次。
次。
次。
次。
スポット発見。
次。
次。
次。
真嶋。
飯。
次。
パンツ。
次。
次。
次。
次。
次。
パンツ。
スポット発見。
次。
次。
次…
エネルギー節約の観点から本願寺は思考をごくごく最低限まで落とした。スポットの発見、スポットの更新、点呼、食事、そしてパンツ。次第に占有するスポットは増えていき、最適解のルートを導き出す(わざわざ崖を上って到達したスポットが普通に徒歩で行けることに気づいたときには思わず自分を殴ったし、パルクールで到達した洞窟に梯子がついていた時には着衣水泳も辞さなかった)。そして時間の経過とともに、精神は娯楽を求める。
パンツ。パンツ。パンツ。本願寺はパンツを欲した。なぜならパンツがあれば十分な栄養を摂取することができる。水分補給もお手の物だ。今パンツがあれば何でもできるのに。パンツは夢の国に行くための鍵。パンツはソロモン72柱と契約するための指輪。パンツは変態仮面に変身するための必須アイテム。大いなるパンツ。略しておパンツ。
「オデノカラダハボドボドダ!」
「諦めんなよお前!どうしてそこでやめるんだそこで!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメダメあきめたら!」
「全てを諦めさせる疲労だ」
「やめろぉ!(走るのを)ナイスゥ!(ポイント増加)」
なおこれは全て本願寺の独り言である。彼の精神はすでに狂っていた。
本願寺は人を頼り、助け、信じる。俺はそれを愚かな行為だと教え込まれたが、誰かに何かを期待するその行為をとても尊いと思ったんだ。
だから俺は山内を頼った。俺一人では最後の一押しが足りなかったから。山内が佐倉を狙っていることは今回の試験中に話していたから、山内と佐倉の距離が縮まるように佐倉のいろいろな話を聞かせてやった。それをどう使うかは山内の勝手で、もしも山内と佐倉がうまくいくなら、それはそれでよかった。だが、俺は信じたんだ。山内が、非常に短絡的でそして愚かだということを。
「山内、何してるんだ」
佐倉を押し倒して犯そうとしたところをさも偶然発見したように演出する。4日間の禁欲生活で山内が冷静な判断をとれないだろうということは予想できた。佐倉も男性に少しでも慣れさせるために一番話の通じなさそうな高円寺と、共通の友人である本願寺の話をして盛り上げさせた。
「違う!違うんだ綾小路!俺はただ、虫がいたから佐倉ちゃんが危ないと思って!」
あの日、ストーカーに押し倒されたあと、俺に見つかったあいつはあくまで
「嫌ああああ!嫌っ!離してください!」
「お、俺は!「佐倉、大丈夫だ」」
山内の言葉を遮るようにして佐倉に声をかける。
「安心しろ。何も起こらなかったんだ。そうだろう?山内も悪気があったわけじゃないんだ。山内、ここは俺が何とかしてやるから、テントの方に戻れ」
「でも!」
「悪いようにはしない。全部誤解だったんだろ?まあ、しばらく佐倉とは距離を取ってくれ、佐倉の印象が好転しないうちに話したら、佐倉が意識してなくても態度に出て疑われてしまうからな」
俺の言葉に山内はたじろいだ後、そのままベースキャンプの方へ戻って行った。
泣いている佐倉を胸で抱き留め背中をさすりながら、俺は彼女に聞こえないように小さくとつぶやいた。
「次だ」
「次だ」
次。
「次だ」
次。
「次だ」
次。
「次だ」
次。
「次だ」
次。
「次だ」
次。
うおぁ、ころ
暗い森の中で、俺の目の前にいる本願寺は俺が知っているいつもの本願寺じゃない。くだらない会話を仕掛けてこないし、こちらが話しかけてもまともな反応が返ってこない。いつもの本願寺だったら軽く跳んで躱すはずなのに、俺に足を引っかけられてすっ転んだこいつは俺でもたやすく抑えられそうだ。
でも、やっぱりこいつは本願寺寺なのだ。その目は光を失わず、爪がはがれているのに這ってでも前に進もうとする。その背に生えた小さくも神々しい翼が俺はうらやましくてたまらない。
俺の背についた翼は蝋でできた偽物で、高く跳べば解け落ちるようなちっぽけなものだ。お前は、俺よりも飛び方が下手糞だが、そのどこまでも行ける翼なら、いずれ俺の手の届かないところへ到達するだろう。
なら、その翼を引きちぎって俺の背中に取り付ければ俺はより高く飛べるのか?
