ケヤキモールから出て、しらんおっさんの後をつける。別に付けたくてオッサンの後をつけているわけではなく、佐倉愛里という女子生徒をオッサンがつけている気がするからだ。
ちなみに佐倉愛里ちゃんは地味っぽい見た目(派手な髪色を除く)をしているものの、顔は悪くないし、すごい胸もでかい。初めて彼女を見たとき、どこかで見かけた気がしたから、
「初めまして佐倉ちゃん!僕たちどこかであったことなかったっけ?」
と聞いたらその日から露骨に避けられるようになった。解せぬ。
ただ弁明をさせてもらえるならば、これは決して彼女と仲良くなりたかった僕が企てた計画とかでは断じてない。お、この先の路地裏に入るっぽいな。先回りしーちゃお。
パシャ
「「あ」」
シャッター音が重なった。
絶対に逃げられないタイミングを待っていたのだが、正面から綾小路が出てきたのだ。僕要らんかったな。
「お前終わったな」
「現行犯で二人に写真撮られただけじゃなく監視カメラにまで映ってる。まあでも糞野郎にはお似合いの末路じゃね?」
「お前らに邪魔する権利なんてないんだ!ぼくはしz」
なんか喋ってたおっさんを綾小路が掴んで壁に叩きつける。なにか佐倉ちゃんを傷つけるようなことを言おうとしたのかな。
「お久ー綾小路。相変わらず容赦ないな」
「この学校来て初めて会ったのに相変わらずとか言われると怖いんだが、お前のことは知らないって言っただろう」
「綾小路君も?、わたしも本願寺君に会ったことあるって言われてびっくりしたんだ」
「…お前、あれナンパだったのか」
「いや、違っ、ちょっと待って!?綾小路と会ったことあるのはマジだって!小さいころに一回だけだけど。佐倉ちゃんはなんか学校以外で見たことある気がするなって思っただけで、ナンパとかじゃないから!マジで!」
うおおおおお!本当なのに!嘘じゃないのに!このままだとバイセクシャル見境なしナンパ師になってしまうううう!!!???
「そんなことより、あのオッサンなんだったの?」
「露骨な話題の逸らし方だな。あれは佐倉のストーカーだ」
「ストーカー!?この学校来てまだほんの数か月だぞ!?」
いや、まじか、そもそも学生に欲情するような奴を国が雇ってんじゃねえよ。面接とかしなかったのか?芸能人とかならわかるけど一学生にストーカーって。
「まあでも佐倉ちゃんアイドルぐらいかわいいから仕方ないか。いやでも別にアイドルじゃねえしな」
僕が呟いた言葉に二人がすっごい顔してた。いやそれどういう表情?
理事長室。この部屋はすごいぞ。普通じゃ生徒は入れない部屋であり、暖房冷房つけ放題、なかには高級なコーヒードリッパーがあるという噂すらある。
ただ、理事長室の一番すごいところは!俺が最も価値が高いと思えるそれは!
「理事長に…会える…」
「えっと、そんなに、理事長さんに会いたかったの?」
「佐倉ちゃん。僕は理事長に会うためにこの学校に来たと言っても過言じゃないよ」
「そ、そうなんだ」
ごめん。むっちゃ過言だわ。いやでも、過言じゃなくなるかもしれない。ふ、ふふふふ!今日もしかしたら目標達成できるかもしれないと思うと、自然と笑みがこぼれるぜ。ケヒックヒヒヒッイーッヒッヒッヒッヒ!
「おい、そろそろ理事長室に入るんだからその悍ましい笑いを辞めたらどうだ」
悍ましい?綾小路は感性がずれてるな。まあでも確かにその通りだ。何事も第一印象が肝心だからな。しっかり口を一文字に引き締めてと。
「エントリぃーーーー!!」
「「!?!?!?」」
俺は今日この学校辞めるんだぁー!そんなの必要ねぇよぉーだ!
そこにいたのは言ってしまえばごくごく普通の男性だった。ちょっとイケメンで、柔和そうで、でも芯はしっかりしてそうだな、程度のごくごく普通の男性だ。ハッキリ言おう。ちょっと拍子抜けだった。こんなヤバい学校を運営してる側の人間なんて、パパの小路ぐらいとち狂った感じで、あいさつにAクラス以外の生徒は虐殺だぁ!ぐらい言うと思ってたのに。
「やあ、私は理事長の坂柳成守だ。今回呼ばせてもらったのはストーカー被害の件でね。これは全面的にこちら側の管理体制のミスだ。本当に申し訳ない」
至極真っ当な謝罪から始まりポイントを払うので勘弁してくれ、みたいなことを言っている。言ってることは金で口留めなんだけどこちらへの態度とかがよすぎて全然かまいませんよってなっちゃうな。こんな至極真っ当な大人がこの学校に存在したのか。ん?
