憧憬の連鎖、その渦中   作:阿呆鳥

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 当然ながら回顧録パートはケッテが書いているため、悪意が無くとも彼女が忘れた部分やどうでもいいと感じた部分の省略や記憶を辿ったことによる美化などが含まれている可能性があります。


勇者ヒンメルならそうした

 

 ひとしきりうおーんと慟哭した後、「でも今隊長の力になっているのは自分だから…」と考え精神安定を果たした頃には、港町につく直前になっていた。

 

 甲板に再び出ると、もう船員たちが停泊させるための最終準備に取り掛かっているのが見えた。

 隊長もこの苦しい船旅の終わりが目の前にきて心なしか嬉しそうだ。

 

「お待たせしました。港町から少し歩けばついにオイサーストですね。」

 

「あぁ、ようやくこの忌々しい揺れともおさらばだ。」

 

 

 数分後、停泊した船から降り、大地を踏みしめながら感動する隊長を見て珍しい姿が見れたと私も感動する。

 

「まだちょっと揺れてる気がすんな…もう船はこりごりだ。帰りは一級魔法使いになってるだろうし陸路でいくぞ。」

 

 その言葉を聞き、隊長が何らかのトラブルでもし落ちてしまった場合、隊長を陸路で帰らせるために絶対合格しなければならないな、と決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 数日後、中継地点となる村に着いた。買い出しを行ったり魔法店を見たりしながら他愛ない会話をしていると、途中で何かを見つけた隊長が足を止める。

 

「そこで私はこう言ったんですよ、『それじゃドラゴンじゃなくてにんじんでしょ』って…どうしました?」

 

「いや…ここにもあんだな、って思っただけだ。」

 

 指し示した方を見ると広場があり、そこの中心には銅像が建てられていた。

 …勇者ヒンメルとその一行。約80年前に魔王を倒し世界を救った伝説の英雄だ。私個人としてはその存在に大した思い入れはないが、隊長がその英雄譚が好きなため、好きな人の好きなものを知るために一般に出回っている勇者ヒンメルの物語はおおむね読んだ。

 

「ここでは勇者一行が揃ってますね、珍しい。北部だと大体ヒンメル一人じゃないですか。」

 

「そうだな…」

 

 僅かな間何かを思うように像を見上げていたが、すぐに歩を進め始める。

 

 前に聞いた話によれば、隊長は勇者ヒンメルに憧れたため今があるのだという。

 隊長についていく前に、手を合わせて銅像を拝んでおく。あなたのおかげで出会えました、本当に感謝しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死から26年後。北側諸国。

 ケッテは北部魔法隊にてついにヴィアベルの指揮下に入るという悲願を達成した。彼女は普段からこの希望だけは上申しつづけていたため両者が生きて隊に所属し続けている限り遅かれ早かれいつかは叶うことであったが、1年という短い歳月で達成されたのは理由がある。

 言ってしまえば単純なことで、無名の大魔族と交戦することになり、辛くも討伐自体には成功したもののヴィアベルの部隊のメンバーの多くが殉職したのでその補充に入ったという形である。ケッテは任命されたとき、舞い踊りたいような気分になったが、ヴィアベルは非常に気落ちしていることが見て取れたためグッと我慢し、自室で一人になった時に行うに留めた。

 

 そして配属された翌日、緊急でヴィアベルに一つの任務が課せられた。内容は、近くの地方で魔族の将軍が町を襲撃したということで、「一度は町の衛兵によって退けたものの町の近くで回復しながら潜伏しており、討伐のために早急に増援を送ってほしい」とのことでそれにヴィアベルの部隊が選ばれたということであった。

 

 

 当然ヴィアベルはそれを引き受け、ケッテを含めた自分の部隊を連れて現場に急行する。

 

 

 ケッテにとってはヴィアベルと共に戦場に立つ初の機会であるため、気合の入れようも非常に強いものであった。道中でも自分の開発した魔法のイメージトレーニングを繰り返し、絶対にミスをしないことを誓う。

 この頃には部隊の先輩たちからもヴィアベルを強く意識していることは察されているため、生暖かい目で見てきたり、自分にもそういう時期があったと懐かしいものを見るような目で見てきたりする者もいた。

 

「あまり、気負いすぎるなよ。戦場で余計なことを考えている奴はあっさり死ぬ。」

 

 移動中、一人の隊員がケッテにそう声を掛けてきた。その人物は先の無名の大魔族との戦闘で死んだ隊員と仲がかなり良かったことを覚えている。非常に気が立っている様子であった。おそらくケッテの姿が死んでいった仲間たちと重なっていたのだろう。

 ケッテもその時は他のことに意識が向かないほど集中していたため、ぶっきらぼうな返しをしてしまう。

 

 

 

「アドバイスありがとう、でも大丈夫。私は絶対、ヴィアベル部隊長の役に立つから。」

 

