ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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普通の人間

「よし、片付け終ーわり! って言いたいところだけど、ちょっとカレーつゆが余っちゃったねえ」

 

「ポン……調子に乗って沢山作りすぎたっす。麺が先になくなっちゃうとは思わなかったっすよ。次は、麺をもっとたくさん作るっす!」

 

 ポンコのカレー店のテント。本日の営業は終わり、撤収準備中であるのだが。

 

 皿などを片付けたのはいいものの、かまどの上の鍋の中にはポンコが作ったカレーつゆだけが残ってしまった。

 それほど大量に余ってしまったという程ではないのだが、しかし廃棄するには多いし勿体ないという分量だ。この程度なら三人で食べてしまえばとも思ったが、実は三人とも作業中にうどんをまかないや味見といった形でなんだかんだでかなり食べていたので、正直ちょっと今はお腹がきつい。

 冷蔵庫があれば、一晩くらいなら大丈夫なのかもしれないけれど、このダンジョン内ではそれを望むべくもない。

 

「なら。このカレーの汁は。妖精の里の連中の。お土産にしてもいいか。あいつらにも。食べさせてやろう」

 

 そこで提案をしたのはヘノ。

 確かに、この場で食べきれないならば、お腹を空かせている仲間に持って帰ってあげればよい。まさに真理である。

 今日のヘノはなかなかに冴えわたっていた。

 

「あ、そうだね。そうしようかな。調理部屋のお鍋で温めなおしたら、カレースープみたいな感じで皆も喜ぶかもしれないね」

 

「ポンのカレーつゆ、妖精さんたちも喜んでくれるっすか? だったら、是非とも持ってってほしいっすよ! せっかく美味しくできたカレーつゆ、色んな人に貰ってほしいっすからね」

 

 今日はもう日も暮れる時間なので、桃子も今から妖精の里に戻って1から調理をするよりは、出来合いのものを温めなおすほうが簡単である。

 量が少々少ないので水とルーを追加して水増しすることはあるかもしれないが、下味としてポンコのカレーつゆが入っているのは悪くないだろう。

 幸か不幸か、妖精たちは味には比較的無頓着なので、いつもと違う程度ではさほど気にしないだろう。

 

「まあ、ちょっとあとから増量はさせてもらうとは思うけど。妖精さんたちはカレー大好きだから、きっと喜んでくれるんじゃないかな?」

 

「ポンは、妖精を見たのは実はヘノさんが初めてなんすけど、妖精ってカレーを食べる種族だったんすね。勉強になったっすよ」

 

「まあ。妖精の国の。カレーの出どころは。主に。桃子なんだけどな」

 

 桃子の食生活に影響されて、最近はティタニアのもとで生活している妖精たちはカレーを好むようになっている。少なくとも週に1回は大鍋でカレーを作っている状況なので、妖精が好んでカレーを食べる種族だと言われても否定しきれなくなってきた。

 ヘノに言わせれば、妖精は人間のように食べ物を食べなくても、ダンジョン内の清浄な魔力や、或いは魔力の宿った木の実や花の蜜を食べるので問題ないということなのだが、一番食いしん坊であるヘノの言うことなのであまり説得力がない。

 

「まあ、よその地域の妖精さんたちがカレーを食べてるかどうかはわからないけど、とりあえずこのカレーつゆは貰っていこうかな」

 

 鍋をリュックに入れるのは危険なので、リュックから大型サイズのポリ袋を取り出して、そこにカレーつゆを流し込む。万が一のために、袋は二重にしておく。

 鍋の中身を全て移し替えたところで、ギュッと袋の口を閉ざして、リュックに押し込んだ。あとはこれを温めなおすだけである。

 

「良かったっす。ポン、愛情込めて作ったっす。妖精の方々にも、喜んでもらえるなら嬉しいっす」

 

「化け狸の作ったカレーとか。女王も。驚くかもしれないな」

 

 別な縄張りで交流のない妖精と化け狸。

 これを機に、互いに交流でも生まれたらいいのになと、桃子は漠然と考えるのだった。

 

 

 

 

 帰り道。

 

「これからしばらくここの階層は乾季に入るのでうどん店はだいたいお休みになるっすよ」

 

 帰りは第二層の石壁迷宮内に繋がっている光の膜から帰ると説明したところ、ポンコもその場所までついてくると言うので、そこまで共に歩くことになった。これはその道のりでポンコから説明された話だ。

