白い部屋から出たとして   作:九頭竜 胆平

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(急募)話が長いやつを奴を黙らせる方法

真嶋先生が言ってたバカンスは2週間の豪華客船での旅だった。あまりの血税の無駄遣いっぷりに真嶋先生を殺そうとして葛城と鬼頭と神室に意識を落とされたが、4分で復活した僕に坂柳はわざわざ二人きりの時間を作り、質問を投げかけてきた。

 

「本願寺君、綾小路君とはどういう関係ですか」

 

どういう意図でこの質問をしたのかは不明だが、この前まで友達だと思ってたのにお前のはらわたを引き吊り出します(意訳)と言われました。と言って信じてもらえるだろうか。ていうかあいつなんで一回僕のこと忘れてた振りしたんだろう。結構ショックだったんだが。

 

「…親友だよ。親友」

 

「その死んだ魚の目で信じてもらえると思ってるなら片腹痛いですが、もう一つ、あなたホワイトルーム出身ですか?」

 

問いかける坂柳だがその目は先ほどの質問の時とはうって代わり明らかな確信を秘めた目だった。

 

「違うけど」

 

「ホワイトルーム出」

 

「だから違うけど。自信満々で外しといて恥ずかしくないんでちゅか~?」

 

「ホワイt」

 

「いや違うって。僕の反応から本当だってどうせわかってるでしょ」

 

「…ホ」

 

「しつけえな!おとなしく自分の間違い認めろ!」

 

この自尊心の塊女がよぉ。どんだけ僕を睨みつけても僕の育った場所は変わらんのよ。

 

「くっ、まあいいでしょう「僕は良く無いが」話を戻します。「まず謝罪が先では?」あなたが綾小路君に並々ならぬ感情を向けているのは知っています。「どっちかっつうと逆かな」私は綾小路君の幼馴染なので「坂柳理事長の発言からしてホワイトルーム生じゃなさそうだけど」いちいちうるさいですね。話に茶々を入れなければ人と話すことすらできないのですか?」

 

「話が回りくどかったり、僕に茶々を入れる隙を与えたお前が悪い」

 

「…綾小路君は私の獲物なので手を出さないでもらえますか?」

 

坂柳が綾小路の獲物の間違いだと思う。だがそこにヘイトが行くのはとても良い。坂柳は綾小路に全力を出し、綾小路は坂柳にリソースを割かれる。まさに理想の状況なのでは?

 

「その変わり僕には手を出さないでくれる?」

 

「約束します」

 

「女王様!!!足を舐めます!!!!!!」

 

「ふふっ、あなたを犬にできるのは存外悪く、ちょ、本当に舐めようとしなくていいですから、まっ、やめっ!鬼頭君橋本君!これ引き剥がすの手伝ってください!」

 

外で待機していた二人(葛城と神室もいた)のせいで結局普段の腹いせに足を舐めることはできなかったが、坂柳が死ぬ気で嫌がる顔を見れた僕は大いに満足した。

 

 

 

 

 

 

 

明日からバカンスだというのにあいも変わらず監視カメラのない場所で僕を狙う龍園を殴り飛ばす。

 

「くははははっ!本願寺ぃ!なんでお前はそんなつまんねえ顔してんだよ!!」

 

「つまんねえからだろ」

 

顎を狙った肘鉄を弾かれがら空きになった胸部に掌底を叩き込まれた龍園は膝をつく。

 

「馬鹿かよ、なんで顎で反撃できんだ」

 

「てこの原理で脳が揺れるから顎は弱点なんだよ」

 

だから揺らさないようにすればいいよねって。弱点は弱点たる隙があるから弱点なのだ。隙を潰せばそこは弱点ではない。金的の隙を潰す方法?去勢かな。それを取っても正中線という弱点が通ってるあたり、股間はあまりにも隙が多すぎる。

 

「そんだけ強くて何が詰まらねえってんだ。最高だろ、思い通りになる世界ってのは」

 

「お前、今楽しくねえの?」

 

「あ?楽しいに決まってるだろ。いつかお前をぶっ潰す日が来ると思うとなぁ!!」

 

水月を狙った頭突きはゴッと鈍い音を立てるが、ダメージを受けたのは龍園の方だ。

 

「じゃあそれが答えだろ」

 

