ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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フードの不審人物

「あ、あの……私たちのこと、見えてるんですか?」

 

「はい、もちろん。妖精さんは初めて見るっすけど、ポン……いえ、ワタシのうどん……いかがっす、で、ですか?」

 

 

 大きなフード付きの外套で顔を隠し、そこから出る両手も手袋で覆われている怪しげな人物に話しかけられて、つい手がハンマーに伸びてしまう。が、桃子は思いとどまる。

 よくよく考えれば、いくら怪しいからといって、人間相手に武器を構えるのは間違っていると、思い直す。

 まあ、その上でなんだかしゃべり方も怪しいのだが、ヘノが何も言わないところを見ると悪意を持つ危険人物と言うわけでもないようだ。

 ただの悪意のない不審人物、と言ったところだろうか。

 

「お前。桃子が見えるのか。珍しいな」

 

「はい? んー、言われてみれば、なんだか珍しい魔力を纏ってるっす……ですね」

 

 ヘノも初手から存在がばれているので、堂々と出てきてフードの不審人物の回りをぐるりとまわり、相手の様子を確認している。

 が、3周くらい回ってから、定位置である桃子の肩へと戻ってきた。

 

「桃子。こいつ。変なやつだけど。害はなさそうだから。お腹もすいてるし。うどんを食べてみるか」

 

「う、うん。ヘノちゃんがそう言うなら……うどん、食べてみようか。えと、じゃあ二人分お願いしていいですか?」

 

 頭からフードを被り顔も見せない不審人物だが、見たところ探索者としては小柄だ。桃子との身長差も相手が拳ひとつ分高い程度ではないだろうか。

 また、声も高い。ダンジョン内で子供ということはないだろうから、この不審人物は小柄な女性なのかもしれない。

 そう考えると、多少は桃子の警戒心も緩んできた。

 顔を隠す理由など、人それぞれなのだ。それを一方的に不審だとか怪しいとか決めつけるのは良くない。桃子はそう思い直す。

 

「ふへへへ、やっった、やった、ポンの……う、ワタシ、のうどんを、人が食べてくれるっす、です」

 

 妙なテンションで小躍りをして外套を揺らす姿を見て、桃子は前言撤回した。やっぱり不審なものは不審なのだ。

 とりあえず、何かあったらすぐに逃げようと心に決めつつ、不審人物についてテントへと入っていく。

 

 

 

 

 

 

「ヘノちゃん……この展開は、想像してなかったね」

 

「桃子。こいつは。なかなか。厄介なことになったな」

 

 テントの中には板と木箱を組み合わせて作った簡素なテーブルに、木箱を逆さにしただけの椅子が置いてあり、桃子は促されるままにその座席につく。

 ダンジョン内のテントなので、椅子やテーブルの品質に文句はない。問題点はそこではない。

 ヘノもテーブルに着地して、テント内を見回しているが、しかし、しきりにカーテンの奥から漂ってくる空気を気にしている。

 

 いや、率直に言ってしまうと、匂いだ。なんだか、とにかく生臭いし泥臭い。これが本当にうどんの匂いなのだろうか。

 お世辞にも、先ほど覗いたうどん店の匂いと同じ料理だとは思えない匂いだった。

 

 しかし、そんな桃子の嫌な予感をよそに、不審な店員はうどんと思わしき物の入った器を2つ持ってきて、桃子たちの前に並べる。

 

「お待たせしたっす。ポンの作ったおうどんっすよ! どうぞ食べてみてほしいっす!」

 

 最初の怪しげな口調は何処へやら、妙にテンション高く、機嫌よく、二人にうどんを勧めてくる。

 

「お前。さっきとしゃべり方が。変わってるぞ」

 

「はっ、し、失礼しましたっす、です」

 

「ええと、ね。そんな無理してしゃべり方変えなくても、もっと普通に、気楽に喋ってくれていいですよ?」

 

 うどんも気になるが、実は店員の喋り方も先ほどからずっと気になっていたのだ。

 無理して慣れない話し方をしているような違和感。それは、ヘノに敬語を使うように注意した際のぎこちない喋り方と同じものだった。

 恐らくだが、この不審人物はヘノと同様に、丁寧な喋り方というのが苦手なのだろう。

 

