憧憬の連鎖、その渦中 作:阿呆鳥
一級試験が終わった。合格者は私たち第19パーティを含む計7パーティの21名。第二次試験は3日後に行われるとのことだった。だが……
そんなことは全部どうでもいい!!!
私は解散を宣言された瞬間、隊長の元に駆け寄り馳せ参じる。
「隊長!私が同じ戦場にいるにも関わらず助けにもなれず大変申し訳ありませんでした!!隊長は私なんぞのことは頭の片隅にもなかったかもしれませんしまして助けなんていらなかったでしょうが…!」
「おぉ…一日ぶりだとよりうるさく感じるな…。」
「あぁ申し訳ありません、日を跨いだ邂逅に高ぶりが抑えきれず…!」
「ヴィアベル…この人何なの…?」
「あんた…変なのに好かれてるんだな…。」
「…北部魔法隊の直属の部下だ。一応、こんなでも結構強いし悪い奴じゃねぇ。」
恐らく隊長の一次試験のパーティメンバーが珍獣を見るような目で何か言っているが、ほんの一日半一緒にいた程度で私よりも隊長の仲間面しないでほしい。
「お前も無事に合格できたみたいでよかったぜ。あんたら、世話掛けたな、こいつ色々変だったろ?」
合格者たちが帰り始める中、隊長が私のパーティメンバーに声をかける。
「いえ…私たちのパーティが合格できたのはケッテさんのおかげよ。ケッテさん、改めて本当にありがとう。」
「そうか、ならよかった。」
隊長はどこか安心したようだった。私のことで心労を掛けてしまったなら恥ずべきことだ…もっと成長しなければ。
オイサーストに着いた時には、すでにとっぷりと日が暮れてしまっていたため、疲れを癒すためにもとりあえず宿で休むことになった。
自分で思ったよりも疲れが溜まっていたのか、すぐに眠くなりベッドに横になる。大規模な魔法を使うといつもこうなる。戦闘のための訓練のおかげで直後は継戦できるとはいえ、課題は山積みだ。
翌日、目を覚ました私は普段起きる時間帯より遅れてしまっていることに気が付いた。急いで支度をし、とりあえずダメ元で隊長の部屋まで行ったが、もちろん先に起きていたようですでに部屋には誰もいなかった。昨日魔力を使いすぎた弊害だろうか、一生の不覚である。宿に併設されている酒場で朝食を取っているだろうしそこに向かうことにした。
酒場に行くと、あっさり隊長を見つけることができたが、誰かと話している。おそらく私の知らない人だ。遠目に様子を見ていると、あちら側もこちらを見つけたようで隊長が手を振ってきた。応えないわけにはいかない。近づいて同じテーブルの席に着く。
「よぉ、おはよう。よく寝れたか?」
「おはようございます!出立してから初めての隊長より遅い起床、お迎えもできずお詫びの言葉もございません…。」
「別に頼んでねぇし欠片も気にしてねぇよ。一応、そんな風に気にするだろうと思ったから起こしに行ったんだけどな。ずいぶん気持ちよさそうに寝てたから、放っておいちまったぜ。」
「なぁっ…!?」
何だと…!?お手を煩わせたうえに気まで使わせてしまうなんて…。
「ぐっくぅぅ…申し訳ありませんでした…。」
「…ヴィアベル、これで平常運転なのか?」
「ああ、もう俺は慣れた。」
この人は…誰だ。近くに来ても分からん。知ったかぶりするわけにもいかないし、正直に聞こう。
「ところで、ずいぶん隊長と仲がいいみたいですけど…あなた、誰ですか?」
「…名前を知らないのはともかく、昨日顔は合わせたんだがな。」
そうだったか。もし倒した相手とかで、因縁をつけられたらめんどくさいな。
「こいつはシャルフ。俺の一次試験のパーティメンバーだ。昨日ここに泊まってることを伝えておいたら、会いにきてな。お前と同じく我流の魔法を使うし、案外気が合うかもしれないぜ?」
「そうですか…。」
良かった、変な因縁や拗れは無さそうだ。
…しかし、私は人の顔と名前を覚えることが極めて苦手だ。自分の顔すら正確に把握できていない。ロケットの写真でよく見るから何となく覚えている程度だ。
シャルフ…だったか?シャルフ、シャルフ…隊長と関連付けておかないとすぐ忘れてしまうため、目の前の顔を見ながら頭の中で繰り返す。
あっち側はすでに私のことを把握しているようだった。隊長が話してくれたんだろう。
「なんか俺を睨みながらブツブツ言ってて怖い…。」
「こういうやつなんだよ、悪意があるわけじゃねぇ。これでも昔に比べればマシになったんだ。」
…うん、インプットできた。
私も朝食を頼み、二人は私が現れたことによって途切れた会話を再開させる。
「今シャルフと話しててな。二次試験が始まるまでの間に、大陸魔法協会の魔物討伐の依頼でもこなそうかと思ってんだ。お前も…ま、来るよな。」
