新宿ダンジョンの第一層も、世紀末感漂う滅びた古代の廃墟のような場所だったはずだ。

 例えば、階層全部が水に沈んでいるとか、階層丸ごと巨大な和風建築だとか、そういうもっと具体的な特徴が欲しいところだ。

 

「えーと、では画面をスクロールさせて、と。第二層の説明がこんな感じになります」

 

 桃子は端末の説明画面をスクロールしていき、第二層の説明を画面に開いてみせる。

 

 

 香川ダンジョンの第二層は、巨大な闘技場を形どる高さにして3階まである立体迷宮である。広大な石壁の迷宮が周囲に広がっているが、しかしその特徴は中央部分にある巨大な吹き抜けだ。

 現代で例えるならば、そこは巨大なアリーナであり、歴史上の建物で例えるならば巨大なコロッセオである。

 周囲は観客席のような構造の階段席になっており、中央部には何もない地面だけが広がっている。

 そしてそこには、常に巨大モンスターが対戦相手を待つかのように陣取っているのだ。下層への階段も、そこに存在している。

 

 また定期的に、この闘技場を使い探索者によるうどんイベントが行われる。

 

 

「でかい魔物を倒せば。下層に降りられるのか。わかりやすくていいな」

 

「闘技場だなんて、珍しいダンジョンがあるものですね。残念ながら、思い当たりませんが……」

 

「やっぱり最後の一行がおかしいなあ……」

 

 三者三様の感想だ。

 しかしどうやら、これまた女王ティタニアもピンとは来ていない様子だったため、このまま次の層の説明を求めて端末の解説ページをスクロールしていった。

 

 香川ダンジョン第三層。

 そこはそれまでの階層とは打って変わり、山の中のような自然系ダンジョンとなっている。

 上空には空の広がったダンジョンではあるのだが、鬱蒼とした山岳地帯では木々が深く、空もあまり見ることは出来ないだろう。

 ここは通称『妖狸の森』と呼ばれており、現代では原生魔法生物と定義される『化け狸』たちが住むと言われている土地である。

 彼らは決して人間の味方ではないものの、魔物ではない為、目撃しても敵対の意思を見せぬよう、香川ダンジョンギルドも探索者へと呼び掛けている。

 

 

「なんだここ。たぬきが出るのか。知ってるぞ。動物だろ」

 

「原生魔法生物……って、つまりは妖精とかコロポックルと同じものだよね?」

 

 うどんとは無関係そうな情報ではあるが、しかし原生魔法生物『化け狸』という表記に少しだけ心が躍る。

 妖精とは友達になったものの、やはり原生魔法生物という、いわば伝説上の生き物たちは探索者としては心惹かれる存在なのだ。実際にいるならば、一目見てみたいとも思う。

 ちなみに、最近の定義としてはドワーフや座敷童子、人魚姫も原生魔法生物として定義されているらしい。彼らが実際にいるならば、だが。

 

「……なるほど、分かりました。うどんは分かりませんが、化け狸ならば、分かります」

 

「お。本当か女王。ヘノたちはそこに行ってみたいんだけど。何か。通路とかはないのか」

 

 ヘノが待ってましたとばかりに女王に縋り付くが、しかし端末から視線を離した女王はしかし、真面目な顔で口を結び何かを考え込んでいた。

 そして、卓上からふわりと舞い上がったかと思えば、定位置の花びらの玉座へと戻る。

 

「扉がないわけではありません。……ですがヘノ、申し訳ありません。女王として、あなたがそこへ向かうことは、簡単に許可はできません」

 

「ダメなのか? ヘノはうどん食べたいだけなんだけどな」

 

「ヘノ、桃子さん。その香川ダンジョンはその情報にもありますように、化け狸たちが住まうダンジョンです。つまり……私の管理するダンジョンではないのですよ」

 

 ダンジョンの管理者。

 

 それはそう、つい先ほど、ヘノがカレーうどんを食べている間に聞かせてもらった話だ。

 女王ティタニアが治めているダンジョンならば、当然ティタニアの監視が行き届いている。そして逆に、別な魔法生物『化け狸』の住処となっているその場所は、ティタニアの管理下ではない。ティタニアの目は届かない。

