憧憬の連鎖、その渦中 作:阿呆鳥
一次試験一日目の夜、同じパーティの女性から隊長のことを聞かれたため、つい熱が入ってしまって話し込んでしまった。
私は隊長について話すことが好きだ。しかし、最近北部魔法隊の隊員と隊長の話をしようとしても避けられてしまうことが多い(あそこに入るということは隊長に命を預けているようなものなのになぜだろうか)。そのため、久しぶりに隊長と直接触れ合う以外での楽しい時間を過ごすことができた。
二日目は非常に清々しい気分で迎えた。ちょっと昨夜話が盛り上がりすぎたことから男性の方からうるさいと苦言を呈されてしまったが、それでももう一人と絆を深めることができたので、プラスマイナスで考えたらめちゃくちゃプラスだ…多分。
しかしそんな私の気分とは真逆に、試験に関しては幸先が悪い状況であると言えた。
パーティの全員で魔力をなるべく抑えて動き回りながらした話によると、二人は魔族とはともかく人間の魔法使い同士での殺し合いの経験は無いようだった。伝えておくべきだと思ったことを言っておく。
「もしも人を殺さざるをえない時が来たら、私がやるよ。人生で一度もやらないで済むならそっちの方がいいからね。」
昨日の夜の会話で再確認することができたが、多くの人間は人を殺したことなんてない。今まで行われてきた一級魔法使い試験では死傷者も多く出ており、殺し殺されもある程度は覚悟してきているだろうが、なるべく経験者の私がやるべきだろう。純粋に実戦経験も私が一番豊富であるため、対人戦で矢面に立つのは戦略的にも適任であると思う。
二人はこの言葉に答えなかった。うなずいたし了承しているんだと思うが、明確な意思表示をしないと肝心な時に揉めたり齟齬が出たりするからやめてほしい。これも信頼が足りないせいか…。
北部魔法隊はなんだかんだ魔族を殺すという強い共通目的を全員が共有してたから最低限さえ発信できればよかったのに加え、最近では他者とのコミュニケーションを隊長に依存していたツケが回っている気がする。
やっぱり私は隊長がいないとまともに生きられないのか…、でも隊長の負担にもなりたくない…。
そんな風に頭を悩ませていると、近くで魔法を使う反応を感じた。
それにはメンバーのどちらも察知したようだ。
「私が先頭で行く。」
◆ ◆ ◆
俺たちが見つけたパーティは幸運にもすでに
俺にとって人生最初の対人戦が始まろうとしていた。
「まず、私の魔法で敵の不意を撃ちつつ射線を通す。そこに二人は攻撃を差し込んで。でも多分それだけじゃ凌がれて仕留めきれないだろうから、そこに私が
そう言ってケッテは自らの杖を示しながら言う。そよ風が吹いていた。
「いや…直接ったってまだそこそこ距離はあるぞ。それに潜伏してる場所までに物理的なトラップもある。突っ込んでもそれに阻まれてる間にあっちは逃げちまう。」
「うん、私もそう思うわ。ここからじりじり距離を詰めて、相手に感知されるギリギリから攻めるべきよ。3人で別のところから囲めば逃がすこともないし…。」
「今、敵は
ケッテが杖を前に構える。こちらもそれに合わせ慌てて戦闘準備をする。
「もうちょっと近くに寄って、巻き込まない操作が面倒だから。…やるよ。」
「というかどうやって射線を…」
「こう。…"
暴風が吹き荒れる。目の前の木々すら薙ぎ倒し相手パーティが仕掛けていた小細工を全て取り払い、ぽっかりと目の前が空く。
相手パーティが防御魔法で自分たちの身を守っている様子が簡単に見て取れた。
「ッ、
「
事前に言われていた通り、咄嗟に自分の得意魔法をホーホと共に相手パーティに向かって放つ。防御魔法のほころびが見えた。
「行ってくる。」
そう言うと同時にケッテは風に乗って凄まじい速度で飛び出していく。そして…
「ッラァァッ!」
飛び蹴りをかました。
「…は?」
肩に蹴りが直撃した魔法使いは骨が折れたのか、地面にうずくまり動かなくなる。
華麗な宙返りを決め着地すると、杖を棍の様に扱いさらに別の一人の側頭部を殴打する。その人物はふらついたようだが、咄嗟にもう一人がカバーに入り一般攻撃魔法を飛ばし、ケッテは回避のために空に逃げる。
風を操る魔法を組み合わせ、通常の空を飛ぶ魔法よりはるかに速い速度で縦横無尽に動き回り、相手からの反撃を躱すその姿はまるで踊っているかのようだった。
「援護早く!」