「はい、もちろんです。」
当然、何であろうと私が隊長の意思に従わないことなんてないことはない。どんなところにもついていき、お役に立つためだけに魔法を磨いているのだ。
「と言っても、一日で終わるような簡単な依頼をこなすだけだ。気張らなくていい。試験に影響が出てもよくねぇしな。」
協会の受付に行き、受けられる依頼を選ぶ。ちょうどよさそうなものを見つけたため、声を掛ける。
「
「取るに足らない雑魚だが…肩慣らし程度にはなるか。」
「簡単すぎやしないか?俺の実力を不安視しているなら後悔させてやるぞ。」
本当にすぐさま討伐は終わったため依頼の報酬を受け取り、三人で早めの夕飯を取りながら明日の予定について話すことになった。
「存外簡単すぎたな。明日はもうちょっと手強い魔物にするか。」
「すみません…依頼選びのセンスが無くて…。」
う~ん、あそこにあった中でちょうどいい魔物は…。
私が受付での記憶を辿っていると、シャルフが討伐対象の提案をしてきた。
「
「確かに悪くはねぇが…強力な突進の威力を受けるのに俺たち魔法使いだけじゃ不安が残るな。前衛を探す必要がある。」
「オイサーストは大都市だ。前衛一人一日雇うくらい困らないだろう。…そういえばケッテは近接戦闘も心得があるんだろう?前衛はやれないのか?」
「私は躱すのが主な戦い方だから、受けも技術的に習ってないことはないけど
「そういうことだ。じゃ、明日は依頼を受けて前衛探しだな。」
そう言って解散することになった。私は短剣を鍛冶屋にもっていって研いでもらった後宿屋に戻る。まだ寝るには少し早かったため、回顧録の続きを書くこととした。
◆ ◆ ◆
勇者ヒンメルの死から28年後。北の辺境の村。
この日は北部魔法隊の休息日だった。終わりの見えないの魔族との闘争も忘れ、隊員たちは思い思いの過ごし方でつかの間の平穏を楽しんでいた。
「あら、ヴィアベルお帰り。」
「おう、ただいま。ババア、まだくたばってなかったのか。」
ヴィアベルはその日、故郷の村へと帰っていた。そして…
「隣の子は?あんたが女の子を連れてくるなんて珍しいこともあったもんだね。」
「こいつは仕事の部下だ。俺を尊敬してるとかで故郷を一目見たかったんだとよ。」
この時、隣にはケッテの姿があった。本人が同行を希望し、ヴィアベルも強く拒む理由も無かったので連れてきたのだ。
最初は緊張でどこか挙動不審な様子であったが、しばらくすると落ち着き、ヴィアベルに関する話題に花を咲かせるようになった。
昼時にはヴィアベルのことを息子や孫のように思っている村人たちも、活躍の噂は多く聞こえてきても直接的な部下から話される村の出世頭のことには興味があるようで、本人が仕事についてあまり話さないこともあり村人に囲まれることになってしまった。
話が一段落したタイミングで村の面々は仕事を再開するために解散していった。その後、ケッテの希望で二人は村を歩きながら何となしに会話をする。
「どうだ?なんも無い田舎だろ。憧れの隊長様の故郷に期待してただろうに悪いな。面白いものなんてどこにもねぇ。」
「いえ、楽しいですよ。私の知らない隊長の姿を聞くことができるんですから。」
「クソ…初めて会った人間に身内のことべらべら喋りやがって…。」
ヴィアベルは恥ずかしそうにしていたが、普段の隊の中で気を抜いているときのそれとは違った気楽さが表に出ているようにも見え、ケッテはそれを自分に晒していることが非常に嬉しかった。
村人たちの手伝いをしながら世間話をしていると分かったことだが、旅の魔法使いがこの村に滞在しているらしいという。珍しいこともあるものだ、とヴィアベルは言った。
ヴィアベルの故郷ということもあって、敵対勢力による工作など何かやましいことがある可能性を警戒し、その人物に会いに行くことになった。実際に会ってみれば普通の人間の魔法使いであり、経歴等も嘘をついている様子はなかった。あちらは北部を旅しているだけあり、この村が故郷ということは知らなかったが、ヴィアベルのことは知っているようだった。
「高名なヴィアベル殿とお会いできて光栄ですよ。明日には発つ予定だったので奇跡的なめぐりあわせですね。そうだ、お二人さん、記念に写真はどうですか?私は写真魔法が使えるんです。心配させてしまったお詫びと言っては何ですが半額でやらせていただきますよ。」
「はは、商魂逞しいのは悪いことじゃねぇがあいにく興味が無いんでな。」
