読んでいただいた読者の皆様、茶柱受け派の方々、そしてなにより『白い部屋から出たのなら』を書くきっかけのコメントをくれた白灰緋熊さん、本当にありがとうございました。
この船の施設は全てただで利用できる。僕が惹かれたのは高級スパである。
一度学内施設で受けたとき、全身が固すぎるために一人だと時間がかかり過ぎて休憩中の人間までマッサージに参加させたせいで2回目以降はとても嫌な顔をされたのだ。
本来マッサージはストレッチに比べて体をほぐす行為としては効果が低いのだが、それでも通いたくなるのはやはり気持ちよいからだろう。アロマでリラックスしながら全身を揉み解され手足の先からじわぁーっと温かさが広がっていく感覚は実際に行ったものにしかわからない至高の快楽だ。
ただ、この船がいくら広いと言っても、船内施設には限りがある。もしかしたら仕切りがカーテン1枚の可能性も捨てきれない。そうなったとき、隣に知らない人がいるのは絶妙にリラックスしにくい。
「ということで一緒に行こうぜ葛城。」
「スパか。俺も行ったことがないから気になっていたんだ。」
とんとん拍子で事が進み、俺と葛城がルンルンで施設に到着した時、その3人と出会わせたのだ。
「「「あ。」」」「本願寺ボーイ、奇遇だねぇ。」
綾小路清隆&高円寺六助の厄災コンビが佐倉ちゃんという小動物を連れてやってきた。やはり佐倉ちゃんは二人を篭絡していたのか!?
「三人も、スパを受けに来たの?」
「私は普通に来ただけさ。」
「俺はスパがどんなものか知りたかったから。」
「わ、私は綾小路君が行くっていうから一緒にって。うぅ、二人きりだと思ったのに。」
普通とは(哲学)。
どういう面子かと思ったが、たまたま高円寺と綾小路の予定が被ったってことか。人数が多かったためだれかは受けれないかと思ったが、幸い現在だれもスパを利用してなかったため、5人丁度受けることができた。
そんなわけで、スパを受ける用の水着を各々着用したのだが、
「
「見ないでください!」
「マジですいませんでした。」
ビキニ姿の佐倉ちゃんはあまりにもインパクトが強かった。佐倉ちゃんがそういう視線に怖がっているのは知っていたためできるだけ普段は視線を顔に向けていたのだが、これでもかと主張した双丘に自然に吸い寄せられてしまった。佐倉ちゃんは小動物じゃなくて大動物だったのか。
「本願寺、あまり女性をまじまじと見るものじゃないぞ。」
「…お前も
「お前のとんちんかんな言動は今更だが流石に今回のはわかるぞ。」
ブーメランパンツの形を歪めた葛城の御立派は御立派様だった。ナニとは言わんが俺のサイズはLサイズだ。だが俺のもっこりはんは葛城のもっこりはんには敵わなかった。…まあ男の象徴とか言われてますけど大事なのは形ですからぁ!大きすぎても入らないだろうしぃ!?
だが、その日人類は思い出した。厄災は人のスケールでは語れないことを。
「ノンノン、本願寺ボーイ、その程度では話にならないねえ。」
「え、
そのもっこりは、雄大な大地を思わせた。人々の営みを支える大地は時に人を呑み込む。まさに、大地母神ガイアの〇ンコ。
「なあ、本当にこれでよかったのか?収まりが悪いんだが。」
そのもっこりは、巨大な台風を思わせた。雨風を運び、木々を、建物を、人々を薙ぎ払う。まさに、巨人ティフォンのチ〇コ。
二人のもっこりに明確な差はない。ただ体格を比較した場合には、その限りではなかったということだ。
「…え、あれが、綾小路君の?あれが、入るの?」
高円寺と同サイズのものが綾小路の体格についているのはショックが大きい。
僕はあまりにも佐倉ちゃんが不憫だった。佐倉ちゃんが綾小路を好きなのは知っている。しかし、これを入れる度胸のある女性が、一体この世界にどれほどいるだろうか。たとえあれを入れる勇気がなかったとしても、僕は決して彼女を笑いはしない。それでも、男子高校生という存在は、世間一般的には脳味噌とチン〇が直結していると言われるほどだ。
綾小路が一般的な男子高校生かと言われればNOと言わざるを得ないが、子孫繁栄の為の性欲がないかと言われれば、消してそんなことはないだろう。ないよね?
