オーガポンで愉悦したかった(できない)転生モモワロウ 作:アザミマーン
もう熱が冷めないうちに一気に投稿しようかなって。だから多分次もそこそこ早いんじゃないかな。
『異形のポケモンが村を襲撃しようとしている。我が支配下のポケモンと協力し、これを撃退せよ。死んでも村を守れ』
ともっこと呼ばれる三匹のポケモンに、桃のポケモンから命令が下された。
普段は使わない「死んでも」という表現に、桃のポケモンの焦りと危機感を感じる。
イイネイヌが上を見上げると、なるほど確かに夜とは別種の昏さが辺りを覆い、空に開いた穴から何者かが出現していた。
クラゲのような体で、水中ではなく空を浮かぶ者。
筋肉質な体に、虫のような頭と脚を持つ者。
加工した岩のように角ばり、大量の眼のような何かを持つ者。
それ以外にも多種多様な、それでいて数えきれないほどの量が村やその周辺に落ちて来ていた。
同じ生き物とは思えない姿。異形としか表現できないソレを直視して、しかしともっこたちは全く動じていなかった。
余裕があるからではないし、現実が見えていないわけでもない。どれほど楽観視してもこの戦いの後に自分たちが生き残っているとは思えない。
だが、
それだけでともっこたちから恐れる心は消えていた。
最初から不思議なポケモンだった。
桃のポケモンに自分たちを助ける義理などなかったはずだ。しかし桃のポケモンは何の見返りも求めずに犬達を救い、この安住の地まで連れてきた。
ここでも理由もなく村を救い、見返りもなく孤独なポケモンを救った。
以前はそれを気にしたこともなかった。
しかし、今は違う。自分たちには理解できなくとも、桃のポケモンにとっては重要なことだったのだろうと思う。
今回も、桃のポケモンが隠れてコソコソと何かやっているのをともっこたちは知っていた。遠くから強いポケモンを呼んだり、自分たちや村人に怪しげな団子を度々食わせていたり。
ただ敢えて尋ねなかった。必要ならば教えて来ただろうから。そして事実、必要なかった。教えても何も変わらない。村の移動なんて簡単にはできないし、村人を混乱させるだけだろう。
善良なポケモンでは無かったと、犬はこれまでを振り返る。
ああ見えて悪戯好きで、秘密主義で、自分を含めた生き物の不幸を笑う悪癖があった。
だが、善良でなくとも、良い主ではあった。
少なくとも、ともっこたちの信頼や期待を裏切るような行動は一度もしなかった。
その主が、見たこともないほどに切羽詰まっている。今までこんなことはなかった。
つまり、自分たちは今初めて、本当に必要とされているのだ。
ならば。
その信頼と期待に応えるのが、良い
後退はない。我らともっこ、この身を賭して敵を討つ。
憂いもない。所詮自分たちは捨て石、
居ないのは、きっと消耗しないため。だって化け物がここにいる分だけとも限らない。
だからこそ自分たちは、適当に殺し、文字通り「死ぬまで」時間を稼げばいい。楽な仕事だ。
体を動かせなくなっても大丈夫。なんせ我らの身には、あの桃色の毒が染み込んでいる。きっと意識がなくても体は動く。
さあ、全力で殺しに来い。消耗しろ。力を、余力を使いきれ。
だから。
あとは任せた。我らが友よ。
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「モゲッ(クソッ)」
だあああああ多すぎんだよ!! これで何体目だ?!
シャドーボールで滅多打ちにしたカミツルギを放置し、後ろから飛んできたデンジュモクの電撃を躱す。
できるだけ山の方に引き連れてきたが、それでも半分以上は村の方に行っちまった。
お返しに極太の鎖でデンジュモクを串刺しに。息つく間も無く上からテッカグヤが降ってくる。
ああもう、俺とUBの相性が悪すぎる!
支配の毒は耐性タイプのポケモンには効かないし、そもそもあれは口の中に入れなきゃ意味がないものだ。
おかげで今のところ操れているのはフェローチェとアクジキングだけ。フェローチェの数はそこそこ多いし、アクジキングはその大きな体で盾になってくれてるが、いつまで持つか。
毒半減・無効は多いし、耐久高いやつも多いし、弱点ついてくるやつも多いし散々だ!