写真魔法は近年になって発明された魔法で習得難度もそれなりに高く、基本的に写真は高価である。そのこともあり、ヴィアベルは大して興味も無いため断った。しかし、ケッテは異なるようであった。
「隊長、撮りませんか?私が払いますから。」
「…やりたいならいいけどよ、奢らせんのも恰好がつかねぇ。まぁこれもいい機会か…。」
写真を取るとき、ポーズをとってほしいと言われ、ヴィアベルはケッテに対して肩を組んできた。ケッテは飛び上がりそうになるが、必死に抑え込み、ぎこちない笑みを浮かべた。
二人がそれぞれ一枚ずつ写真を買い、その魔法使いが礼を言いながら下宿している家へと帰っていった。
「明日朝一番に出立するための支度中ってのに悪いことをしちまったな。…どうしてお前は写真を撮りたがったんだ?こういうのに価値を見出すタイプには見えなかったけどな。」
「純粋に隊長と直接会えない時でもそのお姿を目に入れられるようにしておきたかったっていうのが一つあります。」
「あぁ、そういう…いつも通りだったな。」
「後は…もし私が死んでも、この写真を見たときにこんな奴いたなって思い出してくれたら嬉しいと思ったんです。」
「…こんなん無くても、死んでいった仲間たちは全員覚えてる。」
「分かってますよ。信じてないわけじゃないです。記録にも残ってますしね。…それでも、形に残る何かが欲しかったんです。」
「それに、私だけちょっと特別みたいで気分いいじゃないですか。もし隊長が悲願の魔族の根絶みたいな偉業を成し遂げたとして、この写真が後世に残ったら私が部下筆頭みたいな扱いされたりして。」
「隊員全員と写真撮ってきてやろうか。」
◆ ◆ ◆
翌朝、今度こそ起きることができた。
いつもの時間に隊長の部屋へ行き、ノックをする。
「おはようございます、隊長。ケッテです。」
「あぁ、おはよう。…やたら誇らしげだけど褒めたりしねぇからな?」
シャルフとも宿の前で合流し、依頼を受けた後、街中で戦士と思われる人間に片端から声を掛け、場合によっては直接触れて質を測り、探していくことになった。といっても一日パーティを組む程度の相手だ。
しかし、
「もう三人で狩りに行きますか?」
「まだ時間的余裕はあるから、しばらく探してそれでも見つからなかったらな。」
「あの人、戦士ですね。斧担いでますし。」
四人の女性と一緒に歩いている一人の男性を見つけた。
近くで見るとかなり上質な戦士のように見える。仕事で戦士とも肩を並べることが多いが、戦士として非常に優れた体をしているのは専門職でない私にも分かった。
隊長が声を掛け、シャルフと隊長がその戦士に話しかけ体をまさぐりなっなぁ!?明らかに必要以上にいじりすぎている、私も体をまさぐられたことなんてないのに!
「ちょっと… やだ… 何?」
「いやっちょっと無遠慮に触れすぎじゃないですか!?この人も戦士として素晴らしいかもしれませんが私の筋肉も中々触り心地良いですよ!」
「この女の人も何なの!?」
「ケッテ、ちょっと静かにしてろ。」
「う、はい。」
戦士の男をいたく気に入ったのか肩を組み、連れの人間に事情を説明する。少し複雑だが、こういうところがあるから私も恩恵にあずかれている面があるので何も言わない。こういう馴れ馴れしいところもいい。もっと私に対してもこういう仕草をしてほしい。
「試験で会ったな。こいつお前の仲間か?借りてっていいか?」
ほう、試験中に会ったとは。私の知らない人間関係が存在するのは当たり前だが、いい気分ではないのでやはり隊長からはひと時も離れたくない。
「どうぞ」「酷い!!」
戦士はものすごくあっさり引き抜けた。
「連れていかれちゃったけどいいの?」
「大丈夫でしょう。害意が全くありませんでした。同じ人物とは思えないほどに。…それにしても、ああいうタイプの女性に慕われているのは非常に意外でしたけれど。」
オイサースト近郊の森で
「シュタルク、頼むぜ。…ん?」
戦闘がいざ始まるとき、鳥が現れ、手紙を届けに来る。隊長がそれを受け取り、開封してその内容を確認した。
「二次試験の通知だな。」
「えっ…ちょっと、三人とも?」
「書いてあるのは会場と具体的な日時、それと…試験官の名前はゼンゼだってよ。知ってるか?」
「いえ…」「俺も知らないな」
「あの、ヴィアベル?シャルフ?ケッテ?…おっうおおおおおお!!」
次の試験こそは隊長の味方ができる内容でありますように。
ちなみに赤毛の戦士くんはめちゃくちゃ強かった。そのためより隊長に気に入られていて、役割が違うことは理解しているのに敗北感が湧き上がってくる。私ももっと体鍛えようかな…。