「潰しがいのある相手がつまんねえってか」

 

「ちげーよ。お前が楽しくて僕が楽しくないなら強いほうが楽しいってのは間違いだって話。別にこの学校に僕より強い奴いるから思い通りにならねえし」

 

「…へっ」

 

龍園が何を鼻で笑ったのか知りたかったが、生憎こいつはすでに夢の世界に飛んでいった後だ。「明日の敵は今日のとも」なんて格言があったが、おそらく強敵(とも)という奴だろう。夏休みに入ってから毎日とまではいかないが、週2で襲ってくる龍園には友情すら感じる。でも戸塚のこと病院送りにしたからやっぱお前敵な?死ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がございましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えてまいります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧いただけるでしょう。』

 

奇妙なアナウンスが突然流れる。それを合図に数人の生徒が船内から出てくる。本願寺もいることからAクラスだろう。

 

「おい邪魔だ、どけよ不良ひぶっ!?」

 

俺の肩を押し飛ばそうとした生徒が本願寺にぶっ叩かれてデッキにキスしていた。手加減されていたとはいえあれは痛い。

 

「ぼんがんび、だでぃすんだ。やびあがりだどごっぢは」

 

「悪いな綾小路、うちのクラスのバカがよ。おい馬鹿、もう一回病院送りにしてやろうか馬鹿?」

 

一度はキレかけた須藤もだらだらと鼻血を流している生徒を見て溜飲が下がったようだ。

 

「やあみんな、ここに、なにがあったの?」

 

完璧イケメンの平田もこの状況には対応できずおろおろしている。頻繁に須藤を見ていることから暴力事件を須藤が起こしたんじゃないかと心配してそうだ。

 

「俺じゃねえ!本願寺がやったんだよ」

 

「僕だよ。本願寺がやったんだよ。須藤もわりいな。不快な思いさせて。根は良い奴じゃねえんだ。いつもは悪い奴なんだけどよ」

 

フォローすると見せかけてその生徒の背中を本願寺が差している間に残りのAクラスやB、Cクラスの連中も出てきて遠くの島を見ていた。

そろそろとこっちにすり寄ってきた本願寺は池と櫛田のやり取りを見ながら俺に一言。

 

「女の子にデレデレする野郎って客観的にみるとキモいな」

 

「客観的にみる以外があるのか?」

 

「主観的には見たことあるんだけど」

 

「その情報は聞きたくなかったな」

 

いや、こいつを知る一歩になったと思えばいいのか。女子にデレデレするのはおそらく性欲からくるものだ。俺もなにかそれっぽい行為を経験してみるべきか?

 

「ん?」

 

「どうした本願寺」

 

「何だよ本願寺、気になったことがあるならさっさと言っちまえよ」

 

「龍園君、平然と本願寺君から情報を抜こうとするのはやめてください」

 

「本願寺ボーイ。何か気になったことがあるのかね」

 

「どうしたのかな本願寺君?」

 

「うおっ」

 

「おい本願寺、一之瀬から離れろ」

 

本願寺が疑問を上げた瞬間、龍園と呼ばれた生徒、銀髪の少女、高円寺、一之瀬が一斉にこちらへ寄ってきて驚いた。今一之瀬が本願寺の方に寄って行ったのに神崎が本願寺に注意していたが、Bクラスの面々は誰もそれに突っ込まない。日常なのか。

 

「坂柳と龍園はこっちくんな。一言でいうなら、違和感がすごい。ペンションが見当たらないのもだけど、きのこがない。というか、あの左から22番目の木のあたり、なんか機械みたいなのがついてないか?」

 

本願寺に言われた辺り、残念ながら木の本数は船が移動してしまって変わってしまったので本願寺が言ったものかどうかは定かではないが、確かにこの自然には不自然な人工物が見えた。

 

「あの銀色のやつか?」

 

「ふむ、あれはカードリーダーじゃないかねぇ」

 

俺と高円寺の言葉に周囲がざわめく。何だ?何か変なことを言ったか?そう思案していると一之瀬が声をかけてくる。

 

「綾小路君見えるの!?」

 

ごくごく短い言葉だったが、その言葉で俺は今の何が問題だったかを理解した。確かに周りは双眼鏡で必死に探している生徒もいる。さすがにキノコの有り無しは見えなかったがそれでもこの距離を肉眼で見るのは普通じゃなかったらしい。下手に目立ったじゃないか、恨むぞ本願寺。

