ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ももポンのカレーうどん

 うどん店のうどんを食べ終え、昼過ぎの香川ダンジョン第一層。石造りの街にて。

 

 

「やっぱり、ポンコちゃんが作るときはぬめりとか内臓は処理したほうがいいね」

 

「キューン……師匠のピカーっと光るカレーみたいにはいかないっすね」

 

 ポンコのテント内のカーテンの奥。

 

 先ほどの経験で、本物のうどんがどのような食べ物なのか理解したポンコは、桃子の指導のもとカレーうどんの研究をしていた。

 ポンコが用意している具材は昨日と同じく第三層の沼で捕まえた魚。あとはポンコがいくつか見繕ってきた薬草やキノコがあったのだが、キノコも薬草も数が少ないので、一緒に煮込むのではなく最後に添えるだけにした方がよさそうだ。

 そしてポンコが用意した魚。この魚は見た目だけで言えば、ナマズに近いように見えるが、しかしなんか違う魚だった。桃子に言わせれば未知の魚だが、ポンコとしては地元でよく見かけるありふれた魚なのだそうだ。とりあえず便宜上、ダンジョンナマズと命名する。

 今度、数匹ほど生きたまま貰っていって、ダンジョンナマズも妖精の湖で繁殖させてみてもいいかもしれない。

 

 そして色々な調理法やパターンを試してみた結果として、ポンコが作るカレーはきちんと下処理をしてからぶつ切りにしたダンジョンナマズの煮汁を使ったカレーうどんが一番良さそうだ、ということになった。最適解とは言えないかもしれないが、技術的なものと最終的な風味のバランスはこれが一番丁度よい塩梅であった。

 ポンコに聞いたところ、第三層にはキノコや香草のようなものは他にも生えているようなので、更にそれらを具材として使えるかどうかが今度の課題だろう。とりあえず今日のところはシンプルな煮汁とカレールーだけのカレーうどんに、付け合わせで少量の刻んだ薬草と火を通したキノコだ。

 

 うどんの麺は、例のごとく太さがバラバラのたどたどしい麺だが、しかしこれはこれで味わい深いので今のところは良しとする。

 均等な麺が作れるかどうかは、この先のポンコの技術の向上に期待しよう。

 

「うまくなったら。もっと細い麺のうどんを頼むぞ。ツヨマージくらい。細い麺がいいぞ」

 

「それはもう、おうどんじゃない、別な食べ物じゃないっすかねえ」

 

 ヘノ的には自分が食べやすい細い麺が希望らしいが、ヘノに食べやすい太さとなるとうどんではなく冷や麦とか素麺の範疇だろう。

 どちらにしろ、今はまだ麺の太さの調整もままならないのだ。そこのところもやはり、ポンコの技術が向上してから考えてみればいいかと、現状は保留である。

 

「じゃあポンコちゃん、そろそろ日も傾いてきたし、準備が出来たら営業開始だね!」

 

「き、緊張するっすね……!」

 

 ポンコのテント内は、昨日よりもきちんとしたものになっている。

 ややボロい板と木箱を置いただけのそれは、桃子の【加工】――今は【創造】に進化しているが――によって、多少は見栄えの良い板と、木箱のアンティークさを活かした木椅子になっている。

 そしてテントの前にかかっているのは、桃子特製の木札だ。カレーの香りを漂わせたテントの前には、今は『準備中』の文字が書かれた札がかけられている。

 これをひっくり返し、『営業中』の木札にすれば準備は完了だ。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいっす! ももポンのカレーうどんを食べていってほしいっす!」

 

 桃子に変化をしたポンコ――ももポンがフード付き外套姿でカウンター内でアセアセしながらも探索者にカレーうどんを振る舞う。

 この店を訪れた探索者たちは、フードを被った小さな少女が一人でうどんを作っている姿を見て、まず最初は面食らう。

 彼らの認識外では、ももポンと同じ顔をした三つ編み少女が、あっちへ行ったりこっちへ行ったりとしながらももポンのサポート中だ。時には客から認識されないのをいいことに、堂々とカウンターの前へと出てきてお皿を回収したり、テーブルを整えたりもしている。気づかぬうちに片付いていることに何人かの探索者はテーブルを二度見していた。

 

 その間、妖精のヘノはやることがないので、奥でつまみぐい担当だ。一応鍋の火加減も見てもらっているが、ヘノが見ているから何か変わるかというと全くそういうことはなかった。

 

 

