憧憬の連鎖、その渦中 作:阿呆鳥
北側諸国、零落の王墓。
翌日、私たち一次試験合格者は二次試験会場に集まっていた。試験官より説明された試験内容は至ってシンプル、未踏破
配布されるゴーレムによって命は即死しないかぎり担保されているらしい。一次試験と比べたら安全だ。試験官が平和主義者と自称しているのは本当かもしれない。
……と、いうより今回の試験で一番重要なことは…
「隊長、今回はご一緒できますね!」
「…そうだな。連携がとり慣れてるお前と一緒に行動できるのは都合がいい。」
試験が開始した直後の現在、何となく受験者はそれぞれ見知った人間同士のグループでまとまって、
受験者の一人の老爺(どこかで見たことがある気がする、おそらく有名人)が全員で攻略しようと人を集っているが、あまりうまくいっていない様子である。かく言う私も隊長の近くに即座に侍った後、動くこともなく静観しているので何を言えた立場でもないのだが。
「隊長、どうします?多少なりとも
「いや、少数で動いた方がやりやすい。それに一次試験での柵もあるしな、信頼関係のないやつとは組めねぇよ。」
「そうですね、隊長は見知らぬ人であろうと見捨てられませんからね。」
「おい…。」
私は
「行くぞ。」
そう言って隊長は立ち上がる。
…ん?3人?私とシャルフと…誰だ?
「ちょっと待ってよ。」
なんだこの女!?
小走りで隊長の歩みに着いていく少女に声を掛ける。
「え?ちょっ、あなた誰?隊長のファン?」
「…まさか今気づいたの?一応顔は見たことあるはずなんだけど…。…私はエーレ。一次試験でそこの二人と一緒だったわ。あなたは確かヴィアベルの部下よね?名前は…」
「ケッテ。」
隊長の顔をちらっと見たが彼女がついてくることは受け入れているようだ。というかどっちかというと彼女ではなく私の方に少し警戒の目をやっているようにも感じる。
「別にそんな誰にでも噛み付くわけじゃないですよ…」
「ははっ、どうだか。」
「…後ろから撃たないでよ。」
うぅ、信用が無い。
◆ ◆ ◆
第二次試験、零落の王墓の攻略を4人で進めることになった私たちだったが、拍子抜けするほど順調に進んでいった。というか隊長が、普段の仕事では役に立たない
道中ひらけた空間があったため、数時間歩き続けた小休止のため少し落ち着くこととした。この試験はフルに時間を使うなら丸一日かかる。長時間の任務の際には気張り続けるのではなくできるならある程度余裕を持って行動することが大切だ、とかつて隊長に言われたことを、本人の横顔を眺めながら思い出していた。
まあ一日中の作戦くらい北部魔法隊ならしょっちゅうだし集中を絶やさないこともできるけど、今回は慣れない2人も加えての4人行動だ。焦って崩れてしまっては元も子もない。
「これなら存外楽に最深部に行けそうですね。主要な魔物であるガーゴイルも対処できないほどのものではありませんでしたし。」
「と言っても、これだけならとっくのとうに踏破されてなきゃおかしい。何か仕掛けがあると考えて警戒を怠らないべきではあるけどな。」
携行食や水を口に含んだり、ここまでのマッピングを見て歴史的背景などを交えながら構造の予想や考えられるギミックを共有したりしていると、パーティメンバーのブラウンヘアの少女が私に話しかけてきた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
「何?隊長について?いいけど…長くなるから多分この時間に終わらないよ。」
「まあそれも後で色々聞きたいけど、違くて…。」
何!?もう私に話のネタなどない。私自身に興味があると言うならなおさら隊長の話をすることになってしまうのだが…。
面食らって少し目を大きくした私を怪訝な目で見た後、続けて言う。
「北部魔法隊について聞きたいの。」
「ああそういう…。入隊志望?でも、それなら隊長に聞けばいいんじゃない?当然だけど運営やらの詳細なところとか私より詳しいし、私はちょっと…あまり組織について考えてないから。」
「確かにあなたが"北部魔法隊"そのものにこだわりは無さそうなのは何となくわかるわよ…。けど、大したことじゃないから多分大丈夫。休憩の雑談程度よ。」
「ならいいけど…。」
意図はよく分からないが、そこから聞かれたことは実際大した内容ではなかった。私から見た隊の印象や、いつから私が入ったのかなどで、確かにそれなら私でも容易にこたえられる。
「女性の数は少ないよ。男女問わず隊員の変動は激しいけど、大抵私を含めても片手で数え切れるくらいかな。」
「ふぅん…。変動が多いというというのは…やっぱりきついの?」
「そうだね、死んだり怪我や精神的な理由でやめたり。北は魔族が強いし、傭兵の仕事として対人戦もするから。南側諸国の戦争に比べれば規模は全然小さいんだろうけど、それでも魔族殺しのために入ったのに人殺しさせられたら嫌になるのも、共感はできないけど理解はできるよ。」
「…そう。」
「賊の討伐くらいならみんな結構平気そうなんだけどね。」
正直、私の様に隊長と一緒にいられればそれでいいような人間でなければ、他人に勧められる仕事かと言えば全くそんなことは無い。私が戦えなくなった引退後とかではなく今備忘録なんぞを書いている理由も、次の戦場では死ぬかもしれないからだ。
そこまで話したところで、シャルフと話していた隊長がこっちに目線を向けてきた。その目は…もうそろそろ探索を再開したい、ですねもちろんわかりますとも!
