憧憬の連鎖、その渦中 作:阿呆鳥
あれから、特に問題が発生するでもなくオイサーストに着くことができた。到着後は休む前に忘れないようにと、まず一級魔法使い試験を受けるための手続きを行った。こういう生真面目なところも素敵である。
「ヴィアベル二級魔法使いにケッテ三級魔法使いですね、確認しました。試験は一月後となります。」
大陸魔法協会の受付で諸々の手続きを済ませる、これで後は試験開始まで待つだけだ。…何人かこちらを見てきているのがいるな。他の受験者の確認兼偵察をしに来たものだろうか。
「気にすんな。なんにせよ俺たちのやることは変わんねぇ。」
その通りだ。隊長の教えを胸の中で反芻する。必要なら殺すし、必要ないなら殺さない。協力が必要ならするだけ。相手が誰だろうとそれが変わることはないし、結局のところ北の果てもオイサーストも、北部魔法隊の仕事も一級魔法使い試験も同じである。
宿に向かう道中、エルフが町中を歩いているのを見かけた。初めて見たが、どことなく勇者一行の魔法使い、フリーレンの銅像に似ている気がした。エルフはみんなあんな見た目なのだろうか。
◆ ◆ ◆
勇者ヒンメルの死から24年後。北の果て。
、
ケッテは魔法使いとしての修行を重ねていた。独り立ちして孤児院を旅立ったはいいものの、北部魔法隊の求められる水準に達しておらず推薦してくれる師匠もいなかったため、門前払いを受けてしまったのだ。
そのため、もうすぐ行われる三級魔法使い試験に合格することで所属を認められようとしていた。
都市に出てきて図書館にて学んで分かったことだが、これまではイメージによってしかロクなトレーニングを行っていなかったため、基礎的な魔法のコントロールと魔力量の増加の修練が疎かになっていた。それらを鍛えるため、瞑想と一般攻撃魔法と防御魔法の修行に多くを費やす。
しかし最近では自分の伸びしろがはっきりと感じられなくなり、スランプのようになってしまっていて非常に焦っていた。
試験対策のために事前に情報を集めていて分かったことだが、協会による魔法使い試験の内容は一人前と認められる五級以上の場合、その時の試験官によって自由に決められるため、毎回変わり予測は難しい。実戦形式で行われることも難しくないため、訓練内容のバリエーションを変える意図も込め、森に入り魔物を討伐する訓練も行うことにした。
これがケッテにとっての初の単独での魔物との戦闘になる。
北の果てのとある森、ここでは近頃魔狼が人を襲う事例が多発しているとのことだ。依頼をこなし、修行のついでに小金も稼ごうという魂胆である。
魔力探知を絶えず行い、魔物の位置をリアルタイムで把握しながら囲まれないように気を付けて一匹一匹を仕留めていく。順調に討伐は進んでいき、緊張も自分では特に感じなかった。しかし、慢心は確実にあったのだろう。
討伐対象の魔物の反応が近辺にはなくなり、少し気を休めようとして探知を止め、木にもたれて体を休める。少し疲れが体にあったらしくうとうとと舟を漕いでしまう。その隙を待っていたのか―――ヌシだと思われる巨大な魔狼が背後からこちらに攻撃を仕掛けてきた。
防御がギリギリ間に合ったため致命傷は避けたものの、ふきとばされ何度か転がり、体が激痛に苛まれ、自由に動けなくなる。何とか立ち上がり、防御魔法を使いながらその場から退避しようとするが、追撃をもらってしまう。
追い詰められたケッテがその状況を打開するため自らで開発した魔法を使おうとした刹那、目の前の魔狼が縛られたかのように動かなくなった。そして急所をめがけて魔法が飛んできて、森のヌシは塵となった。
その魔法を見て、ケッテは固まった。それは自分にとっての始まりの記憶に出てくる、奇跡のような魔法だったからだ。
北部魔法隊に入った後に知ったことだが、この時はこの周辺での仕事を終え、帰路についていたところ、戦闘音とヌシの姿を確認し、人が襲われている可能性を考えこちらに向かってきたのだという。
その存在に脳天を貫かれるような衝撃を受けたが、この頃は修行に集中していたため、趣味と言ってもいいヴィアベルの動向などの情報収集を行うことを怠っていたことに思い至る。
動かないケッテを見つけ、大柄な男がこちらに駆けつけてくる。
「君!大丈夫か!?怪我は!?」