「役に立つって…そういう憧れをもつのは悪くないが、寿命を縮める。お前だけじゃなく部隊全体、もっと言えばあんたの愛しのヴィアベルさんまでもだ。せめてちゃんと全体を見て行動するよう気を付けてくれよ。」

 

「戦闘それそのものに私情は入れないよ、そんな魔法使いはあの人も嫌いだろうしね。あなたが不安になるように見える風に振舞ってしまったのは、私の落ち度だから謝る。ごめんね。」

 

「いや、…………わかったなら、いい。」

 

 

 

 

 

 しばらくして、部隊が依頼の街が見えるほどの場所に近づいたとき、異変が起こった。

 「襲撃だ。」とヴィアベルが言い、全員が即座に臨戦態勢へ入る。ケッテの魔力探知では何も感じなかったが、ヴィアベルが言うならそうなのだろう。

 即座に魔族が三体現れ、こちらに攻撃を加えてくる。防御魔法で防ぎそれに対処すると、唐突に強い砂煙が立ち上り、視界が急激に悪くなる。後に分かったことであるが、魔族は最も脅威となるヴィアベルの魔法の概要を知っており、それを妨害するためにこのような工作を行ったのだ。砂の中には魔力も込められており、こちらの探知に対するジャミングという役割も担っていた。

 

 

 

 元々やや縦に伸びていた部隊が分断され近くにいた数人で魔族一体の対処をしなければならない状況に追い込まれる。

 

 

 先ほど少し口論になった隊員が周囲を探るために前に出るが、その首元めがけて魔法を撃とうとしていることがケッテは気づいた。咄嗟にその隊員を押し除けるが、自身が魔法を肩口に食らい、えぐり飛ばされる。

 隊員は驚きながらも魔法の発生源を見て状況を把握し、そこに攻撃魔法を発射することで魔族を殺害した。

 

 

 

 直後、砂煙が晴れた後、遠くで「親玉をぶち殺したぞ!」と言うヴィアベルの声が聞こえてくる。不利な状況下でも経験を活かし勝利することができたらしい。

 

 

 

 

 

 

 僧侶の魔法による治療を受けながら、ケッテは助けた隊員に話しかけらていた。

 

「…なんでお前、俺のことを助けたんだ…明らかに危険だったのはお前は見えてたし俺を無視して攻撃すればよかったのに…」

 

 

「…なんでそんなこと聞くの?あんなこと言ってくるんだし、あなたは生き残りたいんでしょ?だったらまず感謝すべきじゃないかな。」

 

「…っ!……あぁ…すまなかった。本当に感謝してる。」

 

 

 

「…単に攻撃に対処しながらあなたのことを助けられそうで、そっちの方が生存者が多くなるし勝ちの目も上がると思ったから。それに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィアベル部隊長なら見捨てなかった。それだけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッテ、今いいか?」

 

「よくない時間なんてありませんとも!」

 

 村の宿で寝る直前に回顧録の続きを書いていると隊長が部屋を訪ねてきた。飛び上がりそうになりながら返事をしてすぐに扉を開ける。

 

「さっきこの村の近くの街道に出没する凶暴な魔物を駆除してほしいっていう依頼があってな。まだ試験まで時間的余裕はあるし受けようとしたんだが、今は二人旅だ。お前の了承を取りにきた。」

 

「もちろん大丈夫です!どんな魔物なんですか?まぁ、私たち二人で敵わない相手なんていませんけどね!」

 

 隊長はよく魔物や魔族の討伐依頼を持ってくる。勇者ヒンメルのくだらない寄り道だらけの旅路が好きだからだと昔語ってくれた。勇者に憧れているのは北部魔法隊の面々にも少なくないが、ここまで人助けの様を規範としている隊長は珍しいタイプである。

 

「そんなこと言うだろうと思ってたぜ…。鳥型の魔物で上空から強襲して商隊や馬車をよく襲うらしい。すばしっこい相手ですぐ空に逃げちまうから手を焼いているんだとよ。」

 

「なるほど…隊長からすればカモですね、鳥だけに。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 翌日、朝起きた後身だしなみを整える。隊長とお揃いのファー付きの上着を羽織り、ロケットを首から下げる。

 

「準備できました。出発できます。」

 

「よし、やるぞ。」

 

 村から離れ、街道を進む。あちらから仕掛けに来てくれれば万々歳で、そもそも巣の場所が情報からおおよそ見当がついているとのことなので、そこを叩きに行く。

 

 少し歩いていると、魔力探知に僅かにひっかかる感触があった。

 

「そして私が拳でマンドレイクの頭を粉砕した瞬間口の破片が叫び声を……隊長、気づいてますよね。」

 

「あぁ、分かってる。」

 

 遠方の空に僅かに影が見えた。中々の速度で飛んでおり、こちらの方角に向かって近づいてくる。が、こちらの空の上の近くに来たをその体が動かなくなり、地面に落下してくる。