 ヤクザ映画的に言うならば、別な勢力のシマ、ということなのだろう。

 

「化け狸がいる場所にヘノちゃんが入り込んじゃうと、敵対勢力の鉄砲玉として逆に狙われちゃう、とかいうわけですか……?」

 

「桃子。鉄砲玉なんてヘノは持ってないぞ。人間の武器だろ。それ」

 

「うーんヘノちゃん、ちょっと違うんだけど、説明してるとどんどん話がおかしくなっていっちゃうから、ちょっとお口にチャックしようか」

 

 なんだかまだものを言いたそうなヘノをきゅっと抱き寄せ、胸元に引き寄せた。

 残念ながらヘノを包み込むような胸元ではないものの、桃子の心音が聞こえる位置に押し込むとヘノは静かになった。

 それを苦笑まじりに確認してから、ティタニアは続ける。

 

「敵対しているというわけではないのですよ。ただ、どのような環境なのか、瘴気がどれほど溜まっているのか、妖精たちに危険が無いのか。それが何も分からない場所へ、足を運んでほしくはないのです……」

 

 ティタニアは、常に自分の影響下のダンジョンの瘴気を浄化し、安定させている。それは全て、その地に住まう妖精たちのためだ。

 それでも下層まで行けば瘴気も多くなり、上層でも鵺のような例外が発生する場合はあるが、しかし妖精が比較的安全に生活できているのは、ティタニアによる安定化の賜物である。

 そして同時に、人間側とてその恩恵を受けているのは間違いない。桃子たちが呑気にダンジョンでピザを食べられるのは、ティタニアのお陰なのだ。

 

「私の庇護下のダンジョンならば、絶対とは言えないものの、それでも第一層、第二層で妖精たちが命を落とすようなことはないでしょう。私はそのために、常に瘴気を浄化しているのですから……」

 

 つまり、一言でいえば。

 

「ヘノちゃんが、心配なんですね。ティタニア様」

 

「なんだ。女王。随分長く喋ってると思ったけど。そういうことだったのか」

 

「え、いえ、もちろんそれはそうなのですが……」

 

 ティタニアの反対意見は、理由としては自分の目が届かない場所で、化け狸たちの動向が分からない状態で、瘴気がどうなっているかも分からない場所で、と色々と理屈としては組み立てられるのだが。

 結局のところ、心配。その一言に集約されていた。

 ティタニアも慌てて言い繕うとするが、しかしそれは真理であり、図星であったので、言葉も出てこない。

 

「でもヘノちゃん、私もティタニア様に賛成かな。もし行けたとしてもさ、ティタニア様が浄化してないダンジョンなんて、何があるかわからないもん。危険だよ」

 

「そうですよ、ヘノ。認めます。私はあなたが心配だから、危険な場所には踏み込んでほしくはありません」

 

 桃子とティタニア。ヘノは顔にこそ出さないが、大好きな二人から同時にそのように言われては、うどんダンジョンへ行く気持ちは考えざるを得ない。

 考えざるを得ないので、ちょっと考えてみた。

 

 そして、ちょっと考えてみたのだが。

 

「考えたんだけどな。探索者たちがうどん店というのを開いてるダンジョンが。危険なはず。なくないか?」

 

 それはそう。

 

 少なくとも第一層は、呑気にうどん店が並ぶ程度の難易度なのは確かなのである。

 新宿ダンジョンのような危険な場所ではありえない。そして恐らく、房総ダンジョン並みに緩い可能性のほうがいくらか高い。

 

 女王と桃子は、ヘノの一言であっさり論破された。

 

 

 

 

 

 

「ヘノ、くれぐれも。無理はしないでくださいね。桃子さんも、何かあればきちんと人間のギルドに助けを求めるのですよ」

 

「女王。ヘノたちは。うどんを食べにいくだけだぞ。そこまで心配しなくていいんだぞ」

 