平気なわけはないのだが、動転していたケッテはこれが後の入隊試験などで影響する可能性を考え、ローブを深くかぶりその場をごまかそうとする。今思えばこのようなみっともない姿をヴィアベルに見られたくなかったのだろう。
「わ…私は魔法使いです。修行中のみですし、怪我も大したことないのでこのままにしてくださって結構です…!」
「む?…確かに目立つ怪我はないようだな…ヴィアベル殿!襲われていた人は大丈夫でした!」
「おう、じゃあ戻ってこい」
――――運命だと思った。ヴィアベルは遠くにいるケッテのことに気づいていないようであったが、その存在を目に焼き付ける。あの日見た輝きとまるで変わらない姿。
北部魔法隊の隊員が薬を渡してきて、ケッテに何度も忠告をしてくるが何も頭に入ってこなかった。ヴィアベルに話しかけようとも思ったが、体も喉もまるで雷に打たれたように動かない。いつの間にかケッテの眼前にはもう誰もいなくなっていた。
ふらついたまま近くの村まで戻り、依頼者がこちらを心配してきたが、退治はできたが自分のおかげではないと報酬を固辞する旨を伝えて宿に戻る。
数時間の間寝転がっていたが、飛び起きて装備を整え外へと飛び出した。
その後、ケッテは三級魔法使い試験にて試験官や周りの受験者を若干引かせるほどの気合を見せながら、無事合格した。
◆ ◆ ◆
あれからいつも通りヴィアベル隊長の魔物退治に付き合っていたら、すぐに一月経ってしまっていた。ついに一級魔法使い試験の開幕である。
一次試験を担当する試験官曰く今回の参加者60人を3人のパーティにそれぞれ分けて行われるとのことだ。来い!頼む!運命!運命!
「今回は別々のパーティだな。俺がいなくとも落ちねぇように気をつけろよ。」
「あぃ…」
あ、あぁぁ〜〜やばい…隊長と別パーティになってしまった…隊長と協力できないどころか敵対するかもしれないと思うとめちゃくちゃテンションが下がる…まぁ私ごときの実力では妨害にもならないだろうけど…
北側諸国、グローブ盆地。一次試験区域。
一次試験の概要の説明中、隊長の方をついつい見てしまいそうになるが、別パーティの人間との繋がりをパーティメンバーに察されると余計な勘繰りもされるだろうし我慢する。
試験の合格条件は二つ。
その時点でパーティメンバーの全員が揃っていること。
つまりは、殺しもありの
試験が開始され、私たち第19パーティもまず、
「ケッテ三級魔法使い……知ってるぞ。北部魔法隊隊長の忠犬だろ…間違ってもこの試験ではご主人様に対して尻尾を振ったりするなよ。」
パーティメンバーの一人の、少年と言ってもいいような見た目の男性がそう言ってくる。
もう一人のパーティメンバーの背の高い女性がその発言を窘める。
「ちょっと!パーティの和を乱すようなこと言わないでよ。ごめんなさいね…北部魔法隊での活躍は私も聞いてるわ。名前が売れてる魔法使いが仲間と一緒に試験を受けてるからこの子も不安になっちゃったんだと思う。気にしないで上げて。」「おい!この子って何だよ!」
「いや、別にいいよ。はっきり言っておくけど、そんな利敵行為はしないよ。そもそも、あの人は私の援護なんて必要ない。」
「…じゃあ、もし隊長様が
「隊長の強さからしてそれを行うのは賢明ではないと思うけど、必要ならするよ。これで満足?」
「…ちっ、さっさと鳥を確保するぞ。」
男性は会話を切り上げ、先頭を早足で歩きだす。うん、悪くないコミュニケーションなんじゃないか?隊長にこの前「信頼関係を気づくべき相手には俺以外にもちゃんと愛想よくしろよ」って言われたからな…。相手の質問にも答えたし、言葉通り満足してくれたんだろう。
「私は不完全ではあるけど"
「なるほど…じゃあ早々に捕まえて、潜伏することを選ぶのが最善ね。」
「まぁ…戦闘を避けられるならそっちの方がいいな。余計なリスクは背負うべきじゃない。」
まだなんとなく警戒されている気がしたし、もともと私の作戦ではこれを使うつもりでいたから先に自分の手札を公開することでより信頼されるように努めてみることにした。他の二人も作戦には賛成してくれるようだし、一次試験はよっぽどのことが無い限り上手くいきそうだ。
「
男性が言うには、
それならば私たちのパーティは比較的有利であると考えられる。
しかしその後一日目の昼では、