テッカグヤの相手をアクジキングに任せ、かっ飛んできた水玉模様の頭を毒の鎖で打ち返す。
これでツンデツンデどもは文字通り詰んでってか? 言ってる場合じゃないな。
外殻を前に出し、カミツルギの特攻を防ぐ。こいつからの有効打はないけど、こっちも速すぎて追いつかないんだよなぁ。
とりあえず捕まえたし、またシャドーボールで…ッ?!
「モガッ?!」
痛ってえ、後ろからテッカグヤに殴りつけられた!
ああ、アクジキングは沈んだか。ふん、所詮奴はドラゴン・あくの恥晒し。よく持った方だ。
ああ、さっきのズガドーンの頭はテッカグヤに投げつければ良かったな。ミスった。
フェローチェたちはツンデツンデを殺しきったみたいだが、そこをズガドーンにまとめて吹き飛ばされてしまった。
いいや、もう一回やるか。おーいズガドーン、パース!! ボウリングやろうぜ、お前球な!!
さて、どうにかテッカグヤどもを倒しきって、ズガドーンどもも自傷ダメージで倒したわけだが…
「じぇるる」
「るるっぷ」
まぁ最後に残るのはお前らだよなぁ…
で、今の今まで静観していたわけだ。まぁ俺としても空高く飛ぶあいつらに手を出す余裕はなかったが。
手段があったとしても、効果があったかは不明だな。
ウツロイドのタイプは、いわ・どく。当然の如く毒の支配は効かない。そもそも口がどこにあるか分からんが。
そして俺にとって最悪なことに、こいつら特殊耐久がアホみたいに高い。俺、物理攻撃手段ほぼないんだよなぁ…
俺は一致で撃てるシャドーボールを軸に攻めるしかないが、ウツロイドに当てたところで倒しきるのに何発かかるんだ? しかもウツロイドは素早さが高い。なんとあのガブリアスより速い。まず攻撃が当たらんわ。
あー詰んでます。詰んで詰んでだわ。
ウツロイドは消耗した俺をなぶり殺しにすればいいだけ。だからあんな余裕ぶってんのか? 鳴き声も嗤ってるようにしか聞こえん。
舐めやがって。
だがコイツらを一匹でも取り逃がしたら、村人が寄生されて何が起こるか分からん。ここで全員殺しきらないといけない。
相性は最悪で、俺は連戦で消耗してる。きのみの蓄えはまだあるが、足りるとは思えんな。
あ、行動強制の毒が発動した。てことは、ともっこも戦闘不能か。毒の効果も長くは持たんだろうな。
今回ばかりは年貢の納め時か?
ただ、まぁ。
実はそんなに心配していない。理由は二つある。
俺は配下のともっこと同様、仮死の毒を体に仕込んである。木っ端微塵にでもならない限りはそのうち復活するよ。多分な。
だから最悪死ぬことはないだろうってのが一つ。
で、もう一つ。
もうUBが襲撃しにきてから既に数時間経つ。
つまりは、そろそろ。
どうにかしてくれる
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ともっこで最初に力尽きたのはマシマシラだった。そしてほぼ時間差なくキチキギスも倒れた。
元々この二匹は強い種族ではないし、異形に対しての相性も悪い。毒鎖の力のおかげで普通のポケモンより戦えていただけで、実際に戦闘になればイイネイヌより先に倒れることは初めから分かっていた。
だからこそ、残された時間をどう使うかも最初から決めていた。
キチキギスは倒れたマシマシラを背に乗せ、空高く飛んだ。その間、マシマシラは身じろぎ一つせず、じっと力を溜めていた。
最後の力を振り絞り、高みの見物を決め込んでいたクラゲ型の異形、ウツロイドの群れにキチキギスが突っ込む。
ウツロイドは浮かぶことが出来るし、低空ではかなりの速度で移動する。しかし、高高度で鳥ポケモンより速く動く事はできない。
キチキギスは群れの中心にいたウツロイドに激突し、その瞬間、マシマシラが溜めていたサイコパワーを解き放って自爆した。
ウツロイドの群れが丸ごと消し飛ぶ。
その衝撃にウルトラビーストたちは一瞬動きを止め、唯一動きを止めなかったイイネイヌは一番近くにいたカミツルギを殴りちぎった。
穴から湧き出したカミツルギはそれが最後。しかし、反撃もそこまでだった。
既に、防衛側で立っているのはイイネイヌだけだった。