 この第一層『石造りの街』の水路は飲料や料理にも適した水質で、各うどん店はその水を使ってうどんを作っている

 しかし、月のうち3分の1ほどはこの階層は乾季となって水路が干からびてしまい、その間は探索者たちのうどん店もなくなるという。そして周期的にそろそろ、次の乾季がやってくるようだ。

 

 探索者の中には乾季になってもなお、地上から持ち込んだ水タンクを使ってうどんを出している根性のある探索者もいるらしい。

 だが、どうしてもダンジョンの魔力を含んだ水と比べるとうどんの質が落ちてしまうのだそうだ。

 

 ダンジョンの第一層で、地上の味と同じかそれを下回るうどんをわざわざ食べるならば、普通にダンジョン外で食べた方が美味しいと考える人も多く、やはり雨季の時期と比べるとうどん目的の来客というのは少なくなるようである。

 無論、ポンコ自身はダンジョン外に出たことはないため、外のうどんがどれほど美味しいものなのかは知らない。なので、外のほうが美味しいという話も、あくまで出所は道行く探索者たちの噂話だ。

 

 ちなみに、桃子が調べたところ、香川ダンジョンのうどんを食べると足腰が強くなるという定説があるらしい。

 香川ダンジョンうどんによる足腰の強化とは、ダンジョン食材である『香川ダンジョンの水』でうどんを作ったとき限定の効果なのではないか、という考察も見かけた。

 普通に飲んだときはそのような効果は無い為に、あくまで考察レベルである。しかし、ダンジョン食材というのは未知の効果が非常に多いので、あながち間違いではないかもしれない。

 

 そのような話をしながら、ランタンを持って荒野を歩き、第一層を抜ける。途中で何匹かのクロムシや牛の魔物に遭遇したが、ポンコも第一層の魔物くらいなら対処できるようだった。

 半獣姿のポンコが牙をむき出しにして魔物へ飛び掛かったときには、桃子も内心「こわっ」と思った。口にはしなかったが。

 

 そして、第二層へ下る階段を共に降りる。階段の先には闘技場の地面が広がっているが、闘技場へと降り立つ前に二階席の階段側へと移動する。

 観客席から見通すと、闘技場では巨大なゴーレムが微動だにせず新たな挑戦者の訪れを待っていた。

 

「あの。ゴーレムとかいうやつ。ずっと立ってて。暇じゃないのか」

 

「動かずに待つのが門番の仕事だからねえ。そういえばポンコちゃんは、いつもあそこのゴーレムのところの階段を通ってきてるの?」

 

「ポン? いいえ、ポンはあんなでっかいのと戦ったりはしないっすよ。別な階段から降りるっす」

 

「え、別な階段って?」

 

 ヘノの先導に続いて桃子とポンコは石の迷宮を進んでいく。

 やはり【隠遁】を持たないポンコと共に居ると魔物にも気づかれやすいようだが、ヘノが先に感知して回り道をして進んでいく。ポンコも魔物の感知くらいは出来るようだが、ヘノは風の妖精という性質上、通路の空気の流れから更に広くの感知が出来るのだそうだ。すごい。

 

 ポンコの話によれば、どうやらこの広大な石壁迷路には隠し扉の類もいくつかあって、その隠し扉の先へと進むと闘技場の大階段とは別の、下層へと続く小さな階段が隠されているのだそうだ。

 どうやらこの闘技場の周囲の石壁迷宮には、まだまだ探索者たちに知られていない秘密のルートなどが隠されているようである。

 

 桃子には隠し扉の類いは見えないが、ポンコやヘノ、或いは柚花ならばそのような隠された区画を見つけることもできるのだろう。

 隠された未知の存在やダンジョンの謎など、そういうのがまだまだあるのだと思うとただの通路を歩くのも楽しい気分になってくる。

 今度、ヘノと一緒に宝さがしをするのも楽しそうだな、なんていうことを思った。

 

 

 そして、石壁の迷宮を進んでいく一行。

 

 石壁の巨大迷宮を歩いている中で、桃子が次に来れるのは来週だと伝えると、ポンコはニパッと笑顔を見せた。

 

「じゃあ、次に師匠が来るときは乾季でおうどんは作れないので、化け狸の里に案内したいっす! ポンのお師匠様を、きちんと爺ちゃんにも紹介したいっす」

 

「私を紹介してくれるの? でも、化け狸の里って、人間は入っちゃ駄目……とかいう掟はないの?」

 