じゃんけんによる公正な審判の結果私が最初の火の番兼見張りを行うことになったため、
私は少しだけ気になってしまったため、
流石に情報共有などは先ほどのやり取りもあったため行わないが、生存を確認するくらいはいいだろう。ロケットの中を見ながら足りない隊長分を微かにでも感じ取る。
「うぅ…寂しいです…」
◆ ◆ ◆
今回の試験は失敗かもしれない。一次試験のパーティメンバーが揃ったとき、私はそう思った。試験区域に移動する前の第一印象は、とある方向を見ながらやたらめそめそしている黒髪長髪の女と明らかにこちらを信用する気が無さそうな小柄な少年の二人で、まとめ役はたぶん自分がやらなければならないな、というものだった。
一次試験区域に着き、本格的に一次試験が始まった後もその予感は的中することとなった。
「まずは挨拶をしましょうか!私はホーホ、三級魔法使いよ。短い間だけどよろしくお願いするわ。」
「ユンゲ、二級魔法使いだ。」
「…ケッテ、三級。よろしく。」
どちらも愛想が悪い。
このあとユンゲ君の方の挑発と言ってもいいことを言うし、ケッテさんも売り言葉に買い言葉といった風なやり取りをして雰囲気は最悪だ。というかケッテさんは態度がめちゃくちゃ悪いし、こちらと明らかに壁を作っている。
…しかし、名前を聞く分には実績はどちらも悪くない。ユンゲといえば魔法学校の秀才として有名で二級魔法使い最年少記録タイ保持者であるし、ケッテはあの魔族との争いがまだ激しい北部魔法隊でスピード出世をして隊長の右腕とまで言われている魔法使いだ。
実力をいかんなく発揮しきることさえできれば、合格することもそう難しいことではないと思うのだが…
進展があまりない中一日目が終わっていく。とりあえずの方針として積極的戦闘は行わないことにして、明日に備え体を休めることになった。
まだ時間はあるとはいえ、作戦を根本的に見直すべきか迷ってしまう…。ケッテさんの言う
「たいちょぉ…」
…さっきからなんかぼそぼそ言ってるな…いい感じの時間が経過したくらいで、見張りを交代するという名目で起き上がり、ケッテさんに話しかける。
「ケッテさん、交代するわ…それ、なにかしら?」
「えっ、あー…これは試験には関係ない個人的なものだから気にしないで。」
「わたしはあなたと親交を深めたいのよ。後一日の付き合いかもしれないとはいえ、それでも連携は明日取るじゃない!ちょっとでも勝率を上げたいと考えるのは、ダメかしら?」
ちょっと面食らったところを見て、やはりロケット…もっと言えばそこに移っている人物が隙だと考え攻め立てる。
「もしかして大切な人との写真とか?やっぱりうわさに聞くヴィアベル氏?」
「う…うん…そうだけど…いや、本当別に肩入れとかしないから…二人が死んで強制脱落とかにならない限り…」
「…そういうことを聞いているわけじゃないわよ。わたしはオイサースト生まれオイサースト育ちで、やっぱり外のことには興味があるの。ヴィアベル氏との北の果てでの思い出とか、語ってくださらない?」
「え…いいの?長くなるけど…」
恐らくもっと踏み込むべきなんだろうな、とも思ったが、案外あっさり食いついてきたため、聞くモードに入る。しかし、それが間違いだった。それまでとは比較にならないほど饒舌になった彼女が、それまでの話す文体とはまるで異なるやたらゴテゴテした修飾語をつけて慕う存在を話す様はまさに圧巻と言うしかなかった。
多分ケッテさんの知り合いはこれを回避しようとするから、話す機会が無くて溜まってたんだろうな…と確信してしまうありさまだった。
このままでは終わらないと考え、口をはさむ。
「それで隊長が竜の口に金色の大根を華麗に突っ込んで…」
「じ、実はケッテさん個人に対してもちょっと聞きたいこともあって、いいかしら?」
「…うん?別にいいけど…隊長の話より有意義なことは何もないよ?」
「試験に関わることだから…ケッテさんは、その、慕っている隊長の魔法を使って人を殺せる?」
「え?どういう質問なのか分からないけど…殺せるよ。魔法の種類とか、やることに対して別に関係ないしね。」
「…殺しそれそのものに抵抗は…?」
「ないけど、それを言うってことはあなたはあるんだね。さっきも言ったでしょ?」
「もし『必要』なら、なんだろうと私はやり遂げるよ。」
「…うるせぇよ…寝れねぇじゃねぇか…」