皆より一足先に船に戻り食事をしていた僕は今まで不足していた炭水化物、タンパク質、食物繊維等々をこれでもかというほど補給していた。
あの地獄のマラソンを完走した感想としては、生きてるって素晴らしい!と言ったところですかね。何度死のうと思ったか数えきれないわ。神室のパンツが貰える約束が無かったらエルメェスの兄貴(姉御)が自殺を止めようとしてくれなかったらあそこで一回死んでたし、シンプルに綾小路に絞殺されかけたし、もう無人島はこりごりだ。
お代わりを取りに行こうとしたとき、Aクラスの面々が食堂へ入ってくる。…うちのクラスは残念ながら結束力が高いわけではない。坂柳派閥と葛城派閥で別れてもしもどちらかが失態を犯そうものなら確実にもう片方の派閥を食いつぶすような殺伐としたクラスである。ただ、そんなうちのクラスが唯一、一致団結するタイミングがある。何で突然この話をし始めたと思う?正解はそのタイミングが僕を
「裏切ったな坂柳!今回は戦犯ムーブもしてないし、なんならとんでもなく活躍してたのに!」
「…は?(疑問)ああ(納得)、今回はあなたをニュルンベルク裁判にかけるつもりはありませんよ。」
あの裁判そんな名前だったんだ。今遠回しにA級戦犯って言われた?
「じゃあわざわざ試験終わってすぐになんで僕のところに来たの?」
「…すまん本願寺。お前に謝らなければならないことがある。今回の試験、お前にあれほど負担をかけたにもかかわらず、俺たちは勝てなかった。」
「なんだぁそんなことか。全然気に今敗けたって言った?」
聞き間違いか?負け?敗けた?いや、いやいやいやいや!そんなわけないだろ僕がどんだけ走り回ったと思ってんだよ。数えてなかったけどスポットだけで150近く稼いでるだろ。…スポットの点数ってそういえば消えるシステムがあったな。
「何リーダー当てられとんねん!?お前あんな自信満々にリーダーは変更できますとか言っといて当てられてちゃせわねえよ!」
「リーダーは当てられてません!今回の試験では本願寺君のおかげでスポットの点数込みで297点でしたありがとうございます!」
お、おう。さすがの僕もキレながら感謝されるとどんな反応をすればよいかわからんな。
「しかしそんだけ点数とって2位とはマジか、ぶっちゃけ大差をつけて1位だと思ってたからちょっとショックだな。」
「3位です。」
「は!?さささささ3位ぃ!?」
「Cクラスが0ポイント、Bクラスが300ポイント、Dクラスが318ポイントだ。」
「パードゥン?」
お通夜みたいな雰囲気はそう言うことか。いやふざけんなよDクラス。化物の巣窟か?318?318ってなに?
「んー、まあわかった。皆がこの僕に謝りたいのは十分理解した。そしてその謝罪は受けよう。許す。別に贅沢しすぎだったわけじゃないもんな?初日にできるだけ快適な設備で体調不良者をなくそうって言ったんだから別にポイントを無駄にしたとは思わねえし、仕方ねえよ。相手が上手だったわ。神室と坂柳残して帰っていいよ。」
僕の言葉を皮切りにみんなは自室に戻っていく。残ったのは神室と坂柳、そして葛城。
「なんで残ってんの?」
「本当に、すまない。何度謝っても足りない。俺が、少しでもお前の負担を軽くできていたら、もう少し節制できていたらこんな結果にはならなかったはずだ。」
「いいよもう。俺はパンツが欲しかった。坂柳はよく動く駒が欲しかった。お互い納得してるんだ。な、坂柳。」
「…えぇっと、そのことについてなんですが、パンツではなくプライベートポイントで手を打っていただけませんか。」
「嫌だけど、なんで?」
「あの、神室さんが、パンツを渡すくらいなら退学すると言っているので、どうか理解を」
「?神室がパンツを渡すのを嫌がってるのはわかったよ。でもお前のパンツがあるじゃん。」
