綾小路清隆が脱走した。僕はそれを聞いて流石に嘘、と思ったものだ。
綾小路清隆とはここ、ホワイトルームの最高傑作にしてこの施設の最高権力者であるパパの小路の実の息子である。なんやかんやあって彼のマブダチを自称する僕は彼のことを結構わかっているつもりだ。彼は別にこの施設の虐待1歩手前どころか3歩奥みたいな教育にも不満を持っていなかったし、僕が外の世界の話をした時にも大した関心を示していなかった。
「高度育成高等学校へ入学しろ」
「意味がわかんねーです」
どうやら敵対勢力に逃げ込まれた場合はアウトだが、綾小路を逃がした下手人、松雄なる人物は忠実な部下だったためそこまではしないだろうと。ならば逃がす場所はこちらが手出しできねえ高度育成高等学校、通称高育ぐらいにしぼられるらしい。
「今手ひどい裏切りにあっているのでは?」
「もしも松雄がこちらを潰すつもりなら打つ手はほとんどない。しかし、もしそうではなかった場合、この選択が最善なのだ」
希望論じゃねえか。「もし」と「場合」を同時に使ってる時点でもう詰みだろ。そんなんで高校3年間外部との接触禁止なんてふざけた学校に行かされるこっちの身にもなれ。
「清隆がいないのであればさっさと退学してくればいい」
「ときに篤臣氏、僕如きに退学させられるようであればそれは最高傑作と言えないのでは?」
「来年こちらの手勢を送るまでの繋ぎだ貴様は。さっさと行け」
受験当日。僕はとりあえず難しい問題だけ先に解いてから思考にふけっていた。
クラス同士でポイント対抗させてトップのクラスしか志望校に行かせない癖に絶対志望校or志望企業に行けるってうそぶいてるの控えめに言って終わってるだろ。
しかしクラス対抗、クラス対抗ねぇ。綾小路が持ち前の頭脳でAクラスに行くとして、僕は何点下げればいいんだ。下げ過ぎたら入学を拒否られる危険性があり、上げ過ぎても奴と同じクラスで退学させることが難しくなる。そんなとき、ふととある英国紳士が答えを言っていたのを思い出した。
逆に考えるんだ。「あげちゃってもいいさ」と考えるんだ。
これだぁあああ!僕は来年までの繋ぎ!つまり来年までに綾小路が操れる駒を同クラスからサポートすることで削減!さらに援軍が来た時には獅子身中の虫としてクラスを敗北に導くことで援軍のやつらに退学させればいい!僕ってばマジてぇーんっさい!あはぁーっはっはっはっは!!!
それからしばらくして、下手人確保から綾小路が高育入学するなどという希望的観測が事実だった。なんだこりゃぁ、たまげたなぁ。などとのたまっている場合ではなく。僕は本気で綾小路妨害対策を練らなければならなくなった。
「は?」
高度育成高等学校入学初日、僕はDクラスの欄に綾小路清隆の名前が載っているというバグに襲われることになった。