「えっ!僕にもくれるんですか!」
「もちろん。受け取ってもらえるかな?」
もちろん受け取りますとも!ひゃっほい!理事長大好きー!
「了承してもらえて何よりだよ。それじゃあそちらから何か要望などはあるかな?」
「はい!」
「本願寺君。なにかな?」
来た!来た!理事長がまともな大人でよかった!これで帰れる!
「実は綾小路君のことなのですが、彼は家出中なのです。なので綾小路君の御父上である綾小路篤臣さんはたいそう心配しておりまして、しかしこの学校は外部との連絡が遮断されているので綾小路に帰って来いと伝えることができなかったのです。いくらこの学校が自主性を重んじると言っても、綾小路君の用意した親族の書類は保護者が書いたものではなくやはりこのまま通い続けるのはあまりよくありません。なので、坂柳理事長から彼の保護者に連絡を取ってもらったのち、彼を退学にしていただきたいのです」
ずっと思っていた。綾小路は未成年なのにどうやってこの学校に親族の印鑑無しで入ったのだろうと。もしも松雄が用意したのであればそれはシンプルに書類偽造であり、犯罪なのではないかと。綾小路は余計なこと言いやがってとでも言いたげな表情をしている。でもこれで俺の勝ちだ。早く帰省したいなー!
「佐倉さん。少し別室で待ってもらっててもいいかな。これは非常にデリケートな綾小路君のおうちの事情の話なんだ」
「は、はい」
理事長は佐倉ちゃんを待合室に置いて来ると僕に衝撃の事実を告げた。
「本願寺君。僕は綾小路先生と知り合いでね。綾小路君のことは全て知ったうえで入学を許可した」
……………………え!?!??!!??!?!?!?
嘘だ!僕の坂柳理事長がそんなことをするわけない!松雄と
嫌でもこの学校の理事長か。さっきまでは上っ面を取り繕ってただけかもな。あーあ、信じてたのに。
「本願寺、本当にそれで行けると思ってたのか」
「もう今日お前と二人で帰る気満々だったわ」
そうかぁー。だめかぁー。いい案だと思ったんだけどな。
「そういえば、なんで綾小路ってDクラスなんですか?」
「彼は入試の点数を全部50点にそろえたんだ。本来なら入学できないはずだったんだが、私が特例で許可した」
松雄ぉ!お前こんなふざけたやつのために命かけたんかわれぇ!?
「要望はそれだけかな」
「あ、はい、そっすね」
「よかった。それじゃあもう出て行っても構わないよ。時間を取らせてしまって悪かったね。あ、そうそう本願寺君。娘と仲良くしてくれてありがとう」
その瞬間、本願寺のニューロンが爆発し、即座に頭の中で解を導き出す。
色素の薄い髪+坂柳+娘=貧 乳 銀 髪 ロ リ
「うぼあああああああ!!???!?!??」
獣の断末魔と錯覚するほど低く汚い叫び声に隣室にいる佐倉は死ぬほどビビったし、なんなら坂柳と綾小路もすこし怖かった。だがそれよりも恐怖しているのは本願寺自身だ。彼の感情はさきほどまでとは打って変わり恐怖一色で染まっている。
「うぅぅお前が悪いんだ!俺のそばに近寄るなあああああ!!!」
見えないナイフを振るかのように目の前でぶんぶんと腕を振り始めた本願寺に坂柳は困惑した。PTSDでも発症したかのような本願寺だがそのトリガーは間違いなく自分の娘だったのだから。
「?すまない。君がなぜそこまで有栖を怖がっているのか教えてくれないか」
「糞ぉ!糞ぉ!!ちゃんと娘と会話しろよぉ!あんな選民思想をもって人のことを欠片も考えないような教育施しやがって!ホワイトルームよりずっと悪質だ!あそこでさえ道具はいつ必要になるかわからないから大事に使いましょうって教えるんだぞ!」
坂柳は驚愕した。娘とは学校に入る前にもちゃんと会話しているし、家族仲は極めて良好だ。あの子も人の痛みを知れるように教育したはずなのに、それがホワイトルームより悪質?