実はあの日交渉したパンツ。条件は神室のパンツではなく女子のパンツなのだ。どうせ神室からパンツを押収できると高をくくっていた坂柳とは違い、僕は石橋をたたいてぶっ壊してから鉄橋を架けるような性格をしているので最悪神室からパンツを得られなくてもどうにかなるように画策しておいた。ちなみに約束ぶっちは退学。
「わ、わかりました。では私はこれで「いや待て待て。そのバッグに入ってるものをよこせ。」ひぇっ!?」
坂柳だけでなく神室や葛城もぎょっとした目でこちらを見た。
「これは全部着用していたものなので、汚いですよ?」
「いいよ汚くても。どうせ学校に帰ったら別のパンツ買ってきて『はい、報酬の私が(買って)きたパンツですよ?』とでも言うつもりだったんだろ?さすがにそこまで馬鹿じゃねえよ。」
「くっ!しかし真嶋先生に書いてもらった契約書には期限が書いてありません!これなら学校に戻ってきたあとでも許されるのでは!?」
「いやだめだろ。その理屈だと期限が書いてないものは全部退学あるいは卒業後にやりますって言えば通るじゃん。真嶋先生の反応からしてあの資料に不備はなかったし、もしもその理屈を通そうとするなら僕は今お前の退学を学校に進言してもいいんだけど?」
「うぅ、…やっぱり、プライベートポイントにしてくれたりしませんか。」
「ダ♡メ♡」
半泣きの坂柳はゆっくりバッグを開けると一枚のパンツを取り出して震える手で僕に渡す。しかしこの年になってクマさんパンツとは、僕の期待を悉く裏切らんな。
「あの、えと、その、卑猥なことに使わないでもらえたら」
即座に顔に付け鼻から大きく息を吸い込み一言。
「臭い。」
「いやあああああああ!!!!!!!(泣)」
葛城の拳が俺の頬を穿ち、神室は持ってたバッグを全力で頭に振り下ろした。
まあこんなもんかすり傷にもなりゃしねえですけど。
「おま!本願寺!お前には人の心ってものがないのか!目の前で吸うだけでは飽き足らず!臭いなんて!仕方ないだろう!お前よりよほどぬるい環境とはいえあの暑さの中にいたら汗ぐらいかくだぶべらっ!?」
「追い打ちをかけるな!デリカシーとTPOくらいわきまえろっ!」
1学期の終業式の日、俺は茶柱先生に指導室に呼び出された。
「お前たちDクラスには、担任の私はどんなふうに映っている?」
「また抽象的な質問ですね。顔良し、スタイル良し、辛辣で厳しい性格は女性としての魅力を引き立たせ、ふとした時に射す影が余計艶っぽく見える先生って感じじゃないですか?」
先生は眉一つ動かさなかったが多少の困惑と怒りがその表情から伺える。
「………ふざけた回答で私が怒っていることがわからないのか?」
「ふざけた回答も何も本音ですが、他に何を回答しろと。」
まあ全部本願寺の談なんだが。そして魅力的な女性に印象を聞かれたときは相手の求めている答えよりもその女性を褒めることが重要とも言っていた。たしかに相手が求めた答えを言うのはある種の不自由なのかもしれない。
「…そうか、お前にまともな答えを期待した私がバカだった。」
茶柱先生はゆっくりと壁に背中をあずけると、身の上話を始めた。
「私は以前この学校の生徒だった。お前たちと同じDクラスだった。と言ってもお前たちのように各クラスに大きな差があるわけではなかったがな。卒業が迫る3年の3学期までAとDの差は100ポイントもなかった。些細なミス一つで均衡が崩れるほどの接戦だったわけだ。だが、そのミスは突然やってきた。私の過ちによってDクラスは地獄へと叩き落されてしまったということだ。結局Aクラスになる目標も、夢も崩れ去った。」
その語り口調からは深い後悔がにじみ出ていた。起こってしまったことについて考えたって何にもならないというのに、そのことでずっと自分を責め続けている。
「話が呑み込めませんね。その身の上話と俺に何の関係があると言うんです?」