「子供がお店やってて偉いなあ。カレーうどん、一杯もらえるかい?」

 

「ももポンちゃんっていう新人探索者の女の子が一人で切り盛りしてるらしいぞ」

 

「ダンジョン入れるようになって最初にやるのがうどん店とは、期待の新人だな」

 

「お手製のカレーうどんか。付け合わせの薬草の青臭さが逆にいいアクセントになってて悪くないじゃん」

 

「ちょこっと乗ってる焼いたキノコ好き……」

 

 

 数にして10人程度の人数。他のうどん店と比べると決して多くない来客だったけれど、しかし訪れた客の中ではももポンのカレーうどんはそれなりに好評だった。

 それは残念ながら、決してうどんの味そのものの評価だけでなく、ももポンという小さな少女が健気に一人でうどん店を切り盛りしているという姿に対する同情票や、あくまで子供にしては悪くないだろうという甘い基準点のものであろう。

 

 とはいえ、好評は好評だ。

 準備していた分のカレーうどんを売り切って、入り口の札を別に用意していた『本日終了』の板と差し替えたテント内では、ポンコが主に精神的な疲労で椅子に身体を預け、半分ほど燃え尽きていた。

 

「ポン……ポンのおうどん、喜んでもらえたっす……ポン……」

 

「うん。今日はさ、私の【カレー製作】じゃない、全部ポンコちゃんが作ったおうどんだよ。ちゃんと食べてもらえたね」

 

 動けなくなっているポンコの代わりに、桃子がお皿や鍋を洗っている。

 本当はこれもポンコが一人でやるべき作業なのだが、今日くらいは休ませてあげようと、元気が有り余っている桃子が買って出たのだ。

 

「こ、これなら……うどん大会で、優勝できるっすかね!」

 

「それは。さすがに。無理だろ。桃子のカレーほどじゃないし。他の店の方が。客も多いしな」

 

「ポ、ポン……」

 

 カーテンの奥で好き放題にポンコのカレーうどんを食べていたヘノは、流石に今日はお腹がいっぱいなようで、桃子の肩で横になりすっかりくつろいでいる。

 昼間から好き放題にポンコのカレーうどんを食べておきながらも、しかしやはりヘノの評価は甘くはなかった。普段はボケボケしいヘノだが、カレーの話には意外とシビアなようだ。

 

「ポンコちゃん、うどん大会に出たいの? 確かここって、定期的にうどん店のイベントとかがあるんだっけ?」

 

「そ、それはその……」

 

 皿を片付けながら、桃子がポンコに問いかけるが、しかし問われたポンコの歯切れは悪い。どうやら、何かしら答えづらい事情があるようだ。

 なお、椅子にへたり込んでいるポンコは既に桃子への変化を解いて、半獣人のたぬき少女姿に戻っていた。やはりこちらの姿の方が馴染んでおり、人の目がないならばこちらの方が楽なようだ。

 

 ポンコの言ううどん大会というのは、定期的にこの香川ダンジョンで開催される探索者たちによるイベントだ。

 第二層の闘技場を使い、腕に自信のあるうどん店探索者同士でトップを決めるという、いわゆるちょっとした人気投票つきのうどんフェスである。

 

「ポンは、次に開催されるうどん大会の優勝賞品で、父ちゃんを助けたいっす。爺ちゃんが動けない今は、ポンコがやらないと駄目なんっす」

 

「お父さんを助ける……って?」

 

 桃子とヘノは顔を見合わせる。

 話題がうどんばかりで何となく緩い気分になっていたが、どうやらポンコの事情はそれなりに重いものである様子だ。

 そういえば確かに、はじめてここでポンコの煮汁麺を食べたときも、そのようなことを口走っていた。

 

「ポンコちゃん、ええと……何から聞けばいいのかな。お父さんは、何か大変なことになってるの?」

 

「そ、それは……その、言えないっす。化け狸の里のことを、師匠とは言え普通の人間には言えないっす。それは里の掟っす」

 

「そっか……まあ、そうだよね」

 

 妖精の国ですら、本来は訪れた人間の記憶を消去するくらいには秘密主義だ。最近は里内でも仲良く過ごしているが、しかしそれは桃子や柚花が例外なだけである。

 おそらくは妖精と同じ性質の化け狸たちも、おいそれと里の秘密を人間たちに話すわけにはいかないのだろう。

 桃子としてはポンコを助けられることがあるならばと思ったのだが、しかし化け狸には化け狸の掟があるのだから、部外者の立場ではそこに強引に踏み込めない。

 もどかしい。

 

