ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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化け狸ポンコ

「ポンはポンコっす。気軽にポンコって呼んでほしいっす。化け狸やってるっす」

 

 鍋の前に木箱を並べて、そこにポンコと桃子は腰かける。

 ポンコは装着していた手袋とフード付きの外套を脱いで、今は半獣人の姿を晒している。

 可愛らしい女の子と狸を合わせたような姿で、全体的なシルエットとしては人間の形をしているけれど、その両手は毛皮で覆われている。獣人の手だ。

 顔立ちは人間の少女っぽいのだが、鼻は黒い動物の鼻がついており、肩より少し下まで伸びた髪の毛質感はよく見ればやはり人間の髪の毛とは違う。

 そしてふわっとした髪の上にはそこに溶け込むように二つの狸耳がぴょこんと飛び出ていた。また、腰元からは大きなもふもふの尻尾が姿を覗かせている。

 獣人型の魔物とも何度か対峙したことはあるけれど、アレはあくまで二足歩行をするだけの理性のない魔獣だが、目の前の少女はそれとはまったく違う。見るからに理性も愛嬌もあり、率直に言って可愛らしい外見の獣人である。

 

 しかしどうやらポンコ曰く、今の姿はあくまで人への変化に失敗している姿なのだそうだ。本来ならば半獣人ではなく、もっとしっかりした人間の姿になれるものらしい。

 半獣姿を恥じるポンコを見て、これはこれで可愛いのに、と呟いているのは桃子の心の声である。

 

「じゃあポンコちゃんで。ええと、ポンコちゃんは、なんでここでうどんを販売しようとしてるのかな? うどん、作りたいの?」

 

「そうっす! ポンは、どうしても、どうしてもおいしいおうどんを作りたいっす! ポンコのおうどん、どうすれば美味しくなるっすか?」

 

 ポンコの前に座った桃子が一つずつ、ポンコに質問を投げかける。そしてポンコは桃子の目を見て、それに一つ一つ答えていく。まるで面接みたいだなと桃子は思った。

 たぬき面接。まずは名前はポンコ、職業は化け狸。そして次は、うどんについて質問を投げかけてみる。

 どうやら彼女は、とにかくどうしても美味しいうどんを作りたいようだ。悪意を持って誤魔化しているわけではないのだろうが、何か口に出しづらい深い理由がありそうである。

 

「桃子。こう言ってるけど。何かあるか?」

 

「何か……って、まあやっぱりスープかなあ。お魚が駄目っていうわけじゃないけど、ぬめりをとったり、内臓処理とかして、もう少し手をくわえたほうが良かったかな」

 

「なるほど、ヌメヌメとハラワタは煮込んじゃ駄目なんすね! 覚えたっす」

 

「そういえばポンコちゃん、あのお魚って、どこでとってきたものなの?」

 

「あれは下のほうの、ポンコたちが住んでる森にある沼で捕まえたものっすよ。なんていう魚なのかは知らないっす」

 

 どうやら、ダンジョンの沼でとった魚をそのまま煮込んでいたようだ。

 何となくナマズのような印象も受けたが、しかしダンジョンの魚となると地上の常識は通用しないので、そればかりは見てみないことには分からない。いや、見ても分からないかもしれないが。

 

 さて。その肝心のうどんスープだが、そもそもの問題として、ダンジョンで捕まえたという魚をそのまま大鍋で煮込んだだけのものを『スープ』と称するのはやはり難しいと言わざるを得ない。

 もちろん、世の中には魚単品を豪快に煮込んで作る料理もあるだろうが、しかし残念ながらポンコの作った汁にはそこまでの旨味もない。あったとしても、魚の臭みが上回ってしまっているのが現状だ。

 鍋の中で原型を留めてはいない為にこの魚がもともとどんな魚だったのかは分からないが、なんにせよまず基本として、ぬめりや内臓の処理、あるいは魚によっては泥抜きなどをすべきだろう。

 

「あとは、流石にそれだけだとスープとしては難しいから、やっぱりお醤油とか、お出汁とか、無理せず市販品の調味料を活用したほうが良いと思うんだけど……」

 