「ヘノちゃん、人の心配はちゃんと受け取らないと駄目だよ。私も窓口さんから滅茶苦茶怒られたんだよ」

 

 女王が案内してくれた場所――桃子には他の花畑と区別はつかないが――には、どうやら強固な術で閉ざされた扉が存在するらしく、ティタニアはそこまで二人を案内すると、まるで上京する娘を見送る親の様相で、ヘノに何度も確認をする。

 桃子ももちろん、何があるか分からないダンジョンである以上は、油断はしない。無暗に危険そうな場所には行かない。ということを女王と約束している。

 ヘノとしてはちょっくら遊びにいく場所が増えた程度の認識なので、ティタニアの心配の半分も理解してはいないのだろうが。親の心子知らずとはよく言ったものだと桃子は思う。

 

 とにかく、これ以上引き止められてはかなわんとヘノがツヨマージを掲げて、その光の扉に力を注ぎ込むと、普段とは違う様子の光の膜が現れた。

 膜が二重……いや、三重だろうか。今まで見てきた光の膜と比べても、あからさまに別物となっている。

 

「何かあれば、すぐに戻ってくるのですよ、ヘノ」

 

「女王が。ここまで心配性だったとは。思わなかったぞ。まいったな」

 

 心配のあまり扉の前までついてきたティタニアだが、このままどこまでもついてくる勢いなのでヘノも困ってしまった。

 桃子も念のため、リュックにいくつかの魔石や薬草類、そして念のためのカレールーもいくつか押し込んで、ヘノに続いて空間を抜ける準備をしている。桃子の場合はカレールーさえあればスキルで食糧事情はどうとでもなるのだ。

 

「じゃあ女王。お土産に。買えたら。うどん買ってきてやるぞ」

 

「……はい、ヘノ。楽しみにして待っていますから、あまり無茶をしないでくださいね」

 

 

 光の膜に触れて、桃子とヘノが遠くのダンジョンへと旅立って見えなくなるまで、ティタニアは我が子の安全を祈り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【房総ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:俺氏、眼科で飛蚊症の検査をしてもらうの巻。

 

:どうした、目の調子でも悪いのか

 

:ダンジョン全く関係なくて草

 

:いや違うんだ、この前さー。ダンジョンから緑の光がギルドまで真っすぐ飛んでいくのを見た気がしたんだよ。

 

:蛍でもいたの?

 

:いや、サイズは大きかったから、すわ妖精か?! って思って、あとからギルド員さんとか、入り口にいた守衛さんに聞いても、そんなの見ていない、とさ。

 

:飛蚊症ってそういうのじゃなくないか?

 

:眼科池

 

:だから行ってきたんだよ! 飛蚊症ではなかったけど緑内障の兆候があるから定期的に通ってね、だって。

 

:ダンジョン全く関係なくて草

 

:じゃあダンジョンの話。この前なぜか深援隊の人たちがいたよ。鎧の人が目立ってた。

 

:深援隊のサカモト! あの人正義のヒーローって感じですげえ好きなんだけどマジで? サイン欲しい、まだいるかな

 

:あの人いいよねw でも深援隊は今は何かと忙しいから、流石に千葉にはもういないんじゃないかな

 

:話変わっていい? ドワーフが新人探索者たちを見守っているのを見ました

 

:久しぶりの目撃談だな、ガチ?

 

:ガチです

 

:詳細

 

:新人グループがゴブリンたちと戦ってる場所をドワーフが離れて見守ってて、新人たちが無事にゴブリン倒したところで満足してその場でスーッと消えちゃいました

 

:新人を見守ってるドワーフを目撃したお前が満足してスーッと消えちゃったのか

 

:うわあ成仏してくれ。

 

:僕がスーッと消えたわけじゃないです

 

:冗談はさておき、見守ってくれてるんだったらなんか安心するな。

 

:房総ダンジョン甘く見て、ゴブリンに荷物ひったくられて泣く新人って毎月1人はいるもんな

 

:荷物で済むあたりが実際に甘いダンジョンなんだけどな

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