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりジャージに着替えさせられた俺たちに真嶋先生は本年度最初の特別試験の開始を告げた。

 

「はああ!?もしかしてガチの無人島サバイバルとか、そんな感じ!?そんな滅茶苦茶な話聞いたこともないっすよ!アニメや漫画じゃないんすから!テント二つじゃ全員寝れないし!そもそも飯とかどうするんですか!あり得ないっす!」

 

「君はあり得ないと言ったが、それは短く浅い人生を送ってきたからに過ぎない。事実、無人島での研修を行っている企業は存在する。それも誰もが知っている大手企業が試みとして行っているものだ」

 

「じゃあなにかああ!?お前は大手企業が行っているからすべての行いが許されるとでも思ってるのか真嶋ああ!!」

 

「本願寺君。一回静かにしてください」

 

「だって池が」

 

「俺もそこまでは言ってねえって」

 

先ほどまで慌てふためいていた生徒もそのドスの利いた本願寺の声で静かになる。その両サイドにはAクラスの高身長な男子が二人本願寺をすぐに取り押さえられるように配置されており、真嶋先生は顔を青くしていかにも怯えていますといった様子だ。何をしたんだ本願寺。

 

「だが本願寺、世の中には変わった研修だけじゃなくオフィスに椅子が無い職場だったりサイコロの出た目で給料を決める会社など、世の中はお前が知るより広く深い」

 

「確かに茶柱先生の言う通りです。僕が浅はかでした」

 

そして本願寺、お前はそれでいいのか。

 

「今君たちはこんな試験に意味などあるのかと思っていることだろう。だが、その程度の考えでとどまっている生徒は将来的にも見込みのない人間だ。この話の何処に君たちが『あり得ない』『馬鹿げている』と批判するだけの根拠がどこにあるというのだ?君らはただの学生であり、まだ何者でもない。言ってしまえば無価値に等しい。そんな人間が一流企業のやり方を批判する?おかしな話だ。君たちが一例として挙げた企業よりも格上の会社を経営する社長だったなら、それを否定する権利はあるのかも知れない。だが、そうでない人間に否定できるだけの根拠など存在しないはずだ」

 

「そもそも企業を格上とか格下とか言ってる時点で理解が浅いですよね。先生の理屈だとこの世で一番すごい続柄の会社で代替わりした2代目社長が行った研修は世界中の誰にも否定できないことになりますけどそれってどうなんですか?たとえそこで人死にが出たとしても先生はそのやり方が正しいと訴え続けるんですか?義務教育を終えた僕らを先生は無価値と言いましたがそれは義務教育の価値を先生が否定しているのと同じですよね?先生は日本より価値が高い個人なんですか?それとも日本をどうこうできる会社を真嶋先生が持っていると…

 

うるさい。しかも喋ってる間、本願寺はずっと真嶋先生の方へにじり寄ろうとしてAクラスの生徒が複数名で押しとどめてるし、真嶋先生はじりじりと下がっている。これ大丈夫なのか。最悪の場合は真嶋先生が撲殺されることも視野に入れておこう。

 

「し、しかし先生。今は夏休みなので旅行という名目で連れてこられた我々はだまし討ちをくらったのではないですか。それは企業としてやってはいけないことだと思いますが」

 

平田は何も悪くないのに非常に申し訳なさそうな顔をしているが、別に質問自体は悪くないぞ。悪いのは本願寺だ。

 

「…そうだな」

 

「真嶋先生」

 

わかっている。学年主任の仕事だからな。ふぅ~、よし、切り替えたぞ。だが安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だが、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。時にはキャンプファイヤーでもして友人同士語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは自由だ」

 

「てめぇ論点ずらしただけで平田の質問に答えてねえじゃねえか!!!!!」

 

逃げる真嶋先生、追いかけまわす本願寺、それを抑える(引きずられる)生徒、追いかける生徒に分かれてAクラスは離脱した。

 

「…真嶋先生は急用で離脱したのでここからは私が説明を務める」

 

そういった茶柱の眉間にはしわが刻まれていた。

気に入らない相手を後先考えず殴りに行く、それが自由なのだと、俺はまた一つ学びを得た。

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