 例えば妖精の国ならば、妖精が己の魔力を通して発現する光の膜が通路となるので人間が入れないようになっている。

 稀に事故で、或いは意図的に花畑へとやってくる人間もいるようだけれど、すぐに眠らされて、或いはすぐに記憶を消されてしまい、ごく一部の例外を除けば人間が何度もそこへとやってくるようなことはない。

 なので、狸の里も同様に人間に対しては警戒が厳しいのではないかと、桃子は質問したのだが。

 

「普通の人間は厳禁っすけど、師匠には里のことすでに色々知られちゃってるっすからね。それによく考えたら、師匠は普通の人間じゃないじゃないっすか!」

 

 師匠は普通の人間じゃない。

 驚愕の事実である。桃子は普通の人間カテゴリではなかった。

 

「なんだ桃子。もしかしてとは思ってたけど。普通の人間じゃなかったのか?」

 

「いやいや、もしかしなくて普通の人間だよ? 私ってなんだと思われてるの?」

 

 桃子のことをあまり知らないポンコが言うならばまだしも、ヘノまでそんなことを言い出すものだから、桃子は慌てて首を振って否定する。

 桃子はきちんと人間の父母のもとに産まれた、人間の娘である。ちゃんと戸籍もあるし、「あなたはカレーから生まれた妖精なのよ」とかいう話を親から聞かされた記憶もない。

 つまり。桃子は普通の人間なはずだ。

 

「でも、他の人間から見えなくて、妖精と一緒にいて、まだ子供なのに魔力もものすごいじゃないっすか、普通なわけないっすよ」

 

「言われてみれば。桃子は。普通じゃないな」

 

「ええー……」

 

 しかし、化け狸と妖精の二人からは怪訝な目で見られてしまった。多数決なら1:2で、人間(仮)である桃子の方が劣勢だ。

 ついでに言うと年齢にしても桃子はそもそも子供ではないのだけれど、そこから説明しようとするとまた話がループしそうなので、後日時間があるときにゆっくり説明しようと桃子は心に誓うのだった。

 

 

 なお。

 温めなおしたポンコのカレースープは、いつもの桃子のものとは違う味ということで不思議に思う妖精たちも多少はいたものの、おおむね好評であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

「っていうわけで、狸の女の子と仲良くなっちゃった」

 

『先輩、たまにはもうちょっと普通の週末を過ごしませんか?』

 

「うーん……私としてはね、本場のうどんを食べたかっただけなんだよ」

 

『普通はうどんを食べに行くだけで魔法生物に出会ったりしませんって』

 

「私もびっくりしてるところだよ。ね、柚花は化け狸のこと、何か知ってたりする?」

 

『えーと……そうですね、10年ちょっと前までは目撃例が多かったらしいんですけど、最近は見かけなくなったっていう不思議な存在ですよね、化け狸は』

 

「そうなんだ? じゃあポンコちゃんは珍しいんだね」

 

『あとは、香川ダンジョンはそれに関わる怪談話じみたものもあった気がしますけど、ちょっと詳細は忘れちゃいました。今度でいいですか?』

 

「怪談って、なんか怖いね。化け狸が何か人を驚かせたとかかな?」

 

『確か、行方不明の探索者さんの話なんですよ。今度調べてみます。ところで先輩、今回の話、窓口さんには?』

 

「あ、窓口さんにはね。それとなく、話せるところだけ説明はしたけど、柚花と同じような反応だったよ」

 

『でしょうねえ……って、話せるところだけっていうのは?』

 

「狸の里の掟もあるし、人間には知られちゃ駄目なこととかはさすがに話せないよ」

 

『ええと、一応聞いてみますけど、なんでそれを人間である先輩が把握してるんですか?』

 

「柚花は私のこと人間扱いしてくれるんだね! 最近自分が人間じゃない疑惑があったから、嬉しい、柚花大好き!」

 

『私も大好きですよ、先輩。で、大好きなのは嬉しいですけど、ダンジョンでなにかあったんですか? 先輩は生粋の人間ですよね? そこをご自分で否定しちゃ流石に駄目だと思いますよ?』

 

「えへへー。あ、ところで柚花はどうだった?」

 

『えへへって……まあいいですけど。私は今日は鎌倉ダンジョンに行きました。まあ、普通でしたよ? あ、今度鎌倉土産持っていきますね』

 

「いいな、鎌倉っていえばしらす丼食べた? しらすカレーはあった?」

 

『あーもう、先輩って基本的に話題がカレーに収束しますよね。可愛いなあ』

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