キチキギスとマシマシラは黒焦げで転がっている。桃のポケモンが呼んだポケモンたちはそれより先に既にウルトラビーストに屠られている。
イイネイヌも全身血塗れで、全村人が立て篭もる公民館の前で立っているのがやっとだった。
しかし、彼の戦果が、異形の死体が、周囲に散乱している。加えて、壮絶な笑顔で仁王立ちするイイネイヌのプレッシャー。
それらはウルトラビーストたちから、イイネイヌを倒さずに公民館を襲うという選択肢を奪っていた。
暫くの間、睨み合いが続き、ウルトラビーストたちは気付く。
イイネイヌは、立ったまま死んでいた。
睨み合いを始めたときに生きていることは確かだったが、いつの間にかその目から光が無くなっていた。
死体にまんまと騙されたことに苛立ったのか、ウルトラビーストの中でも一際大きなテッカグヤが腕を振り上げる。そのまま公民館ごとイイネイヌの死体を潰すつもりだったのだろう。
村人たちは、それをじっと見ていた。
浮かぶ感情は、悲しみ、憎しみ、怒り。
そして、安堵。
テッカグヤの腕が振り下ろされる事はなかった。
代わりに、その鋼鉄の体が頭から真っ二つに裂け、轟音と共に左右に崩れ落ちた。
無数のウルトラビーストが、ただ一点に視線を集中させる。
そこにいたのは。
怒りで真っ赤に燃え盛る仮面を携え、自身の数倍の大きさのポケモンを容易く溶断する力を持つ、小さな鬼だった。
「…がお゛」
数分後。
村を襲撃していた異形は、残らず消し炭になっていた。
オーガポンがイイネイヌに近づき、その身を横たえて目を閉じさせる。
村人からは、仮面に覆われたオーガポンの表情は見えなかったが、どんな顔をしているかは容易に想像がついた。
「お…おにさま!!」
オーガポンが振り向く。声をかけたのは、オーガポンに仮面を作ってくれた村人だった。
村人はイイネイヌを見て痛ましげな表情をするが、それを振り切って伝えるべきことを言う。
「まだ…まだ恐れ山で、モモ様が」
それを言い終わらないうちに、オーガポンは駆け出していた。
同時に、恐れ山の方から凄まじい爆音が鳴り響く。
どうか、無事でいて欲しい。
オーガポンは山道を使う事なく、最短距離で崖を駆け上がっていった。
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なんだよ、俺も結構やれるじゃねーか。
ただ、ともっこも支配下のポケモンも全滅、きのみは全部使った上で俺も死にかけ…
まぁ仕方ない。愉悦は次の機会を待つとしよう。
俺のやってきたことは、全部無駄ではなかったんだろう。多分。
なぁ、オーガポン。遅かったじゃん。おかげで全部俺がやる羽目になっちまったじゃねーか。
俺はここまでだ。
でも、お前が村を守ってくれる限り、俺の
だからよ。
あとは頼んだ。
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恐れ山は変わり果てていた。
崩れ、抉れ、破壊され、桃のポケモンの社の近くには、無かったはずの滝が流れている。
全て戦闘痕だった。
そして、まるで舞台のような円の地形の中心に、桃のポケモンは座っていた。
目の前には、白い異形の集合体。
効かないはずの毒鎖で縛り上げられた挙句、巨大な鎖で貫かれ死んだウツロイドの群れが、オブジェのように佇んでいた。
『遅かったな』
その声に反応し、オーガポンが駆け寄る。
声は軽薄で、いつも通りのようだった。
しかし、近くまで来たオーガポンの表情が凍る。
桃のポケモンは、傷ついていない所がないほど、ボロボロだった。
自慢の外殻は砕け、割れ、左右両方ともその機能を果たせていない。
更に、片手は無く。触覚は千切れ。両目も失っていた。
桃のポケモンには、もう何も見えてはいなかった。
『俺はここまでだ』
オーガポンが思わず桃のポケモンを抱きしめるが、その体は冷たく、血が通っていないかのようだった。
『でも…』
『お前が村を守ってくれる限り、俺の夢は続く』
『だからよ。あとは頼んだ』
その言葉を最後に、桃のポケモンは動かなくなった。
翌朝、心配で見にきた村人たちがやってくるまで、オーガポンは、静かに、ずっと、遺体を胸に泣き続けていた。
次回最終回。