白い部屋から出たとして   作:九頭竜 胆平

28 / 31
上に立つ者として

この学校では常にクラスポイントが変動し、ちょっとした噂がクラス対抗戦の攻略の鍵になることも少なくない。そういう事情から目まぐるしく状況が変わるこの学校にいる限りいつも通りの日常という定義は非常に難解になってしまうだろう。なればこそ、今日という日はこの学校に来て初めて僕が非日常を味わった人行っても過言ではないだろう。

 

「本願寺、お前に呼び出しが入っている」

 

放課後にずくだんずんぶんぐんゲームで橋本に5連勝していた僕に呼び出しがかかる。生徒の自主性を重んじ、また明らかに教員の仕事であろう問題をいくつも生徒会に丸投げしているこの学校では生徒が教師に呼び出しされることは少ない。主な呼び出し例は悪事を働いたため教師や被害者と面談するためなどが挙げられるだろう。

当然、金甌無欠十全十美全知全能天衣無縫たる僕が呼び出されるいわれはない。しいてあるとするならば前回のテスト関係で女子寮に侵入したことか坂柳のパンツをオークションにかけようとしていたことがばれたか最近作っている誰でも超人になれるパワードスーツこと本願寺マッスルΔを美術室の作品管理室にこっそりおいているのがばれたか本願寺マッスルΔを作成したあまりの素材で爆弾を量産していることくらいである。だがこれらが教師にばれる事など当然あり得ないため僕はいつものように真嶋の呼び出しをすっぽかすつもりであった。

 

「あとでいきまーす」

 

「すまないがすぐに来てくれ。外部から来た賓客がお前を呼んでいる」

 

その言葉に僕だけでなく数人が真嶋の顔を見た。僕らはまだ1年足らずしかこの学校で生活していないが、それでも明らかにこの学校は外部との接触を断とうとしている。この学校に入って3年間は家族と通話するどころか手紙の受け取りすらできない。にもかかわらず外部の人間がこの敷地内に入ってきていること、そしてその人物が生徒とコンタクトを取るなどあまりにもレアケース過ぎる。

僕はセッツを止め荷物をまとめて真嶋についていく事にした。

応接室に向かう途中、茶柱先生に連行される清隆と合流した。

 

「おまえも?」

 

「俺はなんで呼び出されているかわからないんだが」

 

清隆も呼び出しを食らっていることで賓客がホワイトルーム関係者だということはほぼほぼ確定した。鴨川さんかな?鈴懸さんの可能性もあるか。次点で田淵さん。大穴で石田さん、宗谷さん、パパ。

良い感じに説得できれば綾小路も僕と一緒に中退してくれるかもしれないし、最悪僕だけでも帰れるかも。なぁーんだ!それなら山村ちゃんを使いつぶすことにもならないし全部丸く収まっちゃうな!

 

「ところで茶柱先生、その服装で行くんですか?」

 

「どうした本願寺、何か文句でもあるのか?」

 

「文句はないっす…無いけど来賓の前にそんな胸元開けたドスケベ着こなしスーツは品格を疑われるから止めた方がいいと思います」

 

「ど!?…教師にすけべなんて個人的な意見を口にするのはいかがなものかと思うがな」

 

「忌憚のない意見って奴っす」

 

おもわずミームで返しちゃったけどその服装で偉い人の前に出るのは本当にやめた方がいいと思う。

 

「校長先生、綾小路清隆、本願寺寺両名をお連れしました」

 

「入ってください」

 

応接室の扉を真嶋がゆっくりと開ける。中には校長先生と来賓の男の二人だけがいた。校長先生の方に余裕はなさそうで額にじっとりと汗を浮かべている。そしてその男を見た僕も全身から汗が吹き出し止まらなかった。何故いるのかわからないし、この場には校長とその男の二人だけしかいなかった。他の人間はただの一人としていなかったのだ。

 

「わたくし共は席を外しますのであとはどうぞごゆっくり」

 

呼び出した理由も伝えず、校長は一言男に断ってから真嶋と茶柱先生を連れて廊下に出ていく。連れられて行く真嶋と茶柱の反応は異なっており、真嶋は僕と清隆に疑惑の目を向け、茶柱先生は綾小路の方を一瞥すると、不安ごとがありますとでも言わんばかりに目を泳がせた。

暖房が動く音だけしか聞こえないほど部屋が静まり返る。清隆も男も一言も発さず空気が重苦しかったのでとりあえずその男に向かって何の用か尋ねることにした。

 