 とか思っていたのだが、桃子の肩に寝ていたヘノがすいっと舞い上がって、ポンコの肩に着地する。

 

「しかたないな。ヘノは。妖精だから。大丈夫だろ。いいから。聞かせてみろ」

 

「え? ええと、確かにそうっすね。ヘノさんは人間じゃないから……お話ししちゃってもいいっすかね? 妖精に話しちゃ駄目って言われてないし、いいんすよね?」

 

 多分本当は相手が妖精でも部外者である以上は駄目だとは思うけど、桃子は口をつぐんだ。

 

「じ、実は……で……に……」

 

 小声でヘノに相談するポンコ。

 そして、話の内容を理解しているのかいないのか、うんうんと何度も頷いてみせるヘノ。

 桃子は魔法生物たちの秘密のやり取りには参加できないので、離れて二人を眺めているだけだ。

 

 しばらくして話が終わると、ヘノが桃子の肩に舞い戻り、高らかに説明を始めた。

 

「桃子。なんでもな。ポンコの爺ちゃんという。化け狸の長が。魔物の瘴気にやられて。病気で弱っているらしいぞ」

 

「キャン?! なんでいきなり里の秘密をバラしてるんすか?!」

 

 ポンコから話を一通り聞き終えたヘノが、あっさりとそれを桃子に話し始めた。

 信じて話したらいきなり裏切られた形のポンコが、尻尾の毛を逆立ててヘノに抗議する。

 

「それと。ポンコの父親が。最近の。弱ってしまった。狸の里の長と。方向性の違いで喧嘩して。里を出て行っちゃったらしいぞ」

 

「キャン?! そこは本当に人間に言っちゃ駄目なところっすよ?!」

 

 ヘノは更に続ける。どうやら狸の長が弱っているところに、ポンコの父親である狸がなんだか長の方針に合わないらしく、里を離れてしまったようだ。まるでロックバンドの解散話みたいだが、色々大変なのだということが分かった。長がポンコの祖父ならば、父親はその息子だろうか。そうだとしたら、里を巻き込む親子喧嘩だ。

 ヘノを信じて秘密の話をしたらいきなりその場で全部ばらされたポンコが、裏切りにショックを受けて、尻尾の毛を更に逆立ててヘノに抗議する。

 

「そんなに心配しなくても。大丈夫じゃないか? ヘノが桃子に話すのは。誰にも禁止されてないしな」

 

「あっ、それもそうっすね!」

 

 ヘノの言葉に納得し、ポンコの威嚇は収まった。

 桃子は妖精と化け狸のコントに猛烈にツッコミたいところだったが、ここで茶々を入れても話がまとまらないので無表情を貫いて、話を進める。

 

「それでポンコちゃん、うどん大会の優勝賞品っていうのは、その問題を解決できるものなの?」

 

「次の大会の商品は、瘴気を浄化する力があるものらしいっす。きっと、すごい魔法の道具かなにかっすよ。その道具があればクロムシにやられたのは、浄化できるはずっす」

 

「そっかー……クロムシって?」

 

 瘴気に侵されて病気になった里の長と、瘴気を浄化する道具。なるほど確かに、問題を解決することはできそうだ。話だけ聞いてみると父親を救うというよりは長を救うという話に聞こえるが、そこはポンコにとってどちらの方が重要かの違いだろう。

 そこで出てきたクロムシというものは分からないが。

 

「最近増えてきた、黒い大きな虫みたいな魔物っす。あいつ、色々なものにとりついて、瘴気を宿してまわる危険な魔物なんす」

 

「あれってそんな悪質な魔物だったの?!」

 

 黒い虫みたいな魔物はここに来てからも既に何匹か倒していた。

 某映画の真っくろくろなんたらを大きくしてぴょんぴょん跳ねさせたような姿のそれは、どうやら寄生タイプの悪質なものだったようである。

 

「桃子も。気をつけろよ。一匹二匹ならともかく。沢山とりつかれたら。身体。壊すぞ」

 

「う、うん、気を付けるね」

 

 しかし、クロムシというものは道すがら、かなりの数を見かけた気がする。あれだけ数がいるならば、被害にあった探索者だって少なくはないだろう。

 人間には害が少ないのか、それとも人間に寄生したとしても瘴気が視れない人間たちには気づくことが出来ないだけなのか。

 

 桃子は、空恐ろしいものを感じるのだった。

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