弟が影の実力者を目指すそうなので、支えようと思う 作:不動大名
俺には少し変わっている弟がいる。
毎日部屋で影の実力者になるための必要なことは何かという文字を書いている紙を部屋に飾っていたり、モブになるための心構えというノートを書いていたり、どこからか買ってきたバールでトンファーみたいな動きをしたりしている。まぁこれぐらいなら気にするほどではないが、問題は夜になると急に壁によりかかり、満月を見ながらワイン飲もうとし始め(流石に止めた)たり、近隣住民に迷惑な音を鳴らす暴走族に突っ込んでいき、
「ヒャッハー!俺の経験値なりやがれー!!」
とまるでどこぞの世紀末みたいなことを言いながら彼らをボコボコにし始めたりしている。
それでも時には真面目な部分ある。ピアノなんかはコンクールで賞をもらえるほど上手だし、格闘技においても全国で優勝するぐらい強い。しかも、これも全部自分の夢のためにやっていることだから、本当に凄いやつであると思う。
弟が、影の実力者を目指し始めたのは、まだアイツが小さかった頃だ。
「兄ちゃん!おれ、かげのじつりょくしゃになりたい!」
「…ん?なんて?」
「かげのじつりょくしゃになりたい!」
急に弟がそんなことを言ってきて戸惑ったことを今でも覚えている。丁度その頃、テレビで主人公が影の実力者みたいなことをしているアニメが入っていて、弟がそれに感激を受けたようだった。最初は、まだ子どものいうことだから、頑張れよ的なこととこうしたらいいんじゃないというアドバイス的なことを言って軽く受け止めていた。だが、日が経つにつれて弟は俺にアドバイス求めることが多くなっていき、中学に上がる時には体を鍛えはじめ、色々な格闘技に手を出し始めるなど段々エスカレートしていき、あっコイツ本気なんだなと思うようになった。
でも、俺は止めるどころか、むしろ応援していた。俺は生まれたときから心臓が弱く、中学に上がる頃に病院で入院するようになっていたため、弟には俺の分まで自由に生きてほしかったからだ。医者には長く生きることが出来ないと言われて辛かったけど、弟が毎日病院に訪れて俺にアドバイスを求めてくれて、こんな俺でも頼ってくれていることが嬉しくて、一生懸命に頑張っている弟を見ると俺も頑張らなきゃって思えて、そんな弟が俺は大好きだった。変な夢ではあるけど初めて見つけて様々な努力を重ねている弟を俺は心から応援しているし、尊敬している。
弟が高校に上がる頃に俺の体が限界を迎えてしまった。両親は悲しいに涙を流してくれて、弟もいつもより暗い表情で俺を見ていた。そんな弟が俺は見たくなくて、両親に悪いと感じながらも少しだけ二人で話したいと言った。両親は何も言わず部屋の外に出てくれた。そして、自分のベットを少しだけ斜めに上げる。喋るのも辛かったが、最後に弟と話をしたかった。
「最近の調子はどうだ?」
「……今は手詰まりって感じでどうすればいいか考えているところ」
「…そっか」
「…兄さんは調子、どう?」
「見ての通り、絶好調!ってわけじゃないな」
「…そっか。…あのさ兄さん」
「ん?なんだ?」
「…いや…何でもない」
そう言って暗い表情で哀愁を漂わせながら何か言いたそうにしながらもやめる。でも、長年寄り添ってきた弟―――――――ミノルの考えは分かっているつもりだ。だから俺は伝えるべきこと伝える。
「ミノル」
「…なに?」
「ミノルはどうしたい?」
「―――――え?」
バっと顔上げ、驚いた顔しながら俺を見る
「ミノルはさ、変な夢を目指している癖に変に真面目なところがあるよな」
「……」
「別にお前が納得してその夢を諦めるのなら俺は何も言わない。でもさ、俺はお前の夢、好きだよ。」
「‥‥嘘だよ」
「嘘じゃないさ」
俺は少し苦笑しながらも、言葉を綴る
「最初はもちろん、俺も本気にしてなかったさ。だって、急に言い始めるさ。具体性もなく目標もあやふやで、何をどうしたら終わりなのかちっとも分らない」
「……」
「でも、お前がその夢に向かって、そのために本気で努力しているところを見るとさ、笑う気なんておきないよ。むしろその夢にむかって本気で追うお前に、俺は魅せられた」
目標に向かって、称賛といった見返りを求めず、ただひたすらに努力する。俺がこの体じゃなくてもそんなことが出来たかどうか
「‥‥兄さん」
「だから、俺のためにここでその夢をここで終わらせないでくれ。ましてや医者なんかお前には似合わないだろう」
そう笑いながら、ミノルに伝える。
「お前はお前らしく進めばいい。それを踏まえた上で、もう一度質問する。ミノルはどうしたい?」
「‥‥狡いよ。そんなの選択肢なんかないじゃん」
「あるぞ。ただ俺は、俺の考えを言っただけだからな」
そう言うと、ミノルは苦笑して、でもすぐに覚悟のこもった目で俺を見た。これなら大丈夫だろう。
「なるよ、僕は。影の実力者に。他の誰のためでもない、自分のために」
それでいいっと思った時に、急に眠たくなってきて、瞼が閉じ始める。時間がきたのだろう。ミノルは最後まで俺の手を力強く、それでいて割れ物を扱うみたく優しく握られているのを感じながら、俺の生涯を終えた。
「おお!生まれたぞ、男の子だ!」
「ええ、無事に生まれてよかったわ」
「あう?」
そしたら転生した。あの、もうちょっと余韻に浸らしてもらってもいいですか?今俺、死にたてほやほやなんだが?