 そして魚の処理以前の問題で、やはり単純に味が足りていない。

 仮に魚を丁寧に処理して煮込んだとしても、ある程度の旨味や風味は出るかもしれないが、流石にこの魚だけでスープを完成させるのは難しい。

 やはり、鰹節なり昆布なり、あるいは醤油なり味噌なり。ダンジョンでとれるというその魚の風味を活かすにしても、ベースとしてはやはり普通に市販の調味料を下味として使用したほうが確実だろうと思い、そう提言してみた。

 

 のだが。

 

「し、市販品……すか。ポンは、人のお店に行けないので、人間の材料はわからないっす。だから、森で捕まえたお魚で、どうにかならないかなって……う……ぐすキューン……」

 

「どうするんだ桃子。こいつ。泣いちゃったぞ」

 

「わ、ごめんね! ポンコちゃん、一人で頑張ったんだね。そうだよね、お店なんていけないもんね。気付けなくてごめんね。偉いよ、ポンコちゃん」

 

 言うまでもなく、化け狸の少女がダンジョンを出て人間のお店で買い物など、出来るわけがないのだった。

 半獣人の姿では当然無理であるし、仮にポンコが完全に人間に化けられたとしても、外に出る際にはギルドを経由して探索者カードで認証を受けなければならない。ポンコがそこをやり過ごして買い物に向かうのは難しい。

 先程みたマーケットには多少の調味料類を販売している露店もありはしたが、あれはあくまでうどんの味変用の少量売りだし、そもそもポンコには調味料の区別がつかないし、それがなんなのかもわからない。

 

 だからポンコは見よう見まねでやってきた。どこかの探索者が魚を煮込んでいる姿を見て、これならば自分だけでも用意出来ると、人間が使っている素材を入手も出来ないなかで、一人で試行錯誤してきたのだ。

 

 桃子はそこに気付かなかったことを反省し、思わずポンコを抱きしめる。

 涙を零す狸少女を抱きしめて、頑張ったポンコは偉いのだと、そして自分も一緒に考えると、頭を撫でて、声をかける。

 

「私も、一人が寂しいことは知ってるからさ。一緒に考えよう? 私もここまで聞いたからには、協力したいし。ね?」

 

「ポンは……ポンは……美味しいおうどん、作り……ひっく……」

 

 ただうどんを食べに来ただけの桃子だけれど、話を聞いてしまったからにはここでハイさよならなんてことは出来ない。

 化け狸なんていうワケアリそのものといえる存在の事情なら、同じくワケアリの桃子にしか手伝えないこともあるだろう。

 ポンコの年齢というものは分からないが、しかし人に化ける際の姿が少女の姿なのだから、おそらく化け狸としてもまだ子供の狸なのだと思う。

 言動からして、桃子よりも遥かに幼い少女のように思える。ならば桃子は、お姉さんにならなければいけない。

 

 桃子はお姉さんとして考える。ポンコが美味しいうどんを作りたいというのなら、協力してあげよう。人間の材料くらいなら、桃子が購入してきても良いのだ。料理を教えることだって出来る。

 ならば今すぐとはいかないけれど、房総ダンジョンのスーパーでうどんの出汁の素を大量に買ってこよう。そこから、スープの作り方を1つずつ教えていけばいい。

 

 ……などと思案していたのだが。

 

「桃子。桃子。難しい話はおいといて。カレーうどん作らないか。ヘノはお腹が空いたぞ」

 

 ポンコと桃子が湿度の高いやり取りをしている間、暇そうに室内を見回していたヘノから、唐突にリクエストが飛び出した。

 どうやらヘノはポンコの話よりも、自分がいま食欲を満たせるかどうかを考えていたようだ。

 

 確かにここには煮込み料理が作れる鍋もある。カレールーもリュックに入っているはずだ。

 肝心のうどんだが、ポンコお手製のうどんの麺は意外と上手にできているので、それを使わせてもらえるならばカレーうどんを作れる環境ではある。

 

 のだが、流石にタイミングというか、会話の流れが悪い。

 

「ヘノちゃん、相変わらずマイペースなんだから。ね、今はほら、ポンコちゃんが悩んでるところだからね?」

 

「……かれーうどんってなんっすか? おうどんなんすか? ポンにも教えてほしいっす!」

 