ケッテがそう言った瞬間、相手の注意がこちらに引かれる。その直後、ありえない速度で急降下し一人の後頭部を叩く。その魔法使いは糸が切れたように動かなくなる。
こちらからは、いつでも魔法を放てる状況にはしているもののあまりにも味方と敵の距離が近すぎるせいで誤射する危険性が高く手出しできない。
「木を操る魔法ッ…!」
残った一人が距離を取ろうとしながら魔法を使い、近くにある倒れた木を転がす。ケッテが大きく飛び跳ねてそれを躱したところで、動かした木を壁にして、残った動ける一人は籠を持ってその場から逃げようとする。
「
その魔法使いの足元を薙ぐように風が吹いたのか、足をつまづかせ倒れる。そこに空から一般攻撃魔法を雨の様に放ち、気絶させた。
相手パーティは全員戦闘不能となった。一分にも満たない、あまりにも慣れた手際だった。
◆ ◆ ◆
「…お前、その戦い方、どこで学んだ…?」
「独学です!ヴィアベル隊長の視界を遮るものを排除し、時には前衛として壁となりこの体をあなたに捧げます!!お近くで学び、役に立つ戦い方を開発しました!…ご迷惑でしたか…?」
「いや…魔族共をぶち殺せるなら戦い方なんて何でもいいけどよ…。何なんだよこいつは…」
◆ ◆ ◆
戦闘を終えたタイミングで二人がこっちに走り寄ってくる。私は敵が保持していた鳥入りの籠を拾い上げ、自分の腰帯に引っかけておく。
「お前、強いんだな…。」
「それなりにね。派手にやったから魔力探知で他のパーティが寄ってくる前に移動するよ。」
そのタイミングで初撃で利き手がやられて動けなくなっている魔法使いに視線が集まる。脂汗を浮かべているし激痛に苛まれているようだが意識はあるようだ。他の敵パーティメンバーも息はある。
「…後ろから刺されないためにこいつらにとどめを刺しといたほうがいいんじゃないか?」
「…降参する。俺一人じゃあんたらには勝てない…。籠は持って行ってくれていい。だから、命は助けてくれないか…。」
「…もし背中を狙ってきたら殺すよ。だから、やめてね。」
「ここからは潜伏するよ。上手いこと誰とも会わずに終わらせられればいいんだけど。」
「そうだな……ッ!?」
中央の湖の方角から轟音が起こると同時に、かなり大規模な氷魔法を使ったことが分かった。この魔力は…。
「第2パーティ…これは厄介ね。
「面倒だな…なるべく魔法は使わず探知されないようにしないとな…。」
それからは森の木々の中でせこせこと食べられる木の実などをかじって食事兼水分補給をしながら周囲に気を配らせることで残りの試験時間を過ごしていくことにした。
「水が無いからしょうがないけどひもじいわね…。」
「本調子とまではいかなくても不調で敵と戦うよりはマシでしょ。」
ずっと気を張っていても身が持たないため会話をしていると、男性が何かに気づいたように顔を上げた。
「近くに別パーティがいる。東から近づいてきてるな。…まだ気づいてないようだし別の方向に移動するか。」
「そうね。」
しかし、少し逆方向に進むと、厄介なことになっていることが分かった。そちら側にも別パーティがいるのだ。
「このままジッとして動かずにやり過ごすことも考えられるが…挟み撃ちの形になったら面倒だ。」
「片方を突破しようか。」
「血の気が多いわね…。」
西側から近づいてくるパーティを攻めることになった。森の中で木に隠れながら様子をうかがう。
「二人しかいない…?」
「もう一人が潜伏しているのかも、ちょっとめんどくさいね。」
「…あっちもこっちに気づいたみたいよ。」
あちら側のパーティの二人もこちらを警戒しているようだ。籠を腰に下げているが、中身は入っていない。残り一人が死亡している場合以外戦闘は避けられないだろう。そもそも明らかに闘志があるようだ。
そこまで考えたところで、一般攻撃魔法が飛んでくる。
私は木に隠れてそれをやりすごすが、二人は飛び出して躱したようだ。
「
恐らく地力は負けていないと判断したため、二人が正面切って交戦している間、私は周囲に視線を飛ばす。あと一人はこちらの隙を虎視眈々と狙っているはず…。
2対2の戦いの方はやはりこちらのパーティが有利に進んでいるようだ、多分数分もあれば勝つな…。
そう思っていたが、防戦一歩に見える相手方がやけに場所を誘導しようとしながら戦っているようにも見えた。
これは、助けに入るべきか。いや…敵も会敵したときに籠を手にしていた私が姿を現さないのを見て攻めあぐねているだけか…?
