白い部屋から出たとして   作:九頭竜 胆平

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帰ってきません。


帰ってこい!葛城!

Dクラスは欠陥品を集められたクラスだと言われたときは納得できなかったし、撤回しようと必死に試みた。それらはどれもうまくいかず、見下していたクラスメイト達が問題を何とかしている姿を見て、堀北の心はぽっきりと折れた。

吐き気が収まらない。ここ最近は食事もまともに喉を通らずゼリー飲料でごまかしているが、ゼリー飲料は野菜や肉などとは違い無料の物がない。無駄遣いはしていないが、自分の部屋に食器や調理器具をそろえるためにずいぶんと奮発してしまったものだ。こんなことになるとわかっていたら、買わなかったのに。

同情されたくなかったから、できるだけ一人で行動するようにした。それがいけなかったのだろうか。ふと眩暈がして、階段を踏み外した。

小さいころから、優秀な兄がいた。兄は何でも一人でできて、それに憧れた私は兄を道しるべにした。兄の背中を追って、追い続けて、それでも距離は開くばかりだ。挙句の果てにこの学校に来てからは拒絶され、私は光を失った。どこから間違ったのか、どうすれば良かったのか。流れゆく過去の記憶を探ってみても答えは出ず、もう生きる事すらあきらめ、階段から落ちる運命を私は受け入れた。

直後、誰かが自分の手を強く引き、抱きかかえる。その人物は片腕を自分の頭を守るように、もう片方の腕は腰に回し、自分を庇いながら階段を転げ落ちる。

 

「大丈夫か、堀北。」

 

なんで兄さんではないの?なんであなたなの?さんざん酷い言葉をかけたじゃない。私のことを見ていたでしょ。なんで変わらず声をかけるの?なんであなたの言葉にこんなに胸が痛くなるの?

 

「あやの、こうじ君。」

 

ふらつく私を綾小路君が支えてくれる。そのまま私は彼に連れられるように部屋に帰り、泥のように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、とっくに日は昇っていた。急いでデバイスを見ると、表示されている時刻は12:40!?

慌てて学校に向かおうとベッドから出た瞬間、違和感を感じた。今私が着ているのは、パジャマだ。しかし昨日、私は確か部屋に帰ってすぐに眠ったはずだ、…彼に体を預けたまま。

耳をすませば、キッチンの方から物音が聞こえる。強盗のたぐいであるかもしれないため、すぐさま拳を放てるようにして、ゆっくりとキッチンへ向かった。

 

「なにをしているのかしら。」

 

キッチンでは傷だらけの綾小路君が小ねぎを刻んでいた。

 

「おはよう堀北。ずっと目を覚まさないから心配したぞ。さっき具材を買ってきたから、遅めの朝ごはんにしよう。」

 

「待ちなさい。その傷、もしかして私を庇ったときにできたもの?」

 

「心配するな。かすり傷だ。」

 

どれだけ人に迷惑をかければ気が済むのか、なぜ今までの私がうまくできると思っていたのか理解できなくて、吐き気がこみあげてくる。

 

「落ち着け堀北。別にお前のせいじゃないさ。体調を崩したくて崩したわけじゃないだろ。ここ最近まともに食べてる姿を見たことがないし、冷蔵庫がすっからかんだったからな。」

 

彼が出してくれたのは卵がゆだった。久しぶりに食べたゼリー飲料以外の食べものは、すごくおいしくて泣いてしまった。

着替えは櫛田さんに手伝ってもらったらしい。綾小路君がやったと勘違いして攻めてしまったが、彼はなんでもないように許してくれた。

 

「なあ堀北。兄に認められたくはないか?」

 

「できる事ならそうしたいわ。でも、私はもう。」

 

「拒絶されたことが怖いのはわかる。だが、今回の件でお前は一人じゃうまくいかないことを知っただろう?」

 

「ええそうね。でも知ったところで、私に協力してくれる人は誰もいないわ。」

 

「俺が協力してやる。」

 

意外だった。彼のことだからてっきりもう面倒なことには関わりたくないというと思っていた。

 

「…事なかれ主義はもういいのかしら。」

 

「お前が困っているなら、いくらでも手を差し伸べてやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーかっこいいー。で?堀北が倒れるところにいたのは偶然なの?」

 

「そんなわけないだろ。ただそろそろ倒れるだろうなって思ったから跡をつけただけだ。」

 

「うっわ゛、きも。相手が倒れるのを見計らって抱きしめた挙句、その相手の部屋に入って体を拭いて着替えさせたあとに口説いたんだ。きっっっも。」

 

「櫛田。別に俺は何を言われても心に来ないわけじゃないんだぞ。そもそも着替え関連はお前が来なかったからじゃないか。」

 

「あんたにいいように使われるのは百歩譲って認めてあげるけど、堀北の世話とかぜーったい無理。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CとDの戦いはいつの間にか終わっていた。

なんか監視カメラのデータがバイバイしたところから一気にことは進み、堀北鈴音という女子生徒がその危険性をB、Aに伝えたうえで協力を要請し、それぞれのクラスから偽の証人を召喚して叩き潰したらしい。

 

「坂柳、なんで証人出したの?」

 

「確かにリスクはあったでしょうが監視カメラを弄れる人がCにいるとなると「御託はいいよ。どうせいないことぐらい当たりつけてるでしょ。」

 

「…あなたが私と同じ発想に至る頭脳を持っていることが本当に不快です。鬼頭君に殴られてみませんか?頭が悪くなるかもしれません。」

 

「もう散々殴ってんだろ…。学校側の動きが露骨すぎる。簡単にデータベースハッキングできる生徒がいるならCで見当たらない場合他クラスも探す。でもそこまでしないってことはプライベートポイントで教師に一芝居打たせたってことじゃん?1年以外の授業を持つ教師が動いていないのも不自然だしな。で?そこまでわかっててなんで手かしたの?」

 

坂柳は「死ね」という万感の思いを込めながら本願寺に説明を始めた。

 

「死ね。あっ間違えてしまいました。」

 

「説明する気がねえことはわかったよ。」

 

説明は終わった。

 

坂柳は学年全体がCクラスを叩くならばAクラスに矛先は向かないだろう。だらだらと適当にCクラス潰しに協力しつつB、C、Dが疲弊したときに一気にプライベートポイントで他クラスを潰してしまえばいいという思いが3割。そして、これをなした元凶の生徒が何をしたいのか、という思いが7割である。

 

「私にすら正体を掴ませない生徒。楽しみですね。あなたが何をなしてくれるのか。」

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