 困ったように苦笑を浮かべてヘノを諭そうとする桃子だが、しかし意外にもヘノの言葉に食いついたのはポンコだった。

 確かに、カレーつゆもまた、うどんのスープである。ポンコが作りたいものとはかなり違っているような気もするが、しかし本人が教えて欲しいというのならば、特に断る理由もない。

 

 桃子はその室内を見回して、何か使えるものがないかと考えてから、すくっと鍋の前に立つ。

 

「じゃあ、ポンコちゃん。このお魚の煮込みスープ、私がカレーに改造しちゃってもいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘノとポンコが目を輝かせて覗き見る前で、桃子は魚の煮込まれた鍋の前に立つ。

 そして今から、桃子の料理が開始される。

 

 とはいえ、今日はジャガイモも人参もない。リュックに入っていたのは念のため詰め込んでいたカレールーのみだ。やることと言えばこれを溶かして混ぜるだけなので、料理というほどのことはない。

 

「まずルーをパキっと割ります」

 

「割るっすね」

 

 取り出したカレールーを、溶けやすいように小さくパキパキと割っていく。

 ポンコが真剣にそれを見つめる。

 

「そして、お魚が煮込まれているお鍋に投入します」

 

「投入するっすね」

 

 小さく割ったカレールーをお鍋に投入する。本来は一度火を弱めてからやるべきなのだが、薪では火加減調整も難しいのでこのまま入れてしまう。スキルを使った料理なので、そこら辺はある程度簡略化しても問題はないだろう。

 ポンコが真剣にそれを見つめる。

 

「そして、信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」

 

 そしてルーを入れてからは、ただただ信じて混ぜる。信じて混ぜる。これが桃子の【カレー製作】だ。

 ポンコには使えない【カレー製作】による調理なため、真剣に見つめたところで何の参考にもならないだろうが、カレーうどんというものを食べてもらうのが今回の目的なので今のところはそれでも構わない。

 きちんとしたポンコのための制作手順が必要ならば、次の機会を作ってそのときに教えれば良いのだ。

 

 すると、ポンコが横から真剣に覗き込んでいる鍋が、いつものようにピカっと輝きだす。

 

「キャンッ!!」

 

「あっ、ポンコちゃん?!」

 

 そして、間近で鍋を覗き込んでいたポンコが唐突な光に驚いて、後ろにひっくり返ってしまった。

 先に伝えておくべきだったかと、桃子も鍋を混ぜる手をとめ、慌ててひっくり返ったポンコを助け起こそうと振り返る。だがしかし、そこには半獣の少女の姿はなくなっていた。

 

「ちょっと、ポンコちゃん大丈夫……って、狸?!」

 

「こいつ。光に驚いて。変化が解けちゃったんだな。しかも気絶してるぞ」

 

 ポンコがひっくり返ったその場所には、半獣の少女の姿はなくなっていた。その代わりに、その場所には小さな狸が一匹、ひっくり返っていた。

 桃子が恐る恐る近づいてその腹部を覗き見るとゆっくりと上下していたので、呼吸はしているようである。本当に、この狸は気絶しているだけのようだ。

 

「か、可愛い……さ、さわってもいいのかな」

 

 そっとその毛皮に触れるように撫でると、その毛質は意外と硬い。猫よりは犬に近いのだろう。狸をさわるのは桃子も初めてだった。

 毛並みに逆らわないように撫でてみるが、ポンコ狸が起きる気配はない。

 

「桃子。気絶しちゃったんじゃ。仕方ないし。先に。ヘノたちだけで。カレーうどん。食べよう」

 

「そっそうだね! まあ、そのうち起きてくるのかな?」

 

 ヘノに急かされて、慌ててハッと正気に戻る。

 小動物の可愛さに一瞬時間を忘れていたが、今はカレーうどんを作っているところだった。

 とは言え、カレーうどんを見せるべき相手のポンコが気絶してしまっているのではこれ以上やることもない。

 

 というわけで、ポンコが起きるまでの間、桃子はヘノとゆっくりカレーうどんを味わうことにした。

 魚の煮汁だったものは【カレー製作】でカレー風味に改造した結果、荒々しい魚の匂いが活かされたワイルドなカレーつゆとなり、意外と悪くないのだった。

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