「お前の存在は、Aクラスに上がるために必要不可欠だと私は感じている。」
「何を言い出すかと思えば、冗談でしょ。」
俺は入試の件で茶柱先生から無駄に高い評価をもらっているが、一度勉強会を失敗して平田にカバーしてもらってるというのにその評価は一向に落ちることがない。…生徒会に入ったのは失敗だったかもしれないな。
「数日前、ある男が学校に接触してきた。綾小路清隆を退学させろとな。もちろん、第三者が何を言っても退学になどできない。この学校の生徒である限り、お前はルールによって守られている。しかし…問題行動を起こしたら話は別だ。喫煙、いじめ、盗み、カンニング。何らかの不祥事を繰り返せば退学は避けられない。」
「残念ですけど、どれもするつもりはないんで。」
「お前の意思は関係ない。私がそうだと判断すればすべてが現実になるということだ。」
「もしかして俺を脅してるんですか。」
「これは取引だ、綾小路。お前は私のためにAクラスを目指す。そして私はお前を守るために全面的にフォローする。良い話だとは思わないか。」
「帰りますね。」
「残念だ綾小路。お前は退学になり、DクラスはまたもAクラスを目指せない。…もう一度だけ聞こう。Aクラスを目指すか退学するか、好きな方を選べ。」
俺は尻ポケットに入れていたデバイスを取り出し、録音を切った。
「これで茶柱先生が学校からいなくなる方が速いですね。では。」
茶柱は俺のデバイスを叩き落とそうとするが、その腕をつかみ体ごと壁に叩きつける。
「私と接触する前から録音を、私のことなどすべて読み切っていたというわけか。食えない奴め。」
「まさか、茶柱先生のためにそこまでしませんよ。」
別に櫛田の時も、茶柱の時も、二人の弱みを握るつもりで回していたわけじゃない。監視カメラのない場所に行くとき、食事や睡眠をとるときなどには
「まあでも、先生の要求を呑んであげても良いですよ。」
「何が目的だ?」
「先生の体です。」
茶柱は良い。明確に本願寺の対策として使える女だ。ここで手に入れとくに越したことはない。
「思春期らしい欲望だな。私の体程度で働くなんて、安い男だな。」
「上等な風俗だと1時間10000円を超えることも少なくないそうですね。先生を何時間抱き潰せばおつりがくると思いますか?」
本願寺はあらゆるアニメや漫画を好むが、NTRというジャンルだけは読まないようだ。もしもそんな奴に実際にそれを行ったらどうなるんだろうな。あいつの知らない表情、知らない感情が見えるのか?
「その言葉を信じよう。生徒会なら、次の無人島試験の話は耳に入っているな?」
「はい。」
「なら、そこでクラスポイントを300以上獲得して見ろ。そうすれば、好きな時に好きなだけ抱かせてやる。それで満足か?」
「言質捕りましたよ。」
「言質捕りましたよね。」
「あ、ああ、そうだな。」
船の反対に茶柱を呼び出した俺は、まずどれほど茶柱の言葉が信用できるのかを探る。
「まず、『あの男』が学校に接触してきたのは本当ですか。」
「ああ、本当だ。お前のことをよく知っているのが何よりの証拠だろう。他の教師たちはお前の実力を疑ってすらいない。」
とりあえず、本当と判断して良いか。多少嘘が混じっているようだが、どこが嘘なのかを判断できるほどではない。この言葉の一部分が本当だっただけでも大きな収穫だ。
「さっさとほかの生徒に交じってこい。平田が下着泥棒の誤解は解いてくれたんだろう?」
「それでごまかされるほど俺は愚かじゃないっすね。」
茶柱は俺を諭すように口を回す。
「よく考えろ綾小路、この船にはたくさんの生徒がいて見つかる危険もある。そうなれば退学だぞ?」
「
震える茶柱のスラックスと下着をいっぺんにひき吊り下ろした。嬌声はDクラスの賑わいにかき消され、だれも俺たちに気づかない。焼け付くような日光を浴びながら、とろけるような暑さの中で俺は童貞を捨てた。