 そう考え、気楽に喋るようにと促してみると、店員はあっさりと喋り方を変える。

 

「本当っすか? お客さん、人間だけど神様っすね! じゃあ、ポンは普通に喋らせてもらうっすよ」

 

「気楽にしても。なんだか。変なしゃべり方だな」

 

「そっすか? ポンはあんまりそういうのわかんねっす。さあさ、それよりおうどんをどうぞ!」

 

 先ほどよりだいぶ自然だが、「ポン」というのはなんだろうと、桃子は内心首をかしげる。

 ニュアンス的に、自分のことをポンと言っているのだろうか。珍しい一人称だ。

 自分も真似て、一人称を「ポン」とか言い出してみようか。ヘノは気にしないかもしれないが、柚花は心配するかもしれないな。

 ……などと現実逃避としてどうでもいい考え事をしていたのだが、しかし、やはりうどんを食べるように勧められてしまった。

 

 なんだか、生臭いし、泥臭い。

 が、こうなったらこれをまずは食べてみようと、桃子は決心する。食べてみたら美味しいかもしれないのだから。

 

「……い、いただきます」

 

「桃子。無理しなくていいからな」

 

 

 

 そして。

 

 

 

「おいお前。このうどん。不味いぞ」

 

 ヘノからストレートな感想が飛び出した。

 桃子も率直に言えば同じ感想なのだが、オブラートもなにもない物言いには桃子もビックリした。

 

「えっ?! そ、そうっすか? よ、妖精の口に合わなかったんすかね。そ、そっちの三つ編みさんどうっすか?! ポンのおうどん、どうっすか?!」

 

 フード姿の店員も当然ながらショックを受けたのだろう。慌てて桃子に向き直って感想を聞いてくる。

 フードで顔は隠されているものの、すがるような視線を向けられていることくらい、見なくてもわかる。

 

 桃子はこういう時が、一番苦手だ。

 

 どれだけオブラートに包んだところで、相手の希望をへし折ることには変わりない。

 でも、ここで嘘をついても、誰も幸せにならないのもわかっている。

 

「あ、あの。本当に申し訳ないんですけど……このお汁、生臭いというか、泥臭いというか……それでいて、一応はお魚の風味もあるんだけど、味もほとんどしないなって」

 

 さすがにヘノのように『不味い』と切り捨てはしないものの、やはり桃子の口からもポジティブな評価は出なかった。

 それを聞いて、フードの店員は外套の袖を手袋ごしにギュッと握って、小さく呟く。

 

「お、おかしいな、ちゃんとお魚いれてグツグツやったのに……なんで、なんで、ポンのやり方じゃダメなの……? 父ちゃんを助けなきゃいけないのに……」

 

 そして何やら尋常じゃない様子で、布で隔てたテントの向こうへと入って行ってしまうのだった。

 

 そして、残された桃子とヘノはというと。

 

「桃子。どうする? 帰るか?」

 

「ううん、ごめんヘノちゃん。なんかワケアリみたいだし、放っとけないよ」

 

「桃子なら。そう言うと思ったぞ。行ってみるか」

 

 反応を見る限り、どうやらこの生臭いスープも、本人がふざけて作ったというわけではないらしい。

 そして先ほどの尋常じゃない様子。あれはどうみても、何かしらの訳ありだ。

 乗りかかった船ではないが、このまま放っておくわけにもいかない。困っているならば、話を聞くくらいはできるだろう。

 

 そう思い、ヘノをつれて桃子も布の奥へと入っていった。

 

 

 

 

「美味しくなれ、美味しくなれっ、ポンのおうどん、美味しく食べてもらわなきゃ……どうか、どうか、美味しくなれ、美味しくなれっ……」

 

 そこでは、火にかけられた大釜が煮立っていた。どうやら、テント内に漂う匂いの元凶はそれのようだ。

 恐らく何かしらの魚を丸ごと入れたものを、ただただ煮立たせていた。

 そしてフードを被った店員が、ひたすらに祈りながら、その煮立った汁をぐるぐる、ぐるぐると必死にかき混ぜていた。

 

 しかし、そんなことをしてもスープの味は変わらないだろう。

 見ていられずに、桃子はその後ろから声をかける。

 

「あの、そのお魚をただ煮込むだけじゃ、美味しいおつゆを作るのは難しいんじゃないかなって思うんですけど……」

 