なので、あれを入れられない彼女は遠からず別れ話を切り出されることだろう。
…綾小路可哀相だなぁ。あんなん受け入れてくれるやついないでしょ。僕チンコでかくなくてよかった。本当にでっかくなくて良かったぁー!
特に他意はないが半泣きで膝を抱えてる僕の肩に綾小路の手が置かれた。
「本願寺、そう落ち込むな。」
「同情なんていらねぇ!」
置かれたその手が無性に腹がたったので僕はその手を振り払おうとした。だからそう、あれは事故だったのだ。
ぺシーン
「ぐぁ!?」
ボロン
たまたま正面にあったタマタマに手の甲が当たってしまい、収まりの悪かった綾小路Jr.がこんにちはしてしまった。
「!??!?!!?!?……きゅう」
「大丈夫か佐倉さん!佐倉さーん!」
「ぐ、うおぉぉぉ。」
「ふはははは!今日も私は美しい!」
「ッッッッ♡!!!」
上から気絶した佐倉ちゃん。心配する葛城、悶絶する綾小路、ポージングする高円寺、僕たちがあまりに遅かったので確認に来たお姉さんである。視線が釘付けな時点でヤバい人確定した。やっぱこの学校雇う人材間違ってんだって。面接しろ。
綾小路の更衣室には最大サイズの水着がなかったことを、綾小路ティフォンに釘付けお姉さんが教えてくれた。どうやら仕事はできるらしい。人格面を一切考慮しないのはやはりどうかとは思うが。
「サイズがあってなかったのは不幸な事故、なんなら店側の不備だな。だから僕は悪くない。そうだろ葛城?」
「お前が十割悪い。さすがに謝ったらどうだ。」
「たしかに僕が悪かった。あんなもの見せちゃってごめんな佐倉ちゃん。」
「ぜ、ぜ、ぜんぜん見えてよかったから!気にしてな…ち!違うの!別に見えたのが嬉しかったとかじゃなくて!う、うれしっ!?きゅう…」
「俺にだろ。」
それぞれカーテンに仕切られた状態で高円寺はいつものお姉さんに、綾小路は変態お姉さんに、僕らはそれぞれ知らん人に揉まれている。葛城と佐倉ちゃんを担当している人もどことなく息が荒かった気がするし、もしかしたらこの人たち全員ヤバい人なのかもしれない。
「…あの、大丈夫ですか?きつかったらオイルだけでも」
「いえ!全然大丈夫です!頑張らせてください!」
この僕を担当してくれているお姉さんだけはまともっぽいのだが、僕が固すぎるせいなのか額から汗がにじみ出ている。申し訳ねえ。
「お姉さんはどう言った経緯でこの船の仕事を?」
「うちの店は東京に本店があって、毎年高度育成高等学校さんから依頼を受けているんです。私はまだ2年目で見習いなので、こういった機会にスキルアップもかねて出張に来たんです。先輩方は、別の理由ですけど。」
「なあ綾小路。学校イベントで外部からプライベートポイントもといクラスポイントを巻き上げる方法とかないの?」
「今のところそう言ったイベントは企画されていないな。企画として提案してみてもいいが。」
「頼むわ。3人はそう言うイベントをするとしたら何が良いと思う?」
「美術館が望ましいねえ。私という最高の美術品を生かさない手はないだろう?」
「えっと、写真集とか?」
「バザーなどはどうだろうか。」
美術館、写真集、バザーか。美術館を出すには美術品が少なすぎるし、写真集は出しても誰が買うんだ。バザーなら何とかなりそうだけど、あんまり大きい効果は望めそうにないな。…こういうイベントの企画は坂柳にぶん投げるか。人から金を搾り取ることとか得意そうだし。
マッサージは僕だけ時間がかかったためみんなは先に帰ってしまったので、一人ぼっちの時間を有効活用するために船内を散策し、知恵ちゃんにダルがらみされたり龍園に襲われたりした後に僕はそいつを見つけた。
「平田?どうしたんだよ。」
「…ああ、本願寺君。久しぶり。」
1週間前とは違い、彼の姿は弱々しかった。普段のキラキラとした笑顔は消えどこかあきらめを感じさせる自嘲したような笑みを浮かべている。
「…ごめんね。僕のせいで。」
「なにが?」