「話はここまでにしよっか。お互い生きてたら続きはオイサーストでね。」
「ええ。そっちも、聞きたいことがあったら教えて。魔法学校のこととかそこで学んだこととかなら答えられるわ。ほぼ独学でしょう?」
そんなものはない。こういう時を誤魔化すために覚えた愛想笑いをしながら立ち上がる。やはり隊長もちょうどこちらに話しかけようとしたところのようだ。
「いつものことだが流石にタイミングがここまでドンピシャだと気持ち悪いな。」
「ふふん、誉め言葉として受け取っておきます。」
…私たちが話している間の向こうの会話で、シャルフが隊長呼びしているのが聞こえてしまった。私の呼び方が移ったのか知らないが、ここでは私だけが北部魔法隊という共有している関係の特別感があったからやめてほしい。隊長が拒絶してないので言わないが。
◆ ◆ ◆
「雰囲気が変わったな。」
「最深部が近いのかもな。」
攻略を進めていると、荘厳な空間が多くなって露骨に空気が変わってきた。ここが名前の通り何者かの墓なのであれば、そろそろ本丸であることは私でもなんとなく察することができる。
…んっ!?この魔力の感覚…間違えるはずもない。殿を務めていた私が勢いよく後ろに振り向くと同時に見慣れた拘束によって倒れこんでしまう。
「隊長がもう一人いる!?あぎゃっ!」
「おいなにやってんだ?」
「待って、魔力を消した魔法使いが四人…奇襲よ。」
その言葉と共に一般攻撃魔法が飛んでくる。素早く反応した隊長の防御魔法によりそれらは撃ち落とされた。
「なるほど…。シャルフ、視界を遮れ。」
「わかっている。」
花によって視界が遮られたことで体が動くようになる。花弁でできた垣から下手人の姿を捉え、私も状況を把握する。確かにこれは難攻不落の未踏破
…この女の子、私より結構下だろうにかなり優秀だ。この四人の中で一番早く魔力を消した魔法使いの気配を全て捉えることができていた。北部魔法隊を志しているのであれば、少し悔しい。
「よし、シャルフは『俺』を、エーレは『シャルフ』を、ケッテは『エーレ』を狙え。俺は『ケッテ』を叩く。突破するぞ。」
すぐさま隊長から指示が飛ぶ。やはりこういう場では実戦経験、指揮経験共に豊富な隊長は頼りになる。あちらは言葉を発せないようだし、これは非常に大きなアドバンテージだ。それにここまでの探索で分かったが私たちの中にそれを疑うメンバーはいない。
私もその声と同時に魔法を飛ばす。いつも通り、勝つだけだ。
◆ ◆ ◆
魔物がどの程度こちらの知能や記憶を再現しているのかは分からないが、一生味方しかしない予定だから隊長と敵対する訓練なんてしてない私の複製体がまああっさりやられた時はちょっと複雑な気分になった。
数の利を取った後は隊長が拮抗した場に援護に回り、各個撃破することで全員消滅させることに成功した。
「少し時間は食ったにせよここは何とかなったが…他の受験者の複製体も当然いると考えると、厄介なのはやはりフリーレンか。あれに出会ったら俺たち全員あの世行きだ。」
「…本当に厄介って思ってます?ちょっとワクワクしてません?」
「いいや?憧れてるとはいえ流石に勝てる状況を優先して伝説に挑むほど馬鹿じゃねぇよ。…それは置いとくとして、俺たちは四人で動いてるし対人戦の心得もある。大抵の相手には負けねぇ。他の受験者の動向を掴みたい気持ちもあるが…。」
「それならこちらから探す必要は無さそうだぞ。」
シャルフがそう言って指し示した方を向くと、受験者の一人の色々大きい女性がこちらに向かってきていた。
「すいません、とある事情から皆様の協力を仰ぎたく思います。まず現状の説明をしても?」
「ああ、頼むぜ。」
そこから説明されたことは、この
「……あら。たった今ゼンゼさんの複製体が撃破されたようです。仕留めたのはユーベル三級魔法使いみたいですね。」
「意外な結果だな。」
「そうか?結構相性悪めだろ。」
まずい。個人名も各々の能力も把握できていないせいで話についていけない。北部魔法隊の隊員ならともかくここの面子なんて覚えられない。そもそも隊長以外の顔の判別には多大な労力がいるのだ。その内直さないとこういう多人数と関わる任務で支障が出るな…と考えていると、こちらがデンケンなる人物を足止めすることを指示された。名前が聞いたことがあるが大物だ。私たちを高く買ってくれているらしい。
彼女はもう一体の特に危険な複製体を一人で相手取るらしい。
「本当に一人でなんとかなるの?あの子結構強いわよ。」
パーティの少女がそう言うが、そういえば彼女は一次試験でその人物に負けたらしいことを隊長から聞いたことを思い出す。まあ自分が負けた相手は強くあってほしいよね、分かるよ。といっても、さっきの戦闘を見るに多分この子は私よりポテンシャルが高い。それが負けたとなると中々に侮れない相手であるのは同意するが…。
彼女が言うには対処法の用意はあるらしい。まあ本人が大丈夫と言っているなら任せていいだろう。死んでこちらが相手することになったとしても勝てないことは無いと思うし。
「そういえば、ケッテさん。あなたが一次試験で組んでいたお二人は脱落したようですよ。」
「…?はあ、そうですか。」
なんでそんなことをわざわざ言ってくるのだろう。それは運もあるにせよ彼らの力不足であって私には何ら関係の無いことだと思うのだけれど。
隊長が私をよく分からない目で見た後、全体に向き直り素敵な獰猛な笑みを浮かべる。
「じゃあ、ひと暴れするか」