「まz「なんでk…

 

僕に声をかぶせられた男は口を閉じる。そして遮ってしまった僕も口を閉じて再び部屋に静寂が訪れた。これあれだよな?口を閉じたってことは僕に先に喋らせたいってことだよな?相手にばれない様に息を深く吸って、もう一度声を出すことにした。

 

「おm「ボディーガ…

 

暖房の音だけが部屋に響く。何でわざわざ喋るのにこんなに間を開けたの?そのためなかったら今被らなかったよ。僕は男を睨みつけるがその鋭い視線からうかがい知ることができる感情は「なぜおまえは俺が喋るのを邪魔するのか」という疑問だけ。

まだ喋らないのか?今度こそ僕が喋ってもいいんだよな?

 

「いいかg「僕が喋「私の話を遮「なんでここにいるんd「俺が話し終わるまでその口を閉じていろぉ!」

 

勢いよく立ち上がりながら浴びせられた叱責に僕は押し黙った。パパはパパでも綾小路の方のパパこと綾小路篤臣氏は再びソファーに腰を落ち着けると僕たちにソファーに座るよう顎で促した。

 

「清隆、わざわざ俺が出向いてやったんだからおとなしく座ったらどうだ。寺、こっちのソファーじゃない、あっちに座れ」

 

「座るほど長話する予定はない。友達との予定が控えているからな」

 

「お前にそんな存在ができるはずがないだろう」

 

パパの小路の意見は断定的で最近の情報が足りていない不確かな中で出されたものだが、おおむね合っていた。清隆がやっていることは所詮他人をトレースした友達ごっこであり友人関係の本質は理解はしていても共感はできていないだろう。何なら本質を理解しているのかすら怪しいかもしれない。だがパパの小路にはったりを利かせたのか、それとも本心で友人ができたと思い込んでいるのかは残念ながら僕では読み取れない。

この親子、心理学的観点からのアプローチができなくて会話しにくいんだよ。αカリキュラムに心理学があるため当然僕もそれを押さえている。心理学は人間をいくつかにパターン分けを行い、それに当てはめることで他人の心理を読み解く学問であり、要は統計学的な側面が強い学問である。

それを踏まえて一つ質問を投げかけたいと思うのだが、野望のために血筋も学も無い状態から成りあがった挙句、そこで得た財を自らの快楽のためではなく野望にひたすらつぎ込み、一切を投げ捨て自分の子供を廃人確定のカリキュラムに送り込む血も涙もない男と、幼少期から昭和もびっくりの体罰が横行する特別な教育施設にぶち込まれ、本来獲得するはずだった感情がほぼすべて削り取られ、横で寝食を共にした者が次々と脱落していくのを見ながら精神に一切の不調をきたさなかったくせに、たった一度会っただけの身体能力しか取り柄のない僕に成り代わりたいと思う男がいる。

問1:こいつらと酷似した人間がそうポンポン生まれるでしょうか?

問2:生まれたとしてそいつらから正しくデータを取りこいつらと全く違う思考回路の人間がそれらをまとめ精度の高い研究結果をだせるでしょうか?

答えは無理!問1も無理!問2も無理!無理無理無理無理!不可能に決まってんだろ!ということでどれだけ心理学を学んでもこいつらの大本の思考回路を読むことは残念ながら叶わないのだ。さようなら俺の幼少期からの努力。

余談ではあるが、心理学と同じと思われがちな読心術というものがある。こちらはリアルタイムで相手の心理状態を読み解き個人用にデチューンされた心理学のようなものだが、こんなもの体系化するのも一苦労だし非常に複雑な要素が絡み合って実用に足るまで知識を詰め込むなどまさに机上の空論だ。そんなもんタイパ悪すぎてαプログラムには入っていないのだが、なんとびっくりβプログラムには入っているのである。清隆、お前凄いね♡オラッ!さっさとこんな糞みたいな学校から出ろ!

 

「寺」

 

「はい」

 

パパの小路の口先が清隆からこちらへ向く。

 

「楽しいか」

 

鬱陶しい質問だ。どうせなんて答えるかわかっているくせにわざわざ投げかけてくるところから、綾小路篤臣という人間の底意地の悪さを見た気がした。

 

「楽しいですよ。前と変わらず」

 

気分を害された僕は退室の許可を取らず、黙ってその部屋を出た。綾小路篤臣は僕の背中を黙ってみているだけだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。