突然本願寺が服を脱ぎだす。綾小路も何事かと思ったが、服の下から現れた素肌には青痣や火傷跡などが複数見受けられた。
「これがお前の娘が僕にしたことだ!しかも中間テストでは同じクラスなのに攻略法を一部の生徒で独占したり!それなのに僕が利敵行為をしたってクラス中に言って全員で俺を吊し上げようとしたり!おかげで僕の体はぼどぼどだぁ!」
「それならば、有栖がやったことを教員に言えばいいのではないか「そんなことをしたらクラスポイントが減っちゃうだろぉ。もう僕にはどうしようもないんだ」
自分の教育に間違いはないと思っていた。だが、娘をかわいがるあまり、自分は彼女の本心を見ようとしなかったのでは、確かに人の上に立つには時に厳しく、あくどいことも必要であると坂柳は理解しているが、だからと言って拷問まがいのそれは明らかにやり過ぎだ。
品のあるインテリアが置かれた理事長室の中で、本来なら流れないような異質な空気が漂っていることを綾小路は察した。生徒の一人は目に涙を浮かべながら発狂し、もう一人の生徒は扉の向こうからでも怯えている気配がする。さらに理事長は学校の最高権力者という立場でありながら、娘の教育に失敗したことをひどく後悔している。
「助けてくれ」
綾小路は人生で初めて神に祈った。
あの地獄から抜け出し、佐倉を無事に送り届けた後、綾小路は一人廊下を歩いていた。
「なあ帰ろうよ綾小路ぃ。俺もうヤダよぅ」
腰にへばりついている奴は会話もできないし歩いてないから実質一人だ。
うおおおおん、うおおおおおんと泣く腰みのもどきが邪魔過ぎて気づかなかったが、いつの間にか綾小路の正面に男が立っている。
「綾小路、あれはお前の入れ知恵か?」
「何のことかわかんないっすね」
「帰ろうよぉ、ねぇ帰ろうよぉ」
「とぼけても無駄だ。あのまま堕ちていくだけの鈴音を救ったのはお前だろう。だが、あれでは鈴音は成長しない。追う背中が俺からお前に変わっただけだ」
「ねえ帰ろグブッ」
「全部あんたの妹がしたことだ。俺は何もしてない」
橘は蹴られた少年を介抱しながらその話を聞いていた。どうやら今回の一件、解決したのはこの一年生らしいが、今その彼に蹴られた涙をとめどなくあふれさせながら嗚咽をこぼす彼は誰なのだろう。
「綾小路、お前が望むなら書記の席を譲ってやろう」
「会長!本気ですか?」
流石の橘も今回ばかりは学を疑った。いましがた目の前で同級生を蹴り飛ばした男を生徒会に入れるというのか。
「不服か?」
「いえ、会長がそうおっしゃるなら、私に異論はありません」
橘は数多の不安を呑み込み堀北にそう返事をする。彼が間違ったところを一度たりとも見たことがないゆえの信頼だった。
「…生徒会か。そこに入れば、もっと、もっと俺は自由になれるのか」
「止めろおおお!!止めてくれえええ!!こいつに権力を持たせないでくれええ!!!!」
「さっきから君は一体何なんですか!?」
うざい。思わず綾小路という生徒が蹴り飛ばしてしまったことを肯定してしまうほどうざい。一体何なのだろうかこの生徒は。
「本願寺寺。中間テストが発表された日に柔道部を襲い、過去3年分の中間テストと小テストを強奪した男だ」
「まさか!その日のうちに中間テストを見抜いたというのですか!?」
それが真実ならば2、3年生を相手にして勝利するほどの武力と、未来予知にも等しい頭脳を持っていることになる。目の前で半べそかきながら駄々をこねている少年が!?人は見かけによらないという言葉は真理だったのだと、橘は知った(勘違い)。
「生徒会書記のイス。ありがたく頂戴する。これからよろしくな。堀北」
「堀北会長と呼べ」
本願寺GAME OVER
有栖へ
最近、君のお友だちから普段の君の様子をうかがう機会がありました。仲間に厳しく接するのは悪いことではありませんが、同時に褒美をあげなければ人は着いてきません。パパは少々君を甘やかしすぎたのかもしれないと感じました。次に家族三人で集まるときは、お話をしましょう。
成守より