 "見たものを拘束する魔法(ソルガニール)"……実用性特化の、相手を殺害することも生け捕りにすることも思いのままの、この世で最も美しい魔法である。何度見ても惚れ惚れする。

 

「これで終わりですか?あっけないですね。」

 

「いや…ここからだ。」

 

 

 落とした鳥型の魔物を急所を打ち抜き絶命させると、こちらに向かってくる魔物の存在が確認できた。

 

 

「なるほど…まだ数匹いるんですね。」

 

「あぁ、こいつらは仲間が魔法でやられるとそこにいるであろう魔法使いを食うために群がってくる、悪趣味な生態をした奴らしくてな。戦士が何とかやってもトカゲの尻尾切りされるから、こいつらが現れるようになってから最初にきた強い魔法使いの俺らに白羽の矢が立ったってことだ。まぁ、結局一体一体は雑魚だから俺らには脅威じゃねぇ。」

 

「はい。…ん?いやこれ…なんか反応が多くないですか?」

 

 

 夥しい量の羽音とともに、どこからともなく大量の鳥型魔物の群れが現れこちらに飛んでくる。反射的にその場で数匹撃ち落とした後、二人で走りながら人を殺す魔法(ゾルトラーク)を引き撃ちして対処するがキリがない。

 

「想定外だ、ツイてねぇ!事前情報だとせいぜい5匹って聞いてたんだけどなぁ!」

 

「すいません、一つ提案なんですが…あっ」

 

「あぁあ!?」

 

 私が思いついた考えを隊長に伝えようとするが、加速してきた一匹の魔物に捕まってしまう。が、これでいい。私を捕まえた時点で十分だと考えたのか、急速に高度を上げ自分を連れ去ろうとする群れ全体を、地上から目で追う隊長に向けて"いつもの魔法"を使う。

 

 

 

『こいつら、一回図鑑で見たことがあります。上質な魔法使いは一度巣に持ち帰る習性があるんですよ。やりやすい場所で一網打尽にして帰ってきます。』

 

 

『お前が急に間抜けになったかと思ったぜ…死ぬなよ。』

 

 

 

 

 

 愛する人に思いを届ける魔法(ヴォルロート)。私が隊長との連携のために開発した魔法の一つで、半径約5Km以内に存在する愛する相手に対して思念を送るというものだ。隊長にも教えたので、相互に思念による会話を行うことができる。この魔法による会話は好きだ。隊長に愛されていると実感できる。

 

 

 私は奴らの巣に連れてこられ、ついに啄まれ捕食される…直前に魔法により自分を掴んでいる奴を撃ち落とし、その後、集まっている魔物どもを鴨撃ちの様に雑に蹴散らす。最近暴れるようになったというし、この強さからして放置しても大して栄華は誇れなかっただろう。

 彼我の戦力差に気づき、逃げようとしたのも何匹かいたが、私の得意魔法でこの近辺から飛び去れなくした。

 

『終わりました、すぐ帰還します。』

 

 目につく魔物を狩り終えたため、隊長に連絡をする。

 周囲をふと見ると、かつて連れ去った人が持っていたであろう食べられないアクセサリーや、魔法使いが持っていたのであろう、魔力の込められた道具が巣のあちらこちらに散らばっているのを見て、これは持ち帰った方がいいのか考える。

 この場所は魔物が巣にするだけあって中々危険地帯だ。村の人はここまで来るのは難しいだろう。しかし、重量が増えると飛行魔法の操作も面倒だし速度も遅くなる。さっき見た感じ他の鳥型魔物もいくらか生息しているから危険だし、依頼でもそこまでする義理はない。

 

 

 

 ――――勇者ヒンメル(ヴィアベル隊長)なら、回収するだろう。

 

 

 

 

 

『おい、早く戻ってこい。』

 

 …あぁ、隊長からの愛を感じる…

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

「ありがとうございます…!これは主人が持っていた結婚指輪です…!」

 

 村に帰ってきて、私は持ち帰った遺品を遺族の方に返す作業をする羽目になった。これがかなり面倒で正直持ち帰ったことを今になって非常に後悔している。隊長にも手伝わせてしまった。

 その後、依頼のお礼にと、村の人たちが出してもらった馬車に乗せてもらっている。

 

 

「たいちょぉ~~疲れましたぁ…」

 

「まっ、いいじゃねぇか。所持者の分からない魔道具はいくつかもらえることになったんだしよ。…お、見えてきたぞ」

 

 外を見ると、目的地のオイサーストを遠くに捉えることができた。

 いよいよ至福の二人旅も終焉か…




オリ魔法
愛する人に思いを届ける魔法(ヴォルロート)
 強く好感(恋愛感情じゃなくても可)を抱いている相手に一方的にテレパシーを送る魔法。対象が非常に限定的かつ効果範囲に制限もあるため、現代の連絡手段に代わるような便利な代物ではない。
 この魔法を発動対象の詳細を伏せヴィアベルに教えた後、自分に対して使えるようになったときは数日何も手につかなくなった。
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