「えっ、お客さん、うどんのことわかるっすか?!」

 

 桃子が声をかけると、フードの店員は呆けたような声色で、こちらへとやってきた桃子たちに振り返る。

 どうやら本当に、スープの作り方というものを知らないらしい。ここには調味料も、出汁をとる素材も何もなく、ただただ正体不明の魚が煮込まれているだけだった。

 

 そして、桃子の言葉に呆然としているフードの店員へと近づき、中を覗き込むようにしてヘノが言う。

 

「お前。人間の真似してるだけで。料理のこと。全然知らないだろ」

 

「えっ?! 店員さん……人間じゃないの?」

 

「キューン……」

 

 ヘノの指摘に桃子は驚き、そしてフードの店員は謎の声を上げるだけで、そこに否定の意味はなさそうだ。

 どうやら、目の前のフード姿の人物は、人間ではないようだ。

 この相手が妖精だろうがドワーフだろうが、さすがに桃子も慣れたもので人間以外の存在で驚きはしない。しかし、とはいえ、人間相手にうどんを作って商売しようとするダンジョンの住人がいるとは思わなかった。

 

「なんだか。ワケアリなんだろ。桃子に話してみろ」

 

「あ、私が桃子で、こっちの子が風の妖精のヘノちゃん」

 

 ヘノが当然のように桃子の名前を出すものだから、桃子も慌てて自己紹介をする。ヘノの紹介も忘れない。

 そして、ぐつぐつと汁が煮立つ音だけがしばらくテント内に響くが、しかしフードの店員は観念したかのように、自分からその被っていたフードを外して、桃子に向き直った。

 

「ポンは、ポンコっす。ご覧の通りの、まともに人間に変化もできない出来損ないの化け狸っす……」

 

 そこにいたのは、人間ではない、しかし獣でもない。

 

 人の姿に、所々に獣の毛皮。動物のように黒い鼻。そして柔らかい毛色の髪からぴょこんと生える、髪と同色の狸の耳。

 半獣人姿の、化け狸の少女が、涙で目元を濡らして佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!

 

 さて、今日はですね、ソロ配信じゃありません。というのも、ちょっとした調査隊に参加してるんですよ。

 見えますか? 調査隊の方々です。皆さんしっかりとした探索者パーティの方々ですよ。

 

 うんうん、いい質問ですね。なんでいきなり調査隊に参加しているのか、と言いますと。

 11月17日の金曜日の夜にですね。日本の各地のダンジョンで、およそ数分間、魔物たちの異常行動がみられたらしいんですよ。

 規模が小さくてスタンピードというほどではないんですけど、層を繋ぐ階段を上るモンスターがいたりとか、モンスターたちが唐突に荒くれて普段と違う行動をとったとか、そういうことがあったそうです。

 その原因……は掴めないにしても、それの影響で変なことが起きてないかを調査しなきゃならないってことで、私の【看破】が駆り出されたってわけなんですよ。

 

 なので、ついでに皆さんに配信しちゃおうかなーって。

 ええ、大丈夫です。同行してる調査隊の皆さん、プロの方なんで。私は後にひっついて、【看破】で見て回るだけですからね。もちろん許可もとってますよ?

 

 それにしても11月17日の夜ですか……。

 ああ、いえ、その日は敬愛する先輩のお誕生日だったんですけど、なんか色々あったなあと思って。

 あのタイミングで異常が起きてたんだなあっていうのが……ああいえ、ダンジョンの異常の原因なんて、全く思い当たりませんけどね。そのときは先輩と一緒に、綺麗なお花畑を見たり、動物と触れ合ったり、お外ではしゃいでたりしてただけですから。

 

 さて、そんなわけで調査隊はガンガン進んでいますけど。

 

 ……はい、見ての通り今回は房総ダンジョンの調査です。森の中をぐるっと歩くだけです。

 次は別なところに行く予定ですけど、ここはさすがに何もなさそうですね。見るからに平和なダンジョンですよね。

 

 あーほら、探索者キャンプで宅配ピザ食べてますね。

 え? 異常行動? おかしい?

 いやいや、あれは異常な風景に見えますけど房総ダンジョンの日常なんですよ。最近ピザの新味出たんですけど、結構おいしかったですよ。

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