無意識に本願寺の首にかけてた手に力が入る。鋼のように固い筋肉を、俺の手は骨がきしむのも構わず締め上げて
「お前の本物が欲しい」
「それ、は、お前に、とって、偽物だろ」
俺の腕を掴もうとした本願寺から飛び降りる。そうだ。お前は、お前はこんなところで終わる奴じゃない。
「お互い、時間はなさそうだな」
こいつもスポットの更新に行かなければならないし、俺も堀北を放っておくのにも限界がある。本願寺が奥に消えていくのを見届けてから、俺も堀北の元へ向かった。
ベースキャンプに戻った俺は堀北にBクラスの様子を聞いた。
「間違いないんだな?Bクラスは大量の物資で快適な生活を過ごしているのは」
「ええ、でも一之瀬さんがそんな愚策を取るとは思わなかったわ」
「あの物資はおそらくCクラスのものだ。龍園と何らかの契約を結んだと考えるのが妥当だろうな」
「それじゃあ、伊吹さんはスパイということ?」
「それはまだ確定じゃない。お前はしかるべきタイミングで庇うだけでいい」
堀北は優秀だ。だからこそ、堀北自身で思考させてはならない。常に俺の指示通りに行動させる。
今朝、軽井沢のパンツが盗まれたということで、男子一同は疑惑の目を向けられた。危うく、最近この無人島にいるパンツの妖精が犯人になりかけたものの、篠原がストレスから池に八つ当たりをしたことで、無事に犯人捜しが始まった。
ここまでは俺の作戦通りだったのだが、残念ながら軽井沢のパンツは俺の鞄の中に入っていた。もともとの予定ではパンツを盗んだやつを俺が庇うことで男子の信用をあげようと思っていたのだが。
うん、覚悟を決めよう。うまくいけばこれで平田も手に入る。一石二鳥だ。この程度のリスクで平田が手に入るのなら安いもんじゃないか。
「平田。確認を頼む」
平田が開けた鞄の一番上にパンツが乗っている。平田は確認し、それを見なかったことにしようとしたらしい。だが、残念なことにその目立つ生地はしっかりと女子の目に入っている。
悲鳴、怒号。俺はやってない、そう反論すれば十倍の怒りがこちらに帰ってくる。クラスに馴染めていない堀北の擁護は火に油を注ぐ行為に等しかった。櫛田が俺を庇ったのは想定外だったが、それさえ優しい彼女をたぶらかしたことになり俺に向かう怒りとなる。完璧だ。
人は短絡的で愚かな生物だ。だが、それが常に悪い方向へ向かうかと言われれば、そうではない。男子の何人かは女子へと貯まった鬱憤を晴らすよりも軽井沢を同情し俺を責め立てる。
そうした優しさが止めを指し、俺はベースキャンプから追い出されることになった。リーダーである俺が。
占有されている。次。
占有されている。次。
占有されている。次。
占有されている。次。
占有されている。次。
占有されている。次。
やっと、脳がどういう状況か理解し始めた。
僕のルートを完全に先回りして潰している奴がいる。Dクラスなら、おそらく綾小路だろう。だが確証がないのにこれをAクラスに伝えるべきか?
坂柳が僕を走らせているのは、おそらくリーダー変更のあれそれがわかっているからだ。きっとなんかあんだろう。多分。なら綾小路がそれを気づいていないとは予測しづらい。
倒れそうになる体に鞭をうち、僕はAクラスのベースキャンプへ走った。
櫛田に指示を出したあと、誰にもばれない様にスポットを更新した俺は、その足で…というか腕でBクラスのベースキャンプを偵察しに行く。初日に高円寺の動きを見れたのは非常に幸運だった。高円寺の動きをトレースして木々を飛び移りながら移動する。
Bクラスの雰囲気は悪くないが、どこか普段より暗い。
しかしこれで確信した。この試験は俺の勝ちだ。