綾小路の相方である佐藤麻耶にカンニング用紙を仕込むためにどうしようか考えていた僕は、とりあえず真嶋にいくつかの質問をしに行くことにした。
「他の部屋への不法侵入や監視カメラの設置?そんなことをしていいわけがないだろう。」
「僕がするって言ってるわけじゃないっすよ。過去にこれらが行われたときの処罰で最も重かった事例が知りたいっす。」
「そうだな、不法侵入は異性の場合は退学、同性は4カ月の停学が一番重い処罰だったと記録している。監視カメラの方は女子生徒の部屋に監視カメラを仕込んだ男子生徒が退学になったが、女子生徒が仕込んだ場合や男子生徒が男子生徒に仕込んだことがないからこれ以上は議題に上がらないと何とも言えないな。…何を企んでいる?」
「アハハ…Salad bar.」
後ろから「また問題がぁ!!」と聞こえてきたが、僕がどこに侵入しようとも、監視カメラを仕掛けようとも、ばれなければ問題にはならないので真嶋はぜひ安心してほしい。
佐藤麻耶、ちょっと馬鹿っぽいかわいい女の子。最近綾小路に気があるらしい。きっと自分のカンニングで綾小路の退学が決まったら泣いてしまうだろう。これも全部南雲雅って奴のせいなんだ。
帰り道、思い立った僕は盗聴器発見機を購入し、一度自身の部屋の電化製品を外に出した後使用したが、盗聴器や隠しカメラの類は見つからなかった。もしも仕掛けられていた場合ちょっと問題になりそうなことをしていた自覚があるため探している間は気が気じゃなかったがなにはともあれ仕掛けられてなくて良かった。
この学校は結構暗躍している生徒が多いので本人の行動だけ把握していても埒があきません。なので本人との接触を避けるよりもイレギュラーを回避する確率の高い早朝3時ごろに動きましょう。
本人の部屋の前まで来たら針金を使ってピッキングしましょう。暗闇で見辛いからと言って鍵穴以外の場所に針金をぶつけてはいけません。それをしてしまうとつけた傷跡から誰かがピッキングをしようとしていたことがばれてしまいます。暗闇で鍵穴が見えないと言う人は素直に暗視ゴーグルを着けましょう。僕は肉眼でやります。
ドアを開けたら喉を高周波で振るわせてエコーロケーションを行いましょう。30kHzくらい出しておくと対象に聞き取られる心配がありません。そんな高音発生できないって?安心してください。機械に頼る、もしくはイルカと声帯を交換すれば簡単に30kHzほど出せます。出せたとしても聞き取れない?有毛細胞を取り換えましょう。
そうして部屋に入れたなら靴を脱ぎます。土足では汚してしまいますからね。3流はここで対象の制服のポケットにCクラスから盗んできた答案用紙をこっそりと入れがちですが、それはナンセンスです。僕たち犯罪者にとって一番の宿敵は家主でもアルソックでもセコムでもありません。そう、同じく犯罪者です。
胸元から持ってきた盗聴器発見機を取り出しほかの電化製品に反応しないように最大の注意を払いながら隠しカメラや盗聴器の存在を確認します。
…よし、ありませんでしたね。ちなみにこの機械で発見できるのは無線の隠しカメラや盗聴器などなので有線の物は目視で確認する必要があります。注意してください。
確認し終わったら最後の仕上げです。制服にこっそりとカンニングペーパーを仕込み準備完了です。ついでに最近の機械いじりの産物である小型で爆音が鳴る玩具でも入れておいてください。そんなもの入れておいたら誰かが仕込んだことが丸わかりだろと思ったそこのあなた、甘いですね~。
誰かがカンニング用紙を仕込んでおいたと、ばれたとしてもですよ?試験中に音が鳴る機器を持ち込んだ時点で当然試験は失格、さらにカンニングペーパーで強制0点です。誰が仕込んだのかなどさほど重要ではありません。テスト中にやってはいけない行為がいくつも露呈することこそが重要なのです。疑わしきは罰せよ。どんどん冤罪生み出していけ~?
そうして仕込みを終わらせれば後は自由時間です。すっぴんでも全然かわいい佐藤ちゃんを10分ほどガチ恋距離で確認してどうぞ。どこぞのクソガキとは違い出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいます。そして普段は見ることのできないパジャマ姿、いいゾ~これ。
おもわず淫夢語録を使ってしまうほどのインパクトです。そうして十分堪能した後はさっさと部屋に帰ってください。ここで階段やエスカレーターを使おうとした人、それ甘えです。ちゃんと外壁を下って行ってください。万が一にも監視カメラに写ってはいけませんからね。
なんかカンニングの方はうまくいかなかったらしいです。当然変な玩具で音を鳴らした佐藤さんは途中で離席させられたらしいですが僕が仕込んでいたはずの答案用紙とは別の問題になっていたことで0点を免れたとか。綾小路も彼女が離席した数学だけ99点をたたき出し幸村から詰められているらしいですが、残念ながら僕の作戦はうまくいきませんでしたね。
「櫛田。」
後ろからかけられた声に思わず身震いする。まだ大丈夫、取り繕えているはず。そう自分を励まし、平静を装いながら振り向いた。
「なにかな?綾小路君。今気分が悪いんだけど。」
「堀北との勝負の件か。」
「…どこまで知っているのかな?」
侮っているつもりはない。だが堀北が綾小路を兄と同じく心の支えにしていることから彼に相談することはまずないと判断し、龍園との取引を行い堀北を嵌める筈だった。だというのに蓋を開ければ問題を変更され自身の点数はおそらく平均80点前半、堀北の退学をかけた勝負にも敗北し、おまけに自分を退学に追い込める手段を持った綾小路にすべてバレていた。
「お前が体育祭の順番を龍園に漏らしたことは知っていた。あれは貸しにしたんだろう。本願寺がいる状況で
「だとしても堀北さんが今回狙われることなんてわからないんじゃない?龍園君への貸しかどうかも定かじゃないし、穴が多いと思うんだけど。」
「ああ、それは信じた。」
私はその言葉をしばらく飲み込むことができなかった。信じた?意味が分からない。
「櫛田桔梗は頭の回転が速く、度胸がある。だが堪え性は無くてどれだけリスクがあったとしても堀北を潰すチャンスがあるなら即座に実行しようとするだろう。」
「それは煽ってるのかな?信じたって言うか推測したって内容だけど。」
「いや信じたんだ。誰が何と言おうと俺は信じているんだ。」
正直なんだこいつって感じだったけどここで粘っても意味はない。問題は綾小路が私に敵意があるかどうかだ。
表情からはいつも通り何も読み取れない。能面みたいにべったりとへばりついた表情筋は見ていて人形を思わせるほど変わらない。つまらない男だと最初は思ってたけど、今は得体の知れなさが何より不気味だ。これだけ表でも裏でも動いているのにこいつの噂話は少しも流れてこない。私とのことも、堀北とのことも。
「櫛田、堀北は退学させない。」
「それじゃあ私のことを退学にでもするのかな?」
「いや、お前も当然退学にはしない。佐倉も、長谷部も、佐藤もだ。」
「…本当気持ち悪いよね。あんたのそれ。どんどん別の人間に変わろうとしてるみたい。行動だけ真似して、本願寺君の本心は何もわかってない癖に。」
「櫛田。俺はあいつのことがわからない。だから櫛田が必要なんだ。」
俺のものになれ、櫛田。綾小路の言葉にはいつも明確な感情が乗っていない。でも、私にそう言った瞬間の綾小路は確かに心から私を求めてくれている気がした。そんな綾小路に、私は何て返せばいいのだろうか。