少し考えた結果、私も走り出し、加勢に入ることにした。速攻で片を付けて、相手が何かする前に終わらせればいい。
追い風を吹かせ、慣れで弾幕を避けながら異常な速度で飛び掛かる。
「ぎゃぶっ」
敵の一人のみぞおちに拳を叩きこんで悶絶させ、一旦全体から距離を取り観察できるよう空を飛ぶ。
「大丈夫か!?…うおっ!」
それに敵のもう片方が気を取られたところに例の男性の得意な雷魔法が敵に当たり、また私が殴った魔法使いにも追撃が入る。どちらも動かなくなり決着はついた。
「案外弱かったわね…。」
そう女性がつぶやき、二人が気を抜いた時、空から見ていた私の視界の中で、二人の周辺の地面が隆起した。
自分から離れた位置にいるパーティメンバーの近くの岩から人が現れたかと思うと、死角から二人の首に手を当て魔法を使う。
反射的に私はそこに向けて、巻き込んでも殺さない程度に調整した一般攻撃魔法を飛ばすが、女性の方の首根っこを掴んだ状態で躱し、私に向かって声を上げてくる。
「地面に降りろ。籠を置いて杖を捨て、地面に腹ばいになれ。余計な動きをしたら仲間を殺す。」
パーティの男性の方が地面に倒れたまま体を震わせている。今使ったのは、体を痺れさせるよく使われる汎用戦闘魔法だろう。
…ここから攻撃してもいいが、その場合は相手はとりあえず味方を殺してから私と戦闘をするだけだろう。そうしたら敵を全員殺せたとて私の負けだ。
地面に降り立ち、緩慢な動作で
魔法を使うにしても、強風を適当に吹かせたところで私の扱う風そのものには魔法使いに対する殺傷能力は無いし、ほぼ無風の状態から直接人体に影響を与えるほどにすることはできず、先に魔力のこもった空気に感づかれる。かといって振り向くにしても、こちらが攻撃するより味方を殺される方が早いだろう。
最悪私が暴れるにしても、即座に彼女を敵の拘束から解放しなければならない。少なくとも数瞬で喉を潰せる状況からは解放することが最優先だ。
万事休すか…、打開法を必死に考える。やみくもに行動しても負けるだけだ。
「早くしろ、さもなくばこいつを殺す。」
勝敗は決した、そう思われた瞬間、
――――――結界が破壊された。驚きで全員が気を取られ、一瞬戦場が停止する。
そして、風が吹いた。
雨で気温が低かった上空に向かって、気温が保たれていた結界内の空気が流れる。急な気温変化に上昇気流が発生したのだ。私の魔法はすでに吹いている風を操る方がイメージしやすい。それまでの滞留していた空気に比べればなおさらだ。上昇気流の勢いをすさまじく大きくすることで、その場の全員を宙に打ち上げる。不意を打った瞬時の状況変化に私以外は対処できない。
「なっ…この女の魔法を止めろ!」
上空では気圧が低く遮蔽物が無い分より風が強くなっている。
「あなたたちは…嵐に勝つイメージはある?」
「…なぁ、ケッテ。どうして、誰も殺さなかったんだ?さっきのパーティのことだけじゃない。お前、籠を奪う時からずっとわざと死なないように調整して戦ってるだろ。」
「…昨日からずっと言ってるでしょ、必要ないからやらなかっただけ。」
「でも、殺さないように手心を加えるのはダメージが浅くなる恐れもあるし、殺した方が危険性も無く私たちは
…うぅむ…これは言ってしまってもよいのだろうか。試験官やそれに準ずる立場の人間の耳に入ったら不興を買うどころの騒ぎじゃないのだが…
…いや、いいか。この二人はこの試験をともに戦い抜いた仲間だ。黙秘することは戦場で背中を預けあった者への礼儀に欠く。北部魔法隊としての沽券に関わる。
「…実はね、私の目的は一級魔法使い試験に合格することじゃないんだよ。…だから、試験合格のための殺しは私にとっての『必要な殺し』じゃないんだ。…内緒ね、これ」
私はヴィアベル隊長の作品であり所有物だ。あの人は間接的にでも人を殺したら悲しむだろう。
冷静に考えたら二次試験から敵同士になるかもしれないんだから言っちゃダメだったかもしれない。
日没の時間、
やはりというべきかそこには隊長のパーティもあり、約一日半ぶりの生隊長に涙を流して駆け寄りそうになるが、試験が正式に終わるまでは拝むのみに留めておいた。沁みるぅ~~~…。
「…あなたやっぱりあの人が絡むとキャラが変わるわよね…。」
失礼な、私は常に素だ。
オリキャラだけで話を回すのはたぶん今回限りなんですが、ケッテのキモい内心も出せないしオリジナルの展開や戦闘を考えないといけないしで書くのが難しかったです。