「綾小路君がクラスから孤立してしまったのは、僕のせいなんだ。本願寺君は綾小路君と親しいことを知っていたのに、僕はそれを止められなかった。これ以上クラスが分裂しないように、綾小路君を犠牲にしたんだ。」
そんな友達の友達だから守るとか考えなくていいのに、しかもあいつさっき普通にスパ受けに来てたよな。
「そんなクラスメイトのけつ全部拭こうとしなくてもいいって。綾小路も全然落ち込んでなかったし、佐倉と高円寺と仲良さげだったぜ?」
「本当?それなら、少し安心した。」
平田の表情は発言と打って変わって一向に良くならない。あまりに暗すぎて僕まで気分が落ち込みそうだ。
…話は変わるが、少女漫画というものをご存じだろうか。男がうじうじうじうじ、女はもじもじもじもじ、帰り道でふと手が触れあっては「あっ!ごめん。」「ううん、こっちこそ。」なーんてやってるあの少女マンガである。僕はあれが嫌いだ。
手を繋ぐか繋がないかとかで三日四日だらっだら間延びする展開、いちいち多い心理描写、二人の男に揺れ動く
なので僕は平田の背中に思いっきり張り手を叩きつけた。
「ッッッィアアアアアアアアア!??!?」
「てめえ女々しいんだよ!漢ならシャンとしろっ!」
前時代的?知るかよ。男だから、オカマだから、長男だから、お兄ちゃんだから、父親だから、親友だから。立ち上がる理由なんてなんだっていいんだ。そっちの方が差別だの配慮だの言って燻ってるやつよりずっとましだろう?
半泣きで地面を転がる平田を座らせてその正面にぐっと顔を近づける。
「いいか平田!お前が綾小路と誰を重ねてるのかなんて知らねえけどな、反省に時間かけるくらいなら次の行動に移れ。さっきからずっと僕が悲劇のヒロインですみたいな顔してるけどな、自分を罰して気持ちよくなってるだけなんだよマゾヒスト!」
「本願寺君は強いからそんなことを言えるんだ!僕だって…、僕だって好きでこんなになってるわけじゃないんだよ!」
「そうだ僕は強い!そしてそんな僕より強いのが綾小路清隆って奴なんだよ馬鹿野郎!そんな奴のこと気にしてんじゃねえ!」
「だって!綾小路君が寂しそうだったんだ!」
そういって平田は体育座りの状態で顔を下にして泣き出し始めた。そんな平田の頭を鷲掴んで強制的に俺と視線を合わせる。
「寂しそうだったんなら友達でも作らせりゃあいいじゃねえか!」
「だから…クラスから浮いた綾小路君に友達ができないってはなしで」
「お前がいるだろう。」
「…それじゃ、みんなと、仲良くできないじゃないか。」
平田はぽかんと口を開けたまま喋らなくなった。
僕のことを理解できないながらも頑張って飲み込もうとするこいつに僕はそのまま説教を垂れる。
「断言してやるよ!Dクラス全員と友達になるよりお前と親友になったほうが絶対楽しいね!なんでかって?僕がそう思ったからだよ。Dクラスで一緒に喋ってて楽しいのはお前と外村が群を抜いてるぜ。」
外村と一緒に喋ってて楽しいのはわかる。趣味が一緒だからな。だがこいつと喋ってて楽しいのは
「お前ひとりで、クラス中の奴と友達になるより100倍楽しませてやれ。あいつは頭がおかしいけど、なんか青春とか友達とか自由に飢えてるからな。」
平田、最初はお前のこと駒としか見てなかったけど、今は違うよ。葛城とお前はマブダチだ。だからこの僕が救ってやるよ。…たとえお前が綾小路の手に落ちたとしてもな。
涙をこらえ立ち上がった平田はいつもよりも強い光を目に宿し僕に手を差し出した。
「寺君。寺君が言ったことも実践するけど、僕は諦めないよ。いつか綾小路君がクラスメイトとも仲良くできるよう全力を尽くす。」
「頑張れよ、洋介。」
お互い強く握りしめたはずの握手はすぐに解かれてしまうほど脆いものだとしても、僕は平田洋介という友人をずっと大切にするだろう。
うおおおおお!なんで僕は綾小路に塩どころか黄金を送ってしまったんだあああああ!いや、逆に考えるんだ。男女どちらの人気も兼ね備えた櫛田ちゃんじゃなくて良かったと。女子人気一辺倒の平田でよかったんだと!
次回「本願寺死す」
次々回「本願寺どうせ死す」
次々々回「本願寺結局死す」